スクロールは11月1日、子会社で物流センター運営のスクロールロジスティクスと、ソリューション事業のスクロール360が、DIY関連商品の通販サイト「DIY FACTORY」を運営する大都と同社役員3名、スクロールロジスティクス元社員2名を刑事告訴すると発表した。両子会社の営業秘密の持ち出しやアルバイトスタッフ16人の引き抜きなどを行ったことを理由としている。
スクロールによれば、両子会社は大都から物流代行業務を請け負っており、スクロールロジスティクス社員だった土井美和氏と青木力穂氏は、大都に関連した物流業務に従事していた。
両氏は大都役員らの指示で、作業原価や外注費情報等が含まれた「原価予測」なるファイルと、大都が実際に引き抜きをした従業員(アルバイトスタッフ)を含む、引き抜き候補者26人の作業生産性や出勤率が含まれた「口説く人員数」というリストを作成し、原価情報や給与情報等の営業秘密情報を漏えいさせ、また、子会社の経営会議資料、スクロールロジスティクスが運営する「スクロールロジスティクスセンター関西1(SLC関西1)」のクライアントに対する物流サービスの損益情報等の営業秘密情報が記載されたファイルを違法に持ち出した。現在調査中だが、最大で9000余りのファイルを持ち出した形跡があるという。
また、両氏は16人の倉庫現場ベテランスタッフに対し、大都に転職するよう促す「引き抜き」を行っていたことが、残されていたデータから判明した。大都役員らは土井氏との間で、土井氏らが子会社に在職していた当時から、土井氏らと共謀して引き抜きを組織的に実行し、実際に16人を大都に転職させた。なお、大都では11月初旬に物流センターを移転している。
さらに土井氏らは、大都の移転先倉庫で物流業務を行うために使用することを前提に、盗み出す対象物をまとめた「必要備品リスト」という資料を作成。SLC関西1で使っているパレット、コピー機等のOA機器やコピー用紙、トナー等の備品を、取引先に対してスクロール名義で無断発注、倉庫内の「秘密の部屋」に隠した上で盗む計画を立てていた。
両子会社では、大都と大都役員、土井氏・青木氏を不正競争防止法(不競法)上の営業秘密侵害罪で告訴することを決めたほか、窃盗罪で告訴することも検討。さらに、子会社より持ち出された営業秘密情報の使用差し止め、営業秘密利用・引き抜きについての損害賠償請求をするために民事訴訟を行うことも決定した。
スクロールによれば、大都との取引は2018年からあるものの、こうした行為は直近半年間で行われており、大都の山内拓也取締役、山内智和取締役、稲田哲也取締役と、土井氏・青木氏がメールで営業秘密の持ち出しや従業員引き抜きについてやり取りしていたことも確認しているという。
スクロールでは「物流業務を委託から自社へと切り替えるため、物流倉庫内の営業秘密情報について、3氏が元社員2名を使って持ち出しをさせた」(経営企画課)とみており、大都に対して刑事告訴と民事訴訟に踏み切る形だ。
なお、スクロールでは「子会社の営業秘密情報は、違法に取得された営業秘密情報に該当するため、当該情報の開示を受けた場合は連絡してもらいたい」と呼びかけた上で、「当該情報を使用した場合は不競法に違反する可能性がある」と注意している。クライアントの営業秘密情報については流出していないという。
同社は「今回のプレスリリースは、大都役員や子会社元社員2名から、再度営業秘密が流出することを防ぐ目的もある」(同)と説明する。
大都が反論公表
一方、大都ではスクロールの発表を受けて同日、プレスリリースを公表、「犯罪行為を行った事実はなく、また、ビジネス倫理上問題のある点についてはすでに繰り返し謝罪を行っている」と釈明した。リリースによれば、10月17日にスクロール子会社代理人弁護士からの配達証明郵便があり、同日より社内調査を行ってきたという。
「社内情報の持ち出し」については、スクロール子会社を退職し、今年10月1日に大都へと転職した人物が、大都が過去に共同作業目的で提供したアカウントを、スクロール子会社の業務をするために日常的に使用していたこと、スクロール子会社退職後も当該アカウント内にスクロール子会社の情報を保管していたことを確認しているという。
大都では「これらの情報に関しては、不競法上の営業秘密ではないと考えている」とし、スクロールの言い分とは大きく食い違っている。ただ、「ビジネス倫理上問題がある」と判断し、当該人物を10月30日付で解雇。スクロール子会社に謝罪の上、当該情報の削除を行うべく、対応方法について協議する旨を申し入れている。
