ディーエイチシー(=DHC)は、4月3日付で経営体制を刷新した。化粧品通販大手、オルビスなどで代表経験を持つ髙谷成夫氏を代表取締役会長兼CEOとして招へい。代表取締役3人体制に移行した。DHCは、創業オーナーが一代で築き上げた。再成長のカギはワンマン経営から脱し、チーム経営を磨き上げられるかにある(
画像左から会長の髙谷氏、社長の宮﨑氏、副社長の小髙氏)
代表取締役3人体制に
取締役体制は、14人。買収以前からDHC在籍の役員が6人、オリックス派遣の役員が8人で過半を占める。1月の経営体制変更では宮﨑緑氏が内部昇格で代表取締役社長兼COOに、オリックス派遣の小髙弘行氏が代表取締役副社長に就任した(本紙1882号既報)。髙谷氏の就任以外、体制に変更はない。
今後、経験、背景の異なる3人の代表取締役による経営に移行する。髙谷氏はグループ経営全般を統括。宮﨑・小髙の両氏は事業運営全般を統括する。
DHCは、吉田会長という強い個性を持つカリスマが一代で築いたワンマン経営で知られる。再成長は、「事業・組織・業界」の各面で生じた課題への対処が必要になる。
低価格戦略に行き詰まり感
事業面で指摘されるのは、化粧品における「ヒットシリーズの不在」と、健康食品における「低価格路線の行き詰まり」だ。
DHCは、オリーブバージンオイルを配合したクレンジングをフックに化粧品市場に参入した。ファブレスの強みを活かし、「コエンザイムQ10」、「ゲルマニウム」など、注目の新成分を活用したスキンケアシリーズの市場への投入でニーズに応え、幅広い顧客基盤を築く。
ファンケルの「無添加」、オルビスの「オイルカット」のように企業を象徴するブランド戦略は希薄で、「全方位型。むしろ『ブランド』がないことがブランド」(業界関係者)と評価する同業者もいる。ただ、最近は新規の美容成分の一巡で事業をけん引するヒットシリーズは生まれていないと思われる。
健康食品は、「サプリメントの価格破壊」を打ち出すファンケル、小林製薬などと低価格競争を繰り広げた。DHCは、価格や配合量など「高品質・低価格」という分かりやすい選択基準を示すことで成長を果たした。
市場はプレーヤー増加による競争激化から成熟が進む。他社が独自機能を持つ機能性表示食品の活用など高付加価値路線に舵をきる中で行き詰まり感は否めない。
18年には、健食全アイテムと化粧品の一部商品で、利益を度外視した25%の割引率を適用する「ぶっとび定期便」を始めたが、戦略のズレは同年を境にした営業利益率の悪化に表れている(=
表)。「ドラッグストアへの対抗を意識しているようにみえる」(同)、「割引訴求一択で、新戦略を見出せていないのでは」(別の関係者)との声も聞かれる。
オーナー型経営で生じた組織課題
組織面の課題もある。DHCは、典型的な「オーナー型経営」。意思決定の速さにメリットはあるが、独善的な経営に傾けば従業員の自律性は育たず、時代や市場環境への対応力を失う。新たなディスカウンターとして市場を席捲した同社だが、在日韓国人に対する声明など、近年は負の側面が現れていたようにみえる。
日本通信販売協会(JADMA)をはじめ、通販、健食、化粧品業界からも距離を置き、独立独歩を貫いた。「事業承継」が課題として浮上するのは時間の問題だった。
DHCは、連結売上高で1000億円を超え、約2000人の従業員を抱える。オーナー型経営から脱却し、チームでの組織経営に移行するには、代表経験、業界に人脈を持ち、通販に精通する人材の存在が必要になる。
代表取締役に就任した髙谷氏は、オルビス創業メンバーとして、39歳の若さで同社の代表取締役社長に就任。売上高500億円を超える中核企業に成長させた。退職後は、複数社で経営執行の役割を担った。21年にはビューティ・ヘルスケア領域の戦略コンサルタント会社を設立している。「20年以上にわたり幅広く経営、事業運営を推進してきており、株主と協議し起用した」(DHC)とする。
「基本的な仕組みづくりから開始」
DHCは、新体制を第二の創業と捉え、今年2月、組織改革の一環として全社横断型プロジェクト「ProjectBright」を立ち上げた。新たに行動指針を策定。会社としてのガバナンスやコンプライアンスの再整理など「基本的な仕組みづくりから始めている」(同)。プロジェクトを通じ、従業員が自律的・協調的に活動し、多様な人材が互いに尊重できる職場環境を整備することで、組織全体のパフォーマンス向上を図る。
