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顧客基盤などが安定化<中計2年目の千趣会> 今期はマーケ子会社新設も

2022年 3月10日 13:30

 千趣会は、前期(2021年12月)からスタートした5カ年の中期経営計画の初年度を終え、顧客基盤の安定化やJR東日本との協業などで成果が出てきている。2年目となる今期はマーケティング領域の機能子会社を設立する予定で、顧客理解を深めるほか、提供する商品やサービスの拡充にもつなげる。先行投資が続く中、新たな打ち手で中長期的な成長への基礎固めができるか、千趣会の真価が問われる1年となりそうだ。
 








 千趣会の前期は、前々期と比べてコロナ禍の巣ごもり特需が落ち着き、家具などの大型商品からインテリア小物などにニーズが移ったことや、衣料品などのお出かけ需要が期待したほど回復せず、主力の通販事業は減収減益で着地した。

 ただ、コロナ前の水準よりは増収を維持したほか、利益面も基幹システムの刷新や増員など成長に向けた先行投資の影響が大きく、「織り込み済み」(梶原健司社長)とする。というのも、通販事業で重視する顧客基盤の安定化や商品力・提案力、オペレーション改革に関連する経営数値では前期も一定の成果を得たからだ。

 会員基盤については、昨年1年間の購入会員数は前年比45万人減の248万人となったが、前期はコロナの最初の年(前々期)に大きく増えた新規客および復活会員の継続購入と客単価アップに重点的に販促費を投入。継続化に向けてはポイント施策などECチャネルを中心に取り組んだ結果、継続購入会員は5万人強増えて約128万人となった。

 品ぞろえは、食品やインテリア小物などでカタログには掲載していない商品を中心にECでの取り扱いを強化し、前々期に比べて約1500型増となる7万3000型を展開。併せて、コロナ禍2年目となるニーズの変化に対応し、「少し先の提案をECで迅速にできるようになった」(梶原社長)という。

 加えて、前中計から取り組んできた商品原価率やプロパー消化率、残品率などのKPI管理運用の精度を高めたことなどで、売上総利益率はオペレーション改革前の38・9%(18年度実績)に対し、前期も49・8%と大きく改善している。

 昨年12月には通販事業ベルメゾンのブランドロゴとシンボルマークを一新。19年11月に設定し行動規範にもなっているブランドスローガン「愛、のち、アイデア」に続くもので、ベルメゾンの本質的な提供価値である”愛”の大切さをシンプルにハートに表した。

 また、前期は資本業務提携するJR東日本との協業を強化。リアル展開では昨年5月にJR東京駅構内のグランスタ東京にベルメゾンのショップを開設したのに続き、10月には同じく東京駅構内に「ディズニーファンタジーショップ バイ ベルメゾン」の常設店を開業。当該店はオープンから2カ月強で約1万5000人が購入するなど好立地の恩恵を受けているようだ。

 ECチャネルでは、JR東日本の通販モール「JREモール」にベルメゾンとして昨年3月に出店。JREポイントの販促やDM施策などで売り上げが順調に拡大。同モール内の売り上げシェア上位を維持している。

中計2年目も先行投資実施

 中計2年目の今期は、通販事業の変革と事業モデルの再構築に向けて新会社の設立や、パートナー企業との共創による新サービスのローンチを計画する。

 千趣会はマーケティング領域の機能子会社を4月以降に設立する予定だ。次の成長に向けては「これまで以上にお客様との関係性を強める必要がある」(梶原社長)ことから、顧客の声を収集してデータベース化し、商品ジャンルやサービスの拡大に生かす。

 また、顧客基盤の一層の安定化に向け、EC販促やデジタルコミュニケーション施策を強化して新規開拓と既存客の継続利用につなげる。そのベースとなる基幹システムのリプレイスも実行しており、今期は中長期的な成長に向けた重要な1年となる。

 加えて、商品の販売だけでなく使用中、使用後を含めた”使用価値の最大化”を図るべく、愛着がわく商品の開発をこれまで以上に重視するほか、オークネットと組んだ古着の買取サービスをはじめとした二次流通や、レンタル事業などにも乗り出す計画だ。

 なお、今期の通販事業の売上高は前年とほぼ同水準の683億円を、利益面は先行投資がかさむ関係で5億8000万円の営業損失を見込んでいる。


顧客定着化へEC販促強化、ベルメゾンのロゴなど一新

【千趣会の梶原健司社長に聞く 新中計の進捗状況は?】

 千趣会の梶原健司社長(=顔写真)に、中計の進捗や今期の重点取り組みなどについて聞いた。

 ――コロナ禍で2年が経過した。

 「前々期(2020年12月期)は巣ごもり特需で通販事業には追い風だった。一方、ブライダル事業は結婚式の延期や縮小が相次いだことでポートフォリオの見直しに着手し、前期(21年12月期)にブライダル事業を手放した。主軸の通販事業にフォローの風が吹いているときだからこそ千趣会としての人格形成に重点を置き、看板商品を含めた商品力、提案力を磨いてコロナ後に向けた差別化を進めてきた」

