緊急事態宣言が5月26日に解除され、新型コロナウイルスと共生する”ウィズコロナ社会”が始まった。コロナの感染防止と事業活動を両立させねばならない状況下で通販実施企業はどのようにビジネスを行っていくべきなのだろうか。今回は多くの通販事業者にとって最も大切な機能の1つといえる顧客からの受注・問い合わせの窓口であるコールセンターのあり方について、ウィズコロナ社会を見据えた試みを展開する各社の事例を見ながらあるべき今後の姿を探る。
ホテルで受注対応安全担保と密回避
ジャパネットホールディングスはコミュニケーターの安全性と電話対応業務の継続を両立させる取り組みを実施している。その1つがホテルを借り受けて、コールセンターとして活用する試みだ。
同社では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、同社の通販サイトで商品を購入した顧客に商品の税込代金の10%分を独自クーポン「♯今だからWEB注文感謝クーポン」を発行する形で還元する取り組みなどで受注をECに誘導するなどの施策を進めつつ、コミュニケーターの安全性を優先し、休業補償を行った上で同社が福岡市内や都内に構えるコールセンターの密集状態をなくすべく、持病のある人や妊婦、高齢者と同居している人らを中心に人員を減らし、通常の6割程度で電話対応業務を運営する形とした。こうした対応に加え、さらにコミュニケーターの安全性を担保しながらも電話対応の業務を維持・継続していくために、また、「休業せざるを得えず、苦しい状況の地元(福岡)のホテル業界の力になれればとの想いもあった」(同社)として実施したのがホテルを活用したコールセンターだ。
同取り組みは4月27日から本格的に実施した。緊急事態宣言で休業しており、さらに医療機関からの利用依頼がきていない福岡市内にある3カ所のビジネスホテルを借り受け、合計約250室を確保。公共交通機関を使用せずとも当該ホテルまで出勤可能なコミュニケーターらが出勤し、責任者から部屋の鍵を受け取り、ソフトフォン(※パソコンのソフトウェアを介してインターネット回線の通話ができる通話機能)を内蔵したパソコンを配備した各部屋で受注業務を行うもの。
なお、感染リスクをなるべく排除するため、各コミュニケーターに対し、専用の部屋を1室ずつ割り当てた。例えばAさんに割り当てた部屋はAさんだけが使用する部屋とし、シフト上、Aさんが休みの日であっても当該部屋にBさんという別の人を割り当てることはしない。
「3密」の状態になりやすいコールセンターは通信会社の拠点で実際に感染者が出るなどリスクもあり、特に不安感を強く持つコミュニケーターも多いとみられる。1人1部屋で勤務できる「ホテル受注」は感染対策としては万全。同社のコミュニケーターからも「ありがたいという人が多かった」(同社)という。
なお、ホテル受注は通常のコールセンターでの勤務とは異なり、1人きりで業務にあたることになるため、「孤独感を心配していた」(同)ようだが、オンライン会議システムを活用した「朝礼」を行うなど一体感を醸成するような取り組みが奏功し、懸念していた状態とはなっていないようだ。
ホテル受注の取り組みのもう1つのメリットとして、本来のコールセンターにおいてさらに少ない人数で運営できるようになったということもある。すでに同社のコールセンターでは「【コロナ対策】使用制限席」を設けるなどし、オペレーターの間隔を2~3席程度空けて配置とするなどの取り組みを行ってきたが、ホテルにも受注の拠点を設けたことで働き手が分散化され、より少人数での勤務が可能になったからだ。
ホテルを借り受けて、コールセンターとして活用する試みは福岡での実施に加えて、5月末からは東京でもスタート。都内のホテルを借り受けて50室を確保し、福岡での取り組みと同様に、1人1部屋で電話対応業務を行っている。都内に構えるアフターフォローなどの顧客対応を行うコールセンターでは3月末から、受付時間をこれまでの「年中無休の午前10時から午後10時まで」から、「土日祝日を除く平日の午前10時から午後5時まで」と短縮。コミュニケーターも通常時の5~6割程度とするなどの対応を採ってきたが、5月26日の緊急事態宣言の解除を受けて、徐々に人員を復帰させていく中で、再びコールセンターが密にならぬよう実施したものだ。
同社では感染拡大の2波に備えて、また、今後のウィズコロナ社会に対応してコールセンターの在り方を変えていく。まず、ホテルでの電話対応業務は福岡および東京ともに6月末までは継続する予定。加えて、コールセンターの拠点内の不要なスペースなどを見直し、コミュニケーターの座席スペースをより広く取るなどレイアウトを変更。具体的な詳細はこれから決めていくようだが、座席と座席の間隔を広くしたり、アクリル板を設置するなどの対策を進めていく方向だという。感染を防止する施策はコールセンターの拠点のみならず、長崎や東京、福岡などの各事務所でも実施していく考えのようだ。
