見えない具体化の道筋――ネット研究会が取りまとめ案
消費者庁長官の肝煎りで昨年8月に発足した「インターネット消費者取引研究会」が今年3月、取りまとめ(案)をまとめた。研究会はその中で「インターネット取引連絡会(仮称)」の発足や決済代行事業者の「登録制度」の導入を決めた。だが、もっともらしい施策の提示もその実、具体化の面では"責任丸投げ"としか言い様のないものばかり。研究会を取り仕切った同庁政策調整課は、いかにして実効性を確保していくつもりなのだろうか。
まず、「インターネット取引連絡会」(以下、連絡会)だが、継続的な議論のテーマはなく、定期会合も予定しない。従ってメンバーも「関係省庁や事業者団体、消費者団体等からその都度選ぶ」(政策調整課)形。形骸化の恐れもありそうだが、「次回会合が未定のまま終えることはない」(同)とする。
その役割は、行政の処分事例やネットを介した新たなビジネスモデルに関する情報共有や意見交換。「突発的な問題が起きたらテーマとして差し込む場合もある」(同)としており、グルーポンを通じて販売されたおせちの問題やペニーオークションにかかる問題など、ネットを巡る緊急性の高いトラブルへの対応策を検討する場としたいよう。ただ、当面は、取りまとめ(案)の中で来年度上半期に公表を予定する「広告表示で事業者が守るべき事項」「契約事項で消費者に分かりやすい記載のあり方」の表示例作成に活用するようだ。
だが、この表示例も順守する義務があるわけではない。まじめな事業者にとって広告表示や契約条項の記載に気を使うのが当然である一方、悪質事業者が法的拘束力のない表示例を守るとも思えない。誰を対象とするのか疑問が浮かぶが、「ネットは新規参入が容易なため、悪意はなくとも瑕疵がある」(同)とする。新規事業者や法的知識の乏しい事業者への注意喚起とするようだ。
続いて、決済代行事業者の「登録制度」の導入について。制度は事業者の社名や連絡先を登録簿としてまとめ、ネット上で公開するというもの。
ただ、これも法律で定めた制度でないため、登録は任意で行い、事業者の適法性審査もない。従って消費者庁では「事業者の信用性を担保したと取られかねない」(同)ことから、登録簿の管理も行わない。登録簿は、ネット関連団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」が運用。サイト上で公開するが、消費者庁はHP上で同団体サイトへリンクを貼るに留まる。
一方、気になるのは、取りまとめ(案)の中で広告表示や契約条項記載の違反に対し、「監視活動を強化するための体制を整備する」としている点だ。
だが、こうしたもっともらしい提言も研究会の議論の成果に拠るものとは言えそうにない。
体制整備の具体化について政策調整課は「各規制法の所管部署が行う」と、ノータッチを決め込む一方、「取りまとめ(案)は各課の合意を得たもの」とする。
だが、健康増進法などを所管する食品表示課は「昨年7月に終えた『健康食品の表示に関する検討会』の結論以上の変化はない」とコメント。すでに検討会を受けた監視強化策を打ち出しているが、研究会の結論を得る前からのものだ。
景品表示法を所管する表示対策課は、「これまでもネット取引にかかる表示は注視してきた。今後はクーポン共同購入サイトにおける二重価格表示、アフィリエイト広告など第3者による不適切な広告表示に対する法適用の可能性について実態調査したい」としたが、これも既知の課題であろう。
また、トラブルの未然防止に向けた取り組みと期待する「ノーアクションレター制度」(事業者によるいわゆる事前相談)の推進も同様だ。
食品表示課では現状を「専任の非常勤職員2人を配置。事業者にもこれまで丁寧に対応してきたつもり」と回答。表示対策課も「常時5~6人の非常勤職員が対応している」とする。何が変わるのか不明確だが、「これまで庁として公言したことはない。事業者には知らない方もおり、各課に意識を持ってもらう」(政策調整課)とその意味を強調する。
目的が判然としない連絡会や事業者団体に丸投げの登録制度など、今回の研究会の施策が通り一遍に留まる背景には、事務局を担う政策調整課の性格が影響しているといえそうだ。
同課は、消費者トラブルや"すき間事案"の放置を防ぎ、庁内外を問わず法執行部門に執行要請することを主な役割とする。それゆえ、明確な規制対象を持たない。
