日本通信販売協会(=JADMA)が4月1日、オンラインモール利用事業者向けの相談窓口を開設した。経済産業省は、収集した相談情報を、適正なプラットフォーム運営の評価材料にする。通販の主軸が紙からウェブに移行する中、協会は新興市場で台頭する企業の会員獲得に苦慮してきた。課題の吸い上げは、これら企業と接点を拡大する機会。JADMAの真価が問われる。
特定DPF指定取引条件開示へ
相談窓口開設は、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(取引透明化法)が2月に施行されたことに伴うもの。政府は、新法の規制対象となる「特定デジタルプラットフォーム(特定DPF)」を指定。取引条件の開示や、紛争等解決の体制整備を求める。毎年、運用状況の自己評価の報告を求め、評価結果を公表する。
特定DPFの指定を受けたのは、オンラインモールで、アマゾンジャパン(アマゾン)、楽天グループ(楽天市場)、ヤフー(ヤフーショッピング)の3社。アプリストアの運営事業者は、アップルおよびⅰTunes(アップルストア)、グーグル(グーグルプレイストア)の3社になる。
JADMA、モール相談窓口に
経産省が報告書評価で重視するのが、市場の実態との整合性だ。
公正取引委員会が19年に行ったオンラインモールの実態調査では、利用事業者の約8割が従業員10人以下、約7割が年間売上高1億円以下の小規模事業者。売上額の50%以上をモールでかせぐ企業が6割超に達するなど依存度は高い。
一方、特定DPFに指定されたモール3社をめぐり、規約を「一方的に変更された」との回答が約5~9割、その内容に「不利益なものがあった」との回答が約4~9割に上るなどしている。出店・出品審査の不満、販売条件、利用料をめぐる不満も蓄積している。
経産省では、事業者相談の窓口を整備し、特定DPFによる自己評価を判断する材料にする。事業の専門性を勘案し、オンラインモールの利用事業者向け相談窓口はJADMAに、アプリストアの利用事業者向け相談窓口はモバイル・コンテンツ・フォーラム(=MCF、事務局・東京都渋谷区、代表理事=小島勝見氏、田坂吉朗氏)に委託する。委託は、単年契約で更新。「定期的というより日常的に密に連携をとる」(日置純子商務情報政策局デジタル取引環境整備室長)と話す。
独自にアンケート調査も検討
JADMAは1984年に消費者相談窓口「通販110番」を開設。04年には顧客対応関連、10年には景品表示法関連の相談を受ける事業者相談窓口も開設した。
「通販110番」の受付体制は4人。19年度実績で4691件の相談に対応した。事業者相談は、顧客対応関連、景表法関連で公正取引委員会OBなど各1人を配置。月40~60件の相談に対応する。
オンラインモールの相談窓口は、7人の相談員を配置する。対象は、特定DPFに絞らず、取引透明化法で規制する「取引拒絶」や「規約の一方的変更」、「商品・売上データの使用」に関する相談を幅広く吸い上げる。独自に利用事業者を対象にしたアンケート調査、ヒアリングの実施も検討する。また、相互理解を深めるため、特定DPFサイドとも定期的な協議の場を持つことも視野に入れる。
MCFは、相談員2人、弁護士6人、相談員を統括するボードメンバー4人など計20人で構成する受付体制を敷き、相談者への回答内容や方針を決める。弁護士法で規制される非弁行為への対応から、著作権など知財関連法、IT関連法、独占禁止法など専門分野の弁護士を採用。規約等に関する法解釈で専門性を活かす。
今後、法務省が認定する「認証ADR(裁判外紛争解決手続き)」の認証を取得。より積極的にトラブル解決をサポートしていくことを目指す。
◇
JADMAは、設立から38年が経過。当初は、通販の社会認知に向け、強い問題意識を持つ企業関係者が協会運営に携わっていた。正会員数は438社(4月時点)。正会員数は500社を割り込み少が続いている。
景表法の法律相談、機能性表示食品制度の導入に合わせた「サプリ塾」の開講など、会員ニーズに応えるサービスの充実は、会員の支持につながっているとみられる。モール利用事業者の相談対応を通じて、中小、新興のEC企業と広く接点を築き、求心力を高めていくことが求められている。
