仮想モール各社が出店者向けの物流サポート事業を強化している。アマゾンジャパンはヤマト運輸と共同で、「マーケットプレイス」出品者の自社出荷に対し特別運賃を適用する配送サービスを開始する。楽天グループは日本郵便との合弁会社を7月に設立、共同の物流拠点や共同の配送システムの構築などを通じて出店者にメリットを提供する。また、ヤフーもヤマト運輸と組み、新たにサイズ別全国一律料金の提供を始めた。各モールとも出店者の物流支援が競合との差別化の1つのカギになると認識し、しのぎを削っている。
物流合弁会社を日本郵便と設立
楽天グループでは、「楽天市場」出店者の物流業務を請け負うサービス「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」を手掛けており、利用店舗数は今年6月末時点で前年同月比79・0%増、4~6月の出荷量は前年同期比72・9%増と順調に拡大している。
RSLは全国統一価格で配送できる点が店舗にとってはメリットとなっており、料金体系も競合を意識した設定となっている。楽天によれば、RSL利用店舗は高い売上成長率を出しているという。
今後のさらなる利用者増に向けて、カギとなりそうなのが日本郵政との連携だ。両社は3月12日、資本業務提携を締結し、物流やモバイル、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの領域での連携を強化している。
物流分野では、日本郵便が抱える2万4000の郵便局・全国の配達ネットワークと楽天が保有する会員数1億超のデータをかけ合わせることでデジタル化を進める。共同の物流拠点や配送システムを通じて物流のDXを推進することで、ユーザーにとっては「欲しいときに欲しい物を、欲しい場所で一度に受け取れる」サービスを、差出人や荷主にとっては「出荷キャパシティーの拡大、サービス向上による顧客育成と物流コスト削減」が実現できるサービスを目指すというものだ。
さらに、楽天と日本郵政子会社の日本郵便では、物流事業を手掛ける新会社として「JP楽天ロジスティクス」を7月1日に設立。共同の物流拠点の構築、共同の配送システム及び受取サービスの構築、物流センター「楽天フルフィルメントセンター(RFC)」の利用拡大と日本郵便のゆうパック等の利用拡大に向けた取り組みを進めている。
同社では既存拠点のほか、2023年までに開設を予定している拠点を含めた11拠点を新会社に分割。楽天の物流拠点を日本郵便の配送網に組み入れることで、シームレスで効率の良い物流ネットワークを構築する。
24年度以降は新規で共同の物流施設の構築を予定しており、22年度は2億個、25年度は3~5億個の取扱荷量となる見込み。共同拠点では、楽天が構築してきた拠点同様に、省人化・自動化されたものとする。
新たな物流デジタルトランスフォーメーション(DX)プラットフォームの構築も目指す。まとめて1回で受け取りやすくするなど、顧客満足度の向上を図るのか、荷主向けには、出荷キャパシティー拡大や、サービスレベル向上による顧客育成、物流コストの最適化といったメリットを提供する。将来的には他のネット販売事業者や配送事業者にもプラットフォームを開放する予定。
現在はRFCから出荷された商品は、集荷拠点となる郵便局に持ち込まれてから、全国の郵便局に発送される形だが、今後は拠点への持ち込みを省略して、直行便のトラックを出すといったことが可能になるという。そのため、物流の効率化やリードタイム短縮が見込めるという。
同社の三木谷浩史社長は、9月に開催された出店者イベント「楽天オンラインEXPO2021」において「まとめて配送したり、宅配ロッカーを設置したり、週1回の配送を希望するユーザーへの対応、当日配送など、多岐に渡る配送手段をサポートしていきたい」と述べた。
他モール受注分の取り込みも
ヤフーは、運営する「Yahoo!ショッピング」「PayPayモール」の出品者へヤマト運輸との連携による「フルフィルメントサービス」を昨年後半から提供しているが、今年4月には大幅なリニューアルを行った。リニューアルは、中小規模のストアがより使いやすくなるようにしたもので、ウェブでの申込による最短2日間での契約完了可能なパッケージとしたほか、EC用の配送商品で置き配にも対応する「EAZY(イージー)」(5月から)での配達、「サイズ別全国一律配送料金」の適用などとなっている。
「フルフィルメントサービス」は、出品者がヤマト運輸へ商品在庫を預けた上で、「受注」「データダウンロード」「トータルピック」「帳票発行」「シングルピック」「梱包」「出荷」の一連の作業をヤマト側が受け持つもの。出店者は作業負荷が軽減でき、販売業務だけに集中できるようにしたサービスとなっている。