また、アルバイトの引き抜きに関しては「社内情報持ち出しの件もあり、当社からの積極的な勧誘はしないことにした」とするが、当該16名については、すでにスクロール子会社を退社し、大都への就職を積極的に希望したことから採用を決めたという。
「倉庫内の備品窃盗」に関しては、「そのような事実は把握しておらず、また、万が一何らかの問題があったとしても当社が関与した事実はない」とした。
ただ、スクロール側は「大都は違法に取得した当社子会社の営業秘密情報を使用して、物流業務とフルフィルメント受託業務(物流代行業務)を自社で行うことを目的とした倉庫の移転計画を立案し、実行している」とプレスリリースで指摘しているが、これに対する見解はなかった。
大都はDIYツールを販売する通販サイトを2002年から運営している。創業は1937年で、もともとは工具卸業だったが、2011年に3代目社長となった山田岳人氏により2002年にECへと進出して以降、順調に売り上げを拡大。「楽天市場」の優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」も何度も受賞している。
近年は、法人向け通販サイト「トラノテ」を開設し、BtoB通販にも進出。2023年12月期の売上高は前期比5・1%増の70億3000万円だった。昨年7月には楽天グループのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)である楽天キャピタルの出資を受けており、近い将来の上場を視野に入れている。
また山田氏は、楽天市場の有名店舗が講師となり、他の出店店舗にネット販売に関するノウハウを伝授する企画「NATIONS(ネーションズ)」でリーダー店舗を務めるほか、2022~23年にかけて開催された、DIY業界の関連企業や有識者、楽天の3者で、ECを中心としたテーマで議論する会合「DIYサミット」でも中心的役割を果たした。さらには、楽天市場出店店舗による任意団体「楽天市場出店者 友の会」立ち上げ時に音頭を取るなど、DIY業界やEC業界での知名度は非常に高い。
大都の山内拓也取締役、山内智和取締役は、アウトドア用品ECの草分け的存在となるナチュラム出身。山内拓也氏は、ナチュラム子会社でソリューション事業を手掛けていた、ジェネシス・イーシーの営業本部長時代は、EC関連の講演などに登壇する機会が多かった。また、稲田哲也取締役は、バイク用品EC大手・リバークレインの創業メンバーだ。
コメント避ける
山田社長は本紙取材に対して「ウェブサイトにプレスリリースを公表したので参照してほしい。それ以上のコメントは難しい」などと述べた。同社役員3名の責任や、解雇された当該人物が、スクロール子会社の情報を持ち出したことに同社が関わっていたかどうかについても「先方が上場企業ということもあり、現時点では答えられない」と言うにとどめた。
なお、山田社長によれば、スクロール子会社から大都へ転職したのは、名前が挙がっているうちの1名だという。
ECソリューション企業がEC企業を刑事告訴するという異例の事態。ポイントはどこになるのか。ある弁護士は「まず、元従業員が当該情報を複製したり、当該情報を大都側に開示したりした事実があるかどうかが問題になる」と指摘した上で、「持ち出したとされる情報が、不競法上の営業秘密に該当するかどうかが争点になるだろう」とした。一般的には「作業原価や外注費情報等は、大都にとって競争上の有用性がある情報だといえるのではないか」とみる。
気になるのは、大都が目標とする株式上場への影響だ。この弁護士は「不正競争行為の存否はともかく、こうしたトラブルを招いた原因に社内体制の緩さがあったことは間違いないと思われるので、監査法人や証券会社が上場準備のための大都との契約を嫌がる可能性がある」と推測する。
スクロール 鶴見社長 「社会的相当性欠く」営業秘密の見解分かれる
11月5日に開催されたスクロールの中間決算説明会において、鶴見知久社長(=
写真)が大都を刑事告訴する件についてコメントした。(
質疑応答などでの本紙記者とのやりとりをまとめた)
――大都側は「犯罪行為を行った事実はない」と反論している。
「起こった事実は認めているが、得た情報は営業秘密ではないと主張している。当社は『これが営業秘密でなければ何が営業秘密なんだ』と考えているので、営業秘密の定義に関する争いになると思っている。両社に見解の相違が生じているので、今後の訴訟において粛々と主張していきたい」
「回転ずしチェーン大手がライバル企業の原価情報を不正に入手したことが大きな問題となったが、今回の件でも、転職に絡んで当社子会社の作業原価が持ち出されているわけだ。先方の『営業秘密だと思っていなかった』という主張に対しては、十分争う余地があると思う」
