【千趣会の大久保・鈴木両執行役員に聞く・ベルメゾン事業の強みと課題は?】マーケティング次第で戦える商品多い
2024年 1月 9日 11:50
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――ベルメゾン事業をふたつに分けた。
大久保「第1事業本部はインテリアとファッションという基幹ビジネスを管轄している。鈴木の第2事業本部はキャラクタービジネスやマタニティ、キッズ・ジュニア、シニア、マンスリー事業などさまざまだ。従来のベルメゾン事業本部は範囲が広く、現場との距離が遠くなっていたのが課題だった。私も鈴木も多くの現場を経験しているので、各スタッフと近い距離感で仕事ができている。執行役員として現場を理解し、日々の動きが分かった上で迅速な判断ができるようになった」
――担当領域の強みや課題は。
大久保「インテリアとファッションで共通して言えるのは、23年度は商品の展開数を絞って効率を高める方針だった。売り上げ上位の商品である程度の数字を確保できる想定でスタートしたが、商品数を絞り過ぎたし、絞る対象のアイテムにも課題が残った。ファッションもインテリアも、結果的には主力のAという商品が売れたとしても、BやCとも比較したいというお客様の選択肢を狭めてしまったと反省している」
「一方、デジタル広告を強化したことで、外部からお客様を呼び込めるベルメゾン商品の強みを再認識した。マーケティングなどを行う機能子会社のセンシュカイメイクコーと連携し、家具や機能性インナーなどの広告表現を高めることができ、新規顧客の獲得につながった」
鈴木「アパレルやインテリアの国内市場は大きいが、第2事業本部はマーケット規模が大きくないビジネスユニットが集まっている。各ビジネスユニットで明確にターゲットが絞り込まれていて、コミュニケーションの仕方を間違えると売り上げがなくなってしまいかねない。お客様がいま求める商品を、正確に訴求する必要がある。23年度はデジタルシフトの中で一定の成果と課題が見えたが、商品と訴求方法を誤ってはいけないと感じた」
――具体的には。
鈴木「例えば、インテリアは20代~70代くらいまでが顧客になり得るが、ジュニアファッションを買う世代はほぼ決まっているため、カタログからデジタルにシフトするという方法論ではなく、ターゲット層がどういう風に買い物をするのかを考えないといけない。ベルメゾンの全体戦略と第2事業本部が管轄する各ビジネスユニットのあり方、目指すべき姿は必ずしも同じではない」
――実際の顧客行動はどうか。
鈴木「ジュニア世代は10歳~13歳くらい、母親は40歳~45歳くらいが中心でECリテラシーは高く、デジタルシフトが有効と想像しがちだが、実際には母親が先にカタログを見て良さそうな服をチェックし、子どもと一緒に商品を決めるといった具合で、カタログが親子のコミュニケーションツールにもなっている。ECリテラシーがあるかどうかよりも、どうやって商品を選んでいるかを見誤ると売り上げを大きく落とす怖さがある。各ビジネスユニットでそういうきめ細やかさが必要だ」
――アンケートなどで実態を知るのか。
鈴木「第1も第2事業本部も取り組んでいて、オンラインで1対1のデプスインタビューを頻繁に実施している」
――実店舗での買い物がまだまだ多い中で、カタログとECチャネルを持つ強みは。
大久保「商品をECの詳細ページで見るのと、誌面などの企画で見るのはまったく違う。カタログを配布してすぐに反応するお客様は企画の中で『いいな』と思って購入している。23年秋冬シーズンは11月前半まで暖かかったが、カタログ顧客が早々に購入を決めたニットなどは企画の切り口が刺さったところが大きい。画像の掲載枚数が多いECチャネルであっても、当社が提案したい企画を伝えきれないことがある。カタログは当社の大事な資産になっている」
――コロナ禍を経て通販市場はどうなる。
大久保「まず、アパレルなどの実店舗もリアルだけでなくECとのハイブリッド型になっている。リアルで買う楽しみはあるが、コロナ禍で消費者は通販利用に慣れた。通販は実店舗とどう戦うかではなく、ECを強化しているアパレル企業とどう戦うかが大事で、主戦場はECになる」
「そこで大事になるのが接客だ。アパレル企業は店舗スタッフがコーディネートなどを組み、SNSなども使って上手に発信している。コロナ禍で通販利用のハードルが下がった分、当社にとっての競合も増えた。接客方法として、従来のカタログ誌面だけでなくデジタル上でも高める必要がある。家具なども同じで、商品スペックを伝えるだけでは不十分だ」
――EC利用者が増える中、新規ユーザーの満足度も上げていく必要がある。
大久保「低いレビューの投稿に対してどういうアクションをとるかを重視していて、そこは他社と比べてていねいに対応していると思う。担当バイヤーや品質管理担当が毎朝レビューをチェックし、レビューの内容によっては商品を手元に取り寄せて検証している」
