消費者庁は、機能性表示食品の届出の「外部化」を進める。届出数は累計5000件に到達。市場も拡大し育成が進む。ただ、届出数の増加から、チェックの負担が増加する。消費者庁は、事前点検を行う関係団体の活用を促し、手続き期間の短縮化を目指す。業界主催の講演の中で同庁の伊藤明子長官が外部化推進に言及した。
届出数が増加「大変な状況」
「届出の確認が大変な状況。業界の方に協力いただき、民間の活力を活用して事前確認の仕組みを作りたい」。1月21日、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)主催の講演会で、伊藤長官は機能性表示食品の制度改善にこう言及した。
制度は、15年の創設から7年。届出数は、2年でトクホと並ぶ1000件超に達し、約3500件になる(20年度、失効・撤回を除く)。市場規模も20年に3000億円超と推計される(富士経済調べ)。
一方、届出数の増加からチェック業務の負担が増加する。
今年度の届出数は、これまで922件(今年1月時点)。月100件前後公表されている計算になる。加えて、根拠や成分配合量、商品名等の「変更届」への対応もある。
チェックを行う同庁食品表示企画課は、兼務を含め、10人前後の職員が対応。届出数の増加から「事業者も慣れはじめ、経験則だけではどうにもならない状況」と頭を抱える。業界関係者は、背景について「品質保証部を持つ中堅・大手は社内で綿密な確認を進めるが、そうした部署を持たない企業の届出が大量にあり、業務を圧迫している面もあるのでは」とする。
団体の事前点検活用は月数件
届出は17年、差戻しにかかる日数の遅れに対する企業の不満を受けた政府の規制改革推進会議の指摘を受け、「50日ルール」(1回の差戻し日数の目安)ができた。
今年8月には機能性表示食品の質疑応答集を改正。日健栄協、日本抗加齢協会(=JAAF)が行う届出の事前点検を活用した企業は、差戻しの所要日数の目標を30日にする「30日ルール」ができている。ただ、以降も業務のひっ迫は続く。
8月以降、2団体の事前点検を活用した届出は、JAAFが8月は122件中1件、9月は133件中4件、10月は127件中3件、11月は89件中1件のみ。届出資料をみる限り、この期間に日健栄協の利用は1件もない。「速やかに公表できるよう事前確認の中で問題ないものをあげてもらい、期間の短縮化を目指したい」(食品表示企画課)として、すでに2団体に支援を要請している。
日健栄協の事前点検は、初回38万5000円(非会員は77万円)、差戻し後の再点検は33万円(同66万円)で請け負う(いずれも税込)。支援業務の対応体制は非開示としているが、「10人はいない」(菊地範昭機能性食品部長)。支援業務の依頼は月に数件ほどあるが、1件あたり2週間ほどかかり「並行して2、3件が限界。10件は厳しい」(同)とする。今回の要請にも「体制を充実させたところで申請が増えるか。8月に質疑応答集を改正したばかりで1年ほど様子を見なければ分からない」(同)とする。
価格には、「現状のチェックリストを半分にするならよいが、リストも消費者庁の確認を得たもの。時間もかかり維持したい」とする。
日本抗加齢協会は、チェックリスクのみの「一次点検」が22万円、過去の指摘例など公開されていないチェックポイントを含めた複数の担当委員による「二次点検」は88万円になる。体制や現状の運用については、本紙掲載までに回答は得られなかった。
期間短縮、確実な保証はメリット
事前審査に対する企業の評価も芳しくない。「存在は知っているが、事業規模が小さく売り上げの見通しが立たない中で見合わない料金」(大手食品メーカー)。健康領域は参入間もないこともあり、投資に制約がある。「価格も安く、事業も拡大すれば迅速化のメリットはある」とする。
別の通販企業は、「メリットは感じる」とする。今も販売計画が立てづらい状況は解消されておらず、「差戻しを想定すると事前点検でスケジュール変更を迫られるリスクを減らせる」という。ただ、「利用する予定はない」。理由は「費用が大幅にかかり、利用しても確実に受理される保証がない」。30日間に短縮するとはいえ、「団体とのやり取りが20日以内に終わらなければ納期的なメリットはない」。「費用の無償化」「さらなる期間短縮」「事前点検した場合の受理が100%になること」などのメリットがあれば活用するという。
