「何でも難デキ」の功と罪
2005年特定保健用食品制度(=トクホ)改正で登場した「規格基準型」。既に許可を受けた成分と表示について、審査を緩和する仕組みだ。これにより、許可件数を増やす狙いだった。飲料のカテゴリーなどで、トクホ製品が増えるが、成分でも大きな偏りも生じさせた。このことは、逆にトクホの限界も露呈することになった。
◇
前回、トクホの市場におけるマーケットシェアは、ヤクルトなど一部の製品に支えられていることを指摘した。
許可製品を俯瞰すると、成分でも大きな偏りが生じていることが浮かび上がる。
「難消化性デキストリン(=難デキ)」。松谷化学工業が原料供給する水溶性の食物繊維だ。(1)整腸(2)食後血糖の上昇抑制(3)食後中性脂肪の上昇抑制(4)体脂肪低減(5)ミネラル吸収促進などさまざまな機能性を持つ一方で、加工性やマスキング性にもすぐれ、安全性も高い。非常に汎用性に優れた素材だ。
トクホの関与成分としても非常に多く利用されている。
同社のHPによれば、トクホの許可件数、1072品目(20年4月時点)のうち、392品目が難消化性デキストリンだという。シェアは実に36・6%に上る。
整腸では188品目(規格基準型=69品目)、食後血糖上昇抑制は165品目(同42品目)、食後中性脂肪上昇抑制は39品目(同5品目)となっている。規格基準型は、表示や含有量が定型、定量となるデメリットはあるが、それでも一定の利用があったと言えよう。
◇
日本健康・栄養食品協会がまとめているトクホの市場規模調査では、トクホのマーケットシェアが一番大きかったのは07年になる。この年は6789億円の売り上げがあった。
前回調査の05年に比べて、500億円の上積みを見せているが、これに奏功したのが、中性脂肪・体脂肪を訴求する製品の伸びだ。05年は880億円だったが、07年は1606億円と2倍に近い大きな伸びとなっている。
この大きな要因は「難デキ」を関与成分とした製品、特に清涼飲料水であろう。07年のトクホにおける清涼飲料水の売り上げは1665億円。全体の24・5%を占める規模となっている。
◇
「何でも難デキ。トクホ制度の問題点と限界も垣間見えた」。当時を知る関係者は皮肉を込めてこう述べる。
前述の通り、難デキは、加工性が高く、味のマスキングも出来るため、どのような食品形態でも添加しやすい。この特徴を生かして、既存の飲料や食品に添加して、トクホを申請すれば、許可を得られる可能性が高い。このため、さまざまな形態の「難デキトクホ」が登場した。
飲料のカテゴリーでは、食後の「糖」や「中性脂肪」の上昇を抑えるという点は、消費者にダイエットに有効という暗黙のメッセージを与える。
典型例は、トクホのコーラであろう。コーラと言えば、糖分が多く、身体に悪いという印象もあるが、難デキを入れることで、脂肪の上昇を抑えるという機能が訴求できる。しかも、これは国の許可を受けたお墨付き。あくまで、機能性と安全性に関しての許可であるが、コーラの負のイメージ解消に役立ったともいえよう。
さらに象徴的だったのが、ノンアルコールビール飲料での騒動だ。15年にサッポロビールが、難デキを関与成分としたノンアルコールビールタイプのトクホを申請。これに対し消費者委員会が「飲酒の入り口になる」などの理由で「不適切」と答申。一方、消費者庁は要件を満たしているとして、許可した経緯がある。
「難デキは使いやすい成分だけに、いろいろな形態や製品に使われる。トクホコーラやノンアルトクホは、もともとのネガティブなイメージをプラスに転換しようとするマーケティングに利用した面もあろう」。前述の関係者は話す。
ただ、同じ成分と機能で、同じカテゴリーでは、差別化は難しい。こうなると広告手法や表現勝負となるが、「国の許可だけに批判を招きやすく、企業としては攻める広告がしにくい。だからヒットも見込めない」(同)。
トクホコーラでは場外戦も勃発した。13年、日本コカ・コーラは、ジンジャーエールに難デキを入れた新製品を発売し、その際「トクホウ!!!(特報)」と告知するテレビ広告を展開した。これに対し、消費者庁が「トクホと誤認する」と指導を行ったとされる。
トクホは6000億市場に膨らむ一方で、「製品」「成分」とも集中や偏りが大きく、バランスが悪い。それはさておき、2000年代に入り、大きな成長を遂げて、一般への認知を獲得していた。しかし、好事魔多し。トクホを象徴するブランドで、大騒動が起こる。(
つづく)