リニューアル後に開始したイージーでの配達は、配送事業者、EC事業者、EC利用者をデジタル情報でリアルタイムにつなげられるのが大きな特徴。受け取る直前まで受取場所を変更したり、置き配(非多面での受取)に対応したりできる。
なお、ヤマト運輸は都心部などでイージーの配送を担うパートナーの「イージークルー」は20年度末時点で1000人を超えており、現状でも増やしているという。また、ヤフー向けだけではないが、イージーの21年度の総取扱個数は4億個を見込んでいるという。
「サイズ別全国一律配送料金」は、小型荷物用ポスト投函の「ネコポス」が179円(税抜)、60サイズが382円(同)、80サイズが424円(同)、100サイズが459円(同)、120サイズが598円、140サイズが925円、160サイズが998円という割安な料金を設定している。地帯別でなく、全国どこへ送っても変わらない料金で、この料金には梱包資材と梱包作業の費用も含まれている(保管料は別途)。他の仮想モールで提供されている宅配便運賃を下回る業界最安の設定にしている。
「フルフィルメントサービス」は他の仮想モールで受注した商品の配送にも対応。ただし、運賃は別途設定し、ヤフーの仮想モールに比べ割高な設定にしている。
他の仮想モールでの受注に関する出荷等は、ヤフー向けと他の仮想モールで価格差があることから、ヤフー向けの受注分のみをフルフィルメントサービスを利用し、他の仮想モールでの受注分を自社で発送の業務を行う出店者があり、仮想モールごとにオペレーションが分かれてしまうというケースがあるとしている。そこで10月1日から12月末まで、キャンペーンとしてヤフーの仮想モール向け配送料を他の仮想モールで受注した場合についても適用している。受注対応の煩雑化や仮想モールによって顧客への配送リードタイムが異なるとった課題もあったとし、キャンペーンを通じて、業務負荷のメリットを享受してもらい、他の仮想モール受注分についても利用を促していく。
アマゾンはヤマトと共同で特別運賃
アマゾンジャパンは年内にヤマト運輸と共同でマーケットプレイス出品者の自社出荷に対し特別運賃を適用する配送サービス「マーケットプレイス配送サービス」を始める。コロナ禍にあって、マーケットプレイスの新規出店者には店舗運営事業者が多く、出荷作業に苦慮しているケースが多いことなどから提供することにした。既に両社は4月からフルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)を利用する出品者向けの納品輸送で連携しており、今回は第2弾の連携の取り組みとなる。
「マーケットプレイス配送サービス」は、アマゾンに出品する販売事業者の自社出荷のすべての商品が対象となる。ヤマト運輸が提供する「宅急便」「宅急便コンパクト」「ネコポス」を特別運賃で利用でき、特別運賃は前月の利用実績により3段階の料金体系を採用し、実績が500個以上で最も割安な運賃となる。宅急便の60サイズ(同一地域内の配送の場合)では、前月合計250個未満の場合が537円、同250個以上500個未満が454円、同500個以上で436円となる。ネコポスもそれぞれの前月実績で218円、201円、174円で利用できる。
新型コロナ感染症の拡大から、新規の出品者には店舗のみを運営していた事業者が数倍に増えているという。このようなECに取り組み始めたばかりの新規出品者の場合、出荷のための人的リソースが不足していたり、配送品質に不安を抱いたりするケースがあるとしている。このような新規出品者や中小規模の既存出品者などを新たなサービスでサポートする。
10月5日開催のアマゾンのECイベント「Amazon ECサミット」でヤマト運輸との連携について尋ねられたアマゾンジャパンセラーサービス事業本部の永妻玲子事業部長は、「ECの高まりから、出荷作業の人的な不足という声が寄せられている。配送スピード、送料無料、荷物追跡など自社ではチャレンジしづらい。ヤマトとの連携で特別運賃を提供し、中小事業者の配送コストを削減し、そのリソース等を販売戦略に振り向けもらう」ことが狙いと述べた。
ヤマト運輸は従来、主にラストマイルでアマゾンの商品の配送を担っていたが、4月からはFBAを利用する出品者の在庫をアマゾンのフルフィルメントセンターへ納品する「パートナー・キャリア・プログラム」にも関わっている。「Amazon ECサミット」で永妻事業部長と対談したヤマト運輸の長尾裕社長は同プログラムについて「出品者が荷物を預けたいというタイミングで、いかに早く在庫に反映できるような仕組みまで含めてフルフィルメントと考えており、当社の4000カ所の拠点と6万人のセールスドライバーのネットワークをフルに活用してもらい、より良いビジネスが展開できと見ている。ブラッシュアップを図っていきたい」と語った。
