高島屋は、EC事業部に専任バイヤーを配置したことでEC限定商材の開発などを強化しており、ギフト依存からの脱却を図るとともに、コスメなどを候補に「高島屋オンラインストア」とは別の独自サイト開設を視野に入れる。カタログ通販ではAI活用による配本の最適化や百貨店組織顧客に通販利用を促すアプローチ施策などを強化するほか、新たな販売チャネルの開拓を推進する。高島屋の現状と通販戦略を見ていく。
高島屋の2023年2月期におけるネットビジネスの売上高は約319億円、カタログを軸としたクロスメディア事業部の売上高は約221億円で、どちらも前年比微減とやや苦戦した。 ECチャネルについては、コロナ1年目の21年2月期は巣ごもり需要によって消費者のネットシフトが進み、高島屋のネットビジネスも売上高が前年比約60%増と大きく伸びたものの、前々期、前期とほぼ横ばいで推移した。 同社はコロナ1年目の貯金によってEC市場全体の伸びよりもコロナ前比で成長しているが、ギフト需要中心のネットビジネスから次の一歩が踏み出し切れていない点が課題だった。
そこで、とくに自家需要の開拓を強化する目的もあって、昨年下期には横浜市内の同社物流センターの1フロアをEC専用に改修するとともに、EC事業部に仕入れ機能を持たせた。
これまでは高島屋の各店とクロスメディア事業部に仕入れ機能があり、EC事業部はサイト運営部隊の位置づけだったが、クロスメディア事業部からEC展開商材のバイヤーごとEC事業部に移管することで、EC商材の仕入れノウハウを高めるとともに、効率化を図る狙いだ。
まずはコスメからスタートし、今上期にはリビング商材、食料品も移管した。従来、コスメについては「高島屋オンラインストア」で注文を受けると横浜店と大阪店の店頭在庫を発送していたが、EC用の在庫を確保することで、店頭の在庫状況や忙しさなどに左右されない販売・出荷体制を整えた。
先行して取り組んでいるコスメのEC売上高は、今期に入ってから前年比35%増程度で推移するなど、他の商材と比べて突出して好調という。
EC専用倉庫については現状、コスメアイテムがメインで、食料品は産直が多く、リビング商材もメーカーから直送するケースが比較的主流のようだ。
コスメ専用のサイト開設へ
自家需要の開拓に向けてターゲット領域はさまざまだが、ナチュラルコスメやアウトドア用品、ライフスタイル雑貨などのブランドを中心に、EC限定で販売するアイテムを拡充していく。
同社によると、ネットビジネスの拡大にはこれまで売り上げをけん引してきたギフト商材の存在は欠かせないものの、自家需要のアイテムを購入している顧客の方が買い上げの単価と頻度が高い傾向にあることからも、自家需要にマッチした商材を増やしていく。
コスメは昨年から取り組んでいる成果が出ているが、次の取り組みとしては、「高島屋オンラインストア」の購買フローはギフト商材に最適化されているため、自家需要アイテムの購入時には買いにくさを感じるユーザーもいることから、ファッションやコスメなどのカテゴリーは「高島屋オンラインストア」から切り出して、独自サイトを構築する考え。
以前からファッション商材は連結子会社のセレクトスクエアが運営する「タカシマヤファッションスクエア」を中心に販売している。ただ、「高島屋オンラインストア」内にもレディース・メンズアイテムの取り扱いがあるなど十分に整理されておらず、レディースアイテムだけで約20万SKUを展開している「タカシマヤファッションスクエア」に送客し切れていないことが課題だ。
一方、「高島屋オンラインストア」と「タカシマヤファッションスクエア」の会員IDを統合しているほか、昨年12月には高島屋のクレジットカードに貯まったタカシマヤポイントも利用できるようにするなど、買い物をしやすい環境は整えてきた。
今年の9月上旬からは「タカシマヤファッションスクエア」で取り扱うレディース・メンズのパンツを購入した会員を対象に、裾丈詰めに対応。お直し済みの商品を自宅で受け取るか、高島屋の5店舗(日本橋、新宿、横浜、大阪、京都)で試着してから裾上げを依頼できるようにした。
「タカシマヤファッションスクエア」の取り扱いブランドは競合のECモールと比べて商品単価が高いことから、同じ土俵で戦うのではなく、付加価値戦略の一環としてお直しに対応することでサービス力を高めるのと同時に、スーツなど取り扱いアイテムの拡充につなげる。
ミーツストアのECを移管
