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制度趣旨とマッチング【「免疫」解禁 新しい秩序への回廊④】 ボーダーをめぐりさや当ても

2020年 9月10日 07:30

 今年3月の「健康・医療戦略」で「免疫の改善等」の機能性表示食品への表示導入が決まる。具体的に実現すべく、科学的知見のちく積などに、言及されていたが、キリンの製品が「免疫機能の維持」をうたい8月7日に「免疫」第一号として公表される。

 「健常者の健康維持増進という制度趣旨へのマッチングが決め手だろう」。大手企業の研究者は語る。
 ただ、キリンの製品が公表されるや否や、科学的根拠について、ガイドラインとの整合性を指摘する声が上がっている。

 一点目はガイドラインで「認められない表現」とされる「限られた免疫指標のデータを用いて、身体全体の免疫に関する機能があると誤解を招く表現」に当たらないのかという点だ。

 キリンは「健康な方へのpDC細胞への採用とクリニカルアウトカムの両方が臨床試験から得られているため、該当しない」と説明する。

 つまり(1)pDC細胞(2)クリニカルアウトカムという複数の指標が健常人の「免疫機能の維持」を示唆しているということだ。

 二点目はキリンの説明にもある「クリニカルアウトカム」の位置づけだ。キリンのデータでは「寒気、熱っぽさ、のどの痛み、せき」を指標としている。感染症の症状でもあり、指標として不適切ではという指摘だ。

 先の研究者は「最終的なアウトカム(結論)が疾病に抵触しなければセーフだろう」と話す。要は「寒気、熱っぽさ、のどの痛み、せき」が抑えられたことで「免疫機能が維持された」との結論はOKだが、「感染症を予防する」だとNGとなる訳だ。

 クリニカルアウトカムに重点を置くのは、欧州食品安全機関(EFSA)の免疫の評価法でこれも参考に「届出資料を作成している」(キリン)という。

 さらに「pDC細胞は免疫の司令塔であり、これが活性化することで、他の免疫も活性化する点も免疫全体への機序として重要だったのでは」(関係者)との指摘もある。

 重要なポイントである「対象者」「作用機序」「アウトカム」が「健康の維持増進」の範囲内に収まっていたことが、今回の早期公表に繋がったといえよう。

 キリンも「長年ちく積したプラズマ乳酸菌の研究エビデンスが、制度の趣旨に沿ったものだったと考えている」とする。

 では、キリンが切り拓いた免疫回廊は、他社も次々に通過できるのだろうか。「そう簡単ではない」と関係者は語る。

 例えば、明治の乳酸菌1073R‐1の研究。人での臨床試験はあるが、免疫指標が限定されており、さらにアウトカムが「インフルエンザワクチンの効果を高める」「高齢者のインフルエンザ予防につながる」可能性となっており、これでは薬機法上、問題となろう。

 さらに昨秋のテレビCMでは、乳酸菌について「免疫力」「唾液の免疫機能が向上」「インフルエンザに有効な機能が確認!?」と表示し、「確信犯」「大胆過ぎる」「すごい度胸」と業界でも話題となっていた。ただその後、厚生労働省から改善指導を受けたとみられる。行政からマークされているとすれば、今後の動きに影響しよう。

 一方で、業界からは「免疫表示」に行政が神経質な対応を行うことで、機能性表示食品制度の趣旨が歪むのではとの懸念も聞かれる。

 この制度は企業の自己責任による「届出制」。消費者庁が行うのは書類の形式チェックである。一方で、「免疫機能の維持」では、科学的根拠の内容にもかなり踏み込んで、「チェックしているのでは」という指摘がある。実質的に「審査制」になっているとの指摘だ。

 また、健康医療戦略では「免疫の改善等」という文言となっている。官邸主導の政治マターであり「ここまでの表示は当然、許されるべき」(関係者)。ただ、消費者庁は早くも業界に対し「免疫の改善はNG」「免疫を高めるや向上もダメ」と防御線を引いており、どういう表現がボーダーとなるかは、今後、議論を呼ぶことになろう。(つづく)
 
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