ヤマトホールディングスの山内雅喜社長(写真㊤)とヤマト運輸(同)の長尾裕社長(写真㊦)は3月9日、都内で会見しヤマトグループ全体で取り組んでいる働き方改革などの進捗状況について説明した。ヤマト運輸が受け持つ宅急便などのデリバリー事業については、夕方以降に配達を中心に担当する「アンカーキャスト」を採用し宅急便のキャパシティ拡充への対応を進めていくことや再配達抑制の取り組みなどを説明。労働需給の逼迫が続く中、グループ全体で働き方改革を最優先にした取り組みで社会インフラとしての宅配便事業に取り組むなどの方針を改めて示した。
山内社長は冒頭、昨年9月28日に発表した中期経営計画「KAIKAKU 2019 for NEXT100」について言及。19年に創業100周年を迎えるが、続く次の100年の成長に向け「働き方改革」を中心に据えた上で(1)デリバリー事業の構造改革(2)非連続成長を実現するための収益・事業構造改革(3)持続的に成長していくためのグループ経営構造改革の3つの改革を推進。働き方改革を中核とするのは「良いサービスを提供する上で、それを支える社員が力を発揮できる環境を整えることが不可欠なため」と語った。
山内社長は3つの改革のうち(2)と(3)について説明し、(2)は「バリュー・ネットワーキング構想」を進化させ、国内外のクライアントへクライアントのビジネスの伸長に寄与できるサービス機能を提供することを目指すとし、(3)では(1)と(2)を実現するための基盤と位置付け、いずれもITやAIなどにより業務効率化、集配ルートの最短化、ゲートウェイの最適な配車体制などに役立てていく方針を明かした。
次に長尾社長が(1)のデリバリー事業の構造改革の進捗状況について説明。昨年10月1日に基本運賃を値上げしたが、その事前段階として大口取引先の運賃改定交渉やサービス面の改革を実施し、業務量(取扱量)を従来より抑えたことにより、ヤマト運輸本来のキャパシティの水準に近づきつつあるとした。
ただし、将来的に業務量を縮小し続けるわけでなく、クライアントの求めに応じキャパシティを拡充することが企業としての本来の姿勢とし、集配を担うセールスドライバー(SD)の労働環境改善や配達指定時間帯の見直しなどを行っているのもキャパシティ拡大に必要な施策になっているとした。
SDの業務については、本来、営業から集荷、配達などの幅広い業務を担っているが、宅急便の受け取り希望として午前中と夕方以降の2ピークがあり、そして集荷のピークもあるとし、そのうち夕方以降の配達のピークを受け持つ配達特化型の「アンカーキャスト」を配置したラストワンマイを構築していくことでキャパシティ拡大を可能にするとの見解を示した。
「アンカーキャスト」については1万人を確保することを中期経営計画発表時に表明したが、半数は内部で確保できる見通しという。パートやアルバイトのドライバー、ドライバーでない他業務の従事者を「アンカーキャスト」として宅急便の配達要員として担ってもらうという。
また個人会員制度の「クロネコメンバーズ」の有効活用やコンビニ受け取り、宅配便ロッカー「PUDOステーション」設置拡大により1度での受け取りを促進することもキャパシティ拡大にとって不可欠な施策として取り組む。「クロネコメンバーズ」では、昨秋からネット販売サイトなどでID連携により簡単に利用できる取り組みをスタートし、毎月利用が伸び、それに伴い本登録も増えているという。このため再配達率の低下にも寄与する傾向が出てきており、4月からはこの動きを推し進めるためのメニューの提供も開始する計画という。
また「PUDOステーション」は3月末までに累計3000台を目標にしているが、3月上旬時点で約2400カ所を達成。ほぼ目標に近い台数を実現できる見通し。
さらに昨秋、「関西ゲートウェイ(GW)」が大阪で稼働開始したことにより、関東の厚木GW、中部GWと3大消費地間の多頻度幹線輸送が可能になり、キャパシティ拡大につなげる上での重要な役割を果たすものとした。
長尾社長は大口取引先1100社との運賃交渉を行い値上げ要請したが、運賃について外部環境の変化も加味しプライシングを定期的に見直す「法人顧客プライシングシステム」について記者からの質問に回答する形で言及。同氏は「今回の(大口の)運賃改定は現時点で適正でないところも存在している。『今年度はここまで』などある程度のラインまでとしたり、『とりあえず今年度はここまで。来年度に再度検討』というようなケースがある。(荷主によっては)個別のオペレーションがあり、どうコストを試算し、リソースなどの調達価格もあり、その水準も変えていくとなれば、毎年交渉の場を設ける必要がある」と述べた。