中期的には、既存顧客の維持・育成施策を強化するほか、実店舗顧客へのアプローチを増やす。前者については、ロイヤリティプログラムを整備するとともに、クーポン施策などの武器を持つことも検討、開発していく。
後者については、高島屋の店頭顧客は800万人~1000万人程度と推計されるが、ECのアクティブユーザー数は年間110万人で、1割強しかECを利用していない。
残りの9割弱の顧客にECを利用してもらうには、「店頭でのお買い物時にECとのタッチポイントを作ることがカギになる」(北條佑生EC事業部長)とした上で、「スマホを使った方が便利な状態や、一度でもオンラインストアを開くことがより便利になる環境を作ることが大事で、例えばアプリの機能拡張や、来店せずに決済できる機能なども検討課題になってくる」(同)という。
なお、高島屋の新宿店と京都店(SC)で展開している、ビューティーやライフスタイル、フード、ファッションなどの商品をセレクトしたショールーミングストア「ミーツストア」の通販サイトについては、発信力の強化とユーザーの利便性向上を目指して今年7月上旬に「高島屋オンラインストア」に移管。同サイト内で「ミーツストア」のコーナーを新設するなど連携を深めている。
自社媒体以外にも売場拡充
クロスメディア事業部については、昨年5月くらいから本格的に人流が回復して以降、売り上げの核となるカタログを中心に、コロナ禍で好調だった食料品、リビングといった自宅内での需要が弱含みに転じた。加えて、用紙代・印刷費の高騰でカタログの配布部数を少し絞ったことも売上高が前年を上回らなかった要因だ。
一方で、カタログの配本時にはAIを活用し、購入率が高いと予測されるユーザーに各カタログを届ける取り組みで一定の成果が出ているほか、大型商戦としては、おせちが前年を上回るなど好調を維持している。おせちはリピーターが増えているのに加え、新規客の開拓にも成功している。
また、昨年秋には通販限定商材として、サイズバリエーションが豊富で税込1万2980円という手ごろな価格のコートを販売。通販カタログや新聞広告、タカシマヤ友の会会員向けの会報誌「ハミングタイム」など各種媒体で展開したほか、テレビ番組で取り上げられたこともあって注目を集め、カタログとECの両チャネルで売れ筋となった。
今期は、主要通販カタログの発行頻度、1冊当たりのページ数、発刊時期については変更の予定はない。発行部数は削減を検討するものの、AI活用による配本最適化を今下期から本格的に実施しており、部数を減らしても購買率向上で売り上げを維持できるようにする。
新規客の開拓面では、引き続き新聞広告を活用。全国紙と百貨店がない地域の地方紙で牛丼の具や鰻といった食料品、オリジナルのファッションブランド「タカシマヤスタイル・プリュ」などで新規購入者を獲得し、DMで定着化を図る施策の精度を高める。
加えて、販売チャネルの開拓も進めており、昨年下期からは生協のチラシに「スタイル・プリュ」の商品を掲載する取り組みを始めたほか、今年は「楽天市場」に出店して10月上旬から約15種類のおせちの予約販売を本格化している。また、高島屋の法人事業部と連携して京都市のふるさと納税の対象商品を展開するなど、自社のカタログ以外にも売り場を広げている。
メンズ向けの衣料品を強化
高島屋のカード会員や友の会会員といった組織顧客に対しては、AIを活用して通販と親和性がありそうな買い物をしている顧客を選定し、通販利用を促すDMを送る取り組みも始めている。また、高島屋のクレジットカード会員限定で有名店のフルーツや惣菜など食料品の頒布会を提案して売り上げにつなげているようで、10月下旬の頒布会企画を展開する際は、カード会員だけでなく、プラチナデビットカード会員にも対象を広げた。
好調の独自ファッションブランド「スタイル・プリュ」は、8月下旬にメンズカタログをリニューアル創刊した。
同社によると、男性顧客から「どんな場面で、どういう風に着こなせばいいか分からない」といった声や、通販カタログを展開する百貨店が高島屋だけとなる中、「メンズファッションの品ぞろえを増やしてほしい」といった声が多かったこともあり、メンズを強化することになった。
当該ブランドは”次のシニア世代”を獲得するために通販でメインの単品訴求型とは一線を画した。メンズのカタログ化に合わせて展開商品数も増やし、スタイリングで提案しやすくした。
メンズカタログは半期に4回展開する計画で、通販会員向けだけでなく、友の会向け会報誌にも同封した結果、出足は順調という。
