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【トランスコスモスの柏木常務に聞く 小売りが進めるDXのあるべき姿とは?】㊤ OMO推進へサポート強化、EC構築やライブ接客など

2020年12月10日 07:30

 トランスコスモスはコロナ禍で小売りのOMO化が進む中、企業のOMO戦略を支援する「リテールコマース総括」部門を4月中旬に新設し、舵取り役にTSIECストラテジー前社長の柏木又浩氏が就任した。「グローバル企業を除いてメガブランドはなくなる」と語る柏木常務執行役員リテールコマース総括責任者(=写真)に、小売りのDX(デジタルトランスフォーメーション)のあるべき姿や当該領域におけるトランスコスモスのサポート体制などを聞いた。






 ーー就任後に注力してきたことは。

 「コロナ禍で実店舗のOMO領域でのDXが進むと予想される中、2021年に向けて店舗のDXを推進するためにはプランと”武器”が必要で、この半年は戦略策定と武器の選定に注力してきた」

 ーー武器とは、国内独占販売権を得た「HERO(ヒーロー)」や「ダッシュハドソン」などか。

 「その通りで、両ツールは日本に入っていなかったため武器になると思った」

 ーー国内小売りの現状をどう見ているか。

 「ファッションやビューティー分野でメガブランドはなくなる。グローバル企業は別にして、店舗の数を増やして規模を拡大していく時代は終わった。グローバル展開できる企業が少ない中、D2CおよびDNVB(デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランド)ブランドが育つ環境を作らないといけない。海外はその辺りを理解している企業が多く、『DNVBが大企業を駆逐する』と言われているし、実証されてもきている」

 ーーD2Cが育つ環境とは。

 「海外ではネイバーフッド・グッズなどがそうで、D2CやDNVBを育てるプラットフォーマーがいくつか存在する。ネイバーフッド・グッズの価値は、D2Cブランドなどを育てるために館として全面的にサポートしている点で、これは日本の百貨店とは異なる。D2Cに対し、来店客のさまざまなデータを開示したり、接客を行うスタッフも用意する。日本では言葉ばかりが先行し”次世代型百貨店”などと称されるが、彼らの本当の価値はD2Cなどの育成を目的とする部分だ」

 ーー丸井グループもD2Cへの出資を進めている。

 「欧米の場合、ニューヨークの〇〇エリアに出店するなら、こういうブランドで構成するという風に、テナントの選定に際して立場がニュートラルだ。昔のセレクトショップのように良いブランドを見つけてきて育てようという意識が強い」

 ーーD2CとDNVBの違いは。

 「私にとってD2CはECにインフルエンサーが付いた”EC+情報”という感覚だ。DNVBはそこにサービスソリューションが加わってサブスクリプション化したり、周辺サービスまで提供する。『ペロトン』のようにフィットネスバイクを通じてさまざまなソフトを提供しサブスク化するようなブランドが当てはまる」

 ーー小さなD2Cはたくさん出てきた。

 「大企業もそういうブランドを開発していかないと将来が切り開けなくなるし、むしろ大企業こそ中小企業を大きくするためのプラットフォーマーになっていくべきだ。そういう観点で、小売り企業が進めるDX、OMO化をサポートする全体戦略を練っている」

 ーー具体的には。

 「『ショッピファイ』はインキュベーションするのに最適なECプラットフォームだと思っていて、全面的にサポートする意味が当社にはある。4月に専任チームを立ち上げて『ショッピファイ』を起点としたECワンストップサービスを提供している。また、『ショッピファイ』と連携できることを前提に、足すべきサービスのキーワードがふたつあって、それは”OMO”と”SNS分析”だ。OMOについてはコロナ禍でオンラインとオフラインが限りなく近づいてきていて、OMO推進の武器のひとつとしてオンライン対面接客ツール『ヒーロー』の国内独占販売権を10月に獲得した」

 ーー「ヒーロー」は店舗販売員が顧客とライブでチャットやビデオ通話を行う。

 「『ヒーロー』の一番のポイントは、ボットではなく常に人が介在する1to1でオンライン接客を行うことに意味がある。EC事業はある一定の規模に達すると売り上げが爆発的には伸びなくなる。ECは単品買いが多く、どのようにセットアップ率を上げられるかを考えたときに、店頭ではセット率が高くてECで高くないのはサポートの仕方の違いだ。一番商品を知っている人、つまりブランドの販売員がサポートすべきで、販売員が売る仕組みを探していて『ヒーロー』を知った」

 ーー欧米では導入企業が多いと聞く。

 「2015年からサービスを開始し、『バーバリー』や『フェンディ』『ナイキ』など名だたるブランドが導入して欧米ではナンバーワンのオンライン接客ツールだ。日本では分かりやすくオンライン接客ツールと呼ぶが、顧客が店頭で買い物をしているような体験が得られることから欧米ではバーチャルショッピングツールと呼ばれている」

 ーー「ヒーロー」の強みは。

 「販売員がライブでテキストやチャット、動画を使って接客を行うこと自体が画期的なのではなく、ライブ接客中に顧客がいま何の商品を見ながら質問をしているかなど、販売員には顧客の行動履歴が分かることが大事だ。お店で顧客がどの棚のどの商品を手に取っているかを把握して接客するのと同じような状況でオンラインでも接客できる。また、実施したライブ接客を共有し、ひとつの成功体験を広げていけるプラットフォームだ」

 ーー機能追加などの予定は。

 「海外ではグーグルマップで店舗名を検索した際、マップ上の店舗に『ヒーロー』に直接つながるメッセージボタンを設置できるのも特徴で、日本でもその機能を追加したい。ECであっても顧客に接客をするのが当たり前の状況を作っていきたい」

 ーー店頭のあり方も変わりそうだ。

 「世界中で、実店舗はブランドを体験してもらいエンゲージメントを高めるための場所として進化していくと言われているが、国内ではそれを体験できる店があまりにも少ない。オンラインの売り上げをオフラインの販売員がサポートしてモノを作れるようになると、実店舗のあり方は変わってくるはずだ。なぜなら、ずっと店舗単位で売り上げノルマに縛られていた販売員にとって、オンラインの売り上げが評価につながると、店舗の売り上げだけが自分たちの売り上げではないということを理解できる。そこでようやくオフラインがブランド体験型ショップに変わるきっかけになる」

 ーー「ヒーロー」以外にOMOを推進する武器は。

 「もうひとつがアプリ活用になる。『ヤプリ』は自社ECと直結するもので、ロイヤルカスタマー化を推進するに最適なアプリ開発ツールで、ヤプリさんとは10月に業務提携した。加えて、ライトユーザーを育てるためにLINEミニアプリをLINEさんと一緒に展開していく。ライトユーザーをLINEミニアプリで獲得し、『ヤプリ』でロイヤル化を図る。LINEミニアプリはダウンロードもログインも不要という手軽さが魅力だ。セキュリティー対策として各サービスで別々のパスワードを設定している人が増える中で、パスワードが分からずに離脱するようなこともない。ライトユーザーの獲得に向けて外せるハードルはすべて外すべきだ」(つづく)

 
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