事業者向けオフィス用品通販事業などを展開するカウネットは親会社であるコクヨとの連携強化を軸にデータ活用の積極化やCX(顧客体験)を重視したサービス整備などで事業強化を進めている。昨年12月に社長に就任し、同社の舵取りを担うことになった宮澤典友氏にカウネットの現状と今後について聞いた。
――昨年5月末までアスクルの執行役員CDXO(チーフ・デジタルトランスフォーメーション・オフィサー)を務め、昨年6月からコクヨに執行役員として入社。そして昨年12月にカウネットの社長にも就任した。カウネットの社長就任は既定路線だったのか。
「2022年6月にコクヨに執行役員・B流通統括本部長として入社した。B流通統括本部というのは文具販売店へコクヨ製品を卸売りする事業を担当する部署だ。その際はまったくカウネットの社長に就任するなどということは決まっておらず、私としては新しい経験領域のためやりがいを持って仕事に取り組んでいた」
――カウネットの社長に就任した経緯は。
「卸事業の効率化や拡大のために色々と戦略を考えている中で、コクヨのグループでオフィス用品のBtoB通販事業を行っているカウネットと連携を強化できないかと考えた。
そこで当時のカウネットの社長と私で何度も議論を重ねた結果、商品の届け先が販売店か顧客事業所か、また注文量の違いはあるが、ともに注文頂いた商品を納品するというプロセス自体は変わらないビジネスであり、類似した両事業がそれぞれで別々の戦略を描くのではなく、両事業を融合した戦略を描くこととした。
例えば、カウネットがコクヨグループのBtoBマーケティングエンジンとなり、お客様の行動データをメーカーとしてのコクヨ商品開発や卸ビジネスの品ぞろえなどに活かして行くことなどだ。
これにより、コクヨの持つクリエイティビティ、卸事業が持つ流通網とカウネットの持つデータやテクノロジーがより活きてくると思っている。コクヨ内でB流通統括本部とカウネット事業本部を統合し、新たにビジネスサプライ事業本部を新設することになり、私がビジネスサプライ事業本部長とカウネットの社長を兼務することになった」
――コクヨの卸事業とカウネットを連携される意図は分かるが、なぜこのタイミングだったのか。
「長らくカウネットはコクヨというメーカーにとっての販売チャネルという立ち位置だった。それゆえにカウネットはお客様が求めていることに完全には応えきれない状態だった。カウネットの立ち位置はかつてのようなコクヨの販売チャネルではなく、コクヨグループのマーケティングエンジンとして、お客様が今、そしてこれから求めるであろう潜在的なニーズに対し、しっかり応えていく役割であると再定義した。
そのため、お客様の目の前のニーズに応えたり、市場の大きな変化に対応しないと存在する意味がないわけで、完全にお客様のための流通に舵を切ろうと考えた」
投資対効果よりもCXを重視
――「お客様のための流通に舵を切る」ために具体的にカウネットでは何をしていくのか。
「
まず、なすべきことはCXに徹底的にこだわることと、テクノロジー活用の推進だと思っている。社長就任後、私がさっそく取り組んだことは新しい組織の設置だった。その1つがお客様のCXを高めていくために必要なデータの収集・分析や改善のための具体的な方向性を考える専門部署、CXデザイン本部だ。
CXの改善は何よりも優先すべきだと思っている。カウネットとしてもこれまでもCXの観点から改善が必要だと考えていた部分があったと思うが、短期的な投資効果を重視するとCX投資が難しい側面がある。その基準ではCX改善のための施策は優先順位が低かったわけだ。例えば、今年2月に注文商品をキャンセルできるようにした。これまでお客様は商品を一度、注文したらキャンセルできなかった。どうしても必要なければ届いた後で返品頂くしかなかったわけだ。キャンセルできないeコマースではお客様にご不便をおかけすることになる。これまでも改善すべきと思っていたはずだが、キャンセルができるようにしたら売上が上がるとか利益が増えるといった短期的な効果を期待することは難しく、他の施策が優先され、なかなか改善できなかったわけだ。
こうした投資の優先順位をCXで判断していきたいと考えている。そしてCXベースでの判断について、司令塔として専門部署を設置して当該部門が現在、お客様が何に喜んでおられ、何について残念と思われているのかなどこれまで追いかけ切れていなかった部分について情報収集し可視化した上で、どう変えていけばお客様の総合的なCXを高めていけるか、その中から何をやっていくのか優先順位を付けていきたい。
私は売り上げとはあくまで結果でしかないと考えている。投資をするポイントは売り上げアップありきではなく、『お客様により高い価値を生み出せるか否か』にすべきだと考えており、そうした結果が売り上げにつながっていくと思っている。こうした考え方を社内で浸透させたい。
例えば、お客様から問い合わせや困りごとに対して、『自分事』として捉えられるかどうかがデータや数字よりも大事だと社長就任以来、伝えているつもりだ。そして、問題を解決する上では、『自分自身の一番大切な人にそれが起きていたらどうしたいか』という心の声で常に判断すべきと伝えている。
こうした考え方が当たり前になってくれば『ここは変えるべきだ』とか、『ここに投資すべきだ』という判断は現場でも間違えずにできるようになり、CX改善のスピードはどんどん上がってくるはずだし、そうした観点で皆が判断し取り組んでいけば大きな間違いは起こり得ず、いずれ必ずお客様はカウネットを使い続けてくださるようになるはずだ」(つづく)
