ヘルスケア表示 拱手の代償⑦ 業界人の責務
浮かぶアドネットの闇
ネット広告業界に衝撃を与えた大阪府警の薬機法違反事件。今後の教訓として事件関係者の話を総合して事件の構図を整理し、課題を示す。
今回の事件にはいくつかの重要なポイントで不明点がある。まずは広告主であるステラ漢方と代理店であるソウルドアウト、KMウェブコンサルティングの関係性だ。
ステラは黙して語らず。ソウルドアウトは「KMウェブコンサルティング社との取引は一切なく、KMウェブコンサルティング社が関与した広告記事について当社は一切関与していないことはお伝えさせていただきます」とKMとの関係を強く否定する。
実際は(1)ステラ漢方←→KMウェブコンサルティング(2)ステラ漢方←→ソウルドアウトという、並列関係になっていたようだ。さらに、ソウルドアウトの下には、K社という下請けがあったという。
さらに広告主であるステラ漢方の代表者は逮捕されず、代理店があげられた点だ。
これについては本紙の推察通り、「デジタルタトゥー」が強く影響したとみていいだろう。
関係者によれば、広告主であるステラ漢方と代理店サイドは、チャットのグループで、広告内容確認や承認を行っていたという。このチャットの存在が家宅捜索の段階で判明し、名前が登録してあった関係者に逮捕容疑が絞られたということのようだ。逮捕された関係者の勾留は数日間。その後も任意で取り調べを受けたという。
内偵が始まったのは昨年10月。3月に家宅捜索があり、その後のコロナ禍で一時捜査が止まった後、7月に逮捕。コロナがなければおよそ逮捕まで半年だったと思われる。これは平均的な捜査期間だろう。
では、大阪府警の問題意識はどこにあったのか。やはり、ネット広告における薬事法違反のまん延を憂慮。関係者も「なかなか代理店やASPなど仲介の取締りが行えないことを歯痒く感じていた」とする。その意味で、やはり今回の事件は伝家の宝刀である「何人規制」を用いて、大きく踏み込んだ事件であったと言えよう。ただ、代理店を狙いうちにしたのか、本丸は広告主だったのかは、定かではない。これは先ほどの物証との兼ね合いが強いということであろう。
代理店関係者の一斉逮捕という前例のない薬機法違反事件。関係者は3つの要因を指摘する。
1つ目は広告そのものの違法性だ。「ズタボロの肝臓が復活」のような表現は、明らかに医薬品的効能効果の標ぼうにあたる。こうした広告を行ったことがそもそもの間違いであろう。健食ビジネスでやってはいけない「一丁目一番地」である。
2つ目が顧客の獲得効率だ。広告展開において、コンプラインスと獲得効率を秤にかけ、後者に比重を置いたということだ。
玄人に言わせれば、「リスクの高い広告が必ずしも獲得効率が高い訳ではない」という。ただ、特にネットにおける中小零細の新規参入組の一部は、数字を優先して、自らが、本当に危ない橋を渡っていることに気づいていないとも言えよう。
3つ目が「アドネットワーク」の広告配信基準だ。アドネットワークとは、ネットサイトに広告を配信するプラットフォーム。本来、ここで違法な広告はブロックせねばならない。しかし、クライアントの意向に折れて、グレー、あるいはブラック広告をすべて排除には至っていないという。サイトの多くでは広告は「場貸し」であり、アドネットから配信を受ける。ここの考査が機能せねば、多くの違法性の高い広告が垂れ流しになる。また、代理店側も暗黙の了解がうかがえる。この闇は深く今後徹底追求の必要がある。
「当初は驚きと混乱。今はネット広告業界が変わるきっかけとなればと思う」。KMウェブコンサルティングの関係者はこう話す。
日本国憲法第21条に規定される「表現の自由」。当局の恣意的な介入や判断を許さない為にも違法広告が跋扈する現状を変える必要がある。
広告の自由、業界の自由を守るのは、他でもない業界人であり、その責務でもある。(おわり)
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ステラは黙して語らず。ソウルドアウトは「KMウェブコンサルティング社との取引は一切なく、KMウェブコンサルティング社が関与した広告記事について当社は一切関与していないことはお伝えさせていただきます」とKMとの関係を強く否定する。
実際は(1)ステラ漢方←→KMウェブコンサルティング(2)ステラ漢方←→ソウルドアウトという、並列関係になっていたようだ。さらに、ソウルドアウトの下には、K社という下請けがあったという。
さらに広告主であるステラ漢方の代表者は逮捕されず、代理店があげられた点だ。
これについては本紙の推察通り、「デジタルタトゥー」が強く影響したとみていいだろう。
関係者によれば、広告主であるステラ漢方と代理店サイドは、チャットのグループで、広告内容確認や承認を行っていたという。このチャットの存在が家宅捜索の段階で判明し、名前が登録してあった関係者に逮捕容疑が絞られたということのようだ。逮捕された関係者の勾留は数日間。その後も任意で取り調べを受けたという。
内偵が始まったのは昨年10月。3月に家宅捜索があり、その後のコロナ禍で一時捜査が止まった後、7月に逮捕。コロナがなければおよそ逮捕まで半年だったと思われる。これは平均的な捜査期間だろう。
では、大阪府警の問題意識はどこにあったのか。やはり、ネット広告における薬事法違反のまん延を憂慮。関係者も「なかなか代理店やASPなど仲介の取締りが行えないことを歯痒く感じていた」とする。その意味で、やはり今回の事件は伝家の宝刀である「何人規制」を用いて、大きく踏み込んだ事件であったと言えよう。ただ、代理店を狙いうちにしたのか、本丸は広告主だったのかは、定かではない。これは先ほどの物証との兼ね合いが強いということであろう。
代理店関係者の一斉逮捕という前例のない薬機法違反事件。関係者は3つの要因を指摘する。
1つ目は広告そのものの違法性だ。「ズタボロの肝臓が復活」のような表現は、明らかに医薬品的効能効果の標ぼうにあたる。こうした広告を行ったことがそもそもの間違いであろう。健食ビジネスでやってはいけない「一丁目一番地」である。
2つ目が顧客の獲得効率だ。広告展開において、コンプラインスと獲得効率を秤にかけ、後者に比重を置いたということだ。
玄人に言わせれば、「リスクの高い広告が必ずしも獲得効率が高い訳ではない」という。ただ、特にネットにおける中小零細の新規参入組の一部は、数字を優先して、自らが、本当に危ない橋を渡っていることに気づいていないとも言えよう。
3つ目が「アドネットワーク」の広告配信基準だ。アドネットワークとは、ネットサイトに広告を配信するプラットフォーム。本来、ここで違法な広告はブロックせねばならない。しかし、クライアントの意向に折れて、グレー、あるいはブラック広告をすべて排除には至っていないという。サイトの多くでは広告は「場貸し」であり、アドネットから配信を受ける。ここの考査が機能せねば、多くの違法性の高い広告が垂れ流しになる。また、代理店側も暗黙の了解がうかがえる。この闇は深く今後徹底追求の必要がある。
「当初は驚きと混乱。今はネット広告業界が変わるきっかけとなればと思う」。KMウェブコンサルティングの関係者はこう話す。
日本国憲法第21条に規定される「表現の自由」。当局の恣意的な介入や判断を許さない為にも違法広告が跋扈する現状を変える必要がある。
広告の自由、業界の自由を守るのは、他でもない業界人であり、その責務でもある。(おわり)