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タンスのゲン躍進のわけ 付加価値PBで差別化、アマゾン店が絶好調

2025年 3月27日 12:00

 家具ECを手掛けるタンスのゲンの業績が右肩上がりだ。2024年7月期売上高は、前期比25%増の330億円だった。25年7月期も好調に推移しており、売上高は同10%増の360億円前後を見込んでいる。家具のD2C企業として、プライベートブランド(PB)商品を続々投入することで成長を続けてきた同社だが、原材料高騰や円安など市場環境が悪化する中、好調を維持している理由はどこにあるのか。


 
 「商品価格を上げざるを得ない状況にある中、既存の商品に改めて価値を付け直すことに成功できたことが大きいのではないか」――。こう語るのは、2023年4月に就任した橋爪裕和社長だ。PB製品をファブレスで開発し、インターネットで販売することで成長を続けてきた同社。顧客のニーズを満たすためにさまざまな商品を販売するとともに、商品開発のスピードが速いことが大きな強みとなっている。

 ただ、昨今の原材料値上げや円安の進行は家具業界全体を直撃。商品価格を値上げせざるを得ない状況のため、消費者の買い控えが大きな不安要素だ。タンスのゲンにおいても、コロナ禍において円安が急激に進んだことを理由として、一律で商品の値上げを実施。橋爪社長は「このときは単に値上げをしただけなのでので、売れ行きが非常に厳しくなった。そのため『値上げをするなら相応の機能アップもしなければいけない』という教訓を得た」と振り返る。

 値上げ自体は避けられないが、単に価格を上げては売れなくなるだけ。価格を改定するにしても、機能を見直すなど、商品そのものを刷新することですることで、値上げ前と遜色ない価値がある商品に仕上げることに注力するようになった。

 例えばマットレスの場合、機能を落とした廉価版と、機能を高めた刷新版の両方を販売している。また、定番のロングセラー商品であるオフィスチェアについては、もともと4999円で販売していたが、現在は6999円で売っている。「これも単に値上げをしただけではなく、カラーを変えたり、キャスターを壊れにくいものに変えたりといった付加価値をつけた」(橋爪社長)。

 仮想モール内でのSEOに大きく関わってくることから、商品レビューが重要なことは言うまでもない。そのため、高い評価のレビューのたくさんついたページを継続して活用することを前提として商品を刷新し、例え値上げをしても継続的に買ってもらえるような仕組みを作ることが大事になってくるわけだ。例えばオフィスチェアの場合、2000円値上げはしたものの、売れ行き・レビューともに悪くなっていないという。

FBA活用

 各社仮想モールに出店している同社。どの店舗も前期比で売り上げが上回っているものの、その中でもアマゾンは大きく伸びているという。橋爪社長は「アマゾンの好調はプラットフォーム自体が積極的に広告を投下している点が大きいと思うが、当社でもアマゾンにリソースを投入しているのが現状だ」と明かす。

 鍵になるのは「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」の活用法。「FBAを使えば、顧客対応や出荷手配はアマゾン側が全て代行してくれる。確かに、手数料自体は高いが、バックオフィスを兼ねていることを考えれば、総合的にみるとペイできている」(橋爪社長)。

 同氏によれば、競合サービスと比べても、FBAはオペレーションのクオリティーが高く、大型商品も扱える点が大きいという。そのため、FBAの梱包サイズを意識した商品開発も行っている。「もちろん、FBAに預けられないサイズなら、自社倉庫から出荷するわけだが、運賃値上げが相次いでいることを考えると、できる限り梱包はコンパクトにしていかないと、今後は事業そのものが成り立たなくなる恐れすらある。物流はEC企業にとって切っても切り離せない存在のため、FBAの活用が会社としての成長にもつながっている」(同)。

 FBAから出荷する荷物は、「配送まで早い」「配送日が分かる」というのが顧客にとって大きなメリットとなる。橋爪社長は「そういった点も含めて『アマゾンはお得』という感覚が消費者にはあるはず。そういったこともあり、アマゾンで購入する顧客が増えているのではないか」と分析する。
 
PB続々投入

 ただアマゾンの場合、ナショナルブランドの商品だと出店者同士で「カゴの取り合い」が発生する。「そうなると価格を下げる、つまり身を削らないといけない。やはり、PB商品を扱わないと利益面で厳しくなってくる」(橋爪社長)。

 同社の場合、昨年はPBの新商品を約1000投入した。新色追加などのバリエーション増や、小物類も含まれてはいるものの、定期的に多量のPBを投入できている点が、コロナ禍が明けて失速するEC企業が多い中でも、成長を続けられる大きな要因となっている。橋爪社長は「PBの新商品数が消費者に提案できる商品の数にもつながるので、商品開発についてはスピードをゆるめることなく進めていきたい」と意欲的だ。

 同社における商品開発の部隊は、海外オフィスもメンバーも含めて20名ほど。既存商品に付加価値を付けられないかを検討するのはもちろん、メーカーからいろいろな提案をもらい、同社ならではの付加価値をつけていくというやり方も行う。「やはり、提案された商品をそのまま売るだけでは競合他社と同じ。タンスのゲンが売るのであれば、デザインや機能面の付加価値で差別化をしていかないといけないわけで、そこはいろいろと工夫している」(同)。