――昨年5月末までアスクルの執行役員CDXO(チーフ・デジタルトランスフォーメーション・オフィサー)を務め、昨年6月からコクヨに執行役員として入社。そして昨年12月にカウネットの社長にも就任した。カウネットの社長就任は既定路線だったのか。
「2022年6月にコクヨに執行役員・B流通統括本部長として入社した。B流通統括本部というのは文具販売店へコクヨ製品を卸売りする事業を担当する部署だ。その際はまったくカウネットの社長に就任するなどということは決まっておらず、私としては新しい経験領域のためやりがいを持って仕事に取り組んでいた」
――カウネットの社長に就任した経緯は。
「卸事業の効率化や拡大のために色々と戦略を考えている中で、コクヨのグループでオフィス用品のBtoB通販事業を行っているカウネットと連携を強化できないかと考えた。
そこで当時のカウネットの社長と私で何度も議論を重ねた結果、商品の届け先が販売店か顧客事業所か、また注文量の違いはあるが、ともに注文頂いた商品を納品するというプロセス自体は変わらないビジネスであり、類似した両事業がそれぞれで別々の戦略を描くのではなく、両事業を融合した戦略を描くこととした。
例えば、カウネットがコクヨグループのBtoBマーケティングエンジンとなり、お客様の行動データをメーカーとしてのコクヨ商品開発や卸ビジネスの品ぞろえなどに活かして行くことなどだ。
これにより、コクヨの持つクリエイティビティ、卸事業が持つ流通網とカウネットの持つデータやテクノロジーがより活きてくると思っている。コクヨ内でB流通統括本部とカウネット事業本部を統合し、新たにビジネスサプライ事業本部を新設することになり、私がビジネスサプライ事業本部長とカウネットの社長を兼務することになった」
――コクヨの卸事業とカウネットを連携される意図は分かるが、なぜこのタイミングだったのか。
「長らくカウネットはコクヨというメーカーにとっての販売チャネルという立ち位置だった。それゆえにカウネットはお客様が求めていることに完全には応えきれない状態だった。カウネットの立ち位置はかつてのようなコクヨの販売チャネルではなく、コクヨグループのマーケティングエンジンとして、お客様が今、そしてこれから求めるであろう潜在的なニーズに対し、しっかり応えていく役割であると再定義した。
そのため、お客様の目の前のニーズに応えたり、市場の大きな変化に対応しないと存在する意味がないわけで、完全にお客様のための流通に舵を切ろうと考えた」
投資対効果よりもCXを重視
――「お客様のための流通に舵を切る」ために具体的にカウネットでは何をしていくのか。
「まず、なすべきことはCXに徹底的にこだわることと、テクノロジー活用の推進だと思っている。社長就任後、私がさっそく取り組んだことは新しい組織の設置だった。その1つがお客様のCXを高めていくために必要なデータの収集・分析や改善のための具体的な方向性を考える専門部署、CXデザイン本部だ。
CXの改善は何よりも優先すべきだと思っている。カウネットとしてもこれまでもCXの観点から改善が必要だと考えていた部分があったと思うが、短期的な投資効果を重視するとCX投資が難しい側面がある。その基準ではCX改善のための施策は優先順位が低かったわけだ。例えば、今年2月に注文商品をキャンセルできるようにした。これまでお客様は商品を一度、注文したらキャンセルできなかった。どうしても必要なければ届いた後で返品頂くしかなかったわけだ。キャンセルできないeコマースではお客様にご不便をおかけすることになる。これまでも改善すべきと思っていたはずだが、キャンセルができるようにしたら売上が上がるとか利益が増えるといった短期的な効果を期待することは難しく、他の施策が優先され、なかなか改善できなかったわけだ。
こうした投資の優先順位をCXで判断していきたいと考えている。そしてCXベースでの判断について、司令塔として専門部署を設置して当該部門が現在、お客様が何に喜んでおられ、何について残念と思われているのかなどこれまで追いかけ切れていなかった部分について情報収集し可視化した上で、どう変えていけばお客様の総合的なCXを高めていけるか、その中から何をやっていくのか優先順位を付けていきたい。
私は売り上げとはあくまで結果でしかないと考えている。投資をするポイントは売り上げアップありきではなく、『お客様により高い価値を生み出せるか否か』にすべきだと考えており、そうした結果が売り上げにつながっていくと思っている。こうした考え方を社内で浸透させたい。
例えば、お客様から問い合わせや困りごとに対して、『自分事』として捉えられるかどうかがデータや数字よりも大事だと社長就任以来、伝えているつもりだ。そして、問題を解決する上では、『自分自身の一番大切な人にそれが起きていたらどうしたいか』という心の声で常に判断すべきと伝えている。
こうした考え方が当たり前になってくれば『ここは変えるべきだ』とか、『ここに投資すべきだ』という判断は現場でも間違えずにできるようになり、CX改善のスピードはどんどん上がってくるはずだし、そうした観点で皆が判断し取り組んでいけば大きな間違いは起こり得ず、いずれ必ずお客様はカウネットを使い続けてくださるようになるはずだ」(つづく)