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ベルーナがチラシ改革 「シン・通常マス」で逆襲、レスポンス率大きく向上

2025年 3月20日 12:00

 ベルーナが、新聞などの折込チラシ、いわゆる「通常マス」の改革に乗り出した。同社が配布してきた折込チラシの様式は、創業者でもある安野清社長が開発したもので、高いレスポンス率を誇る大きな「武器」となってきた。ところが、時を経るにつれて顧客の反応が悪化。そこで同社では、若手社員の意見を取り入れる形で昨秋より、折込チラシのビジュアルを一新した。果たして「シン・通常マス」の威力は――。


 
 同社アパレル・雑貨事業は2024年3月期に赤字転落しており、現在は顧客リストの収集・活用を図っているほか、時代にあった商品力・ビジュアル力を強化することで立て直しを図っている。

 ただ、24年4~12月期のアパレル・雑貨事業は、長引く残暑の影響により秋冬シーズンの序盤においては計画を大きく下回ったものの、中盤以降においてレスポンスが改善。また、新規顧客の獲得数が前年同期と比べ増加したことなどにより増収増益となった。同事業の売上高は前年同期比0.7%増の592億8000万円、セグメント赤字は9億4200万円となり、前年同期の15億3900万円から赤字幅を大きく縮小させている。

 成果が出ている取り組みの一つが、折込チラシの刷新だ。同社のチラシは、安野清社長が開発したもの。たくさんの商品を1枚のチラシに詰め込んだものだが(㊤画像参照)、このスタイルを磨き上げることで、大きな売り上げを作ってきた。同社の後藤孝之営業推進室長は「まさに『ベルーナならでは』のチラシであり、さまざまな経験やノウハウが詰め込まれている。実のところ、他社にもさんざん真似をされてきたが、この形で実績を作り続けてきたのは当社だけだ」と自負する。

 ところが、同社の最大の武器であったチラシも時を経るにつれて、レスポンスが悪化しはじめた。もちろん、チラシ経由の売り上げ減少は新聞の部数減が大きな要因だが、加えて顧客の反応も以前より悪くなっているのが実情。そこで「『チラシのビジュアルを変えたほうがいいのではないか』という声が社内から出てきた」(後藤室長、以下同)という。

 下のチラシが改良版だ。全体的に白基調で見やすさを重視するとともに、掲載商品数も以前より絞っている。また「ネットの声」として、同社通販サイトのレビューから抜粋して掲載した。改良版チラシを発案したのは、制作室に在籍する若手の女性社員。従来型のチラシと改良版のチラシを同時に配布してテストしたが、改良版のレスポンス率の方が高くなっているという。「実は、チラシに掲載の靴の見せ方を通常チラシの半分のサイズとし、テスト的に配布した際、若手の感性を取り入れたビジュアルに変更した、という経緯がある。その際に非常に良いレスポンス率が出たので、『ビジュアルを変えてみたらどうか』となった」。

単体で利益

 折込チラシは、基本的には新規顧客獲得を目的として配布しているため、そこからカタログに誘導して利益の出る顧客に育てる、というのが常道。ところが、改良版チラシは、チラシ単体で利益が出るほど、高いレスポンス率を記録しているという。

 もちろん、改良版チラシのレスポンス率に良い数字が出たのは、ビジュアルを刷新した直後という点も大きいため、継続して配布することで効率が落ちてくる可能性は高い。そのため、従来版から完全に置き換えるために、商品の組み合わせや見せ方などをトライアンドエラーしている段階という。「(安野)社長からも『早く全面的に切り替えたらどうか』と言われているが、商品を入れ替えても似たような結果が出るのかを試している」。

 これまでのチラシは、現在の視点で見るとビジュアル面で「古めかしさ」が感じられる。そのため、新しいチラシは洗練された印象を消費者に与えたことがレスポンス率に寄与したとみられる。とはいえ、商品の組み合わせや見せ方、さらには商品の手配など「長年培ってきた従来チラシのノウハウがあったからこそ、新しいチラシが生まれた。そういう意味では、とても良い進化形といえる」。

 チラシの改良については昨夏から取り組みを開始し、秋冬には本格的な配布を開始した。同社内では、改良版チラシのことを「シン・エヴァンゲリオン」ならぬ「シン・通常マス」と呼んでいるという。新規顧客獲得のレスポンス率が良くなっているため、減少し続けていた新規獲得数も底を打ち、反転しはじめた。新規だけではなく、休眠顧客の掘り起こしにも大きな成果が出ている。まさに「シン・通常マス」が起爆剤となっているわけだ。

 折込チラシの配布部数そのものは、新聞購読者数の低迷もあり、やはり減少しているという。ただ、25年3月期は新規獲得や掘り起こしがうまく回転し始めたこともあり、前期に比べてチラシ経由の売り上げは伸びる見込みだ。

