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「食楽医」で健康寿命を延伸【免疫解禁 新しい秩序への回廊⑤】 健康食品業界の「維新回天」に

2020年10月 1日 07:30

 9月28日、キリンHDは「免疫機能の維持」を表示する機能性表示食品の発表会を開催した。注目点は機能性関与成分である「プラズマ乳酸菌」の原料供給を表明したこと。既にカンロのグミなどにプラズマ乳酸菌が用いられており、免疫表示が可能となったことで拡大する方針。最も注目されるのは、昨年、キリングループ入りしたファンケルだ。

 サプリメントの代表企業であり、機能性表示食品のマーケットシェアでもトップをひた走る。制度の創設に当たっては、現在、相談役を務める宮島和美氏が消費者庁に設置された検討会に委員として参加。さまざまな提言を行うなど、常に業界をリードしてきた。

 マーケティング的な観点でみてもシナジー効果は大きい。キリンは、得意の飲料に軸足を置いて、スーパーやコンビニエンスストアなど一般の小売りルートで展開を図る方針だ。一方、ファンケルがサプリメントを上市して通信販売や直営店舗、ドラッグストアで攻勢をかければ新しいカテゴリーである食品の「免疫」領域は一気にすそ野が広がるだろう。

 ただ、新たに登場する「免疫」表示が消費者にどう受入れられるかは未知数だ。言葉自体は既に一般化しており、聞き慣れたもの。商品や広告での訴求は初めてとなるが、それがどこまで消費者に「刺さる」かはやってみないと分からないというのが実際だろう。

 現在の「コロナ禍」も大きな変動要因だ。一見すればジェットストリームにも思えるが規制という意味ではむしろアゲンストだ。少しでも新型コロナウイルスを想起させるような表現があれば厚生労働省、消費者庁、医薬サイド、消費者団体、「免疫表示」をやっかむ同業他社に至るまで敏感に反応することが想定され逆に広告が難しくなる可能性もある。

 贅沢な悩みとも言えそうだが、どういう広告を展開するかは興味深いポイントだろう。

 今回の「免疫表示」がマクロな視点で今後どのような意味を持つかを整理しておきたい。

 ポイントは、引き金となった今年3月に閣議決定された政府の「健康・医療戦略」だ。33頁におよぶ網羅的な提言の中に、「免疫機能の改善等を通じた保健用途における新たな表示を実現することを目指す」と示されたことで、消費者庁が二の足を踏んできた免疫表示が解禁されたのだ。

 「健康・医療戦略」の価値と重要度を業界関係者はほとんど理解していない。これは官邸主導の政治マターであり、現状の規制の変更を強く促すものだ。「規制ありき」ではなく「健康・医療戦略ありき」だ。対象期間は当面2024年までで新たに発足した菅政権においてもバトンを受けた重要課題と言える。業界関係者はこれをよく読み直す必要がある。

 この戦略の大方針は「国民の『健康寿命』の延伸」。これは機能性表示食品制度の目的にも掲げられている。基本理念は「健康長寿社会の形成に資する産業活動の創出と海外展開」。産業振興と育成もポイント。さらに注目すべきは「健康と病気を「二元論」で捉えるのではなく連続的に捉える「未病」の考え方や取り組みを進める指標の構築等が重要であると記載されている。

 翻って現在の規制のあり方は食・薬・医を完全に切り分け、特に「食」が「医」「薬」に入らないように排除すべく、監視指導を強めている。

 今回の免疫表示でも、消費者庁関係者の発言を聞くと、早速にこうした考え方が前面に出てきている。これは健康・医療戦略が描く未来像とは、異なっていよう。

 連載のサブタイトルは「新しい秩序への回廊」とした。「健康・医療戦略」が示す通り、「食薬医」は本来、状況に応じてオールパッケージで健康寿命の延伸のために提供されるべきものだ。

 未来志向で国民の健康をいかに守るか。その具体的な手法を示せるか。行政は規制という手段を通じて「時計の針を逆に回す」ことをしてはならない。

 業界側には、「暗示」ではなく科学的根拠に基づく、正々堂々の表示を求めたい。「免疫表示」が、健康食品業界の「維新回天」に繋がることを望む。(おわり)
 
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