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【「免疫」解禁 新しい秩序への回廊②】アガリクスの呪縛、「免疫表示後進国」は返上へ

2020年 8月27日 07:30

 「免疫」の意味は次のようなものだ。

 1 病原体や毒素、外来の異物、自己の体内に生じた不要成分を非自己と識別して排除しようとする生体防御機構の一。本来は、ある特定の病原体に一度感染して回復できると抵抗性をもつようになり、同じ病気にかからなくなることをいう。先天的に備わる自然免疫と、後天的に得られる獲得免疫がある。機構としては細胞性免疫と液性免疫の二つが働く。

 2 物事が度重なってそれに慣れてしまうこと。「騒音に免疫になる」

 (デジタル大辞泉より)

 単的に言えば、「身体を守る働きの一つ」であろう。ちなみに行政が広告表現等の指導を行う際は、必ず辞書で意味を確認するという。広告等の制作担当者もこれに習った方が良い。さすれば攻守ともに表現の幅が広がるだろう。

                                                                      ◇

 閑話休題、薬機法の医薬品の定義を確認してみよう。

 (1)日本薬局方に収められている物。

 (2)人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの。

 (3)人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの。

 「薬機法上、免疫という言葉だけで取り締まるのは難しいはず」。厚生労働省の元薬系技官はこう話す。「免疫」を標ぼうする医薬品がないこともその理由にあげる。

 諸外国の例を見ても明らかだ。日本とほぼ同じ医薬品の定義条文を持つ米国では、94年の栄養補助食品健康教育法(DSHEA)の成立後から「免疫の維持」が表示できる。中国も96年の保健食品制度の開始にあわせ「免疫調整」が可能で、03年には「免疫改善」も表示できるようになった。EUでは欧州食品安全機関(EFSA)のガイドラインで2011年からOKとなっている。日本は「免疫表示後進国」であったと言えよう。

 とはいえ、前回触れた通り、以前は薬事当局も「免疫」の言葉狩りを行っていた訳ではない。広告や製品名に用いていたケースもあった。

 流れを変えたのは、90年代後半から顕在化したアガリクスをはじめとする「がん予防・治療」を暗示する健康食品のはん濫だ。

 「免疫力の向上」は特に好まれたキャッチフレーズ。「奇跡の生還」など体験談を記したバイブル本が一般紙の書籍広告でも頻繁に目にしたことを、覚えているだろう。

 がん系の健康食品は、数万円で販売されるケースもあり、業界には「人の弱みにつけ込む」(当時を知る関係者)と白眼視する向きもあった。実際は「免疫向上」などの表現と「がん予防や治療」との暗示での合わせ技でけん制するほかなかった。

 取締りは一気に苛烈に転じる。02年に健康増進法に「虚偽誇大広告等禁止規定」が入り、「何人規制」で媒体や出版社にも自制を求めた。

 05年には、警視庁が薬機法違反でアガリクスのバイブル本の出版社のみならず、監修の元大学教授や執筆者を逮捕する。

 06年2月、厚生労働省はアガリクスの一部製品に「発がんプロモーション作用」が確認されたと発表し、アガリクス市場は壊滅的な影響を受ける。「がんが治る」との触れ込みが、「がんを促進する」というパラドクスは皮肉だ。ただ、これは「国立がんセンターからの強力なプッシュ」と当時を知る関係者は語る。調子に乗りすぎた「アガリクス」と「免疫表示」は、医療サイドから「憤怒」を買い、強力なしっぺ返しを受けた訳だ。

 以降、「免疫表示」はマークされ、違反とされるケースも出る(=画像)。これまで解禁されなかったことには、おかしな形で澱んでいた業界や時代の空気の影響もあろう。「アガリクスの呪縛」だ。

 一方、15年に機能性表示食品制度が誕生し、正々堂々と「免疫表示」を期待する声は高まっていた。そして、今回「第一号」としてキリンの製品が登場。世はコロナ禍の最中であり、「免疫表示」はニーズとインパクトを増している。(つづく)


 
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