すでに多くの届出を行う大手メーカーは、「差戻しが想定される場合、20日間の短縮はメリット」とする。
ただ、複数の商品で利用するとなると費用負担も数百万円と重くなる。前出の企業同様、「事前の点検で時間がかかっては意味がなく、より早くしなければメリットにならない」と指摘する。
改善の方向性については「日数の問題より結果が分からない中でやり取りしなければならない点が課題。事前点検したものは即OKとなればメリット」とする。
社内に品質保証部門を持たない中小にとっては、事前点検活用は自社の人材育成費、人件費等の抑制につながる。ただ、製品の製造を受託する企業の中には、ノウハウの差はあるものの、サービスの一環で届出を支援する企業も少なくない。「取引先に事前審査は積極的に提案していない。社内でも別途費用負担を求めるか議論になるが、営業の一環で届出も支援している」(OEM企業)とする。「販売計画を立てにくい面はあるが、取引先に届出遅延に対する慣れもあり、20日ほどの短縮に意識がいかない。確実な受理の保証があるなら使うメリットはある」とする。
消費者庁は、具体的めど、方法論は明らかにしていないが、庁内や関係団体と調整を進め、届出スキームを再構築する。事前点検の活用拡大の肝は、手続き期間短縮や確実な保証など、消費者庁、2団体がいかに企業にメリットを示せるかだろう。
トクホ市場縮小続く、日健栄協が要望書提出へ
<伊藤長官・健食制度改革に言及>
特定保健用食品(トクホ)が30周年を迎えた。1月21日、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)はこれを記念して講演会を開催。だが、皮肉にも年間の許可品目数は昨年、制度創設当時の94年(10件)に次ぐ11件と低水準に落ち込む。市場も03年当時の水準。機能性表示食品制度の育成が進む中、活用の道を探る必要がある。消費者庁の伊藤明子長官は、講演で健康食品を含む制度全般の見直しに言及した。
2020年のトクホ市場は、前年比13・6%減の5610億円。コロナ禍において健康意識は高まっているはずだが、同年の健康食品通販の市場が同7%増(日本通信販売協会調べ)であったのとは対照的な結果だ。
年間の許可品目数は、07年の167件をピークに下降線。累計の許可品目は1071件。機能性表示食品制度が導入された15年(1210件)以降減少に転じ、1000件ほどで横ばい推移が続く。機能性表示食品の3分の1以下だ。
市場は、「整腸(オリゴ糖、乳酸菌、食物繊維)」と「中性脂肪・体脂肪」が二分する。「整腸」関連は、同18・0%減の3167億円。大半は乳酸菌。全体の約6割を占める。「中性脂肪・体脂肪」関連は同6・8%減の1475億円で27%のシェア。これ以外の保健の用途は、2~4%のシェアにとどまる。
商品の種類も「乳製品」(同12・1%減の3120億円)と「清涼飲料水」(同13・7%減の1768億円)が二分する状況でバリエーションは少ない。
◇
伊藤長官は講演で「信頼される制度」と業界のこれまでの取り組みを評価はしたが、「実際に健康栄養政策、消費者の幸せに結びつくことが大事。どんなものか知らない人が6割以上で大変多い。認知が課題」と話す。「すぐにできる話ではないが、健食全体をどう捉えるか。トクホの位置づけを議論したい」と、制度改革にも言及。魅力が薄れる中、活性化策が不可欠な状況だ。
◇
日健栄協は、トクホの活性化に向け、消費者庁に要望書を提出する。健食を対象に協会事業として行う「認定健康食品(JHFA)」、機能性表示食品、トクホを健食がステップアップする一連の制度と捉え、トクホと同じ成分・機能をうたう機能性表示品について、一定の要件のもとでトクホへの移行を可能にする提案を行う考えだ。
昨年検討され、限定的な改革にとどまった「疾病リスク低減表示」も、改めて表示範囲の拡大、新規申請の要件明確化を要請するとしている。
矢島鉄也理事長は講演の中で「トクホは高い信頼性がある。機能性表示食品とのすみ分けが必要。同じ成分・根拠でも同等の表示になっていない。機能性表示食品が優位という誤認を招くおそれもある」と指摘。「トクホの課題は機能性表示食品より限定的なこと。消費者に気づいてもらえず、開発者のモチベーションも上がらない」と訴える。
