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【トクホ 終わりの始まり9.サプリの逆襲①】

2021年 6月17日 12:40

米国から強い市場開放要求

 特定保健用食品制度(トクホ)が(1)表示の弱さ(2)許可までの煩雑さなどで伸び悩むなか、海の向こうではドラスティックな動きが起こっていた。米国では94年に「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」が制定され、簡素な手続きでサプリメントに機能性表示を行うことが可能となり、市場は一気に活性化する。米国サイドはその余勢を駆って、日本への市場開放要求を行う。日本発の「機能性食品」のコンセプトは、米国で法制化され、日本へも波が届き、低迷するトクホへ変革を促すという皮肉な循環を生むこととなる。

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 DSHEAの成立はサプリメントの存在意義を高らかにうたうものであった。ホワイトハウスは「国民の健康を向上させるため、サプリメントの規制を改革した」とのステートメントを発表。ビル・クリントン大統領(当時)は業界向けに祝福のメッセージを出すなど、トップダウンで新法を制定させた。

 冒頭では「健康の向上や疾病予防への、栄養素の重要性やサプリメントの役割が急速に科学的に立証されている」などと示されている。

 表示は、事業者が表示しようとする内容(ラベルのコピー)を米国医薬品食品局(FDA)に届け出るだけ。表示の根拠は、事業者が責任を持って有するという極めて簡素な手続きだ。これに基づき「免疫機能を正常に保つ」などの表示が可能となる。

 個別許可で審査が必要にも関わらず、「お腹の調子を整える」など弱い表示しかできないトクホとは真逆の制度だ。

 もう一つ、大きなポイントは対象となるサプリメントの定義だ。

 同法では成分について「ビタミン・ミネラル・ハーブ類」などとした上、形状を「錠剤・カプセル・粉末等で、一般的な食品や一時的な食事に用いられるものでないもの」とした。トクホで除外された「錠剤・カプセル」形状を認め、さらにトクホで必須の「一般的な食品」は除外した。

 この部分でもDSHEAとトクホはまったく逆転していることになる。

 新法が業界に与えたポジティブ効果は凄まじく、サプリメントの市場規模は94年の40億ドルから、98年には120億ドルと3倍になったという。制定4年で50製品にも満たないトクホとこの部分でも好対照をみせる。

 制度にとって、理念やイデオロギーではなく、時代や社会のニーズが最も重要であることを端的に示すといえよう。

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 一方、米国はプラグマティズムの系譜が示す通り、徹底して実利を求める国でもある。

 DSHEAで国内需要を喚起するだけでなく、世界最先端のルールを引っ提げて輸出を目論む。ターゲットとなったのが日本。錠剤・カプセルなどの形状を規制していることや、米国でサプリメントとなっているハーブなどの一部が日本では医薬品で、食品で使用できないことなどが「非関税障壁」だとして、市場開放の要求を始めた。

 この窓口となったのが94年に組織体制が強化された政府の市場開放問題苦情処理対策本部(OTO本部)。申し立て者は在日米国商工会議所(ACCJ)だ。特に当時、カプセル製造の世界的なメーカーだった、ワーナーランバートが中心となって後押しする。米国のサプリメント業界、NNFA(全米栄養食品協会)の会長も同社の幹部という布陣だった。

 ちなみに、OTOの後継組織である規制改革会議で、およそ20年後の2013年に「機能性表示食品」の導入が決まるが、何か因縁めいたものが感じられよう。

 この後、およそ10年間にわたり、日本の健康食品業界は、米国からの規制緩和要請の波を受け続ける。それとともに新制度も発足し、低迷を続けるトクホも、ターゲットとなり、否応なく形を変えることになる。

 今、この動きを振り返ると不完全燃焼となった「機能性食品」のてん末。錠剤・カプセルなどの形状をトクホから外したこと。これに対するサプリメントの「逆襲」が始まったようにも思える。(つづく)
 
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