コールセンターの分散化で感染防止
ファンケルでは段階的に電話窓口の感染防止対策を進めている。4月初旬には、飯島社屋(横浜市栄区)にフロアを設け、本社に集約していたコールセンターを2拠点化。4月末には本社内に新たにコールセンターのブースを設け、稼働を始めている。
電話対応フロアは、本社(横浜市中区)の2階(90席)と4階(40席)、飯島社屋の3階(10席)と5階(同)という4フロア体制で運営する。席数の縮小は行わず、健康食品や化粧品の相談、製品の返品や交換、問い合わせ対応を行う。各フロアは、社会的距離を保持した座席配置を行うほか、フロア換気や手洗い・消毒の徹底、出勤前検温、マスクの着用などの感染防止対策を行う。
直営店休業の影響から通販の利用が増え、受注や問い合わせに関する入電数も増えている。また、店舗利用の顧客に対する通販への誘導を強化したことから入電が集中。一時的に電話がつながりにくいといった状況も発生したという。これに対応して、過去に電話窓口を経験した社員から応援を募り、対応。これにより、応答品質は従来の水準を維持しているようだ。
新型コロナは徐々に終息に向かっているが、年末までは現状の体制で運営していくことも検討している。今後の状況を把握しつつ拠点分散化の期間短縮や延長を判断する。
新日本製薬では電話対応業務は外部委託のほか、約100席を配置している自社コールセンターでも実施しているが、自社コールセンターは新型コロナを受け、取引先の来訪による打ち合わせを避けている状況から使用していない来客スペースをコールセンターの管理・サポート部門に開放するなどして、1フロアへの密集を避けて運営している。北九州市における感染拡大など今後の第2波に備え、当面はこの体制を継続する。
「これまでは深夜・早朝対応をしてくれる(コールセンター)業者に多く委託していく中で、(受注の)拠点が都内に集中してしまっていたが、コロナ問題を受けて、地方拠点を持つ委託先を検討していかねばならない。各社とも従来の運営体制を改革する必要がでてくるのでは」(通販企業A社幹部)との声も各社から聞かれ、ウィズコロナ社会において感染防止と働き手の確保を両立のために受注・問い合わせ拠点の見直し、多様化、分散化は通販各社が対応すべき喫緊の課題の1つと言えそう。自社コールセンターの改革や電話対応業務を委託する業者の選定にも動きがでてきそうだ。
支障ないよう3密回避、リモートワークには課題も
<コールセンター企業の対応は?>
通販企業の受注業務などを受託しているコールセンター業界では、今回の新型コロナウイルス感染症対策としてセンター内においての「3密」を回避するための取り組みをはじめ、業務時間の短縮、オペレーターのリモートワークなどが行われている。
3密対策としては、オペレーターの席をひとつずつ空けてオペレーター間の距離を保てるようにしたり、パーティションやビニールシートを用いて隣接者同士を遮断したりする取り組みが行われている。だが、そのうち席を空ける取り組みでは、オペレーター配置数を減らしてしまうことになってしまい、受注対応などオペレーター不足という事態になりかねない。
あるコールセンター企業は、席を空けることにより、4~5月における席数はコロナ以前の通常時に比べ3割程度減少したという。そのような状況で業務を運営しなければならず、苦慮しているところは多く、また、あらゆる拠点で行うということも難しい。隣接同士を遮断するといったパーティションなどの採用が現実的ではあるようだ。
一般では広まったリモートワークだが、コールセンター業界もオペレーターの在宅勤務に一部乗り出している。クライアント側の理解を得て行うべきものとするところが多い。課題となるのが、在宅時におけるインターネット環境、パソコン、電話に要する支出。また、コンプライアンスや個人情報といった問題もクリアすることが求められる。まだ実際の事例は少ないようだが、今後、リモートワーク体制を構築していかなければならないと多くコールセンター企業が考えている。
複数拠点を有しBCP対策のサポートも行っているコールセンター業界だが、今回のコロナにおいては対応拠点を他へ変えてという自然災害時のような対応策は取ることができなかった。今回のコロナを契機に、拠点だけでなくチャネルを増やしていくことが一層求められてくるとの認識を示しているところが多い。
一方で外出自粛の要請を受けて、買い物を通販で済ませるという消費者行動の変化が見られ、通販企業から業務受託するコールセンターは感染防止と通販向け受注業務の増加との両立を図らなければならないといった事態にも直面している。「スタッフの感染を防止することを第一義としながらも、社会インフラとも言える企業側と消費者側をつなぐ重要な役割を担っているとの認識」(コールセンター企業関係者)のもと、業務遂行と従業員の安全との両立を図って対応しているという。