「ぜひ利用したい」、アマゾン返金4割「算出根拠が不明」
<モール利用者の反応>
「ぜひ相談窓口を利用したい」。アマゾンに商品を納入するある事業者は話す。公正取引委員会がアマゾンジャパンが申請した確約計画を認定して約半年。その後の対応に不満を抱いている。
アマゾンへの公取委の立入検査は18年3月。事業者に不当な協力金を求めたり、セール時に割引額の補填を要請した行為が、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いがあるとされた。
アマゾンは昨年、納入業者への返金等を盛り込んだ確約計画を申請。アマゾンと公取委は、納入業者約1400社に対し、総額約20億円の返金を見込んでいるとした。ある事業者は「BaseCOOP(ベースコープ)」と呼ぶ「協力金」の契約を昨年9月末で終了する通知を受けた。
「ベースコープ」は、アマゾンがウェブ上で集客のために行った広告運用や、顧客や納入業者の利便性向上に向けたシステム開発・改善の費用の一部負担を求めるもの。この事業者の場合、2部門で、それぞれ売上額の5%を請求されていた。
通知では、この契約を一旦は終了するものの、「売上額の2%」に相当する新たなベースコープの支払い提示を受けた。その後、「確約計画に基づき『金銭的価値の回復(返金)措置』を実施する」との通知を受けた。対象期間は、17年1月から19年末の3年間。この間に支払った「ベースコープ」の申し出を求められた。
アマゾンとの取引は17年以前から。当初、「ベースコープ」は、広告出稿などアマゾンサイト内のサービスに使えるプール金になっていた。バイヤーの提案を受けて利用。ベンダーセントラル中心の取引にシフトして以降、サービス利用に使えなくなったものの、5%の請求は続いた。
申し出後の昨年12月、返金するとの通知を受けた。返金額は、申し出額の約4割。別の事業者も「4割ほど返金された」と話す。また、1週間ほど前には、ベンダーセントラルに、広告サービス等に利用できるプール金が表示されるようになり、一定額が表示されていたという。確約計画では、「金銭的価値の回復を行う」とされており、明確に「返金」の記載はない。表示されたプール金も「返金の一環」とみている。
ただ、「振り込むと通知がきただけで、4割の算出根拠が分からない。明細もなく、期間が3年間に区切られている理由も分からない」と不満を口にする。
公正性確保と消費者保護
<プラットフォーム規制>
取引透明化法は、経済産業大臣が指定した特定DPFに、利用者への取引条件開示等を義務づける。
特定DPFは、国内売上高3000億円以上のオンラインモール、同2000億円以上のアプリストアが対象。
取引条件の情報開示は、「取引拒絶の基準」「有償サービス利用を要請する場合の内容・理由」「検索順位を決める基本事項」「商品・売上データの取得・使用条件」「他の事業者へのデータ提供の可否、取得・提供の方法、条件」等を求める。条件変更には、内容の開示と理由の説明を求める。
規定を順守しない場合、国は、開示を「勧告」し、公表する。従わない場合は「命令」。命令違反は100万円以下の罰金を課す。
自主的な取り組みの体制整備は、指針に定める。提供条件の変更では、利用者への影響を考慮した事前説明など公正性確保のための体制整備に努める。苦情・紛争処理システムの整備、業務を管理する「国内管理人」の配置も定める。
苦情処理や情報開示の状況は、毎年、自己評価した報告書提出を義務づける。経産省は、これを評価。独占禁止法違反のおそれのある事案は、公正取引委員会に対処を要請する。
◇
3月には、政府が消費者保護の観点からプラットフォームを規制する「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」を閣議決定。危険商品の販売停止を要請できる規定を盛り込む。
危険商品は、商品の安全性を判断する上で必要な情報に虚偽や誤認があるもの。これら重要事項を欠き、事業者の所在が特定できない場合に要請できる。商品名も公表して注意を促す。
出品事業者の情報の開示請求権も規定。消費者が一定額以上の損害賠償を行う場合、プラットフォームに事業者の名称や住所の開示を求めることができる。