2005年特定保健用食品制度(=トクホ)改正で登場した「規格基準型」。既に許可を受けた成分と表示について、審査を緩和する仕組みだ。これにより、許可件数を増やす狙いだった。飲料のカテゴリーなどで、トクホ製品が増えるが、成分でも大きな偏りも生じさせた。このことは、逆にトクホの限界も露呈することになった。
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前回、トクホの市場におけるマーケットシェアは、ヤクルトなど一部の製品に支えられていることを指摘した。
許可製品を俯瞰すると、成分でも大きな偏りが生じていることが浮かび上がる。
「難消化性デキストリン(=難デキ)」。松谷化学工業が原料供給する水溶性の食物繊維だ。(1)整腸(2)食後血糖の上昇抑制(3)食後中性脂肪の上昇抑制(4)体脂肪低減(5)ミネラル吸収促進などさまざまな機能性を持つ一方で、加工性やマスキング性にもすぐれ、安全性も高い。非常に汎用性に優れた素材だ。
トクホの関与成分としても非常に多く利用されている。
同社のHPによれば、トクホの許可件数、1072品目(20年4月時点)のうち、392品目が難消化性デキストリンだという。シェアは実に36・6%に上る。
整腸では188品目(規格基準型=69品目)、食後血糖上昇抑制は165品目(同42品目)、食後中性脂肪上昇抑制は39品目(同5品目)となっている。規格基準型は、表示や含有量が定型、定量となるデメリットはあるが、それでも一定の利用があったと言えよう。
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日本健康・栄養食品協会がまとめているトクホの市場規模調査では、トクホのマーケットシェアが一番大きかったのは07年になる。この年は6789億円の売り上げがあった。
前回調査の05年に比べて、500億円の上積みを見せているが、これに奏功したのが、中性脂肪・体脂肪を訴求する製品の伸びだ。05年は880億円だったが、07年は1606億円と2倍に近い大きな伸びとなっている。
この大きな要因は「難デキ」を関与成分とした製品、特に清涼飲料水であろう。07年のトクホにおける清涼飲料水の売り上げは1665億円。全体の24・5%を占める規模となっている。
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「何でも難デキ。トクホ制度の問題点と限界も垣間見えた」。当時を知る関係者は皮肉を込めてこう述べる。
前述の通り、難デキは、加工性が高く、味のマスキングも出来るため、どのような食品形態でも添加しやすい。この特徴を生かして、既存の飲料や食品に添加して、トクホを申請すれば、許可を得られる可能性が高い。このため、さまざまな形態の「難デキトクホ」が登場した。
飲料のカテゴリーでは、食後の「糖」や「中性脂肪」の上昇を抑えるという点は、消費者にダイエットに有効という暗黙のメッセージを与える。
典型例は、トクホのコーラであろう。コーラと言えば、糖分が多く、身体に悪いという印象もあるが、難デキを入れることで、脂肪の上昇を抑えるという機能が訴求できる。しかも、これは国の許可を受けたお墨付き。あくまで、機能性と安全性に関しての許可であるが、コーラの負のイメージ解消に役立ったともいえよう。
さらに象徴的だったのが、ノンアルコールビール飲料での騒動だ。15年にサッポロビールが、難デキを関与成分としたノンアルコールビールタイプのトクホを申請。これに対し消費者委員会が「飲酒の入り口になる」などの理由で「不適切」と答申。一方、消費者庁は要件を満たしているとして、許可した経緯がある。
「難デキは使いやすい成分だけに、いろいろな形態や製品に使われる。トクホコーラやノンアルトクホは、もともとのネガティブなイメージをプラスに転換しようとするマーケティングに利用した面もあろう」。前述の関係者は話す。
ただ、同じ成分と機能で、同じカテゴリーでは、差別化は難しい。こうなると広告手法や表現勝負となるが、「国の許可だけに批判を招きやすく、企業としては攻める広告がしにくい。だからヒットも見込めない」(同)。
トクホコーラでは場外戦も勃発した。13年、日本コカ・コーラは、ジンジャーエールに難デキを入れた新製品を発売し、その際「トクホウ!!!(特報)」と告知するテレビ広告を展開した。これに対し、消費者庁が「トクホと誤認する」と指導を行ったとされる。
トクホは6000億市場に膨らむ一方で、「製品」「成分」とも集中や偏りが大きく、バランスが悪い。それはさておき、2000年代に入り、大きな成長を遂げて、一般への認知を獲得していた。しかし、好事魔多し。トクホを象徴するブランドで、大騒動が起こる。(つづく)