物流合弁会社を日本郵便と設立
楽天グループでは、「楽天市場」出店者の物流業務を請け負うサービス「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」を手掛けており、利用店舗数は今年6月末時点で前年同月比79・0%増、4~6月の出荷量は前年同期比72・9%増と順調に拡大している。
RSLは全国統一価格で配送できる点が店舗にとってはメリットとなっており、料金体系も競合を意識した設定となっている。楽天によれば、RSL利用店舗は高い売上成長率を出しているという。
今後のさらなる利用者増に向けて、カギとなりそうなのが日本郵政との連携だ。両社は3月12日、資本業務提携を締結し、物流やモバイル、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの領域での連携を強化している。
物流分野では、日本郵便が抱える2万4000の郵便局・全国の配達ネットワークと楽天が保有する会員数1億超のデータをかけ合わせることでデジタル化を進める。共同の物流拠点や配送システムを通じて物流のDXを推進することで、ユーザーにとっては「欲しいときに欲しい物を、欲しい場所で一度に受け取れる」サービスを、差出人や荷主にとっては「出荷キャパシティーの拡大、サービス向上による顧客育成と物流コスト削減」が実現できるサービスを目指すというものだ。
さらに、楽天と日本郵政子会社の日本郵便では、物流事業を手掛ける新会社として「JP楽天ロジスティクス」を7月1日に設立。共同の物流拠点の構築、共同の配送システム及び受取サービスの構築、物流センター「楽天フルフィルメントセンター(RFC)」の利用拡大と日本郵便のゆうパック等の利用拡大に向けた取り組みを進めている。
同社では既存拠点のほか、2023年までに開設を予定している拠点を含めた11拠点を新会社に分割。楽天の物流拠点を日本郵便の配送網に組み入れることで、シームレスで効率の良い物流ネットワークを構築する。
24年度以降は新規で共同の物流施設の構築を予定しており、22年度は2億個、25年度は3~5億個の取扱荷量となる見込み。共同拠点では、楽天が構築してきた拠点同様に、省人化・自動化されたものとする。
新たな物流デジタルトランスフォーメーション(DX)プラットフォームの構築も目指す。まとめて1回で受け取りやすくするなど、顧客満足度の向上を図るのか、荷主向けには、出荷キャパシティー拡大や、サービスレベル向上による顧客育成、物流コストの最適化といったメリットを提供する。将来的には他のネット販売事業者や配送事業者にもプラットフォームを開放する予定。
現在はRFCから出荷された商品は、集荷拠点となる郵便局に持ち込まれてから、全国の郵便局に発送される形だが、今後は拠点への持ち込みを省略して、直行便のトラックを出すといったことが可能になるという。そのため、物流の効率化やリードタイム短縮が見込めるという。
同社の三木谷浩史社長は、9月に開催された出店者イベント「楽天オンラインEXPO2021」において「まとめて配送したり、宅配ロッカーを設置したり、週1回の配送を希望するユーザーへの対応、当日配送など、多岐に渡る配送手段をサポートしていきたい」と述べた。
他モール受注分の取り込みも
ヤフーは、運営する「Yahoo!ショッピング」「PayPayモール」の出品者へヤマト運輸との連携による「フルフィルメントサービス」を昨年後半から提供しているが、今年4月には大幅なリニューアルを行った。リニューアルは、中小規模のストアがより使いやすくなるようにしたもので、ウェブでの申込による最短2日間での契約完了可能なパッケージとしたほか、EC用の配送商品で置き配にも対応する「EAZY(イージー)」(5月から)での配達、「サイズ別全国一律配送料金」の適用などとなっている。
「フルフィルメントサービス」は、出品者がヤマト運輸へ商品在庫を預けた上で、「受注」「データダウンロード」「トータルピック」「帳票発行」「シングルピック」「梱包」「出荷」の一連の作業をヤマト側が受け持つもの。出店者は作業負荷が軽減でき、販売業務だけに集中できるようにしたサービスとなっている。
リニューアル後に開始したイージーでの配達は、配送事業者、EC事業者、EC利用者をデジタル情報でリアルタイムにつなげられるのが大きな特徴。受け取る直前まで受取場所を変更したり、置き配(非多面での受取)に対応したりできる。