もう一つの目的は、再成長に向けた「売り上げ拡大と収益改善」(同)。事業上の課題には、「具体的な取り組みは開示できないが、現状のよい面は踏襲しつつ、変化すべきものは適時適切に変える。品質向上に努め、顧客戦略、ポートフォリオ戦略を精緻化することで顧客満足度を高める」(同)としている。
略 歴
髙谷成夫(敬称略。以下同) 1964年6月生まれ。88年、ポーラ化粧品本舗入社。04年、オルビス代表取締役社長(09年からポーラ・オルビスホールディングス取締役兼務)。12年、ポーラ取締役。16年に同社を退社後は、アイスタイル執行役員兼アイメイカーズ代表取締役社長、17年ライザップ取締役兼マーケティング本部長・プロダクト事業本部長兼健康コーポレーション代表取締役社長兼エンジェリーベ代表取締役社長。湘南ベルマーレ取締役。19年、FiNC Technologies常務執行役員兼プラットフォーム本部長&サブスクリプション本部長、21年、MTG執行役員コスメブランド本部長。同年、戦略コンサルティングを行うエスアンドコーを設立。代表取締役社長に就任。現在に至る。
◇
宮﨑緑 1967年11月生まれ。1993年、祖業である翻訳・通訳事業の営業としてDHCに入社後、化粧品・健康食品の店販営業部門、通販マーケティング部門のほか、直営店、顧客対応、会員販促、アパレル部門など各事業領域を幅広く経験。15年取締役、20年常務取締役、21年取締役副社長を経て、23年1月から現職。
◇
小髙弘行 1978年11月生まれ。04年オリックス入社。現任は、フジタ製薬取締役、微生物化学研究所取締役、ささえあ製薬取締役、ささえあホールディングス取締役。
経験豊富な「通販のプロ」、就任に「知見・力量で適任」の声
<新体制の評価>
DHCは、創業来のオーナー型経営から脱し、チームによる組織経営への移行を目指す。組織・事業の両面の課題解消には、業界内外に人脈を持ち、代表経験のある「通販のプロ」が必要だ。
髙谷氏は、1988年にポーラ化粧品本舗に入社後、92年、オルビスに出向した。同社で情報システム、商品企画、物流、マーケティングなど、通販に不可欠なオールラウンドのスキルと知見を磨いた。
当時、通販化粧品は、ファンケル、DHCの二強が先行。売上高ではDHCが約570億円、ファンケル(アテニアを含む)が約360億円(01年実績)。対するオルビスも成長期にはあったが、売り上げは160億円超と水をあけられていた。マーケティング本部長として、ネットや店舗の立ち上げを指揮し、三強時代の礎を築いたのが髙谷氏だった。実績を買われ、04年にオルビスの社長に就任した。
髙谷氏を知る業界関係者は、今回の就任に「人間力が高く、一方で信念を貫く強さがある。いい人材を招へいした」と評価する。別の関係者からも「ポーラを辞めた後は、ところを得ていなかった感がある。髙谷さんにとってもやりがいのある大きな仕事だろう」、「通販の知見、力量を含め適任」、「時代に逆行する創業者の強い個性に企業イメージが引きずられていた印象がある。前の色を消していこうということだろう。体制が変われば、意外に転換も早いかもしれない。競合として怖くなる」といった声が聞かれる。
だが、再成長に向けた舵取りは容易ではない。「DHCのような規模になれば一人の力では動かせない。髙谷氏のネットワークでどれだけ優秀な人をスカウトでき、社内と融合できるかがカギ」とみる関係者もいる。
新体制は、DHCプロパーの宮﨑氏、オリックスの小髙氏、髙谷氏の3人が代表権を持つ体制。三者三様の思惑もあるだろう。
ファンドに詳しい関係者は、「一般的なファンドの多くは今、5年という長期保有は想定していない。5年となると、6年、7年と延びるのが常。スピード感は早くなっている。3年を一つの区切りに再売却による収益確保を考えているのでは」とみる。別の関係者も「顧客データ基盤は魅力だが、よほどオリックス現有の資産とシナジーがなければ長期保有は想定していないのでは」と話す。