 「セッション」増

 新しいチラシはデザインや色使いを刷新しているわけだが、掲載する商品数は減っている。ただ「ネットの世界でいう『セッション時間』が増えたのではないかとみている。いろいろなチラシが配られる中で、少し見ただけで捨てられてしまうのか、それとも目に留めてくれるのか。改良版チラシの方が見てもらいやすい、ということなのだろう」。

 そのため、掲載商品こそ減っているものの、商品1点ごとの売り上げを伸ばすことでカバー。さらに、発注面でもやりやすくなったという。折込チラシに掲載する商品は、一定量の在庫を確保しないとならないため、在庫のコントロールが非常に重要だ。掲載する商品を絞り込むことで、不良在庫になる恐れが減ったという面もある。

 また、本番のチラシを配布する前には、テスト的にチラシを配布しているわけが、掲載予定の商品数が多いとテストのために配布する枚数も増えてしまう。商品数をあらかじめ絞っておけば、配布枚数も減らせるため、それに付随するコストも減らせる。「昨今の用紙代高騰などを考えると、やはりテストは絞る必要がある。現場からすると、ヒット商品を生み出したいので『数打てば当たる』的な思考になってしまいがちだが、そこは時流に合わせてコストを削減する必要がある」。

 商品選定の基準に関しては、従来版チラシで売れていたような商品は、改良版でも売れているため、引き続き掲載している。ただ、年齢よりやや若く見える洋服などは、従来チラシではあまり反応が良くなかったものが、新しいチラシでは売れるようになった。これは、特に改良版チラシの購買層が若くなっているわけではないのだという。後藤室長は「高年齢層の感性も変化しているので、従来版チラシでは目に留めてくれなかったものが、デザインを刷新したことで目を向けてくれるようになった、ということではないか」と推測する。

 実は、メインカタログ「BELLUNA」においても、2年ほど前からこれまでよりも若いモデルを起用するようになっており、若いモデルを起用した商品の方がレスポンス率は高くなっているという。「もともと、媒体がターゲットとする年齢よりも、実際に購入する年齢層は一回りほど高くなるものだが、最近はそういった傾向が加速している感がある」。

 とはいえ、同社が長年武器としてきたチラシのデザインを大きく刷新することができたのは、やはり若手の感性があってこそ。後藤室長も「ベテランではできなかったこと」と評価。26年3月期は、チラシのビジュアルを完全に刷新することになるが、そうなったときにどの程度効率を維持することができるのか。後藤室長は「数字によっては今考えているよりも、多数の部数を配布できるようになるかもしれない」と期待感をにじませる。

MD改革も

 同社では24年3月期において、用紙代と印刷費の上昇、さらには急激な円安による仕入れ価格上昇の影響を受け、一部商品の値上げを実施。ただレスポンス率が悪化したことで業績に大きく影響した。そのため25年3月期は、一律値上げするのではなく、値上げする商品・据え置く商品を分けて、メリハリを付ける形に変更、レスポンス改善に寄与している。

 ただ、そうなると当然のことながら利益面でバランスをとるのが難しくなってくる。値上げをしても、価格に見合った商品力をつけるため、MD改革も進めている。後藤室長は「まだ明確な結果が伴っているわけではないが、社長からアドバイスをもらっているのは『今一度顧客指向に立ち返れ』ということ。直接顧客の声を聞く、あるいは顧客と接しているメンバーの気づきを活かすべく、取り組んでいる」と明かす。

 さらに後藤室長は「当社は『顧客の声を取り入れてサービスを改善する』という点では非常にうまくいっているが、『顧客の声を商品に取り入れる』という点では、他社と比較すると競争優位性を発揮できていない」と指摘。そのため、今後は通販サイトにおけるレビューとアパレル店舗における接客員の声を積極的に活用。自社運営のコールセンターとの連携も今まで以上に強化する。

 すでに、ネットのレビューを踏まえたMDはスタートしており、コールセンターに寄せられる声については、現在収集している段階という。早ければ、26年3月期下半期から、MD改革の成果が出てくる見込みだ。後藤室長は「当社の根幹は商品力。アパレル・雑貨事業が赤字に陥るという、今まで経験したことのない状況だからこそ、『小売りとしてのあるべき姿』を目指し、当たり前のことは当たり前にやっていくべきだろう」と話す。

 とはいえ、大局的にみると今後紙媒体を使った通販の市場は、今後一層シュリンクしてしまうのは避けられない。一方で、現時点では紙媒体が好きな人は一定以上いるのも事実。後藤室長も「カタログファンを大切にしていきたいという思いは強い。今回、折込チラシのビジュアルを変えたことでレスポンス率が反転したように、まだまだ戦える余地はある」と断言。その上で「日本の社会全体で高齢化が進み、地方では買い物難民が増える中、当社の紙媒体を中心とした通販のインフラは、社会的にも非常に重要。早期に事業の黒字化を達成し、営業利益率も3%の水準まで戻すことが大事になってくる」と今後の展望を語る。
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