消費者や消費者団体、業界団体等が、消費者被害のおそれのある出品者の情報を通報できる申出制度も創設する。行政機関とプラットフォーム関連団体、消費者団体で構成する官民協議会も組織し、悪質事業者の排除に向けた協議を行う。
特定DPF指定取引条件開示へ
相談窓口開設は、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(取引透明化法)が2月に施行されたことに伴うもの。政府は、新法の規制対象となる「特定デジタルプラットフォーム(特定DPF)」を指定。取引条件の開示や、紛争等解決の体制整備を求める。毎年、運用状況の自己評価の報告を求め、評価結果を公表する。
特定DPFの指定を受けたのは、オンラインモールで、アマゾンジャパン(アマゾン)、楽天グループ(楽天市場)、ヤフー(ヤフーショッピング)の3社。アプリストアの運営事業者は、アップルおよびⅰTunes(アップルストア)、グーグル(グーグルプレイストア)の3社になる。
JADMA、モール相談窓口に
経産省が報告書評価で重視するのが、市場の実態との整合性だ。
公正取引委員会が19年に行ったオンラインモールの実態調査では、利用事業者の約8割が従業員10人以下、約7割が年間売上高1億円以下の小規模事業者。売上額の50%以上をモールでかせぐ企業が6割超に達するなど依存度は高い。
一方、特定DPFに指定されたモール3社をめぐり、規約を「一方的に変更された」との回答が約5~9割、その内容に「不利益なものがあった」との回答が約4~9割に上るなどしている。出店・出品審査の不満、販売条件、利用料をめぐる不満も蓄積している。
経産省では、事業者相談の窓口を整備し、特定DPFによる自己評価を判断する材料にする。事業の専門性を勘案し、オンラインモールの利用事業者向け相談窓口はJADMAに、アプリストアの利用事業者向け相談窓口はモバイル・コンテンツ・フォーラム(=MCF、事務局・東京都渋谷区、代表理事=小島勝見氏、田坂吉朗氏)に委託する。委託は、単年契約で更新。「定期的というより日常的に密に連携をとる」(日置純子商務情報政策局デジタル取引環境整備室長)と話す。
独自にアンケート調査も検討
JADMAは1984年に消費者相談窓口「通販110番」を開設。04年には顧客対応関連、10年には景品表示法関連の相談を受ける事業者相談窓口も開設した。
「通販110番」の受付体制は4人。19年度実績で4691件の相談に対応した。事業者相談は、顧客対応関連、景表法関連で公正取引委員会OBなど各1人を配置。月40~60件の相談に対応する。
オンラインモールの相談窓口は、7人の相談員を配置する。対象は、特定DPFに絞らず、取引透明化法で規制する「取引拒絶」や「規約の一方的変更」、「商品・売上データの使用」に関する相談を幅広く吸い上げる。独自に利用事業者を対象にしたアンケート調査、ヒアリングの実施も検討する。また、相互理解を深めるため、特定DPFサイドとも定期的な協議の場を持つことも視野に入れる。
MCFは、相談員2人、弁護士6人、相談員を統括するボードメンバー4人など計20人で構成する受付体制を敷き、相談者への回答内容や方針を決める。弁護士法で規制される非弁行為への対応から、著作権など知財関連法、IT関連法、独占禁止法など専門分野の弁護士を採用。規約等に関する法解釈で専門性を活かす。
今後、法務省が認定する「認証ADR(裁判外紛争解決手続き)」の認証を取得。より積極的にトラブル解決をサポートしていくことを目指す。
◇
JADMAは、設立から38年が経過。当初は、通販の社会認知に向け、強い問題意識を持つ企業関係者が協会運営に携わっていた。正会員数は438社(4月時点)。正会員数は500社を割り込み少が続いている。
景表法の法律相談、機能性表示食品制度の導入に合わせた「サプリ塾」の開講など、会員ニーズに応えるサービスの充実は、会員の支持につながっているとみられる。モール利用事業者の相談対応を通じて、中小、新興のEC企業と広く接点を築き、求心力を高めていくことが求められている。
「ぜひ利用したい」、アマゾン返金4割「算出根拠が不明」
<モール利用者の反応>
「ぜひ相談窓口を利用したい」。アマゾンに商品を納入するある事業者は話す。公正取引委員会がアマゾンジャパンが申請した確約計画を認定して約半年。その後の対応に不満を抱いている。
