ハルメクの通販事業が好調だ。顧客の実態とニーズを徹底的に理解した上で、シニアの悩みを解消したり、暮らしを良くしたりする商品の開発力に強みを持つ。雑誌「ハルメク」読者へのカタログ送付に加え、新聞広告やECなどで雑誌を購読していない層の開拓にも取り組んでいる。2023年3月期における同社通販事業の売上高は前年比12・2%増の144億6500万円を見込んでいる。シニア向け通販で存在感が増しているハルメクの取り組みを見ていく。
ハルメクの通販事業は、食品や健食、インナー、ヘルスケア商品などを掲載する通販カタログ「ハルメク 健康と暮らし」と、ファッションやコスメを扱う「ハルメク おしゃれ」を展開し、公式通販サイトも運営している。
メインの通販カタログを制作するのに当たって同社が大事にしているのは、「お客様の実態とニーズを理解すること。分かったふりをせず、思い込みで作らないことを徹底している」(金山博通販本部長)という。
顧客を理解するために、同社ではグループのシンクタンクの調査や顧客からのハガキ、コールセンター、グループインタビューなどを活用するほか、読者が誌面に登場することもあるため、撮影の合間などに話を聞かせてもらっている。
コールセンターに届く利用者の意見や、返品用のハガキも含めて、商品やサービスに関する意見はすべて文章化し、1件ずつ答えを出していくことで、スタッフのマインドをそろえている。
通販の商品開発や誌面作りの前にまずは顧客の意見を聞き、シニア女性の実態を理解してから企画を立てる。商品を作る際も、発売する前に試作モニターを徹底。コスメなどは100~200人規模で実施する。
販売後も商品にハガキを入れて顧客満足度調査を行い、意見をもらったら品質改良する。売って終わりではなく、さまざまな段階で顧客の声を聞き、商品の精度向上に努めている。
ハルメクは女性スタッフが多いため、顧客は母親、自分はその娘という感覚で仕事をしているようで、顧客のことを大事に思いながら商品やサービスを磨き、叱られたら素直に謝って改良を重ねることを重視している。
品質の向上が離脱防止策に
同社の場合、品ぞろえで勝負するのではなく、提案する商品によってシニアの暮らしがどう良くなるのか、顧客が「使ってみたい!」と思えるような提案を心がけているという。
7つの商品カテゴリーを持つが、カテゴリーごとに編集と商品開発の担当者がおり、そのコミュニケーションの深さと一体感で生み出す「商品×情報」が通販事業の強みだ。
また、「商品やサービスの品質がお客様の離脱を防止する一番の方法」(金山本部長)とし、品質管理に関しては週1回、「クレームゼロ」という会議を実施。社長や幹部が集まり、1週間に届いた商品やサービスに対する顧客の意見を1件ずつ協議し、どういう対応を取って、それが十分だったかを精査する。
品質については取引先や検品所の評価も行う。クレームが発生したときは必ず評価してランク付けを行う。ただ、ランクが低いから取り引きをやめるわけではなく、なぜクレームが発生するようなことになったのか、ハルメクの品質に対する姿勢に共感してくれているのかを確認。共感、共有してくれる取引先とは一緒に作り直す。
検品は生産工場と指定検品所とで2回検品を行うが、工場の検品で出てきた不良の情報を必ず指定検品所に伝えるようにしている。そうすることで、発生しやすい不良の部分が見え、通常の検品時よりも精度が上がる。
価値を高めて値上げを実施
日用品や食料品、光熱費といった値上げラッシュで消費者の生活防衛意識が高まる中、ハルメクの通販でも今年1月に節約企画を展開した。
一方で、シニア女性に話を聞くと、コスパの良い商品、お得感のある商品が欲しいと答えるものの、実売になると必ずしもそうではないようだ。
「お得なもの、安いもので失敗するよりも、良い商品を長く使うという”賢い消費”にシニア層は移っていると感じる」(金山本部長)とした上で、「『値上げ=悪』という公式はやめたい。『価値=価格』だと思っている。価値を磨き、お客様のニーズにフィットするものを作って提案するという方向にシフトしている」(同)という。
単純な値上げではなく、「価値=価格」の観点から既存商品を作り変え、機能性などを高め、価格を上げて再提案する。
