真空斬りでバタフライ効果
消費者委員会委員による特定保健用食品制度(トクホ)の広告への指摘。消費者庁が忖度し、業界団体や企業に改善要望が出される。その後も消費者委員会はけん制を続け、業界団体はこれに呼応する。かくて、トクホに特化した新しい規制団体が発足するに至る。
◇
「脂肪にドーン!」のトクホ広告をやり玉にあげた消費者委員会。消費者庁の忖度により、日本健康・栄養食品協会とサントリー食品インターナショナルに改善要望が渡される。
しかし、この件に関しては消費者庁内部からも問題視する声が上がる。これを受け、当時の食品表示企画課長は本紙に反省の弁を述べる。「やり方を含め、法的にまずいと思ったのだろう。脂肪にドーンで景表法や健康増進法に抵触するのでは、広告は成り立たない」(当時を知る関係者)。
消費者委員会は13年1月にトクホへの声明を発表したことは前々回の連載でも触れたが、この中で事業者と業界団体を強くけん制している。
事業者には「特保を製造・販売される事業者の方々は、消費者が『特保さえ摂っていれば、あるいは、特保を多量に摂れば、健康を維持できる』といった誤解を持つことがないように、その宣伝・広告に当たって十分な配慮が求められます」。
トクホの許可要件は「健康の維持増進に寄与することが期待できるもの」である。一方でこのような声明で「宣伝・広告に当たって十分な配慮が求められます」と事業者に強く警告を発する。
これでは目的と実態が乖離しており、制度内で矛盾が生じよう。
繰り返すが、消費者委員会はトクホを審査する機能も有しており、中立公正であるべき機関だ。しかし、実態はネガティブな意図があるのは声明の行間から読み取れよう。
そもそも、健康のためにトクホだけ、あるいはこれを多量に摂取する消費者が本当にいるのかは疑わしい。
事実、消費者委員会が問題視したのは飲料であり、飲める量には自ずから限界もあろう。指摘事項がナンセンスだ。
◇
「真空斬り」。霞ヶ関や永田町界隈で使われる用語だ。
実際にはありえないことや、ほとんど影響がないことを大げさに提示して、それへの対策を講じる手法だ。新たな仕事をつくり、権益を増やしたり、予算を確保する際に使われる。良識ある官僚は「それは真空斬りだろう」と嫌うやり方である。
消費者委員会の声明に戻る。最後はこう締められている。
「なお、(公益財団法人)日本健康・栄養食品協会においては、『特定保健用食品』適正広告自主基準を設けていますが、遵守状況を審査するための機関を設置するなど、その実効性を高めるため、引き続き自主的な努力を払っていただくことを期待します」。
日健栄協を名指しで新機関の設置を求めている。
これが特定保健用食品公正取引協議会に繋がっていく訳だ。
しかし、当初からトクホの公正競争規約の作成と協議会の設立には懐疑的な意見があった。
トクホは国の許可であり、問題があれば消費者庁で対応は可能だからだ。
要は「真空斬り」ではないかという疑念である。
しかし、動き出した組織は止まらない。日健栄協は協会の資源を投じてまで、トクホの公正取引協議会の設立に動く。
20年8月に発足した協議会は、会長に日健栄協の前理事長で顧問の下田智久氏が就任。事務局は日健栄協の2階。実質的には一体の関係である。
活動実績を見ると、21年3月時点で、会員は36社。広告の相談は13件で消費者からの相談はゼロ。直近では21年11月に第一回の広告審査会では20社31製品の広告をチェックしているが、細かい指摘が目立つ。鳴り物入りで導入した特保公正マークの申請も2件にとどまる。
「バタフライエフェクト(効果)」。些細なことが、大きな現象に発展することを指す。消費者委員会の一委員の感情的な発言が新しい規制団体の発足にまで繋がった。それによって消費者も企業も利益を得たのか。
「天下りポストが1つ増え、代わりに業界にさらなる重い十字架が課せられただけ」(関係者)。
一方でトクホを揺るがす、新たなる動きが並行していた。
それが機能性表示食品制度だ。(
つづく)
