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<高島屋の通販戦略> コロナ禍で自家需要を開拓 地方紙で高齢者との接点も

2021年10月 7日 13:00

 高島屋は、コロナ禍で通販チャネルが好調だ。高島屋顧客のECシフトが進んで自家需要の開拓で成果が出ているほか、ラグジュアリーファッションや時計の世界的ブランドを扱うコーナーを新設するなど百貨店が得意とするゾーンの品ぞろえも拡充してきた。今期は出産内祝いカタログを創刊してEC送客を図る取り組みを始めたほか、主力サイト「高島屋オンラインストア」のリニューアルも実施した。紙媒体を活用した通販を含めてトップラインの成長と利益改善に挑む高島屋の通販戦略を見ていく。
 










 同社の2021年2月期におけるネットビジネスの売上高は前年比約60%増の297億円に拡大。そのうち、「高島屋オンラインストア」は70%近く伸びて250億円程度を占める。食料品宅配サービスの「ローズキッチン」も70%以上の成長率となり、グループで運営するファッション通販サイト「タカシマヤファッションスクエア」も約17%伸長と健闘した。

 昨年はコロナの感染拡大で実店舗の休業を余儀なくされ、実店舗からEC注文品を出荷しているリスクに直面したが、化粧品などでは出荷店舗を都心店から地方に移すなどしてEC運営を継続した。

 コロナ禍でとくに伸びたのが自家需要だった。コロナ禍の初期は、どこも品薄になった除菌グッズやトイレットペーパーなどが売れたが、その後は自宅で快適に過ごすためのアイテムや少し贅沢な気分が味わえる商品にニーズが移って定着した。

 同社のECチャネルは、コロナ以前からギフトや食料品が強く、それ以外の強化が課題で、ギフト依存からの脱却を目指した取り組みと消費者ニーズが重なり、オンラインストアの次の軸を探る機会になったという。

 高島屋はコロナ禍でのEC利用拡大を受け、食料品とリビング、化粧品、ラグジュアリー系の各カテゴリーにEC専任者を配置した。

 従来は高島屋の各店からオンラインストアで販売する商品を募っていたため、品ぞろえのバランスが取れていなかったという。そこで、MD本部にEC先任者を置き、全体を見ながら欠けていた自家需要への品ぞろえ強化を昨年下期から本格着手した。

 コロナ禍でとくに海外ブランドのECチャネルに対する考え方も変化しており、オンラインストアには昨年9月にラグジュアリーファッションのゾーンを開設したのに続き、今年6月には世界の名だたる時計ブランドを取り扱う「高島屋ウォッチメゾン」のコーナーを新設するなど、好調なハイブランド需要にも応えている。

 店頭との連携面では、オウンドメディアのあらゆる枠をECの訴求に振り切った。高島屋各店が持つホームぺージやLINEなどのSNSアカウントに加え、コーポレートサイト、アプリ、カード会員や友の会会員向けの媒体などをフル活用してオンラインストアの企画を発信した。

 その結果、これまではオンラインストアを使っていなかった高島屋顧客が利用を始めるなど、「ものすごい勢いでお客様のECシフトが進んだ」(西名香織EC事業部長)という。

主力サイトをリニューアル

 新客開拓に向けては新たな取り組みも始めた。今上期は6月21日に出産内祝いカタログ「高島屋の出産内祝い」を創刊。1400以上の産院にカタログ設置と無料配布を始め、購入はオンラインストアに誘導する。産院で顧客接点を作るのは初めてで、これまでアプローチしたことのない層の獲得を目指す。

 同社によると、消費者と高島屋の最初の接点として、百貨店の強みであるブランド力や信用力を発揮できる出産内祝いは大きなチャンスで、その後に続くお食い初めやハーフバースデーの提案など、通販チャネルにとどまらず百貨店店頭を含めて顧客のカスタマージャーニーを構築するきっかけになると見ている。

 8月10日には百貨店ECとしての独自性の発揮と顧客の利便性向上を目指して「高島屋オンラインストア」を刷新した。

 同サイトは訪問者の約7割がスマホ経由で、手軽に買い物をしたいニーズが高まっていることから、スマホでの視認性や操作性を向上させるなどスマホファーストの仕様に変更。利用できるクーポンや新着商品など顧客一人ひとりに最適な情報をタイムリーに知らせる機能を追加したほか、商品検索機能の充実化などを図った。