ハルメクでは今年1月から徐々に値上げを実施。事前に値上げ時期を知らせていたことから、昨年12月は駆け込み需要もあって売り上げが急伸し、とくに定番品などがよく売れた。その反動で、今年1~2月は購買意欲が低下したが、徐々に回復してくると見ている。
他社との連携やコラボ強化
カタログ誌面についても、価値提案の取り組みに合わせて、今年1月発売の2月号から巻頭部分でハルメクが考える理想の暮らしとして「ものは少なく、暮らしは豊かに」というフレーズを掲げた。
同社が商品を厳選し、もっともいいモノだけを提案する。世の中にぴったりなモノがなければ同社が作るという。
ファッションカテゴリーでは、顧客130人以上の体型を3D機器で計測し、作成した50代以上のリアルな体型のトルソーでサイズを決定。JIS規格に則ったサイズを基準にするのが一般的だが、同社ではシニア女性に合うサイズを設定し、そのトルソーで作ったコットンプルオーバーなどが定番服として人気だ。
また、約200人の計測結果からO体型とA体型の体型別ストレッチパンツを開発して好評を得ている。
今後は、「『ものは少なく、暮らしは豊かに』を体現できるよう、商品の販売だけでなく、サービスも開発していきたい」(金山本部長)とする。
一方、新客開拓については、雑誌「ハルメク」に2冊の通販カタログを同梱して雑誌の読者にアプローチしているほか、新聞広告などのメディアを活用して新規獲得を図っている。雑誌は定期購読者数が50万人を突破するなど伸びているため、通販カタログの配布数も多くなっている。
そのため、紙代のコストアップは大きな負担で、さまざまな対応をしている。雑誌からカタログへという新規の大きな入り口の部分をデジタルに大胆に切り替えていく計画だ。
同社は雑誌ハルメクのオンラインメディア「ハルメク365」を運営しており、その中のコンテンツから通販サイトに送客する仕組みを積極的に広げる。
加えて、雑誌の新規読者に対して同梱する「ハルメク おしゃれ」と「ハルメク 健康と暮らし」を1冊にした合体版を届けるテストを昨年夏から開始し、今年1月から本格化している。合体版には新規購入者をターゲットにした商品を選別して掲載することで購入率を高める狙いもある。
今期(24年3月期)は、カタログや新聞広告、EC、実店舗という各販売チャネルの縦割りを崩して横の連携を強化する。
また、顧客の幅広いニーズに応えるためには、自社ですべて取り組むのではなく、シニア女性のためのプラットフォームとして機能し、他社との連携やコラボ商品なども拡大していく。
強化カテゴリーとしては、インナーと靴を優先的に伸ばす。インナーは以前から強く、靴は理学療法士の理論をもとに同社が開発した特徴的な靴を展開しており、これに注力して広めていく。
ハルメクHD 東証グロース市場に上場
シニア女性のよりどころに
ハルメクや全国通販などを傘下に持つハルメクホールディングスが3月23日、東京証券取引所グロース市場に新規上場した。
ハルメクグループはシニア女性の領域に特化し、中核のハルメクでは当該層の悩みや期待に応える「情報コンテンツ」と「物販」「コミュニティ」の3事業を展開している。
情報コンテンツの軸は雑誌「ハルメク」で、健康やファッション、レシピなど生活全体をカバーする幅広い記事を提供。発行部数を4年連続で伸ばし、昨年12月に定期購読者数50万人を突破した。
また、ウェブサイトも暮らしや美と健康、カルチャーなどの情報発信を行い、ウェブ上でもシニア女性から支持されている。2018年8月に「ハルメクWEB」をスタートしたが、昨年8月に開始したサブスク型の「ハルメク365」へ統合している。
物販はカタログと自社EC、実店舗で中高価格帯のオリジナル商品を中心に提供している。実店舗の「ハルメクおみせ」は今年2月下旬に横浜高島屋に出店して7店舗体制を整備。ハルメクの通販商品を販売している。
コミュニティは、情報コンテンツや物販と関連した体験やつながりを提供。体操や料理、スマホ講座、旅行、メイク、ファッション、コンサートなどの講座・イベントをリアルでスタートし、コロナを契機にオンラインでの提供も増やしている。