消費者委員会委員による特定保健用食品制度(トクホ)の広告への指摘。消費者庁が忖度し、業界団体や企業に改善要望が出される。その後も消費者委員会はけん制を続け、業界団体はこれに呼応する。かくて、トクホに特化した新しい規制団体が発足するに至る。
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「脂肪にドーン!」のトクホ広告をやり玉にあげた消費者委員会。消費者庁の忖度により、日本健康・栄養食品協会とサントリー食品インターナショナルに改善要望が渡される。
しかし、この件に関しては消費者庁内部からも問題視する声が上がる。これを受け、当時の食品表示企画課長は本紙に反省の弁を述べる。「やり方を含め、法的にまずいと思ったのだろう。脂肪にドーンで景表法や健康増進法に抵触するのでは、広告は成り立たない」(当時を知る関係者)。
消費者委員会は13年1月にトクホへの声明を発表したことは前々回の連載でも触れたが、この中で事業者と業界団体を強くけん制している。
事業者には「特保を製造・販売される事業者の方々は、消費者が『特保さえ摂っていれば、あるいは、特保を多量に摂れば、健康を維持できる』といった誤解を持つことがないように、その宣伝・広告に当たって十分な配慮が求められます」。
トクホの許可要件は「健康の維持増進に寄与することが期待できるもの」である。一方でこのような声明で「宣伝・広告に当たって十分な配慮が求められます」と事業者に強く警告を発する。
これでは目的と実態が乖離しており、制度内で矛盾が生じよう。
繰り返すが、消費者委員会はトクホを審査する機能も有しており、中立公正であるべき機関だ。しかし、実態はネガティブな意図があるのは声明の行間から読み取れよう。
そもそも、健康のためにトクホだけ、あるいはこれを多量に摂取する消費者が本当にいるのかは疑わしい。
事実、消費者委員会が問題視したのは飲料であり、飲める量には自ずから限界もあろう。指摘事項がナンセンスだ。
◇
「真空斬り」。霞ヶ関や永田町界隈で使われる用語だ。
実際にはありえないことや、ほとんど影響がないことを大げさに提示して、それへの対策を講じる手法だ。新たな仕事をつくり、権益を増やしたり、予算を確保する際に使われる。良識ある官僚は「それは真空斬りだろう」と嫌うやり方である。
消費者委員会の声明に戻る。最後はこう締められている。
「なお、(公益財団法人)日本健康・栄養食品協会においては、『特定保健用食品』適正広告自主基準を設けていますが、遵守状況を審査するための機関を設置するなど、その実効性を高めるため、引き続き自主的な努力を払っていただくことを期待します」。
日健栄協を名指しで新機関の設置を求めている。
これが特定保健用食品公正取引協議会に繋がっていく訳だ。
しかし、当初からトクホの公正競争規約の作成と協議会の設立には懐疑的な意見があった。
トクホは国の許可であり、問題があれば消費者庁で対応は可能だからだ。
要は「真空斬り」ではないかという疑念である。
しかし、動き出した組織は止まらない。日健栄協は協会の資源を投じてまで、トクホの公正取引協議会の設立に動く。
20年8月に発足した協議会は、会長に日健栄協の前理事長で顧問の下田智久氏が就任。事務局は日健栄協の2階。実質的には一体の関係である。
活動実績を見ると、21年3月時点で、会員は36社。広告の相談は13件で消費者からの相談はゼロ。直近では21年11月に第一回の広告審査会では20社31製品の広告をチェックしているが、細かい指摘が目立つ。鳴り物入りで導入した特保公正マークの申請も2件にとどまる。
「バタフライエフェクト(効果)」。些細なことが、大きな現象に発展することを指す。消費者委員会の一委員の感情的な発言が新しい規制団体の発足にまで繋がった。それによって消費者も企業も利益を得たのか。
「天下りポストが1つ増え、代わりに業界にさらなる重い十字架が課せられただけ」(関係者)。
一方でトクホを揺るがす、新たなる動きが並行していた。
それが機能性表示食品制度だ。(つづく)