健康食品の健康被害が社会を揺るがしている。小林製薬が製造・販売する「紅麹」原料で重篤な腎障害が発生し、入院は100人超、2人の死者が出ている。配合製品は機能性表示食品で、同制度での安全性問題は初めて。原因は紅麹ではなく、小林製薬の原料や製造過程の問題とみられる。事件は連日TV・新聞等で大きく報じられており、政府や一部の業界団体も対応を急ぐ。過去最大級の健康被害の発生を受け、市場の冷え込みや規制強化が懸念される。
小林製薬は、「紅麹】コレステヘルプ」(=
画像)など紅麹配合製品を通販や店頭で販売。3月22日、健康被害の発生を受けて5製品の販売中止と回収を発表した。
回収対象は、21年4月から今年2月に販売された累計106万個。年間約6億円を売り上げていた(23年実績)。売上構成は、店頭が約6割、通販が約3割。30万個の回収を想定し、回収費用は18億円を見込む。
健康被害は、昨年8~10月頃に販売された特定の原料ロットを含む製品で発生。むくみや尿の色が濃くなるなど腎疾患が発生し入院者数は106件(27日)に拡大した。
労災の経験則である「ハインリッヒの法則」では、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故があり、300件の異常があるとされる。これに倣えば、被害は数百人規模に上るとみられる。
原料も供給しており、供給先は52社。同社は、回収公表の前日に、消費者庁や保健所、一部の取引先等に報告。製品回収を要請したが、「紅麹」は同社原料だけでなく、豆腐ようや紹興酒、塩辛など広く食品や飲料に使用われ、着色目的の添加物として流通しており、影響が拡大した。
◇
小林製薬は、被害発生から、機能性表示食品の関与成分である「米紅麹ポリケチド」、有害成分である「シトリニン」の含有、異物混入、アレルギー反応などの問題を想定し検証。原因究明に時間がかかったと説明していおり、1月の症例報告から公表まで2カ月かかった。現時点で「特定の原料ロットに『未知の成分』が含まれることを確認した」とするが、原因は特定できていない。会見では、小林章浩社長が「公表に時間を要したことは申し訳ない。判断が遅いと言われればその通り」と謝罪。複数の大学と原因究明を継続し「未知の成分」と混入経路を調べるが、さらに2カ月かかるとする。
業界関係者は、「店頭の棚の欠品、原料代金の返金を申し出ても製品化した取引先は納得しない。社会的な風評もある」と業績への影響がさらに拡大するとみる。影響は原料供給先にも及ぶが、「契約の関係で開示できない」(同社)。今後の健康食品事業も「現時点で答えられない」(同)とする。紅麹製品は一旦販売を取りやめるが、「原因解明後、再販を検討」とする。
◇
原因について製造上の問題を指摘する声もある。原料は16年、沖縄で日本固有の紅麹の菌株を発見したグンゼから製造・販売事業を譲受した。品質管理の懸念に、小林製薬は「入室管理は徹底し、おそらく偶発的と思われる」とするか、グンゼから譲受した大阪の製造工場は、症例報告を受ける前の昨年12月のタイミングで閉鎖。1月にグループの梅丹本舗の和歌山の製造工場に設備を移設している。「菌の培養に習熟した従業員が従事していたのか分からない」との指摘もある。
◇
事件に関係者からは、「同じ医師、複数の連絡がありながら遅れたのは重大な過失。基礎疾病がなく、特定の医師から報告がきたのは強いシグナル。措置を取らないのは社会通念上もまずい」、「特定ロットの問題」などの指摘がある。
報告を受けた厚労省、消費者庁も大臣が「誠に遺憾」と表明。対応の遅れを批判する。
◇
行政も対応を急ぐが安全行政を担う厚生労働省、機能性表示食品制度を所管する消費者庁が障害となっている。