 もちろん、1000もの商品を投入するとなれば、売れる商品も売れない商品も出てくる。最初のロットが2週間から1カ月で売れ切れるような商品は、どんどん継続して発注をかけていく。その後、販売数が落ちてきたときに、てこ入れ策としてその商品を刷新するのか、または廃盤にして新たなチャレンジをするのか、といった流れだ。

 橋爪社長によれば「明確な目安となる期限を設けているわけではないが、最初のロットがどれくらいで売り切れるかが鍵になってくる。継続して発注をかけられる商品は20~30%というところだろうが、十分合格点といえるではないか」という。

 例えば、最近のヒット商品でいえば、ロボット掃除機に対応したダイニングチェアが挙げられる。これは、アームをテーブルにかけることができるチェアだが、アフターコロナの世の中で清潔志向が広がり、「こまめに掃除しないと」という人が増える中、「もっと手軽にロボット掃除機使いたい」いうニーズにマッチした。

 ただ、こういった商品はすぐに真似されてしまいがちだ。橋爪社長は「もちろん、特許や実用新案を取るということも必要になってくるが、仮に真似をされても、カラーやスペック面で自社商品に付加価値をつけることが大事だ」と話す。類似商品のスペックをチェックしながら、勝っているポイントと負けているポイントを洗い出す。そして「この部分の機能を落として競合商品と価格を合わせる」といったように、足し算と引き算を繰り返しながら、競争力の高い商品を生み出していく。

海外MD構築

 2040年までに売上高1000億円を達成するという目標を掲げている同社。橋爪社長は「毎年10%増やすペースなら達成もめどがたつわけだが、国内だけに目を向けていては厳しいのも実情だ」と話す。前期の海外売上高は2億5000万円で、まだまだ数字は大きくない。本格展開に向けた準備を進めている段階という。

 「現地の代理店と契約し、有識者の力を借りながら事業を行うのも一つのやり方だろうし、現地法人を設立して社員を常駐させるという形を採る可能性もある。テストマーケティング繰り返している中で、どういった商品が売れるのか、どういったニーズあるのかを把握しなければいけない」(橋爪社長)。

 現段階で想定しているのは、すでに展開している中国のほか、東南アジア、アメリカでアメリカは去年ビジネスをスタートし、東南アジアについては今年から展開する予定だ。日本で得たノウハウをそのまま当てはめても通用しないため、商品をローカライズする必要が出てくる。リサイズやデザインの変更などが必要なため、本格的な海外展開に向けてMDを構築しているという。
 
タンスのゲン・橋爪裕和社長に聞く
「法人向けEC本格展開へ」

インテリアバレー構想着々

 タンスのゲンの橋爪裕和社長に同社の取り組みや今後の展開を聞いた。
 

 ――業績好調の理由は。

 「アマゾン店が非常に好調に推移しており、特にFBAの活用が会社としての成長にもつながっている」

 ――PB商品の開発も積極的だ。

 「昨年はPBの新商品を約1000投下した。新色追加などのバリエーション増や、小物類も含まれているが、これだけのPBを開発できたことが、ここ1~2年成長できている要因だと思う。PB新商品数が消費者に提案できる商品の数にもつながるので、商品開発についてはスピードをゆるめることなく進めていきたい」

 ――売上高1000億円達成に向けて、海外展開を進めていく。

 「現段階で想定しているのは、すでに展開している中国のほか、東南アジア、アメリカ。アメリカは去年ビジネスをスタートし、東南アジアについては今年から展開する予定だ。販路としては基本的には100%オンライン販売。ただ、ポップアップストアを展開する可能性はある。また、中国はもちろん、東南アジアでもライブコマースがメインストリームになってきているので、ライブコマースの活用も大事になってくる」

 ――その他新規事業は。

 「昨年法人向けECの本格展開を開始した。マーケットとしては、BtoCよりもBtoBの方が大きいので、オンライン販売だけではなく、例えばテレビやラジオを使った通販も視野に入れている。法人向け部署として『タンスのゲンBUSINESS』を立ち上げ、大口の受注を視野にいれた直接営業も行っている」

 ――「大川を、世界のインテリアバレーに。」がコーポレートメッセージだ。

 「実現するために、地域貢献活動や行政を巻き込んだ取り組みも行っている。大川市の事業者が元気にならなければ、当社が世界に打って出ることもできないし、世界から人を呼ぶこともできない。インテリアバレー構想を踏まえて、さまざまなDX戦略を立案実行していく。一昨年10月からは大川市のふるさと納税事業の支援に取り組んでおり、商品選定やふるさと納税の返礼品ページの改修を実施、寄付額が大幅に向上した」

 ――人材教育については。

 「ECの仕事において全ての基本となるのは『マーケティングスキル』。マーケティングの考え方はいろいろなところに応用が効くので、スキルを磨き上げればどんな部署でも通用する人材になる。要は『どうすればネットで商品が売れるか』を全社員が知っていないといけない。最近は新卒採用にも力を入れているが、SEOなど基本的な考え方から、実践的な手法まで、ECでのノウハウを叩き込んでいる。最近は地元九州だけではなく、関東や関西の学生の応募も増えており、会社の知名度が増してきたことを実感している」
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