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ヘルスケア表示 拱手の代償⑥ 「一罰百戒」の後で

2020年10月 1日 07:30

警察庁指示の可能性も

 「起訴して有罪とするのは簡単ではない」。事件について、警察関係者はこう見通しを述べる。

 薬機法の伝家の宝刀ともいえる「何人規制」を発動して、代理店関係者を芋づる式に「逮捕」とは言え、裁判で有罪に持ち込むにはさまざまなハードルが存在するからだ。

 今回のような生活安全事案における刑事事件においては「薬機法」「詐欺」「組織犯罪処罰法」など、容疑と起訴にはさまざまなパターンがある。後者ほど、重罪で刑期も重いため、起訴や有罪への要件は厳しく、軽微な容疑から入って、逮捕後の供述や証拠固めで、起訴容疑の変更もある。

 以前の連載でも触れたが、神奈川県警が薬機法違反事件で全国無双の強さを見せた背景には、検察との強い連携があったと推察される。

 神奈川県警が同種の事件を摘発すると、なぜか橫浜地裁横須賀支部で裁判が行われていた。薬機法に強い検事がいたためと思われ「鉄壁のリレー」になっていた。無論、逮捕される側や弁護士がそれに気づくことはなかっただろう。

 今回の大阪府警の事件はどうか。ほとんど前例のない事件であり、警察としても検察としても、難しい事件であったことは想像に難くない。

 ではなぜ、大阪府警は事件を手掛けたのか。警察関係者はサプリメントのネット広告のあまりの無法振りを理由にあげる。

 「言いたい放題、やりたい放題。注意しても直さない。このままではめちゃくちゃなままで、見るに見かねてという想いだろう」。前回触れた、ヤフーが事前に排除した不適正広告が、年間で2億3千万件にものぼり、そのうちサプリメント等の関連が1千万件にのぼる事実が、この発言を裏付けよう。

 これは業界の問題意識とも合致する。「消費者庁は、一部業界団体を通じて、トクホや機能性表示食品など、広告表現上、ほとんど問題ないカテゴリーをさらに規約で縛ろうとしている。一方で健康食品は放置。やってる感を出しているが、本当に取り組むべき危ない案件は避けている」(行政関係者)。それだけに、業界としても今回の大阪府警の取り組みを高く評価しているという。

 さらに言えば、今回の大阪府警の動きは単独ではなく、「警察全体の方針だろう」というのが前述の関係者の見立てだ。特に生活安全事案については、警察庁から全国の警察に重点的に摘発すべき事案が伝達。最近で言えば「コロナ関連」の薬機法違反事件がこれに当たる。

 広告関係では、競合他社の依頼の上、特定のサプリメントに低い口コミ評価を行ったケースを福岡県警が手掛けるなど、警察はこれまでにない摘発を行っている。大阪の事件は野放図なネット広告のあり方を是正する警察の方針の一環の可能性があるといえよう。

 ただ、刑事事件の摘発には世論の後押しも欠かせず、警察サイドもこれを強く意識している。今回の事件でも関西テレビが、摘発をスクープし、事件も概要を詳細に報道。逮捕前の関係者に接触しているが、これは警察からの情報がないと不可能だ。さらに言えば、警察の黙認なく、逮捕前に容疑者に接触すれば、「容疑者の逃亡など事件を潰す可能性があった」として、出入り禁止になりかねない。

 こうした状況や背景からみても、今回の薬事法違反事件は、世論を慎重に見ながらの、「エイヤ」で取り組んだ象徴的な事件であったと言えよう。

 「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」日本国憲法21条が規定する「表現の自由」だ。この原理原則に基づき、消費者保護のため、どこまで当局の介入を許すべきなのか。この事件の本質はそこにある。(つづく)

 
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