なお、「スタイル・プリュ」は高島屋大宮店に実店舗を構えているが、今上期には横浜エリアの顧客から試着をしたいという声が多かったことから、横浜店でポップアップをレディースで2回、メンズで1回実施。9月にもメンズのポップアップを開催した。
高島屋の2023年2月期におけるネットビジネスの売上高は約319億円、カタログを軸としたクロスメディア事業部の売上高は約221億円で、どちらも前年比微減とやや苦戦した。 ECチャネルについては、コロナ1年目の21年2月期は巣ごもり需要によって消費者のネットシフトが進み、高島屋のネットビジネスも売上高が前年比約60%増と大きく伸びたものの、前々期、前期とほぼ横ばいで推移した。 同社はコロナ1年目の貯金によってEC市場全体の伸びよりもコロナ前比で成長しているが、ギフト需要中心のネットビジネスから次の一歩が踏み出し切れていない点が課題だった。
そこで、とくに自家需要の開拓を強化する目的もあって、昨年下期には横浜市内の同社物流センターの1フロアをEC専用に改修するとともに、EC事業部に仕入れ機能を持たせた。
これまでは高島屋の各店とクロスメディア事業部に仕入れ機能があり、EC事業部はサイト運営部隊の位置づけだったが、クロスメディア事業部からEC展開商材のバイヤーごとEC事業部に移管することで、EC商材の仕入れノウハウを高めるとともに、効率化を図る狙いだ。
まずはコスメからスタートし、今上期にはリビング商材、食料品も移管した。従来、コスメについては「高島屋オンラインストア」で注文を受けると横浜店と大阪店の店頭在庫を発送していたが、EC用の在庫を確保することで、店頭の在庫状況や忙しさなどに左右されない販売・出荷体制を整えた。
先行して取り組んでいるコスメのEC売上高は、今期に入ってから前年比35%増程度で推移するなど、他の商材と比べて突出して好調という。
EC専用倉庫については現状、コスメアイテムがメインで、食料品は産直が多く、リビング商材もメーカーから直送するケースが比較的主流のようだ。
コスメ専用のサイト開設へ
自家需要の開拓に向けてターゲット領域はさまざまだが、ナチュラルコスメやアウトドア用品、ライフスタイル雑貨などのブランドを中心に、EC限定で販売するアイテムを拡充していく。
同社によると、ネットビジネスの拡大にはこれまで売り上げをけん引してきたギフト商材の存在は欠かせないものの、自家需要のアイテムを購入している顧客の方が買い上げの単価と頻度が高い傾向にあることからも、自家需要にマッチした商材を増やしていく。
コスメは昨年から取り組んでいる成果が出ているが、次の取り組みとしては、「高島屋オンラインストア」の購買フローはギフト商材に最適化されているため、自家需要アイテムの購入時には買いにくさを感じるユーザーもいることから、ファッションやコスメなどのカテゴリーは「高島屋オンラインストア」から切り出して、独自サイトを構築する考え。
以前からファッション商材は連結子会社のセレクトスクエアが運営する「タカシマヤファッションスクエア」を中心に販売している。ただ、「高島屋オンラインストア」内にもレディース・メンズアイテムの取り扱いがあるなど十分に整理されておらず、レディースアイテムだけで約20万SKUを展開している「タカシマヤファッションスクエア」に送客し切れていないことが課題だ。
一方、「高島屋オンラインストア」と「タカシマヤファッションスクエア」の会員IDを統合しているほか、昨年12月には高島屋のクレジットカードに貯まったタカシマヤポイントも利用できるようにするなど、買い物をしやすい環境は整えてきた。
今年の9月上旬からは「タカシマヤファッションスクエア」で取り扱うレディース・メンズのパンツを購入した会員を対象に、裾丈詰めに対応。お直し済みの商品を自宅で受け取るか、高島屋の5店舗(日本橋、新宿、横浜、大阪、京都)で試着してから裾上げを依頼できるようにした。
「タカシマヤファッションスクエア」の取り扱いブランドは競合のECモールと比べて商品単価が高いことから、同じ土俵で戦うのではなく、付加価値戦略の一環としてお直しに対応することでサービス力を高めるのと同時に、スーツなど取り扱いアイテムの拡充につなげる。
ミーツストアのECを移管
中期的には、既存顧客の維持・育成施策を強化するほか、実店舗顧客へのアプローチを増やす。前者については、ロイヤリティプログラムを整備するとともに、クーポン施策などの武器を持つことも検討、開発していく。
