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「甲羅組」の成長戦略 新工場で敦賀活性化、年商1千億円へアクセル

2025年 4月10日 12:00

 カニなどを販売する「越前かに職人甲羅組」の伝食は、「楽天市場」の優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2024」でグランプリを受賞した。〝食の総合商社〟として、売上高1000億円を目指す同社は、さらなる成長に向け26年春に新工場の竣工を予定。カニの加工見学などができる観光施設を併設し、地元の地域活性化にも寄与する狙いだ。新物流拠点を中心とした同社の未来図は。



 
 「創業時、銀行に提出した事業計画書に『10年で年商50億円を目指す』と書いたら、担当者に『夢を追いかけるのはいいけど現実を見てくださいね』と言われた。でも10年後、年商は100億円になった」――。

 田辺晃司社長は、表彰式の壇上で涙ながらにグランプリ受賞の喜びを語った。SOY受賞は2年ぶり。コロナ禍の巣ごもり需要から一転、ECがダウントレンドになり、売り上げが伸びず、「SOY2023」は受賞を逃した。カニという商材の性質上、物価高や円安の影響をもろに受けており、そういった逆風を乗り越えてのグランプリ受賞に喜びもひとしおだった。

 田辺社長はグランプリ受賞の要因を「顧客が求めている商品・サービスを提供するという、ある意味単純なことを、とことん突き詰めた結果」と振り返る。

 2011年に創業した同社は「楽天市場」を中心に売り上げを伸ばしてきた。同モールにおける流通額は、毎年2桁成長を目指しているという。「物流や仕入れの態勢を整えたことが、グランプリを取るほどの事業成長につながった」(田辺社長)。その中でも特に注力したのは物流だ。

 外部委託には利用料値上げや繁忙時の出荷遅延といったリスクがつきもののため、「物流は内製化すべき」というのが、創業当初からの考え方。同社は22年、地元の福井県敦賀市に物流倉庫「伝食ロジスティクス」を設立した。冷凍倉庫と出荷拠点の役割を兼ね備え、カニを含む食品加工の中心となった。これにより生産体制は大幅強化、売り上げの拡大につながった。

 さらなる成長のドライバーとして位置付けるのが、26年春竣工予定の新工場だ。竣工予定地は、「伝食ロジスティクス」と同じ敦賀市の「敦賀市第二産業団地」。新工場は物価高への対抗措置として、高い作業効率で生産コストを削減する〝スマートファクトリー〟とする。

 新工場ではカニの専門加工を行う。「アレルギー等の観点から、カニの加工は単体の工場で行った方がよいと考えた」(同)。新工場の冷凍庫で加工したカニを、「伝食ロジスティクス」から出荷するという流れになる。両方の工場でカニ加工を行うと、出荷量は約2倍に拡大することが予測されるという。

 新工場は単なる生産拠点にとどまらない。今回は新たな試みとして、観光施設の併設を予定しているという。

 「実は『伝食ロジスティクス』にもカニの加工見学ができるエリアを設けていたが、一度に見学できるのはわずか5~10人と少なかった」と田辺社長。「さらに多くの人が見学できる工場を作りたい」との思いから、新工場は見学型のオープンファクトリーとする。単なる加工見学に限らず、カニを使った料理の提供や、加工したカニの持ち帰りなど、さまざまな企画を予定しているという。

 敦賀は昨年3月に北陸新幹線の終着駅となったが、「金沢や福井で降車してしまう人が多く、期待したほどの地域活性化は図れていない」(同)という。「新工場を通して、集客・雇用の面で、多くの人が敦賀に集まるきっかけ作りができればよい」(同)。敦賀市とも連携し、新工場を一大観光拠点とする狙いだ。

 また、敦賀市のふるさと納税寄付金額は全国の自治体でトップ20に入るという。「甲羅組」の商品も返礼品として用いられ、敦賀市のふるさと納税に大きく貢献している。新工場は、大規模な返礼品のオペレーションを支える場としても機能させる考えだ。

 「現状はECからふるさと納税への誘導を行っているが、やはりお客様に現地に来てもらって、ふるさと納税に興味を持ってもらうことが重要」(同)。現在敦賀市と協議中で、「カニ祭り」など地元活性化に向けたイベントの開催なども検討しているという。

 「何よりも大事なのはECの売り上げを最大化すること。新工場を訪れた人に敦賀市やカニの魅力を知ってもらい、『通販でも注文してみよう』という風に思ってもらえれば嬉しい」(同)。

攻めの姿勢で物流拠点新設

 同社にとって大きな転換点となったのは、「伝食ロジスティクス」の設立だった。建設に踏み切ったのは、コロナウイルスの流行を受けて巣ごもり需要が高まっていた20年ごろ。ECの伸長とともに出荷件数も増加し、ついに年末には出荷機能がパンクして、物理的に出荷することが難しくなった。

 そこで「伝食ロジスティクス」の建設に踏み切ったが、建設費用は約30億円。当時の年商は約100億円だったことを考えればかなりの冒険。しかし、リスクを取る経営戦略が現在の成長につながっているわけだ。

 「年商100億円で満足していたら今の成長はなかった。150、200、300億円と次の売り上げ目標があるから、守りに入らずにアクセルを踏み続けることができる」と田辺社長は振り返る。