研究会発足直後、同課は「"何法の何条で対応できないので改正すべき"と、法律から紐解く手法は取り組みやすいが従来と変わらない。消費者が直面する問題からやれることを考えたい」と意欲を示していた。だが、結果として各課への"丸投げ"によって対応するほかなかったようだ。
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まず、「インターネット取引連絡会」(以下、連絡会)だが、継続的な議論のテーマはなく、定期会合も予定しない。従ってメンバーも「関係省庁や事業者団体、消費者団体等からその都度選ぶ」(政策調整課)形。形骸化の恐れもありそうだが、「次回会合が未定のまま終えることはない」(同)とする。
その役割は、行政の処分事例やネットを介した新たなビジネスモデルに関する情報共有や意見交換。「突発的な問題が起きたらテーマとして差し込む場合もある」(同)としており、グルーポンを通じて販売されたおせちの問題やペニーオークションにかかる問題など、ネットを巡る緊急性の高いトラブルへの対応策を検討する場としたいよう。ただ、当面は、取りまとめ(案)の中で来年度上半期に公表を予定する「広告表示で事業者が守るべき事項」「契約事項で消費者に分かりやすい記載のあり方」の表示例作成に活用するようだ。
だが、この表示例も順守する義務があるわけではない。まじめな事業者にとって広告表示や契約条項の記載に気を使うのが当然である一方、悪質事業者が法的拘束力のない表示例を守るとも思えない。誰を対象とするのか疑問が浮かぶが、「ネットは新規参入が容易なため、悪意はなくとも瑕疵がある」(同)とする。新規事業者や法的知識の乏しい事業者への注意喚起とするようだ。
続いて、決済代行事業者の「登録制度」の導入について。制度は事業者の社名や連絡先を登録簿としてまとめ、ネット上で公開するというもの。
ただ、これも法律で定めた制度でないため、登録は任意で行い、事業者の適法性審査もない。従って消費者庁では「事業者の信用性を担保したと取られかねない」(同)ことから、登録簿の管理も行わない。登録簿は、ネット関連団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」が運用。サイト上で公開するが、消費者庁はHP上で同団体サイトへリンクを貼るに留まる。
一方、気になるのは、取りまとめ(案)の中で広告表示や契約条項記載の違反に対し、「監視活動を強化するための体制を整備する」としている点だ。
だが、こうしたもっともらしい提言も研究会の議論の成果に拠るものとは言えそうにない。
体制整備の具体化について政策調整課は「各規制法の所管部署が行う」と、ノータッチを決め込む一方、「取りまとめ(案)は各課の合意を得たもの」とする。
だが、健康増進法などを所管する食品表示課は「昨年7月に終えた『健康食品の表示に関する検討会』の結論以上の変化はない」とコメント。すでに検討会を受けた監視強化策を打ち出しているが、研究会の結論を得る前からのものだ。
景品表示法を所管する表示対策課は、「これまでもネット取引にかかる表示は注視してきた。今後はクーポン共同購入サイトにおける二重価格表示、アフィリエイト広告など第3者による不適切な広告表示に対する法適用の可能性について実態調査したい」としたが、これも既知の課題であろう。
また、トラブルの未然防止に向けた取り組みと期待する「ノーアクションレター制度」(事業者によるいわゆる事前相談)の推進も同様だ。
食品表示課では現状を「専任の非常勤職員2人を配置。事業者にもこれまで丁寧に対応してきたつもり」と回答。表示対策課も「常時5~6人の非常勤職員が対応している」とする。何が変わるのか不明確だが、「これまで庁として公言したことはない。事業者には知らない方もおり、各課に意識を持ってもらう」(政策調整課)とその意味を強調する。
目的が判然としない連絡会や事業者団体に丸投げの登録制度など、今回の研究会の施策が通り一遍に留まる背景には、事務局を担う政策調整課の性格が影響しているといえそうだ。
同課は、消費者トラブルや"すき間事案"の放置を防ぎ、庁内外を問わず法執行部門に執行要請することを主な役割とする。それゆえ、明確な規制対象を持たない。
研究会発足直後、同課は「"何法の何条で対応できないので改正すべき"と、法律から紐解く手法は取り組みやすいが従来と変わらない。消費者が直面する問題からやれることを考えたい」と意欲を示していた。だが、結果として各課への"丸投げ"によって対応するほかなかったようだ。