グループの全国通販は、ハルメクよりやや年齢の高い60歳以上の顧客を対象に、「ことせ」のブランド名でファッションと雑貨、食品のカタログを展開。顧客理解に基づく商品を低中価格帯で提供している。
これまで離脱防止と新客開拓の取り組みに注力してきたことで、減少していた顧客数が増加に転じている。
ハルメクの通販事業は、食品や健食、インナー、ヘルスケア商品などを掲載する通販カタログ「ハルメク 健康と暮らし」と、ファッションやコスメを扱う「ハルメク おしゃれ」を展開し、公式通販サイトも運営している。
メインの通販カタログを制作するのに当たって同社が大事にしているのは、「お客様の実態とニーズを理解すること。分かったふりをせず、思い込みで作らないことを徹底している」(金山博通販本部長)という。
顧客を理解するために、同社ではグループのシンクタンクの調査や顧客からのハガキ、コールセンター、グループインタビューなどを活用するほか、読者が誌面に登場することもあるため、撮影の合間などに話を聞かせてもらっている。
コールセンターに届く利用者の意見や、返品用のハガキも含めて、商品やサービスに関する意見はすべて文章化し、1件ずつ答えを出していくことで、スタッフのマインドをそろえている。
通販の商品開発や誌面作りの前にまずは顧客の意見を聞き、シニア女性の実態を理解してから企画を立てる。商品を作る際も、発売する前に試作モニターを徹底。コスメなどは100~200人規模で実施する。
販売後も商品にハガキを入れて顧客満足度調査を行い、意見をもらったら品質改良する。売って終わりではなく、さまざまな段階で顧客の声を聞き、商品の精度向上に努めている。
ハルメクは女性スタッフが多いため、顧客は母親、自分はその娘という感覚で仕事をしているようで、顧客のことを大事に思いながら商品やサービスを磨き、叱られたら素直に謝って改良を重ねることを重視している。
品質の向上が離脱防止策に
同社の場合、品ぞろえで勝負するのではなく、提案する商品によってシニアの暮らしがどう良くなるのか、顧客が「使ってみたい!」と思えるような提案を心がけているという。
7つの商品カテゴリーを持つが、カテゴリーごとに編集と商品開発の担当者がおり、そのコミュニケーションの深さと一体感で生み出す「商品×情報」が通販事業の強みだ。
また、「商品やサービスの品質がお客様の離脱を防止する一番の方法」(金山本部長)とし、品質管理に関しては週1回、「クレームゼロ」という会議を実施。社長や幹部が集まり、1週間に届いた商品やサービスに対する顧客の意見を1件ずつ協議し、どういう対応を取って、それが十分だったかを精査する。
品質については取引先や検品所の評価も行う。クレームが発生したときは必ず評価してランク付けを行う。ただ、ランクが低いから取り引きをやめるわけではなく、なぜクレームが発生するようなことになったのか、ハルメクの品質に対する姿勢に共感してくれているのかを確認。共感、共有してくれる取引先とは一緒に作り直す。
検品は生産工場と指定検品所とで2回検品を行うが、工場の検品で出てきた不良の情報を必ず指定検品所に伝えるようにしている。そうすることで、発生しやすい不良の部分が見え、通常の検品時よりも精度が上がる。
価値を高めて値上げを実施
日用品や食料品、光熱費といった値上げラッシュで消費者の生活防衛意識が高まる中、ハルメクの通販でも今年1月に節約企画を展開した。
一方で、シニア女性に話を聞くと、コスパの良い商品、お得感のある商品が欲しいと答えるものの、実売になると必ずしもそうではないようだ。
「お得なもの、安いもので失敗するよりも、良い商品を長く使うという”賢い消費”にシニア層は移っていると感じる」(金山本部長)とした上で、「『値上げ=悪』という公式はやめたい。『価値=価格』だと思っている。価値を磨き、お客様のニーズにフィットするものを作って提案するという方向にシフトしている」(同)という。
単純な値上げではなく、「価値=価格」の観点から既存商品を作り変え、機能性などを高め、価格を上げて再提案する。
ハルメクでは今年1月から徐々に値上げを実施。事前に値上げ時期を知らせていたことから、昨年12月は駆け込み需要もあって売り上げが急伸し、とくに定番品などがよく売れた。その反動で、今年1~2月は購買意欲が低下したが、徐々に回復してくると見ている。