さらなる食品ジャンル展開

 「ゆくゆくは売上高1000億円を目指す」(同)という伝食。とはいえ、カニは価格変動の激しい商材。カニ一本で事業を行うのはリスクが高い。食全般を取り扱う〝食の総合商社〟として、さらなる食品ジャンルの展開はマストだ。

 20年には、菓子類を中心に販売する「祖の食庵」を立ち上げた。新入社員や女性社員の意見を積極的に取り入れ、既成概念にとらわれない商品づくりを行っている。「SOY2024」のスイーツ・お菓子ジャンル賞で大賞を受賞するなど成長も著しい。現在「祖の食庵」の売り上げは月商7000~8000万円程度。まずは月商1億円にまで引き上げるのが目標という。

 3店舗目にはワイン専門店を始動。近々には食肉専門店を立ち上げる予定だ。とはいえ、1000億円を目指すにはさらなるブレイクスルーが必要だ。

 「新事業は年商10億円規模にまで成長させることを一つの目安にしているが、10億円の事業を複数個作っても1000億円までは程遠い。どこかでギアチェンジする必要がある」(同)。

 そこで、新規事業として卸などのBtoBも視野に入れる。「売上高1000億円のうち、通販の売り上げは半分以下になるようなイメージで考えている」(同)。とはいえ食品ECで400~500億円の売り上げを作り出すのはハードルが高い。現在100億円程度の食品EC売上高を4~5倍にするには、大がかりな事業立ち上げやM&Aなども必要になってくる。

 田辺社長は「ネットスーパーへの参入も視野に入れたい」と明かす。ネットスーパーは物流などに大きな投資が必要になるのはもちろん、現状野菜などの産直系商材を取り扱っていない同社としては大きな挑戦になる。「生産者の開拓など考えることは多い。もしかしたら農業に参入することになるかもしれない」(同)。

 さらには2030年頃の株式上場も視野に入れる。田辺社長は「上場してからはM&Aなどを行い、事業規模を拡大していきたい」と意気込む。
 
伝食の田辺晃司社長に聞く
カニ以外の商材を強化

昨年にはおせち販売に着手

 伝食の田辺晃司社長に、同社の取り組みなどについて聞いた。
 

 ――「楽天市場」内での施策は。

 「2個まとめ買いすると送料が600円オフになる『まとめ買いクーポン』という施策を行っている。配送面では『最強翌日配送』にも対応している。『あす楽』の頃は正午までに注文された商品が翌日配送の対象だったが、『最強翌日配送』に切り替わったタイミングで、即日出荷期限を午後2時までに延長した」

 ――その成果は。

 「カニの注文がピークを迎える12月31日も、通常と同様午後2時まで即日出荷を行っている。他社は30日の午前や正午で年末休暇に入るところが多いので、その分売り上げは増加した」

 ――顧客の満足度向上に向けた取り組みは。

 「商品の品質向上は避けて通れない。どんなにサービスが良くても商品が悪ければリピートにつながらない。その点で、レビューの低い商品はやはり売る価値がない。『楽天市場』のレビューでは星4・5点以上の獲得を目指している。あとは、コスパという観点も重要。グラムあたりの価格変動にともなってレビューの点数は上がるのかなど、試行錯誤しながら価格を調整している」

 ――カニの現状は。

 「当社は主力商材のカニを海外から輸入している。ロシアのウクライナ侵攻、アメリカ・カナダ間の関税措置などを受けて、近年カニの仕入れ価格は大きく変動している。カナダは世界で一番カニが獲れる地域だが、今後はカナダからの輸入に依存することなく、さまざまな地域から仕入れていくことが重要になる。また、単年度の買い付けでは相場が不安定になった時に大きなダメージを受けてしまうので、2~3年のスパンで区切って買い付けを行うことも重要。カニ以外の商材も強化しなければならない」

 ――たとえば。

 「カニのオフシーズンは、ウナギなど他の商材で新規購入を促している。ウナギは夏に売り上げのピークが来る商材で、買い付け時期もカニとちょうど反対になる。冷凍庫の空き状況や資金繰りの観点からも、カニをカバーしてくれる商材として最適だ。ウナギの他にも、冷凍むきエビや骨取り加工を施した魚の切り身などは人気。それら冷凍食品などを入り口商品として、利益度外視で販売し、メルマガへの誘導を行ってリピートにつなげている。昨年からはおせちの販売にも着手した。配送遅延を絶対に起こしてはいけないなど、参入障壁が高かったが、ついに踏み切った。オフシーズンはウナギなどで新規顧客を取り込み、年末商戦ではカニを買ってもらい、最終的にはおせちを買ってもらうという一連のサイクルを作っている」

 ――商品開発では何を大切にしている。

 「『楽天市場』の『リアルタイムランキング』を見て、その商品が売れている理由を分析するのが私の一種の趣味になっている。食品に限らず幅広いものをチェックしていて、新入社員たちに『どう思う』などと感想を聞くことも。『祖の食庵』では、新入社員の意見が商品化されたこともある。過去の成功や既成概念にとらわれた商品づくりをしてはならない。ECをあまり利用したことがない人や、若者の意見を積極的に取り入れるようにしている」
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