後者については、高島屋の店頭顧客は800万人~1000万人程度と推計されるが、ECのアクティブユーザー数は年間110万人で、1割強しかECを利用していない。
残りの9割弱の顧客にECを利用してもらうには、「店頭でのお買い物時にECとのタッチポイントを作ることがカギになる」(北條佑生EC事業部長)とした上で、「スマホを使った方が便利な状態や、一度でもオンラインストアを開くことがより便利になる環境を作ることが大事で、例えばアプリの機能拡張や、来店せずに決済できる機能なども検討課題になってくる」(同)という。
なお、高島屋の新宿店と京都店(SC)で展開している、ビューティーやライフスタイル、フード、ファッションなどの商品をセレクトしたショールーミングストア「ミーツストア」の通販サイトについては、発信力の強化とユーザーの利便性向上を目指して今年7月上旬に「高島屋オンラインストア」に移管。同サイト内で「ミーツストア」のコーナーを新設するなど連携を深めている。
自社媒体以外にも売場拡充
クロスメディア事業部については、昨年5月くらいから本格的に人流が回復して以降、売り上げの核となるカタログを中心に、コロナ禍で好調だった食料品、リビングといった自宅内での需要が弱含みに転じた。加えて、用紙代・印刷費の高騰でカタログの配布部数を少し絞ったことも売上高が前年を上回らなかった要因だ。
一方で、カタログの配本時にはAIを活用し、購入率が高いと予測されるユーザーに各カタログを届ける取り組みで一定の成果が出ているほか、大型商戦としては、おせちが前年を上回るなど好調を維持している。おせちはリピーターが増えているのに加え、新規客の開拓にも成功している。
また、昨年秋には通販限定商材として、サイズバリエーションが豊富で税込1万2980円という手ごろな価格のコートを販売。通販カタログや新聞広告、タカシマヤ友の会会員向けの会報誌「ハミングタイム」など各種媒体で展開したほか、テレビ番組で取り上げられたこともあって注目を集め、カタログとECの両チャネルで売れ筋となった。
今期は、主要通販カタログの発行頻度、1冊当たりのページ数、発刊時期については変更の予定はない。発行部数は削減を検討するものの、AI活用による配本最適化を今下期から本格的に実施しており、部数を減らしても購買率向上で売り上げを維持できるようにする。
新規客の開拓面では、引き続き新聞広告を活用。全国紙と百貨店がない地域の地方紙で牛丼の具や鰻といった食料品、オリジナルのファッションブランド「タカシマヤスタイル・プリュ」などで新規購入者を獲得し、DMで定着化を図る施策の精度を高める。
加えて、販売チャネルの開拓も進めており、昨年下期からは生協のチラシに「スタイル・プリュ」の商品を掲載する取り組みを始めたほか、今年は「楽天市場」に出店して10月上旬から約15種類のおせちの予約販売を本格化している。また、高島屋の法人事業部と連携して京都市のふるさと納税の対象商品を展開するなど、自社のカタログ以外にも売り場を広げている。
メンズ向けの衣料品を強化
高島屋のカード会員や友の会会員といった組織顧客に対しては、AIを活用して通販と親和性がありそうな買い物をしている顧客を選定し、通販利用を促すDMを送る取り組みも始めている。また、高島屋のクレジットカード会員限定で有名店のフルーツや惣菜など食料品の頒布会を提案して売り上げにつなげているようで、10月下旬の頒布会企画を展開する際は、カード会員だけでなく、プラチナデビットカード会員にも対象を広げた。
好調の独自ファッションブランド「スタイル・プリュ」は、8月下旬にメンズカタログをリニューアル創刊した。
同社によると、男性顧客から「どんな場面で、どういう風に着こなせばいいか分からない」といった声や、通販カタログを展開する百貨店が高島屋だけとなる中、「メンズファッションの品ぞろえを増やしてほしい」といった声が多かったこともあり、メンズを強化することになった。
当該ブランドは”次のシニア世代”を獲得するために通販でメインの単品訴求型とは一線を画した。メンズのカタログ化に合わせて展開商品数も増やし、スタイリングで提案しやすくした。
メンズカタログは半期に4回展開する計画で、通販会員向けだけでなく、友の会向け会報誌にも同封した結果、出足は順調という。
なお、「スタイル・プリュ」は高島屋大宮店に実店舗を構えているが、今上期には横浜エリアの顧客から試着をしたいという声が多かったことから、横浜店でポップアップをレディースで2回、メンズで1回実施。9月にもメンズのポップアップを開催した。