 加えて、衣食住のジャンルをまたいだライフスタイル型の商品提案を強化するとともに、実際に商品を購入したユーザーの感想や評価をレーダーチャートで視覚的に表現した。

 また、8月30日には、コロナ禍における食料品の通販ニーズ拡大を受けて、デパ地下グルメを自宅に届ける食料品宅配サービス「ローズキッチン」の配達エリアを従来の1都7県から1都13県に拡大している。

 一方でECチャネルの課題のひとつがSNS活用の強化だ。今上期にオンラインストアのツイッターアカウントを開設し、インスタグラムやLINEなど各種SNSを使い分けた提案を行っていく。

 LINEは多くの世代が利用しているため、店舗とECの相互送客に活用していきたい。ツイッターやインスタグラムは若い層の獲得を図るチャネルとして役割を分けていく。

 また、今後は遅れていたライブコマースについても本格化させる考えで、ネットビジネスの売上高は24年2月期に500億円を計画している。

紙媒体も食品メインに成長

 クロスメディア事業部が手がけるカタログ通販事業は前期(21年2月期)の売上高が前年比17%増の173億円となり、紙媒体も健闘した。

 カタログ通販の新客開拓は新聞広告がメインだ。数年前に他の百貨店がカタログ事業から撤退し、百貨店として総合カタログを展開するのは高島屋だけになった。70代以上の高齢者の4人にひとりが買い物難民とも言われる中、地方百貨店が撤退したエリアなどを候補に、地方紙を活用して当該層へのアプローチを強化している。

 また、2回目以降の購買につなげるために、新聞広告を見て食料品を購入した顧客は次に何を購入する確率が高いかをデータと照らし合わせて個別にDMを送付。新聞広告は顧客開発費と位置づけ、広告単体で効果測定をし過ぎないようにしているという。

 新聞広告に掲載する商材としては、食料品では鰻や牛丼の具などを、ファッション分野では中価格帯のオリジナルブランド「タカシマヤスタイル・プリュ」の露出を高めて成果を得ている。

 同社によると、カタログやオンラインストアでは鰻の販売が絶好調で、とくに父の日は鰻が上位を占めるほど。「こういう情報をグループで共有していきたい。百貨店店頭でも父の日に”鰻祭り”のような催しを開催してもいいのでは。父の日に日本酒とおつまみのセットや甚平という情報は古い」(郡一哉クロスメディア事業部長)とする。

 「スタイル・プリュ」については定期的に新聞広告を打っており、昨年11月に高島屋大宮店に開設したリアルショップの情報を発信すると広告展開に合わせて来店者数も増えるという。

 「スタイル・プリュ」は変型サイズのチラシが多かったが冊子化して友の会会員向けの会報誌「ハミングタイム」でも展開。百貨店顧客も購入しており、年間売上高が5億円規模のブランドに育った。当該ブランドは消化率が非常に高く、半分以上を完全買い取りで展開しているため利益面にも貢献している。

 「スタイル・プリュ」はメンズ展開も強化しており、今後も成長が見込める。また、今後は大きいサイズのファッションや健康食品を強化するほか、食料品分野では個食対応にも取り組む考えだ。

 一方、同社は5~6年前にカタログの季刊誌化などの構造改革を行って売り上げを落とし、オペレーターの人数なども事業規模に合わせて縮小したが、その後の収益改善と再成長に合わせて設備投資も行ってきている。

 ただ、コロナ禍の急激な需要増によって電話注文の応答率が悪化。通販顧客から「つながりにくい」という声が多く寄せられたことを受け、オペレーターの増員などに本格着手した結果、応答率は昨年上期の56%に対し、下期は約80%に改善。目標の85%にあと一歩の水準まできた。

 カタログ通販は設備産業のため、労働単価の上昇も顕在化。オペレーターの人員増に加えて時給の上昇、倉庫作業費も上昇するなど、売上高は順調に推移したものの、受注コストも高まっているのが実情だ。

 また、前期はとくに食料品の需要増により、元々高い当該カテゴリーの売り上げ構成比が7ポイント増えたが、食料品の売上高が増えても儲かりにくいという共通の課題をカタログビジネスは抱えている。

 食料品は産直が多いため輸送費が高く、衣料品などに比べて儲かりづらい構造にあり、「利益面にも貢献できる食料品のビジネスを確立することが大事になる」(郡事業部長)としている。
 
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