いずれにしてもオペレーターの在宅での業務や、音声自動応答、チャットボットといったチャネルの多様化を進めていかなければならない状況。コロナ以前の状況に戻らないとし、今後のクライアント企業、そして消費者の動向を確認しながら、その変化に応じた業務体制を改めていくことがコールセンター業界でも進められていきそうだ。
ホテルで受注対応安全担保と密回避
ジャパネットホールディングスはコミュニケーターの安全性と電話対応業務の継続を両立させる取り組みを実施している。その1つがホテルを借り受けて、コールセンターとして活用する試みだ。
同社では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、同社の通販サイトで商品を購入した顧客に商品の税込代金の10%分を独自クーポン「♯今だからWEB注文感謝クーポン」を発行する形で還元する取り組みなどで受注をECに誘導するなどの施策を進めつつ、コミュニケーターの安全性を優先し、休業補償を行った上で同社が福岡市内や都内に構えるコールセンターの密集状態をなくすべく、持病のある人や妊婦、高齢者と同居している人らを中心に人員を減らし、通常の6割程度で電話対応業務を運営する形とした。こうした対応に加え、さらにコミュニケーターの安全性を担保しながらも電話対応の業務を維持・継続していくために、また、「休業せざるを得えず、苦しい状況の地元(福岡)のホテル業界の力になれればとの想いもあった」(同社)として実施したのがホテルを活用したコールセンターだ。
同取り組みは4月27日から本格的に実施した。緊急事態宣言で休業しており、さらに医療機関からの利用依頼がきていない福岡市内にある3カ所のビジネスホテルを借り受け、合計約250室を確保。公共交通機関を使用せずとも当該ホテルまで出勤可能なコミュニケーターらが出勤し、責任者から部屋の鍵を受け取り、ソフトフォン(※パソコンのソフトウェアを介してインターネット回線の通話ができる通話機能)を内蔵したパソコンを配備した各部屋で受注業務を行うもの。
なお、感染リスクをなるべく排除するため、各コミュニケーターに対し、専用の部屋を1室ずつ割り当てた。例えばAさんに割り当てた部屋はAさんだけが使用する部屋とし、シフト上、Aさんが休みの日であっても当該部屋にBさんという別の人を割り当てることはしない。
「3密」の状態になりやすいコールセンターは通信会社の拠点で実際に感染者が出るなどリスクもあり、特に不安感を強く持つコミュニケーターも多いとみられる。1人1部屋で勤務できる「ホテル受注」は感染対策としては万全。同社のコミュニケーターからも「ありがたいという人が多かった」(同社)という。
なお、ホテル受注は通常のコールセンターでの勤務とは異なり、1人きりで業務にあたることになるため、「孤独感を心配していた」(同)ようだが、オンライン会議システムを活用した「朝礼」を行うなど一体感を醸成するような取り組みが奏功し、懸念していた状態とはなっていないようだ。
ホテル受注の取り組みのもう1つのメリットとして、本来のコールセンターにおいてさらに少ない人数で運営できるようになったということもある。すでに同社のコールセンターでは「【コロナ対策】使用制限席」を設けるなどし、オペレーターの間隔を2~3席程度空けて配置とするなどの取り組みを行ってきたが、ホテルにも受注の拠点を設けたことで働き手が分散化され、より少人数での勤務が可能になったからだ。
ホテルを借り受けて、コールセンターとして活用する試みは福岡での実施に加えて、5月末からは東京でもスタート。都内のホテルを借り受けて50室を確保し、福岡での取り組みと同様に、1人1部屋で電話対応業務を行っている。都内に構えるアフターフォローなどの顧客対応を行うコールセンターでは3月末から、受付時間をこれまでの「年中無休の午前10時から午後10時まで」から、「土日祝日を除く平日の午前10時から午後5時まで」と短縮。コミュニケーターも通常時の5~6割程度とするなどの対応を採ってきたが、5月26日の緊急事態宣言の解除を受けて、徐々に人員を復帰させていく中で、再びコールセンターが密にならぬよう実施したものだ。
同社では感染拡大の2波に備えて、また、今後のウィズコロナ社会に対応してコールセンターの在り方を変えていく。まず、ホテルでの電話対応業務は福岡および東京ともに6月末までは継続する予定。加えて、コールセンターの拠点内の不要なスペースなどを見直し、コミュニケーターの座席スペースをより広く取るなどレイアウトを変更。具体的な詳細はこれから決めていくようだが、座席と座席の間隔を広くしたり、アクリル板を設置するなどの対策を進めていく方向だという。感染を防止する施策はコールセンターの拠点のみならず、長崎や東京、福岡などの各事務所でも実施していく考えのようだ。
コールセンターの分散化で感染防止
ファンケルでは段階的に電話窓口の感染防止対策を進めている。4月初旬には、飯島社屋(横浜市栄区)にフロアを設け、本社に集約していたコールセンターを2拠点化。4月末には本社内に新たにコールセンターのブースを設け、稼働を始めている。