小林製薬は、すでに当該機能性表示食品の届出を撤回しているが消費者庁は26日、自見英子大臣が小林製薬の原料を含む機能性表示食品を販売する同社、ZEROPLUSの2社に安全性根拠の再検証を要請。すべての機能性表示食品(約7000件)の健康被害情報の確認を1500を超える届出者に求める。
厚労省の所管では、食品衛生法、「指定成分等含有食品」での対応が考えられる。
食衛法は、食中毒や異物混入を理由に製品の販売禁止(6条)を命じることができ、過去には、アマメシバ配合の健食に適用された。
指定成分等含有食品制度は食材単位の指定のため着色目的など微量の配合も規制され、食品全体に影響が及ぶ。区別するには、同制度で検討例がない”量”の概念を踏まえた検討が必要で時間がかかる。
品質管理の厳格化も課題がある。業界自主基準として運用される「健康食品GMP」は、対象が「錠剤・カプセル状」の食品。基準を厳格化しても一般食品に配合された紅麹原料は対象外だ。
厚労省は、健康被害の原因について「『小林製薬原料』であり、全ての紅麹ではない。その前提で保健所に対応を依頼している」(新開発食品保健対策室)。指定成分による対応は、「1事案だけで、(紅麹の)指定は難しい」。
食衛法は、「原因により手段が違い何を発動できるか検討中」とする。
食衛法には、健康に関わる被害発生を受け、特定の食品の販売の暫定禁止措置(7条)もある。執行例はないが、産地、工場などピンポイントで規制できる。
一部の業界団体も動き始めた。日本通信販売協会(JADMA)は18年に健康食品の健康被害をスクリーニング、集積する「体調変化対応マニュアル」を策定。会員外にもサイトで公表し、使用を推奨している。今回の事件に、「因果関係が明確でない段階でコメントは難しいが、紅麹全体が悪者のような報道は風評被害を招く」(万場専務)と懸念する。03年には、美白成分である「コウジ酸」配合の化粧品をめぐり、一時、厚労省が製造中止を指示したものの、後に安全性が確認された例がある。
今後、ファンケル、サントリーウエルネスなど大手で構成するサプリメント部会で対応を協議。事件の解説と再発防止のため、セミナーの実施も検討する。
健康食品産業協議会は「現時点でコメントできない」とするにとどめる。
消費者団体は、現状では静観だ。集団訴訟や差止請求の対象にならないためか、「意見表明、被害者対応をすることはない」(消費者支援機構関西)、「まだ組織で話題になっていない」(消費者機構日本)とする。
小林製薬事件を受け、同社と異なる紅麹原料を扱う企業にも問い合わせが殺到。「小林製薬のものではないと説明しても納得されない方が多く困っている」、「早く原因が解明されてほしい」、「小林製薬が未知の成分と言及したため、対応に苦慮している」などの声が寄せられている。
異なる紅麹原料を使うファンケルも紅麹を含む「コレステサポート」についてサイトで声明を掲載。小林製薬の原料を使用していないことを公表している。風評被害の発生を受け、健康食品業界全体が大きなマイナス影響を受けかねない。正確な情報発信と早期の事態収拾が必要だ。
原因「不明」も総点検<消費者庁の対応>
自見英子消費者担当相に機能性表示食品の健康被害総点検指示について聞いた。
ーー健康被害は、小林製薬が製造した特定の原料ロットが問題とみられている。原因をどう捉えているか。
「厚生労働省と連携しつつ調査中。現時点で特定の原因を言える段階にない」
ーー同社以外の紅麹原料に風評被害が出ている。これについてどう考えている。
「現在は情報収集する段階。当庁は紅麹ではなく、機能性表示食品制度を所管するので、総点検を指示した」
ーー紅麹は、一般食品にも使われている。機能性表示食品のみ点検するのは消費者も不安だ。