他社との連携やコラボ強化
カタログ誌面についても、価値提案の取り組みに合わせて、今年1月発売の2月号から巻頭部分でハルメクが考える理想の暮らしとして「ものは少なく、暮らしは豊かに」というフレーズを掲げた。
同社が商品を厳選し、もっともいいモノだけを提案する。世の中にぴったりなモノがなければ同社が作るという。
ファッションカテゴリーでは、顧客130人以上の体型を3D機器で計測し、作成した50代以上のリアルな体型のトルソーでサイズを決定。JIS規格に則ったサイズを基準にするのが一般的だが、同社ではシニア女性に合うサイズを設定し、そのトルソーで作ったコットンプルオーバーなどが定番服として人気だ。
また、約200人の計測結果からO体型とA体型の体型別ストレッチパンツを開発して好評を得ている。
今後は、「『ものは少なく、暮らしは豊かに』を体現できるよう、商品の販売だけでなく、サービスも開発していきたい」(金山本部長)とする。
一方、新客開拓については、雑誌「ハルメク」に2冊の通販カタログを同梱して雑誌の読者にアプローチしているほか、新聞広告などのメディアを活用して新規獲得を図っている。雑誌は定期購読者数が50万人を突破するなど伸びているため、通販カタログの配布数も多くなっている。
そのため、紙代のコストアップは大きな負担で、さまざまな対応をしている。雑誌からカタログへという新規の大きな入り口の部分をデジタルに大胆に切り替えていく計画だ。
同社は雑誌ハルメクのオンラインメディア「ハルメク365」を運営しており、その中のコンテンツから通販サイトに送客する仕組みを積極的に広げる。
加えて、雑誌の新規読者に対して同梱する「ハルメク おしゃれ」と「ハルメク 健康と暮らし」を1冊にした合体版を届けるテストを昨年夏から開始し、今年1月から本格化している。合体版には新規購入者をターゲットにした商品を選別して掲載することで購入率を高める狙いもある。
今期(24年3月期)は、カタログや新聞広告、EC、実店舗という各販売チャネルの縦割りを崩して横の連携を強化する。
また、顧客の幅広いニーズに応えるためには、自社ですべて取り組むのではなく、シニア女性のためのプラットフォームとして機能し、他社との連携やコラボ商品なども拡大していく。
強化カテゴリーとしては、インナーと靴を優先的に伸ばす。インナーは以前から強く、靴は理学療法士の理論をもとに同社が開発した特徴的な靴を展開しており、これに注力して広めていく。
ハルメクHD 東証グロース市場に上場
シニア女性のよりどころに
ハルメクや全国通販などを傘下に持つハルメクホールディングスが3月23日、東京証券取引所グロース市場に新規上場した。
ハルメクグループはシニア女性の領域に特化し、中核のハルメクでは当該層の悩みや期待に応える「情報コンテンツ」と「物販」「コミュニティ」の3事業を展開している。
情報コンテンツの軸は雑誌「ハルメク」で、健康やファッション、レシピなど生活全体をカバーする幅広い記事を提供。発行部数を4年連続で伸ばし、昨年12月に定期購読者数50万人を突破した。
また、ウェブサイトも暮らしや美と健康、カルチャーなどの情報発信を行い、ウェブ上でもシニア女性から支持されている。2018年8月に「ハルメクWEB」をスタートしたが、昨年8月に開始したサブスク型の「ハルメク365」へ統合している。
物販はカタログと自社EC、実店舗で中高価格帯のオリジナル商品を中心に提供している。実店舗の「ハルメクおみせ」は今年2月下旬に横浜高島屋に出店して7店舗体制を整備。ハルメクの通販商品を販売している。
コミュニティは、情報コンテンツや物販と関連した体験やつながりを提供。体操や料理、スマホ講座、旅行、メイク、ファッション、コンサートなどの講座・イベントをリアルでスタートし、コロナを契機にオンラインでの提供も増やしている。
グループの全国通販は、ハルメクよりやや年齢の高い60歳以上の顧客を対象に、「ことせ」のブランド名でファッションと雑貨、食品のカタログを展開。顧客理解に基づく商品を低中価格帯で提供している。
これまで離脱防止と新客開拓の取り組みに注力してきたことで、減少していた顧客数が増加に転じている。