電話対応フロアは、本社(横浜市中区)の2階(90席)と4階(40席)、飯島社屋の3階(10席)と5階(同)という4フロア体制で運営する。席数の縮小は行わず、健康食品や化粧品の相談、製品の返品や交換、問い合わせ対応を行う。各フロアは、社会的距離を保持した座席配置を行うほか、フロア換気や手洗い・消毒の徹底、出勤前検温、マスクの着用などの感染防止対策を行う。
直営店休業の影響から通販の利用が増え、受注や問い合わせに関する入電数も増えている。また、店舗利用の顧客に対する通販への誘導を強化したことから入電が集中。一時的に電話がつながりにくいといった状況も発生したという。これに対応して、過去に電話窓口を経験した社員から応援を募り、対応。これにより、応答品質は従来の水準を維持しているようだ。
新型コロナは徐々に終息に向かっているが、年末までは現状の体制で運営していくことも検討している。今後の状況を把握しつつ拠点分散化の期間短縮や延長を判断する。
新日本製薬では電話対応業務は外部委託のほか、約100席を配置している自社コールセンターでも実施しているが、自社コールセンターは新型コロナを受け、取引先の来訪による打ち合わせを避けている状況から使用していない来客スペースをコールセンターの管理・サポート部門に開放するなどして、1フロアへの密集を避けて運営している。北九州市における感染拡大など今後の第2波に備え、当面はこの体制を継続する。
「これまでは深夜・早朝対応をしてくれる(コールセンター)業者に多く委託していく中で、(受注の)拠点が都内に集中してしまっていたが、コロナ問題を受けて、地方拠点を持つ委託先を検討していかねばならない。各社とも従来の運営体制を改革する必要がでてくるのでは」(通販企業A社幹部)との声も各社から聞かれ、ウィズコロナ社会において感染防止と働き手の確保を両立のために受注・問い合わせ拠点の見直し、多様化、分散化は通販各社が対応すべき喫緊の課題の1つと言えそう。自社コールセンターの改革や電話対応業務を委託する業者の選定にも動きがでてきそうだ。
支障ないよう3密回避、リモートワークには課題も
<コールセンター企業の対応は?>
通販企業の受注業務などを受託しているコールセンター業界では、今回の新型コロナウイルス感染症対策としてセンター内においての「3密」を回避するための取り組みをはじめ、業務時間の短縮、オペレーターのリモートワークなどが行われている。
3密対策としては、オペレーターの席をひとつずつ空けてオペレーター間の距離を保てるようにしたり、パーティションやビニールシートを用いて隣接者同士を遮断したりする取り組みが行われている。だが、そのうち席を空ける取り組みでは、オペレーター配置数を減らしてしまうことになってしまい、受注対応などオペレーター不足という事態になりかねない。
あるコールセンター企業は、席を空けることにより、4~5月における席数はコロナ以前の通常時に比べ3割程度減少したという。そのような状況で業務を運営しなければならず、苦慮しているところは多く、また、あらゆる拠点で行うということも難しい。隣接同士を遮断するといったパーティションなどの採用が現実的ではあるようだ。
一般では広まったリモートワークだが、コールセンター業界もオペレーターの在宅勤務に一部乗り出している。クライアント側の理解を得て行うべきものとするところが多い。課題となるのが、在宅時におけるインターネット環境、パソコン、電話に要する支出。また、コンプライアンスや個人情報といった問題もクリアすることが求められる。まだ実際の事例は少ないようだが、今後、リモートワーク体制を構築していかなければならないと多くコールセンター企業が考えている。
複数拠点を有しBCP対策のサポートも行っているコールセンター業界だが、今回のコロナにおいては対応拠点を他へ変えてという自然災害時のような対応策は取ることができなかった。今回のコロナを契機に、拠点だけでなくチャネルを増やしていくことが一層求められてくるとの認識を示しているところが多い。
一方で外出自粛の要請を受けて、買い物を通販で済ませるという消費者行動の変化が見られ、通販企業から業務受託するコールセンターは感染防止と通販向け受注業務の増加との両立を図らなければならないといった事態にも直面している。「スタッフの感染を防止することを第一義としながらも、社会インフラとも言える企業側と消費者側をつなぐ重要な役割を担っているとの認識」(コールセンター企業関係者)のもと、業務遂行と従業員の安全との両立を図って対応しているという。
いずれにしてもオペレーターの在宅での業務や、音声自動応答、チャットボットといったチャネルの多様化を進めていかなければならない状況。コロナ以前の状況に戻らないとし、今後のクライアント企業、そして消費者の動向を確認しながら、その変化に応じた業務体制を改めていくことがコールセンター業界でも進められていきそうだ。