ただ、届出制を背景に企業の自己責任で行う制度と、国の許可を得るトクホを一連の制度とすることには、講演の視聴者から「飛躍がすぎる」「トクホに固執している」との感想が聞かれる。トクホが果たすことができる役割を十分議論することが必要だ。
届出数が増加「大変な状況」
「届出の確認が大変な状況。業界の方に協力いただき、民間の活力を活用して事前確認の仕組みを作りたい」。1月21日、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)主催の講演会で、伊藤長官は機能性表示食品の制度改善にこう言及した。
制度は、15年の創設から7年。届出数は、2年でトクホと並ぶ1000件超に達し、約3500件になる(20年度、失効・撤回を除く)。市場規模も20年に3000億円超と推計される(富士経済調べ)。
一方、届出数の増加からチェック業務の負担が増加する。
今年度の届出数は、これまで922件(今年1月時点)。月100件前後公表されている計算になる。加えて、根拠や成分配合量、商品名等の「変更届」への対応もある。
チェックを行う同庁食品表示企画課は、兼務を含め、10人前後の職員が対応。届出数の増加から「事業者も慣れはじめ、経験則だけではどうにもならない状況」と頭を抱える。業界関係者は、背景について「品質保証部を持つ中堅・大手は社内で綿密な確認を進めるが、そうした部署を持たない企業の届出が大量にあり、業務を圧迫している面もあるのでは」とする。
団体の事前点検活用は月数件
届出は17年、差戻しにかかる日数の遅れに対する企業の不満を受けた政府の規制改革推進会議の指摘を受け、「50日ルール」(1回の差戻し日数の目安)ができた。
今年8月には機能性表示食品の質疑応答集を改正。日健栄協、日本抗加齢協会(=JAAF)が行う届出の事前点検を活用した企業は、差戻しの所要日数の目標を30日にする「30日ルール」ができている。ただ、以降も業務のひっ迫は続く。
8月以降、2団体の事前点検を活用した届出は、JAAFが8月は122件中1件、9月は133件中4件、10月は127件中3件、11月は89件中1件のみ。届出資料をみる限り、この期間に日健栄協の利用は1件もない。「速やかに公表できるよう事前確認の中で問題ないものをあげてもらい、期間の短縮化を目指したい」(食品表示企画課)として、すでに2団体に支援を要請している。
日健栄協の事前点検は、初回38万5000円(非会員は77万円)、差戻し後の再点検は33万円(同66万円)で請け負う(いずれも税込)。支援業務の対応体制は非開示としているが、「10人はいない」(菊地範昭機能性食品部長)。支援業務の依頼は月に数件ほどあるが、1件あたり2週間ほどかかり「並行して2、3件が限界。10件は厳しい」(同)とする。今回の要請にも「体制を充実させたところで申請が増えるか。8月に質疑応答集を改正したばかりで1年ほど様子を見なければ分からない」(同)とする。
価格には、「現状のチェックリストを半分にするならよいが、リストも消費者庁の確認を得たもの。時間もかかり維持したい」とする。
日本抗加齢協会は、チェックリスクのみの「一次点検」が22万円、過去の指摘例など公開されていないチェックポイントを含めた複数の担当委員による「二次点検」は88万円になる。体制や現状の運用については、本紙掲載までに回答は得られなかった。
期間短縮、確実な保証はメリット
事前審査に対する企業の評価も芳しくない。「存在は知っているが、事業規模が小さく売り上げの見通しが立たない中で見合わない料金」(大手食品メーカー)。健康領域は参入間もないこともあり、投資に制約がある。「価格も安く、事業も拡大すれば迅速化のメリットはある」とする。
別の通販企業は、「メリットは感じる」とする。今も販売計画が立てづらい状況は解消されておらず、「差戻しを想定すると事前点検でスケジュール変更を迫られるリスクを減らせる」という。ただ、「利用する予定はない」。理由は「費用が大幅にかかり、利用しても確実に受理される保証がない」。30日間に短縮するとはいえ、「団体とのやり取りが20日以内に終わらなければ納期的なメリットはない」。「費用の無償化」「さらなる期間短縮」「事前点検した場合の受理が100%になること」などのメリットがあれば活用するという。
すでに多くの届出を行う大手メーカーは、「差戻しが想定される場合、20日間の短縮はメリット」とする。
