「免疫維持」のヘルスケア表示が登場する。機能性表示食品として、サプリメントや飲料などで今秋にも発売される見通し。訴求力はもとより食薬医を繋ぐ新しい秩序の回廊と期待される。免疫表示はなぜ禁じられ、なぜ今回可能となったのか。コロナ禍という特殊状況を踏まえた今後の展開を含め、連載でひもといていく。
8月7日に機能性表示食品として公表され、初の「免疫」表示を行うのは、キリングループの「iMUSE(イミューズ)」ブランドのサプリメントや飲料の5製品。届出表示は「本品には、プラズマ乳酸菌(L lactis strain Plasma)が含まれます。プラズマ乳酸菌はpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています。」。機能性関与成分である「プラズマ乳酸菌」の研究報告が科学的根拠となっている。
「免疫」表示の是非は、2015年の同制度発足時からの懸案事項だった。
同制度のガイドラインには認められない表示例として、「限られた免疫指標のデータを用いて身体全体の免疫に関する機能があると誤解を招く表現」などとされていた。一方で消費者庁担当官はセミナー等で「免疫表示は内容とエビデンス次第」とも話し、科学的根拠が期待されてきた。
一方で直近でも、「免疫表示」は薬機法だけでなく、景品表示法でも取締りが行われていた。
消費者庁は昨年11月に、サプリメントの広告で「免疫力を高めるブロリコ」などと表示して事業者を景品表示法違反として処分した。根拠なく、製品を摂取することで、免疫力が高まり、病気を予防又は改善する効果があるように見せていた点を問題とした。
今年2月には厚生労働省が東京都を通じ、乳酸菌などの成分について免疫力を向上するように広告していた大手メーカー数社に対し、薬機法違反で指導を行ったようだ。ちょうどコロナ禍が広がる前のタイミングでもあり、以降、この種の成分広告をテレビや新聞などのマスメディアで見かけることはなくなった。
◇
振り子のように食と薬の間を揺れてきた「免疫」表示。それが今回、一気にポジティブに傾いたのはなぜか。政府の「健康・医療戦略」に組み込まれたからだ。この中では「機能性表示食品等について科学的知見の蓄積を進め、免疫機能の改善等を通じた保健用途における新たな表示を実現することを目指す」とある。
「健康・医療戦略」は3月27日に閣議決定されている。内閣の意思として全閣僚が了解するもので、全省庁は方針に従わねばならない。水面下でのロビー活動も想像できるが、閣議決定が「免疫解禁」のトリガーだ。
関係省庁は今回の公表について「科学的知見の積み重ねの結果。それに尽きる」(消費者庁保健表示室)、「内容を確認した上で現状では問題視していない」(消費者庁ヘルスケア表示指導室)、「消費者庁からも相談があり、医薬品的効能効果をうたっているとまで言えるものでもなく、薬機法上問題ないと考えている」(厚生労働省監視指導・麻薬対策課)と一様に「セーフ」判定だ。
今回の届出は対象が「健康な人」で疾病者ではない。さらに働きは「免疫機能の維持」であり、免疫を「高める」や「向上」ではない。閣議決定の文言が「免疫機能の改善」に踏み込んでいることを鑑みれば、明らかにセーフティーゾーンだとも言える。
とはいえ、そもそも「免疫」という言葉だけでは「薬機法的にもニュートラルで取り締まれないはず」(厚生労働省OB)。以前は健康食品の広告でも頻繁に使用されており、製品名にもなっていた。ところが20年前位から、実質的に食品には使用不可となる。なぜか。「がんの予防や治療などあまりに過激な広告がはびこったから」(業界関係者)。悪貨がはびこり、結果として「禁じられた言葉」となってしまったのだ。(
つづく)
8月7日に機能性表示食品として公表され、初の「免疫」表示を行うのは、キリングループの「iMUSE(イミューズ)」ブランドのサプリメントや飲料の5製品。届出表示は「本品には、プラズマ乳酸菌(L lactis strain Plasma)が含まれます。プラズマ乳酸菌はpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています。」。機能性関与成分である「プラズマ乳酸菌」の研究報告が科学的根拠となっている。
「免疫」表示の是非は、2015年の同制度発足時からの懸案事項だった。
同制度のガイドラインには認められない表示例として、「限られた免疫指標のデータを用いて身体全体の免疫に関する機能があると誤解を招く表現」などとされていた。一方で消費者庁担当官はセミナー等で「免疫表示は内容とエビデンス次第」とも話し、科学的根拠が期待されてきた。
一方で直近でも、「免疫表示」は薬機法だけでなく、景品表示法でも取締りが行われていた。
消費者庁は昨年11月に、サプリメントの広告で「免疫力を高めるブロリコ」などと表示して事業者を景品表示法違反として処分した。根拠なく、製品を摂取することで、免疫力が高まり、病気を予防又は改善する効果があるように見せていた点を問題とした。
今年2月には厚生労働省が東京都を通じ、乳酸菌などの成分について免疫力を向上するように広告していた大手メーカー数社に対し、薬機法違反で指導を行ったようだ。ちょうどコロナ禍が広がる前のタイミングでもあり、以降、この種の成分広告をテレビや新聞などのマスメディアで見かけることはなくなった。
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振り子のように食と薬の間を揺れてきた「免疫」表示。それが今回、一気にポジティブに傾いたのはなぜか。政府の「健康・医療戦略」に組み込まれたからだ。この中では「機能性表示食品等について科学的知見の蓄積を進め、免疫機能の改善等を通じた保健用途における新たな表示を実現することを目指す」とある。
「健康・医療戦略」は3月27日に閣議決定されている。内閣の意思として全閣僚が了解するもので、全省庁は方針に従わねばならない。水面下でのロビー活動も想像できるが、閣議決定が「免疫解禁」のトリガーだ。
関係省庁は今回の公表について「科学的知見の積み重ねの結果。それに尽きる」(消費者庁保健表示室)、「内容を確認した上で現状では問題視していない」(消費者庁ヘルスケア表示指導室)、「消費者庁からも相談があり、医薬品的効能効果をうたっているとまで言えるものでもなく、薬機法上問題ないと考えている」(厚生労働省監視指導・麻薬対策課)と一様に「セーフ」判定だ。
今回の届出は対象が「健康な人」で疾病者ではない。さらに働きは「免疫機能の維持」であり、免疫を「高める」や「向上」ではない。閣議決定の文言が「免疫機能の改善」に踏み込んでいることを鑑みれば、明らかにセーフティーゾーンだとも言える。
とはいえ、そもそも「免疫」という言葉だけでは「薬機法的にもニュートラルで取り締まれないはず」(厚生労働省OB)。以前は健康食品の広告でも頻繁に使用されており、製品名にもなっていた。ところが20年前位から、実質的に食品には使用不可となる。なぜか。「がんの予防や治療などあまりに過激な広告がはびこったから」(業界関係者)。悪貨がはびこり、結果として「禁じられた言葉」となってしまったのだ。(つづく)