「小林製薬と密に連絡を取っている最中。原料供給先は52社と把握しているが、紅麹の添加物使用でも影響があるか等を情報収集している。情報を整理して消費者に伝えたい」
ーー制度の信頼が揺らいでいる点の受け止めは。
「安全性に疑念を抱かせる深刻な事案。製品との因果関係は確定していないが、総点検を踏まえ、制度全体の検証を行う必要がある」
ーー総点検の方法・期限は。
「詰めている。機能性表示食品は限定された方への処方ではなく、恒常的に、過剰に摂取するおそれがある。その意味で健康被害発生の影響も大きく、急速な拡大のおそれがある。健康被害情報の収集・評価、行政への報告体制の実施状況の提出を求める」(以下は会見後、消費者庁の依田学審議官(食品担当)への囲み取材で聞いた)
ーー機能性表示食品のみ総点検するのはおかしい。
「おかしくない。食品衛生法上の措置とヘルスクレームの制度は諸外国も別の切り口で行う。一般食品が大丈夫かは食衛法の範疇。制度上、異なるものと整理されている」
ーー総点検の根拠は。
「制度は安全性・機能性の根拠届出が要件。なければ要件を満たさないため食品表示法違反になる。このため安全性の根拠があるか確認している」
ーー紅麹全体ではなく小林製薬の原料の問題か。
「制度を所管する当庁として機能性関与成分その観点から調べている。原料の紅麹がどうかについて関心はない。それは厚労省が検討している」
ーー小林製薬の原料供給先は把握している。
「厚労省所管の保健所が確認中」
ーー消費者庁所掌の消費者安全法を使えば、供給先を把握でき、製品名の公表、注意喚起もできる。運用をどう考えている。
「同法は基本的に関係行政機関等の通知を受けて運用を判断する。厚労省に問い合わせをしているところ」
ーー両省庁の役割分担は。
「当庁の所管は機能性表示食品、表示制度上の適切性を確認している。食品安全・衛生は厚労省がみている」
ーー4月に食品基準行政が厚労省から消費者庁に移管する。事件の影響はないか。
「健康食品の被害情報は(移管する)基準審査課、食衛法の監視権限は引き続き厚労省の監視安全課が保健所を通じて行うが連携してやることになると思う。移管したら知らないということはない」
ーー会見で厳正な処分と言及した。
「安全性の根拠がなければ追及を念頭に置いていたが、会見直前に届出撤回を申し出た。再検証は依頼ベースで食表法に基づく指示ではない。撤回の意志は、根拠を挙証できない宣言と受け止めている」
原因究明で公表に遅れ<「紅麹」健康イメージで広がる>
「紅麹」は、日本で伝統的に食経験がある。健康食品のほか、色素として一般食品にも広く使われている。「紅麹」と表示することで”健康イメージ”や「添加物未使用」を訴求できるため広がった。
小林製薬が製造する紅麹は、有害成分とされる「シトリニン」を含まず、中国や台湾の紅麹と違う特徴があると学会発表している(20年)。「米紅麹ポリケチド(成分名・モナコリンK)」を含む機能性表示食品として販売していた。
米国では、「ロバスタチン」の成分名で医薬品に使用されている。一方、欧州では、「シトリニン」が腎疾患を引き起こすことから欧州食品安全機関(EFSA)が20年に規格基準を厳格化。サプリメントにおける「シトリニン」の残留基準を、従前の20分の1である1キログラムあたり2ミリグラムまで引き下げた。
ただ、紅麹に含まれるすべての成分が判明しているわけではない。小林製薬は、会見で分析により「振り返れば当時は、未知の成分が混入する想定はできていなかった」としたが、医薬品のような純品でない食品は、そもそも「未知の成分」が含まれている可能性が高い。
会見で従来行っていなかった多面的な分析で、「未知の成分」が判明したと説明。分析は機能性成分や有害成分を確認できる手法に焦点を当てがちだが、特定成分中心の分析で「未知の成分」の発見は遅れた。