とはいえ、「百貨店でいえば、高島屋から伊勢丹に移籍するようなもの。髙谷氏の人間性、覚悟にもよるが、非常に難しい調整が必要」との声も聞かれる。髙谷氏を知る前出関係者は、「経営立て直しには数年かかる。オリックスがどれだけ我慢できるかではないか」と話す。
代表取締役3人体制に
取締役体制は、14人。買収以前からDHC在籍の役員が6人、オリックス派遣の役員が8人で過半を占める。1月の経営体制変更では宮﨑緑氏が内部昇格で代表取締役社長兼COOに、オリックス派遣の小髙弘行氏が代表取締役副社長に就任した(本紙1882号既報)。髙谷氏の就任以外、体制に変更はない。
今後、経験、背景の異なる3人の代表取締役による経営に移行する。髙谷氏はグループ経営全般を統括。宮﨑・小髙の両氏は事業運営全般を統括する。
DHCは、吉田会長という強い個性を持つカリスマが一代で築いたワンマン経営で知られる。再成長は、「事業・組織・業界」の各面で生じた課題への対処が必要になる。
低価格戦略に行き詰まり感
事業面で指摘されるのは、化粧品における「ヒットシリーズの不在」と、健康食品における「低価格路線の行き詰まり」だ。
DHCは、オリーブバージンオイルを配合したクレンジングをフックに化粧品市場に参入した。ファブレスの強みを活かし、「コエンザイムQ10」、「ゲルマニウム」など、注目の新成分を活用したスキンケアシリーズの市場への投入でニーズに応え、幅広い顧客基盤を築く。
ファンケルの「無添加」、オルビスの「オイルカット」のように企業を象徴するブランド戦略は希薄で、「全方位型。むしろ『ブランド』がないことがブランド」(業界関係者)と評価する同業者もいる。ただ、最近は新規の美容成分の一巡で事業をけん引するヒットシリーズは生まれていないと思われる。
健康食品は、「サプリメントの価格破壊」を打ち出すファンケル、小林製薬などと低価格競争を繰り広げた。DHCは、価格や配合量など「高品質・低価格」という分かりやすい選択基準を示すことで成長を果たした。
市場はプレーヤー増加による競争激化から成熟が進む。他社が独自機能を持つ機能性表示食品の活用など高付加価値路線に舵をきる中で行き詰まり感は否めない。
18年には、健食全アイテムと化粧品の一部商品で、利益を度外視した25%の割引率を適用する「ぶっとび定期便」を始めたが、戦略のズレは同年を境にした営業利益率の悪化に表れている(=表)。「ドラッグストアへの対抗を意識しているようにみえる」(同)、「割引訴求一択で、新戦略を見出せていないのでは」(別の関係者)との声も聞かれる。
オーナー型経営で生じた組織課題
組織面の課題もある。DHCは、典型的な「オーナー型経営」。意思決定の速さにメリットはあるが、独善的な経営に傾けば従業員の自律性は育たず、時代や市場環境への対応力を失う。新たなディスカウンターとして市場を席捲した同社だが、在日韓国人に対する声明など、近年は負の側面が現れていたようにみえる。
日本通信販売協会(JADMA)をはじめ、通販、健食、化粧品業界からも距離を置き、独立独歩を貫いた。「事業承継」が課題として浮上するのは時間の問題だった。
DHCは、連結売上高で1000億円を超え、約2000人の従業員を抱える。オーナー型経営から脱却し、チームでの組織経営に移行するには、代表経験、業界に人脈を持ち、通販に精通する人材の存在が必要になる。
代表取締役に就任した髙谷氏は、オルビス創業メンバーとして、39歳の若さで同社の代表取締役社長に就任。売上高500億円を超える中核企業に成長させた。退職後は、複数社で経営執行の役割を担った。21年にはビューティ・ヘルスケア領域の戦略コンサルタント会社を設立している。「20年以上にわたり幅広く経営、事業運営を推進してきており、株主と協議し起用した」(DHC)とする。
「基本的な仕組みづくりから開始」
DHCは、新体制を第二の創業と捉え、今年2月、組織改革の一環として全社横断型プロジェクト「ProjectBright」を立ち上げた。新たに行動指針を策定。会社としてのガバナンスやコンプライアンスの再整理など「基本的な仕組みづくりから始めている」(同)。プロジェクトを通じ、従業員が自律的・協調的に活動し、多様な人材が互いに尊重できる職場環境を整備することで、組織全体のパフォーマンス向上を図る。