――実名を公表するなど、異例のプレスリリースに。
「当社では(大都らの行為は)社会的相当性を欠く行為だと認識している」
スクロールによれば、両子会社は大都から物流代行業務を請け負っており、スクロールロジスティクス社員だった土井美和氏と青木力穂氏は、大都に関連した物流業務に従事していた。
両氏は大都役員らの指示で、作業原価や外注費情報等が含まれた「原価予測」なるファイルと、大都が実際に引き抜きをした従業員(アルバイトスタッフ)を含む、引き抜き候補者26人の作業生産性や出勤率が含まれた「口説く人員数」というリストを作成し、原価情報や給与情報等の営業秘密情報を漏えいさせ、また、子会社の経営会議資料、スクロールロジスティクスが運営する「スクロールロジスティクスセンター関西1(SLC関西1)」のクライアントに対する物流サービスの損益情報等の営業秘密情報が記載されたファイルを違法に持ち出した。現在調査中だが、最大で9000余りのファイルを持ち出した形跡があるという。
また、両氏は16人の倉庫現場ベテランスタッフに対し、大都に転職するよう促す「引き抜き」を行っていたことが、残されていたデータから判明した。大都役員らは土井氏との間で、土井氏らが子会社に在職していた当時から、土井氏らと共謀して引き抜きを組織的に実行し、実際に16人を大都に転職させた。なお、大都では11月初旬に物流センターを移転している。
さらに土井氏らは、大都の移転先倉庫で物流業務を行うために使用することを前提に、盗み出す対象物をまとめた「必要備品リスト」という資料を作成。SLC関西1で使っているパレット、コピー機等のOA機器やコピー用紙、トナー等の備品を、取引先に対してスクロール名義で無断発注、倉庫内の「秘密の部屋」に隠した上で盗む計画を立てていた。
両子会社では、大都と大都役員、土井氏・青木氏を不正競争防止法(不競法)上の営業秘密侵害罪で告訴することを決めたほか、窃盗罪で告訴することも検討。さらに、子会社より持ち出された営業秘密情報の使用差し止め、営業秘密利用・引き抜きについての損害賠償請求をするために民事訴訟を行うことも決定した。
スクロールによれば、大都との取引は2018年からあるものの、こうした行為は直近半年間で行われており、大都の山内拓也取締役、山内智和取締役、稲田哲也取締役と、土井氏・青木氏がメールで営業秘密の持ち出しや従業員引き抜きについてやり取りしていたことも確認しているという。
スクロールでは「物流業務を委託から自社へと切り替えるため、物流倉庫内の営業秘密情報について、3氏が元社員2名を使って持ち出しをさせた」(経営企画課)とみており、大都に対して刑事告訴と民事訴訟に踏み切る形だ。
なお、スクロールでは「子会社の営業秘密情報は、違法に取得された営業秘密情報に該当するため、当該情報の開示を受けた場合は連絡してもらいたい」と呼びかけた上で、「当該情報を使用した場合は不競法に違反する可能性がある」と注意している。クライアントの営業秘密情報については流出していないという。
同社は「今回のプレスリリースは、大都役員や子会社元社員2名から、再度営業秘密が流出することを防ぐ目的もある」(同)と説明する。
大都が反論公表
一方、大都ではスクロールの発表を受けて同日、プレスリリースを公表、「犯罪行為を行った事実はなく、また、ビジネス倫理上問題のある点についてはすでに繰り返し謝罪を行っている」と釈明した。リリースによれば、10月17日にスクロール子会社代理人弁護士からの配達証明郵便があり、同日より社内調査を行ってきたという。
「社内情報の持ち出し」については、スクロール子会社を退職し、今年10月1日に大都へと転職した人物が、大都が過去に共同作業目的で提供したアカウントを、スクロール子会社の業務をするために日常的に使用していたこと、スクロール子会社退職後も当該アカウント内にスクロール子会社の情報を保管していたことを確認しているという。
大都では「これらの情報に関しては、不競法上の営業秘密ではないと考えている」とし、スクロールの言い分とは大きく食い違っている。ただ、「ビジネス倫理上問題がある」と判断し、当該人物を10月30日付で解雇。スクロール子会社に謝罪の上、当該情報の削除を行うべく、対応方法について協議する旨を申し入れている。
また、アルバイトの引き抜きに関しては「社内情報持ち出しの件もあり、当社からの積極的な勧誘はしないことにした」とするが、当該16名については、すでにスクロール子会社を退社し、大都への就職を積極的に希望したことから採用を決めたという。