「シトリニン」による腎疾患も知られていた。「予備能のある腎臓は症状がでにくい。むくみや尿の色が濃くなる自覚がある場合、症状が重い方が多い。原因究明前にまず販売を止める対応が必要だった」と、厚労省OBは対応の遅れを指摘する。
小林製薬は、「紅麹】コレステヘルプ」(=画像)など紅麹配合製品を通販や店頭で販売。3月22日、健康被害の発生を受けて5製品の販売中止と回収を発表した。
回収対象は、21年4月から今年2月に販売された累計106万個。年間約6億円を売り上げていた(23年実績)。売上構成は、店頭が約6割、通販が約3割。30万個の回収を想定し、回収費用は18億円を見込む。
健康被害は、昨年8~10月頃に販売された特定の原料ロットを含む製品で発生。むくみや尿の色が濃くなるなど腎疾患が発生し入院者数は106件(27日)に拡大した。
労災の経験則である「ハインリッヒの法則」では、1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故があり、300件の異常があるとされる。これに倣えば、被害は数百人規模に上るとみられる。
原料も供給しており、供給先は52社。同社は、回収公表の前日に、消費者庁や保健所、一部の取引先等に報告。製品回収を要請したが、「紅麹」は同社原料だけでなく、豆腐ようや紹興酒、塩辛など広く食品や飲料に使用われ、着色目的の添加物として流通しており、影響が拡大した。
◇
小林製薬は、被害発生から、機能性表示食品の関与成分である「米紅麹ポリケチド」、有害成分である「シトリニン」の含有、異物混入、アレルギー反応などの問題を想定し検証。原因究明に時間がかかったと説明していおり、1月の症例報告から公表まで2カ月かかった。現時点で「特定の原料ロットに『未知の成分』が含まれることを確認した」とするが、原因は特定できていない。会見では、小林章浩社長が「公表に時間を要したことは申し訳ない。判断が遅いと言われればその通り」と謝罪。複数の大学と原因究明を継続し「未知の成分」と混入経路を調べるが、さらに2カ月かかるとする。
業界関係者は、「店頭の棚の欠品、原料代金の返金を申し出ても製品化した取引先は納得しない。社会的な風評もある」と業績への影響がさらに拡大するとみる。影響は原料供給先にも及ぶが、「契約の関係で開示できない」(同社)。今後の健康食品事業も「現時点で答えられない」(同)とする。紅麹製品は一旦販売を取りやめるが、「原因解明後、再販を検討」とする。
◇
原因について製造上の問題を指摘する声もある。原料は16年、沖縄で日本固有の紅麹の菌株を発見したグンゼから製造・販売事業を譲受した。品質管理の懸念に、小林製薬は「入室管理は徹底し、おそらく偶発的と思われる」とするか、グンゼから譲受した大阪の製造工場は、症例報告を受ける前の昨年12月のタイミングで閉鎖。1月にグループの梅丹本舗の和歌山の製造工場に設備を移設している。「菌の培養に習熟した従業員が従事していたのか分からない」との指摘もある。
◇
事件に関係者からは、「同じ医師、複数の連絡がありながら遅れたのは重大な過失。基礎疾病がなく、特定の医師から報告がきたのは強いシグナル。措置を取らないのは社会通念上もまずい」、「特定ロットの問題」などの指摘がある。
報告を受けた厚労省、消費者庁も大臣が「誠に遺憾」と表明。対応の遅れを批判する。
◇
行政も対応を急ぐが安全行政を担う厚生労働省、機能性表示食品制度を所管する消費者庁が障害となっている。
小林製薬は、すでに当該機能性表示食品の届出を撤回しているが消費者庁は26日、自見英子大臣が小林製薬の原料を含む機能性表示食品を販売する同社、ZEROPLUSの2社に安全性根拠の再検証を要請。すべての機能性表示食品(約7000件)の健康被害情報の確認を1500を超える届出者に求める。