ただ、複数の商品で利用するとなると費用負担も数百万円と重くなる。前出の企業同様、「事前の点検で時間がかかっては意味がなく、より早くしなければメリットにならない」と指摘する。
改善の方向性については「日数の問題より結果が分からない中でやり取りしなければならない点が課題。事前点検したものは即OKとなればメリット」とする。
社内に品質保証部門を持たない中小にとっては、事前点検活用は自社の人材育成費、人件費等の抑制につながる。ただ、製品の製造を受託する企業の中には、ノウハウの差はあるものの、サービスの一環で届出を支援する企業も少なくない。「取引先に事前審査は積極的に提案していない。社内でも別途費用負担を求めるか議論になるが、営業の一環で届出も支援している」(OEM企業)とする。「販売計画を立てにくい面はあるが、取引先に届出遅延に対する慣れもあり、20日ほどの短縮に意識がいかない。確実な受理の保証があるなら使うメリットはある」とする。
消費者庁は、具体的めど、方法論は明らかにしていないが、庁内や関係団体と調整を進め、届出スキームを再構築する。事前点検の活用拡大の肝は、手続き期間短縮や確実な保証など、消費者庁、2団体がいかに企業にメリットを示せるかだろう。
トクホ市場縮小続く、日健栄協が要望書提出へ
<伊藤長官・健食制度改革に言及>
特定保健用食品(トクホ)が30周年を迎えた。1月21日、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)はこれを記念して講演会を開催。だが、皮肉にも年間の許可品目数は昨年、制度創設当時の94年(10件)に次ぐ11件と低水準に落ち込む。市場も03年当時の水準。機能性表示食品制度の育成が進む中、活用の道を探る必要がある。消費者庁の伊藤明子長官は、講演で健康食品を含む制度全般の見直しに言及した。
2020年のトクホ市場は、前年比13・6%減の5610億円。コロナ禍において健康意識は高まっているはずだが、同年の健康食品通販の市場が同7%増(日本通信販売協会調べ)であったのとは対照的な結果だ。
年間の許可品目数は、07年の167件をピークに下降線。累計の許可品目は1071件。機能性表示食品制度が導入された15年(1210件)以降減少に転じ、1000件ほどで横ばい推移が続く。機能性表示食品の3分の1以下だ。
市場は、「整腸(オリゴ糖、乳酸菌、食物繊維)」と「中性脂肪・体脂肪」が二分する。「整腸」関連は、同18・0%減の3167億円。大半は乳酸菌。全体の約6割を占める。「中性脂肪・体脂肪」関連は同6・8%減の1475億円で27%のシェア。これ以外の保健の用途は、2~4%のシェアにとどまる。
商品の種類も「乳製品」(同12・1%減の3120億円)と「清涼飲料水」(同13・7%減の1768億円)が二分する状況でバリエーションは少ない。
◇
伊藤長官は講演で「信頼される制度」と業界のこれまでの取り組みを評価はしたが、「実際に健康栄養政策、消費者の幸せに結びつくことが大事。どんなものか知らない人が6割以上で大変多い。認知が課題」と話す。「すぐにできる話ではないが、健食全体をどう捉えるか。トクホの位置づけを議論したい」と、制度改革にも言及。魅力が薄れる中、活性化策が不可欠な状況だ。
◇
日健栄協は、トクホの活性化に向け、消費者庁に要望書を提出する。健食を対象に協会事業として行う「認定健康食品(JHFA)」、機能性表示食品、トクホを健食がステップアップする一連の制度と捉え、トクホと同じ成分・機能をうたう機能性表示品について、一定の要件のもとでトクホへの移行を可能にする提案を行う考えだ。
昨年検討され、限定的な改革にとどまった「疾病リスク低減表示」も、改めて表示範囲の拡大、新規申請の要件明確化を要請するとしている。
矢島鉄也理事長は講演の中で「トクホは高い信頼性がある。機能性表示食品とのすみ分けが必要。同じ成分・根拠でも同等の表示になっていない。機能性表示食品が優位という誤認を招くおそれもある」と指摘。「トクホの課題は機能性表示食品より限定的なこと。消費者に気づいてもらえず、開発者のモチベーションも上がらない」と訴える。
ただ、届出制を背景に企業の自己責任で行う制度と、国の許可を得るトクホを一連の制度とすることには、講演の視聴者から「飛躍がすぎる」「トクホに固執している」との感想が聞かれる。トクホが果たすことができる役割を十分議論することが必要だ。