「倉庫内の備品窃盗」に関しては、「そのような事実は把握しておらず、また、万が一何らかの問題があったとしても当社が関与した事実はない」とした。
ただ、スクロール側は「大都は違法に取得した当社子会社の営業秘密情報を使用して、物流業務とフルフィルメント受託業務(物流代行業務)を自社で行うことを目的とした倉庫の移転計画を立案し、実行している」とプレスリリースで指摘しているが、これに対する見解はなかった。
大都はDIYツールを販売する通販サイトを2002年から運営している。創業は1937年で、もともとは工具卸業だったが、2011年に3代目社長となった山田岳人氏により2002年にECへと進出して以降、順調に売り上げを拡大。「楽天市場」の優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」も何度も受賞している。
近年は、法人向け通販サイト「トラノテ」を開設し、BtoB通販にも進出。2023年12月期の売上高は前期比5・1%増の70億3000万円だった。昨年7月には楽天グループのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)である楽天キャピタルの出資を受けており、近い将来の上場を視野に入れている。
また山田氏は、楽天市場の有名店舗が講師となり、他の出店店舗にネット販売に関するノウハウを伝授する企画「NATIONS(ネーションズ)」でリーダー店舗を務めるほか、2022~23年にかけて開催された、DIY業界の関連企業や有識者、楽天の3者で、ECを中心としたテーマで議論する会合「DIYサミット」でも中心的役割を果たした。さらには、楽天市場出店店舗による任意団体「楽天市場出店者 友の会」立ち上げ時に音頭を取るなど、DIY業界やEC業界での知名度は非常に高い。
大都の山内拓也取締役、山内智和取締役は、アウトドア用品ECの草分け的存在となるナチュラム出身。山内拓也氏は、ナチュラム子会社でソリューション事業を手掛けていた、ジェネシス・イーシーの営業本部長時代は、EC関連の講演などに登壇する機会が多かった。また、稲田哲也取締役は、バイク用品EC大手・リバークレインの創業メンバーだ。
コメント避ける
山田社長は本紙取材に対して「ウェブサイトにプレスリリースを公表したので参照してほしい。それ以上のコメントは難しい」などと述べた。同社役員3名の責任や、解雇された当該人物が、スクロール子会社の情報を持ち出したことに同社が関わっていたかどうかについても「先方が上場企業ということもあり、現時点では答えられない」と言うにとどめた。
なお、山田社長によれば、スクロール子会社から大都へ転職したのは、名前が挙がっているうちの1名だという。
ECソリューション企業がEC企業を刑事告訴するという異例の事態。ポイントはどこになるのか。ある弁護士は「まず、元従業員が当該情報を複製したり、当該情報を大都側に開示したりした事実があるかどうかが問題になる」と指摘した上で、「持ち出したとされる情報が、不競法上の営業秘密に該当するかどうかが争点になるだろう」とした。一般的には「作業原価や外注費情報等は、大都にとって競争上の有用性がある情報だといえるのではないか」とみる。
気になるのは、大都が目標とする株式上場への影響だ。この弁護士は「不正競争行為の存否はともかく、こうしたトラブルを招いた原因に社内体制の緩さがあったことは間違いないと思われるので、監査法人や証券会社が上場準備のための大都との契約を嫌がる可能性がある」と推測する。
スクロール 鶴見社長 「社会的相当性欠く」営業秘密の見解分かれる
11月5日に開催されたスクロールの中間決算説明会において、鶴見知久社長(=写真)が大都を刑事告訴する件についてコメントした。(質疑応答などでの本紙記者とのやりとりをまとめた)
「起こった事実は認めているが、得た情報は営業秘密ではないと主張している。当社は『これが営業秘密でなければ何が営業秘密なんだ』と考えているので、営業秘密の定義に関する争いになると思っている。両社に見解の相違が生じているので、今後の訴訟において粛々と主張していきたい」
「回転ずしチェーン大手がライバル企業の原価情報を不正に入手したことが大きな問題となったが、今回の件でも、転職に絡んで当社子会社の作業原価が持ち出されているわけだ。先方の『営業秘密だと思っていなかった』という主張に対しては、十分争う余地があると思う」
――実名を公表するなど、異例のプレスリリースに。
「当社では(大都らの行為は)社会的相当性を欠く行為だと認識している」