なお、ヤマト運輸は都心部などでイージーの配送を担うパートナーの「イージークルー」は20年度末時点で1000人を超えており、現状でも増やしているという。また、ヤフー向けだけではないが、イージーの21年度の総取扱個数は4億個を見込んでいるという。
「サイズ別全国一律配送料金」は、小型荷物用ポスト投函の「ネコポス」が179円(税抜)、60サイズが382円(同)、80サイズが424円(同)、100サイズが459円(同)、120サイズが598円、140サイズが925円、160サイズが998円という割安な料金を設定している。地帯別でなく、全国どこへ送っても変わらない料金で、この料金には梱包資材と梱包作業の費用も含まれている(保管料は別途)。他の仮想モールで提供されている宅配便運賃を下回る業界最安の設定にしている。
「フルフィルメントサービス」は他の仮想モールで受注した商品の配送にも対応。ただし、運賃は別途設定し、ヤフーの仮想モールに比べ割高な設定にしている。
他の仮想モールでの受注に関する出荷等は、ヤフー向けと他の仮想モールで価格差があることから、ヤフー向けの受注分のみをフルフィルメントサービスを利用し、他の仮想モールでの受注分を自社で発送の業務を行う出店者があり、仮想モールごとにオペレーションが分かれてしまうというケースがあるとしている。そこで10月1日から12月末まで、キャンペーンとしてヤフーの仮想モール向け配送料を他の仮想モールで受注した場合についても適用している。受注対応の煩雑化や仮想モールによって顧客への配送リードタイムが異なるとった課題もあったとし、キャンペーンを通じて、業務負荷のメリットを享受してもらい、他の仮想モール受注分についても利用を促していく。
アマゾンはヤマトと共同で特別運賃
アマゾンジャパンは年内にヤマト運輸と共同でマーケットプレイス出品者の自社出荷に対し特別運賃を適用する配送サービス「マーケットプレイス配送サービス」を始める。コロナ禍にあって、マーケットプレイスの新規出店者には店舗運営事業者が多く、出荷作業に苦慮しているケースが多いことなどから提供することにした。既に両社は4月からフルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)を利用する出品者向けの納品輸送で連携しており、今回は第2弾の連携の取り組みとなる。
「マーケットプレイス配送サービス」は、アマゾンに出品する販売事業者の自社出荷のすべての商品が対象となる。ヤマト運輸が提供する「宅急便」「宅急便コンパクト」「ネコポス」を特別運賃で利用でき、特別運賃は前月の利用実績により3段階の料金体系を採用し、実績が500個以上で最も割安な運賃となる。宅急便の60サイズ(同一地域内の配送の場合)では、前月合計250個未満の場合が537円、同250個以上500個未満が454円、同500個以上で436円となる。ネコポスもそれぞれの前月実績で218円、201円、174円で利用できる。
新型コロナ感染症の拡大から、新規の出品者には店舗のみを運営していた事業者が数倍に増えているという。このようなECに取り組み始めたばかりの新規出品者の場合、出荷のための人的リソースが不足していたり、配送品質に不安を抱いたりするケースがあるとしている。このような新規出品者や中小規模の既存出品者などを新たなサービスでサポートする。
10月5日開催のアマゾンのECイベント「Amazon ECサミット」でヤマト運輸との連携について尋ねられたアマゾンジャパンセラーサービス事業本部の永妻玲子事業部長は、「ECの高まりから、出荷作業の人的な不足という声が寄せられている。配送スピード、送料無料、荷物追跡など自社ではチャレンジしづらい。ヤマトとの連携で特別運賃を提供し、中小事業者の配送コストを削減し、そのリソース等を販売戦略に振り向けもらう」ことが狙いと述べた。
ヤマト運輸は従来、主にラストマイルでアマゾンの商品の配送を担っていたが、4月からはFBAを利用する出品者の在庫をアマゾンのフルフィルメントセンターへ納品する「パートナー・キャリア・プログラム」にも関わっている。「Amazon ECサミット」で永妻事業部長と対談したヤマト運輸の長尾裕社長は同プログラムについて「出品者が荷物を預けたいというタイミングで、いかに早く在庫に反映できるような仕組みまで含めてフルフィルメントと考えており、当社の4000カ所の拠点と6万人のセールスドライバーのネットワークをフルに活用してもらい、より良いビジネスが展開できと見ている。ブラッシュアップを図っていきたい」と語った。