厚労省の所管では、食品衛生法、「指定成分等含有食品」での対応が考えられる。
食衛法は、食中毒や異物混入を理由に製品の販売禁止(6条)を命じることができ、過去には、アマメシバ配合の健食に適用された。
指定成分等含有食品制度は食材単位の指定のため着色目的など微量の配合も規制され、食品全体に影響が及ぶ。区別するには、同制度で検討例がない”量”の概念を踏まえた検討が必要で時間がかかる。
品質管理の厳格化も課題がある。業界自主基準として運用される「健康食品GMP」は、対象が「錠剤・カプセル状」の食品。基準を厳格化しても一般食品に配合された紅麹原料は対象外だ。
厚労省は、健康被害の原因について「『小林製薬原料』であり、全ての紅麹ではない。その前提で保健所に対応を依頼している」(新開発食品保健対策室)。指定成分による対応は、「1事案だけで、(紅麹の)指定は難しい」。
食衛法は、「原因により手段が違い何を発動できるか検討中」とする。
食衛法には、健康に関わる被害発生を受け、特定の食品の販売の暫定禁止措置(7条)もある。執行例はないが、産地、工場などピンポイントで規制できる。
一部の業界団体も動き始めた。日本通信販売協会(JADMA)は18年に健康食品の健康被害をスクリーニング、集積する「体調変化対応マニュアル」を策定。会員外にもサイトで公表し、使用を推奨している。今回の事件に、「因果関係が明確でない段階でコメントは難しいが、紅麹全体が悪者のような報道は風評被害を招く」(万場専務)と懸念する。03年には、美白成分である「コウジ酸」配合の化粧品をめぐり、一時、厚労省が製造中止を指示したものの、後に安全性が確認された例がある。
今後、ファンケル、サントリーウエルネスなど大手で構成するサプリメント部会で対応を協議。事件の解説と再発防止のため、セミナーの実施も検討する。
健康食品産業協議会は「現時点でコメントできない」とするにとどめる。
消費者団体は、現状では静観だ。集団訴訟や差止請求の対象にならないためか、「意見表明、被害者対応をすることはない」(消費者支援機構関西)、「まだ組織で話題になっていない」(消費者機構日本)とする。
小林製薬事件を受け、同社と異なる紅麹原料を扱う企業にも問い合わせが殺到。「小林製薬のものではないと説明しても納得されない方が多く困っている」、「早く原因が解明されてほしい」、「小林製薬が未知の成分と言及したため、対応に苦慮している」などの声が寄せられている。
異なる紅麹原料を使うファンケルも紅麹を含む「コレステサポート」についてサイトで声明を掲載。小林製薬の原料を使用していないことを公表している。風評被害の発生を受け、健康食品業界全体が大きなマイナス影響を受けかねない。正確な情報発信と早期の事態収拾が必要だ。
原因「不明」も総点検<消費者庁の対応>
自見英子消費者担当相に機能性表示食品の健康被害総点検指示について聞いた。
ーー健康被害は、小林製薬が製造した特定の原料ロットが問題とみられている。原因をどう捉えているか。
「厚生労働省と連携しつつ調査中。現時点で特定の原因を言える段階にない」
ーー同社以外の紅麹原料に風評被害が出ている。これについてどう考えている。
「現在は情報収集する段階。当庁は紅麹ではなく、機能性表示食品制度を所管するので、総点検を指示した」
ーー紅麹は、一般食品にも使われている。機能性表示食品のみ点検するのは消費者も不安だ。
「小林製薬と密に連絡を取っている最中。原料供給先は52社と把握しているが、紅麹の添加物使用でも影響があるか等を情報収集している。情報を整理して消費者に伝えたい」
ーー制度の信頼が揺らいでいる点の受け止めは。
「安全性に疑念を抱かせる深刻な事案。製品との因果関係は確定していないが、総点検を踏まえ、制度全体の検証を行う必要がある」