アマゾンへの公取委の立入検査は18年3月。事業者に不当な協力金を求めたり、セール時に割引額の補填を要請した行為が、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いがあるとされた。
アマゾンは昨年、納入業者への返金等を盛り込んだ確約計画を申請。アマゾンと公取委は、納入業者約1400社に対し、総額約20億円の返金を見込んでいるとした。ある事業者は「BaseCOOP(ベースコープ)」と呼ぶ「協力金」の契約を昨年9月末で終了する通知を受けた。
「ベースコープ」は、アマゾンがウェブ上で集客のために行った広告運用や、顧客や納入業者の利便性向上に向けたシステム開発・改善の費用の一部負担を求めるもの。この事業者の場合、2部門で、それぞれ売上額の5%を請求されていた。
通知では、この契約を一旦は終了するものの、「売上額の2%」に相当する新たなベースコープの支払い提示を受けた。その後、「確約計画に基づき『金銭的価値の回復(返金)措置』を実施する」との通知を受けた。対象期間は、17年1月から19年末の3年間。この間に支払った「ベースコープ」の申し出を求められた。
アマゾンとの取引は17年以前から。当初、「ベースコープ」は、広告出稿などアマゾンサイト内のサービスに使えるプール金になっていた。バイヤーの提案を受けて利用。ベンダーセントラル中心の取引にシフトして以降、サービス利用に使えなくなったものの、5%の請求は続いた。
申し出後の昨年12月、返金するとの通知を受けた。返金額は、申し出額の約4割。別の事業者も「4割ほど返金された」と話す。また、1週間ほど前には、ベンダーセントラルに、広告サービス等に利用できるプール金が表示されるようになり、一定額が表示されていたという。確約計画では、「金銭的価値の回復を行う」とされており、明確に「返金」の記載はない。表示されたプール金も「返金の一環」とみている。
ただ、「振り込むと通知がきただけで、4割の算出根拠が分からない。明細もなく、期間が3年間に区切られている理由も分からない」と不満を口にする。
公正性確保と消費者保護
<プラットフォーム規制>
取引透明化法は、経済産業大臣が指定した特定DPFに、利用者への取引条件開示等を義務づける。
特定DPFは、国内売上高3000億円以上のオンラインモール、同2000億円以上のアプリストアが対象。
取引条件の情報開示は、「取引拒絶の基準」「有償サービス利用を要請する場合の内容・理由」「検索順位を決める基本事項」「商品・売上データの取得・使用条件」「他の事業者へのデータ提供の可否、取得・提供の方法、条件」等を求める。条件変更には、内容の開示と理由の説明を求める。
規定を順守しない場合、国は、開示を「勧告」し、公表する。従わない場合は「命令」。命令違反は100万円以下の罰金を課す。
自主的な取り組みの体制整備は、指針に定める。提供条件の変更では、利用者への影響を考慮した事前説明など公正性確保のための体制整備に努める。苦情・紛争処理システムの整備、業務を管理する「国内管理人」の配置も定める。
苦情処理や情報開示の状況は、毎年、自己評価した報告書提出を義務づける。経産省は、これを評価。独占禁止法違反のおそれのある事案は、公正取引委員会に対処を要請する。
◇
3月には、政府が消費者保護の観点からプラットフォームを規制する「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」を閣議決定。危険商品の販売停止を要請できる規定を盛り込む。
危険商品は、商品の安全性を判断する上で必要な情報に虚偽や誤認があるもの。これら重要事項を欠き、事業者の所在が特定できない場合に要請できる。商品名も公表して注意を促す。
出品事業者の情報の開示請求権も規定。消費者が一定額以上の損害賠償を行う場合、プラットフォームに事業者の名称や住所の開示を求めることができる。
消費者や消費者団体、業界団体等が、消費者被害のおそれのある出品者の情報を通報できる申出制度も創設する。行政機関とプラットフォーム関連団体、消費者団体で構成する官民協議会も組織し、悪質事業者の排除に向けた協議を行う。