鈴木「23年はコロナが第5類に移行し、実店舗がこれまでの分を取り返している状況で、通販企業は苦戦しているところも多い。消費者はリテラシーを含めてどのチャネルでも買い物ができるようになっていることを考えると、単純に面白いモノやコトを発信することにこだわるしかない」
「毎年、商品開発にこだわっているキャラクターおせちなどが良い例で、今回のおせち商戦では『トムとジェリー』のおせちが販売日当日に完売した。久しぶりにプレス発表会を開催するなどプロモーションも実施したが、ベルメゾンで取り扱う商品はオリジナルが多いので、オリジナル商品の価値を知ってもらうことが大切だ」
「『トムとジェリー』のおせちだけでなく、キャラクターおせちは前年に比べて品ぞろえは減らしたが、1商品当たりの販売数は増えた。材料代の高騰を受けて値上げせざるを得なかったが、影響はなかった。」
――商品数を削減しているが、品ぞろえの方向性は。
大久保「23年度の上期は元々計画していた商品削減幅よりも減ってしまった。自然減に加えて、業績が厳しかったこともあって追加発注する際にロット数が見合わないことでやめざるを得ない商品もあった。10~12月期には当初の計画値に戻した。品ぞろえには売れ筋だけでなく見せ筋も必要で、その精査をしている。例えば、カーテンの売れ筋は無地が多いが、さまざまなデザインを比較検討した上で無地が選ばれているのであって、PV数が高い商品までやめてしまうのは違う」
「あとは、外部サイトに広告を出稿する際も、シンプルで特徴が分かりづらい商品ではなく、他社との差別化につながる商品を打ち出すことも必要だ」
鈴木「そもそも、商品型数を減らす理由として、サイト内のカテゴリーから目当ての商品群をクリックしたときに、商品リストが多過ぎて後半の商品は見られてもいないという状況があった。お客様にちゃんと商品を見てもらうための品ぞろえの最適化が大事だという発想に立ち返って商品数を精査していく」
――カタログの制作や配布部数などは。
大久保「配布方法については見直している。23年秋冬号からDMやメールを含めてアプローチをするときに、お客様単位でどのようなアプローチが必要なのかを顧客データに基づいてフィットさせることに取り組んでいる」
「24年度は、カタログが大好きなお客様を軸にしたカタログ誌面づくりを行いたい。配布冊数や部数の削減は効率化の観点で実施しているが、カタログが好きなお客様に響く企画や品ぞろえについて、MDの再構築に取り組んでいる」
――カタログ好きなユーザーとは。
大久保「会員ステージ上位ランクのお客様には、カタログは響いている。また、ネットからの注文ではなく、カタログを見て電話やハガキ、FAXで注文しているお客様が一定数おり、このお客様はカタログ依存度が高いと言える。23年秋に上位顧客向けのカタログを発行したが、ワンピースとスカート、パンツのそれぞれでプリント柄を提案した。ネット上では埋もれてしまうアイテムであっても、誌面では映えて素敵だと感じてもらえる商品がある。ネットでは探しきれない商品はカタログなどの紙媒体で打ち出すといったMDの再構築を進めている」
――第2事業本部のカタログ活用については。
鈴木「シニア層には紙媒体がもちろん必要だ。マタニティ・ベビー領域はこれまでカタログを中心に接点を持ってきたが、会員数が減っている。当該領域は出産から子どもが2歳になるまでの4年ごとにお客様が入れ替わるため、外部のオープン市場に出ていき会員を獲得する必要がある。妊娠中の女性は年間約150万人で、当該層に向けてデジタルで広告を配信したらマタニティパジャマが前年の1・5倍以上売れたので、そういう攻め方が有効だ」
「ブランドを想起してもらうためのカテゴリーエントリーポイントとしては、カタログの方がお客様の脳に残る。EC上は一期一会のお付き合いが多く、ひとつの商品が爆発的に売れることもあるが、『ベルメゾン』で買い物をしようと思ってもらうきっかけとなるのはカタログで、カタログが家に置いてある、新しいカタログが届くことでブランド想起につながっている」
――顧客との関係強化策は。
大久保「本部制になった中で、ベルメゾン事業は第1、第2だけでなく、カスタマーエンゲージメント本部も設置した。当該本部はわれわれと連携して、お客様への接客品質を高めている。例えば、誕生日メールはどの企業も配信していると思うが、当社はお客様が入会された『入会記念日』にもメールを送るなど、きめ細やかな接客を心がけている」
――足元で強化していることは。
大久保「52週のMDスケジュールが昨今の異常気象や値上げなどの影響を大きく受けている。さまざまな変化をいち早くキャッチし、臨機応変に対応していく。また、広告展開も含めて商品ありきの取り組みが多かったので、今秋冬シーズンからはDMやネット上の売り場を含めて企画の切り口を強めている」
鈴木「オウンドメディアとペイドメディア、アーンドメディアというトリプルメディアを戦略的に組み立てていく。それぞれのPDCAは回せているが、連動させた取り組みが不十分で、キャラクターおせちが完売したのは、トリプルメディアの組み立てがうまくいった例だと思う。これまでSNSに苦手意識を持っていたので、もっと成功体験を積み上げていきたい」