もう一つの目的は、再成長に向けた「売り上げ拡大と収益改善」(同)。事業上の課題には、「具体的な取り組みは開示できないが、現状のよい面は踏襲しつつ、変化すべきものは適時適切に変える。品質向上に努め、顧客戦略、ポートフォリオ戦略を精緻化することで顧客満足度を高める」(同)としている。
略 歴
髙谷成夫(敬称略。以下同) 1964年6月生まれ。88年、ポーラ化粧品本舗入社。04年、オルビス代表取締役社長(09年からポーラ・オルビスホールディングス取締役兼務)。12年、ポーラ取締役。16年に同社を退社後は、アイスタイル執行役員兼アイメイカーズ代表取締役社長、17年ライザップ取締役兼マーケティング本部長・プロダクト事業本部長兼健康コーポレーション代表取締役社長兼エンジェリーベ代表取締役社長。湘南ベルマーレ取締役。19年、FiNC Technologies常務執行役員兼プラットフォーム本部長&サブスクリプション本部長、21年、MTG執行役員コスメブランド本部長。同年、戦略コンサルティングを行うエスアンドコーを設立。代表取締役社長に就任。現在に至る。
◇
宮﨑緑 1967年11月生まれ。1993年、祖業である翻訳・通訳事業の営業としてDHCに入社後、化粧品・健康食品の店販営業部門、通販マーケティング部門のほか、直営店、顧客対応、会員販促、アパレル部門など各事業領域を幅広く経験。15年取締役、20年常務取締役、21年取締役副社長を経て、23年1月から現職。
◇
小髙弘行 1978年11月生まれ。04年オリックス入社。現任は、フジタ製薬取締役、微生物化学研究所取締役、ささえあ製薬取締役、ささえあホールディングス取締役。
経験豊富な「通販のプロ」、就任に「知見・力量で適任」の声
<新体制の評価>
DHCは、創業来のオーナー型経営から脱し、チームによる組織経営への移行を目指す。組織・事業の両面の課題解消には、業界内外に人脈を持ち、代表経験のある「通販のプロ」が必要だ。
髙谷氏は、1988年にポーラ化粧品本舗に入社後、92年、オルビスに出向した。同社で情報システム、商品企画、物流、マーケティングなど、通販に不可欠なオールラウンドのスキルと知見を磨いた。
当時、通販化粧品は、ファンケル、DHCの二強が先行。売上高ではDHCが約570億円、ファンケル(アテニアを含む)が約360億円(01年実績)。対するオルビスも成長期にはあったが、売り上げは160億円超と水をあけられていた。マーケティング本部長として、ネットや店舗の立ち上げを指揮し、三強時代の礎を築いたのが髙谷氏だった。実績を買われ、04年にオルビスの社長に就任した。
髙谷氏を知る業界関係者は、今回の就任に「人間力が高く、一方で信念を貫く強さがある。いい人材を招へいした」と評価する。別の関係者からも「ポーラを辞めた後は、ところを得ていなかった感がある。髙谷さんにとってもやりがいのある大きな仕事だろう」、「通販の知見、力量を含め適任」、「時代に逆行する創業者の強い個性に企業イメージが引きずられていた印象がある。前の色を消していこうということだろう。体制が変われば、意外に転換も早いかもしれない。競合として怖くなる」といった声が聞かれる。
だが、再成長に向けた舵取りは容易ではない。「DHCのような規模になれば一人の力では動かせない。髙谷氏のネットワークでどれだけ優秀な人をスカウトでき、社内と融合できるかがカギ」とみる関係者もいる。
新体制は、DHCプロパーの宮﨑氏、オリックスの小髙氏、髙谷氏の3人が代表権を持つ体制。三者三様の思惑もあるだろう。
ファンドに詳しい関係者は、「一般的なファンドの多くは今、5年という長期保有は想定していない。5年となると、6年、7年と延びるのが常。スピード感は早くなっている。3年を一つの区切りに再売却による収益確保を考えているのでは」とみる。別の関係者も「顧客データ基盤は魅力だが、よほどオリックス現有の資産とシナジーがなければ長期保有は想定していないのでは」と話す。
とはいえ、「百貨店でいえば、高島屋から伊勢丹に移籍するようなもの。髙谷氏の人間性、覚悟にもよるが、非常に難しい調整が必要」との声も聞かれる。髙谷氏を知る前出関係者は、「経営立て直しには数年かかる。オリックスがどれだけ我慢できるかではないか」と話す。