ーー総点検の方法・期限は。
「詰めている。機能性表示食品は限定された方への処方ではなく、恒常的に、過剰に摂取するおそれがある。その意味で健康被害発生の影響も大きく、急速な拡大のおそれがある。健康被害情報の収集・評価、行政への報告体制の実施状況の提出を求める」(以下は会見後、消費者庁の依田学審議官(食品担当)への囲み取材で聞いた)
ーー機能性表示食品のみ総点検するのはおかしい。
「おかしくない。食品衛生法上の措置とヘルスクレームの制度は諸外国も別の切り口で行う。一般食品が大丈夫かは食衛法の範疇。制度上、異なるものと整理されている」
ーー総点検の根拠は。
「制度は安全性・機能性の根拠届出が要件。なければ要件を満たさないため食品表示法違反になる。このため安全性の根拠があるか確認している」
ーー紅麹全体ではなく小林製薬の原料の問題か。
「制度を所管する当庁として機能性関与成分その観点から調べている。原料の紅麹がどうかについて関心はない。それは厚労省が検討している」
ーー小林製薬の原料供給先は把握している。
「厚労省所管の保健所が確認中」
ーー消費者庁所掌の消費者安全法を使えば、供給先を把握でき、製品名の公表、注意喚起もできる。運用をどう考えている。
「同法は基本的に関係行政機関等の通知を受けて運用を判断する。厚労省に問い合わせをしているところ」
ーー両省庁の役割分担は。
「当庁の所管は機能性表示食品、表示制度上の適切性を確認している。食品安全・衛生は厚労省がみている」
ーー4月に食品基準行政が厚労省から消費者庁に移管する。事件の影響はないか。
「健康食品の被害情報は(移管する)基準審査課、食衛法の監視権限は引き続き厚労省の監視安全課が保健所を通じて行うが連携してやることになると思う。移管したら知らないということはない」
ーー会見で厳正な処分と言及した。
「安全性の根拠がなければ追及を念頭に置いていたが、会見直前に届出撤回を申し出た。再検証は依頼ベースで食表法に基づく指示ではない。撤回の意志は、根拠を挙証できない宣言と受け止めている」
原因究明で公表に遅れ<「紅麹」健康イメージで広がる>
「紅麹」は、日本で伝統的に食経験がある。健康食品のほか、色素として一般食品にも広く使われている。「紅麹」と表示することで”健康イメージ”や「添加物未使用」を訴求できるため広がった。
小林製薬が製造する紅麹は、有害成分とされる「シトリニン」を含まず、中国や台湾の紅麹と違う特徴があると学会発表している(20年)。「米紅麹ポリケチド(成分名・モナコリンK)」を含む機能性表示食品として販売していた。
米国では、「ロバスタチン」の成分名で医薬品に使用されている。一方、欧州では、「シトリニン」が腎疾患を引き起こすことから欧州食品安全機関(EFSA)が20年に規格基準を厳格化。サプリメントにおける「シトリニン」の残留基準を、従前の20分の1である1キログラムあたり2ミリグラムまで引き下げた。
ただ、紅麹に含まれるすべての成分が判明しているわけではない。小林製薬は、会見で分析により「振り返れば当時は、未知の成分が混入する想定はできていなかった」としたが、医薬品のような純品でない食品は、そもそも「未知の成分」が含まれている可能性が高い。
会見で従来行っていなかった多面的な分析で、「未知の成分」が判明したと説明。分析は機能性成分や有害成分を確認できる手法に焦点を当てがちだが、特定成分中心の分析で「未知の成分」の発見は遅れた。
「シトリニン」による腎疾患も知られていた。「予備能のある腎臓は症状がでにくい。むくみや尿の色が濃くなる自覚がある場合、症状が重い方が多い。原因究明前にまず販売を止める対応が必要だった」と、厚労省OBは対応の遅れを指摘する。