 ――コロナ禍でも需要が変化している。

 「前々年は収納を含めた大型家具系がよく売れたが、それらは翌年も購入するような商材ではなく、前期はインテリア小物などに需要がシフトした。コロナが落ち着き、外出するのに必要な洋服や服飾雑貨、コスメなどの需要拡大に期待したが、想定していたほど戻らなかった。ただ、カタログがベースの企業からの脱却を図るべく、コロナ禍の変化に対応して、少し先の提案をECチャネルで迅速にできるようになったことは大きい」

 ――前期の通販事業は特需が落ち着いたことで反動減となったが、主要な経営数値はコロナ前より改善した。

 「前期の通販事業は約30億円の減収となったが、コロナ前の水準よりは30億円程度の増収となり、踏ん張ることができた。営業利益は前々期の半分以下になったが、今後の成長に向けたシステム投資や人員の拡充にも取り組んでいて、織り込み済みの部分が多い」

 ――継続購入会員数は前年比5万4000人増の128万人に拡大した。

 「前々期は、元々千趣会のファンだったお客様の復活に向けた施策を強化して会員数が前年比で約56万人増えた。前期はそのお客様の継続化と、購入頻度や客単価の向上に努めた結果、継続的にお買い物をして頂けた。コロナ禍で通販市場でのライバルが増えることを見越して地固めに力を注いだ」

 ――継続化に向けた具体的な施策は。

 「例えば、特定の日にご購入頂くと800ポイントをプレゼントする『ハッピーベルメゾンデー』や、指定の複数カテゴリーで商品を購入することでポイントがアップする『ベルメゾンお買い物リレー』など、よりECチャネルにフォーカスした施策にシフトした」

 ――前期に商品型数を増やした分野は。

 「前々期までの数年間はオリジナル商品を中心とした品ぞろえに絞ってきた。コロナ禍で通販ニーズが増える中、型効率を落とさない程度に仕入れ商材も増やした。全体で約7万型を展開しているのでそこまでのインパクトはないが、ニーズに対して提案の幅が足りていなかった食品やインテリア小物など、カタログ非掲載商品を中心に厚みを持たせた」

 ――コロナ禍の組織運営も大変だ。

 「新しいメンバーとのコミュニケーションが不足しがちだ。当社は4年前と比べると、メンバーが入れ替わっている。とくに昨年は中計の目標達成に向けて人員を増強したが、対面で会う機会が少なく残念だ。強化中のオリジナル商品は世の中を感じることから始まるため、とくに若いメンバーは不安だと思う。一方で在宅勤務がメインというのは世の中の縮図でもあり、その中でお客様が何に不便や不都合を感じ、どんな時間の使い方をしているかにアンテナを張っていてほしい」

 ――コロナ禍でも会員基盤の構築と商品力の強化が進んだ。

 「それだけでなく、QCD(品質・コスト・納期)の改善活動などオペレーション改革を継続することで収益性も改善した。業績が悪化したときに取り組んだオペレーション改革で組織力は着実に上がった。中計でも掲げているが、大量生産・大量販売の時代は終わり、サステナビリティーが求められている中で、従来以上にこだわりや意味のあるオリジナル商材を作っていく」

 ――昨年、ベルメゾンの45周年を機にブランドロゴやシンボルマークを一新した。

 「2019年に設定したブランドスローガンの『愛、のち、アイデア』に基づいてお客様に寄り添い、明日が待ち遠しくなるような商品やサービスを今後も提供していく。この流れの中でロゴとシンボルマークはベルメゾンの『B』をかたどった軽やかな羽のマークとし、バーガンディーカラーを採用して上品な印象に変えた」

 ――CI(コーポレートアイデンティティー)については。

 「11年前から『ウーマンスマイルカンパニー』を掲げている。今も女性が抱える悩みや不満などを解決して笑顔にしたいという思いは変わらないが、多様性が求められる世の中なので『ウーマンスマイルカンパニー』を超えて時代に合わせて進化させていきたい。例えば、クリエイティブ面では子育てにおいて女性ばかりのシーンではなく、男性も参加している様子も伝えることで間違ったメッセージとして受け取られないように改めていきたい」


 
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