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【UAの佐川上席執行役員に聞く オムニチャネル化への挑戦㊤】 段階的にオムニサービス拡充、自社ECの運営体制変更、「ECの概念をなくす」

2019年 7月12日 13:17

 ユナイテッドアローズ(UA)の自社ECが好調だ。2019年3月期のEC売上高全体(約263億円)に占める自社ECの構成比も約26%に高まった。今秋には自社ECの開発・運営体制をゾゾグループから変更。新たなパートナーと組んで自社主導の運営体制に切り替え、オンラインとオフラインの垣根を越えてサービス力の強化に乗り出す。UAで販売支援やデジタルマーケティングなどを管轄する佐川八洋上席執行役員に、本格着手するオムニチャネル施策などについて聞いた。
 
 ――ECが好調だ。

 「自社ECはこの数年、販促に力を注いできた。現状はゾゾさんのEC基盤を活用させてもらっているが、販促は自社で実施している。3年くらい前まではあまり広告費を投下していなかったが、広告手法も増えてきており、2年ほど前に売上高の何%を投下するという基準を設けた。EC売り上げが安定成長しているため広告費の絶対額が増え、露出の拡大で集客力も高まっている」

 ――購入率はどうか。

 「ゾゾさんのインフラを活用しながらも、その中でできる細かい改善を重ねている。例えば、カートに商品を入れて決済するまでのプロセスの簡略化などもABテストを繰り返した結果、購入率が改善してきている。集客力を高めて購入率が改善したこともあって、前期の自社EC売上高は前年比23%増になった」

 ――そのほかに新客開拓や既存客の定着化に向けた施策は。

 「マーケティングオートメーションツールも昨年から始動し、カート放棄したユーザーへのフォローメールなど王道のシナリオを中心に運用している。あとはLINEとのID連携だったり、決済手段ではアマゾンペイに対応するなど利便性を高めた。細かい部分の足し算でも成果が出ている。そういうことを専門に運用する人材も少数だが採用した。集客と購入率をKPIにして徹底的に取り組み、そこに在庫がついてきて欠品率が以前よりも低下している」

 ――自社ECの運営体制にメスを入れる。

 「ゾゾさんのEC基盤から離れ、新しいパートナー企業と組んで自社ECを刷新する。自社についてはECという概念をなくし、オムニチャネル化に踏み込む。実店舗とECの区分けを構造的になくしていく。ゾゾさんや楽天さんなど外部ECモールとのお付き合いは続けていくが、当社ではそうしたチャネルをECと定義し、自社はオンラインとオフラインは同じという意識でオムニチャネル化を進める」

 ――どんなサービスを提供していくのか。

 「店頭で欲しい商品が欠品していて倉庫には在庫がある場合、お客様にはそのまま店舗で会計してもらい、商品は倉庫から自宅に届けるサービスを始める。従来のように商業施設に家賃を払いながら、ECの委託先にも手数料を支払う形だと利益が出ないが、内製化すれば実現できる。当社の客単価であれば倉庫から自宅に届ける運賃も問題ない。商業施設のカードを持っていたり、いつもの販売員から買いたいなど、お店のレジで会計したいお客様が圧倒的に多いのではないか」

 ――そのほかには。

 「ネットで商品を購入してイメージが違ったりする場合、現状では宅配業者に依頼して返品してもらう形だが、実店舗でも返品できるようにする。リアルのお店があるからこそできるサービスを磨いていく。すでに取り組んでいるネットでの店舗試着予約など、自社ECのサービスは基本的に引き継ぎながら、店舗を絡めた部分を劇的に変えていきたい」

 ――自社ECの刷新に先駆けて物流拠点を再編した。

 「昨年5月、千葉県流山市に開設した物流センターで自社ECの在庫を管理し、発送業務を行う。現状は会社全体の在庫の1割くらいをゾゾベースに預けていて、残りの9割が店舗向け在庫として自社物流拠点にあるが、自社ECの運営体制変更後はゾゾさん向けの在庫以外は流山に集約するため、自社ECに投入できる在庫量は10倍くらいになる。新体制では店舗用と自社EC用在庫の区分けは事実上なくなる。ECは一晩中販売できるため、お店より先に自社ECに引き当てるようになると、自社ECの欠品はさらに減るだろう。これまでは欠品すると自社倉庫から引き当ててゾゾベースに届ける必要があった」

 ――店舗試着予約の充実にもつながる。

 「現状、ネットで店舗試着予約ができるのはゾゾベースに在庫がある商品だけだ。今後は、流山のセンターに在庫があれば試着予約できるようにするため、在庫がある可能性も10倍に広がる。また、今まではECで決済し、所有権がお客様に移った商品をお店で受け取ることはできなかった。ハードルはあるが、時間がかかってでも実現したいし、ニーズも大きいと見ている。すべてを一気にはできないが、何段階かに分けて実現していきたい」(つづく)

 
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