消費庁が5月15日、1年前に行った措置命令を撤回した。健康食品通販を行うユニヴァ・フュージョンに対するもの。違反認定した不当表示の「表示期間」に誤りがあったとする。ただ、措置命令の撤回は、過去に前例がないとみられる。消費者庁は「制度上起こりうる」と理解を求めるが、説明不足は否めない公表に企業は不信感を募らせている。
「前代未聞の事態、国賠もありうる」
「批判的な受け止めというより、あってはならない」、「役所として恥ずかしい話」。撤回を受け、消費者庁に在籍経験のある公取委OBをはじめ、複数の行政関係者は驚きの声をあげる。
景表法の調査は通常、数カ月から1年かけ、企業と複数回のやり取りを経て表示の精査、表示期間の認定が綿密に行われる。「表示期間も物理的証拠がなければ、事業者の供述調書で補う。ひっくり変えることはない」(公取委OB)。
まして景表法は監視強化に加え、課徴金の導入で厳罰化が進む。処分で、企業は広告出稿が困難になり、イメージの低下も避けられない。事業活動に与える影響は大きく、処分に不満を持つ企業による行政訴訟も相次ぐ。だからこそ綿密な調査で訴訟リスクを回避する必要もある。それ(撤回)は、起きてはならない事態なのだ。実際、今もユニヴァ社の処分に触れた報道はウェブ上に散見され、影響を受け続けている。
それだけに、今回の撤回は、「前代未聞の事態。国家賠償法に基づく賠償もありうる」(同)と指摘する。
ペーパー1枚で処分撤回
撤回は、ユニヴァ・フュージョンが販売していた酵素を含む健食をめぐるもの。昨年3月、同様の商品を扱う一斉処分の中で処分された。広告で「『燃やして』×『出して』理想のボディに」などと表示。「あたかも商品を摂取するだけで痩身効果が得られるかのように示す表示を行っていた」として、優良誤認と認定された。不当表示期間は15年10月から18年4月の約2年半だった。
それが1年後に突然の撤回となったが、理由は「認定した表示期間を改めて検討した結果」と、1枚のペーパーで説明するのみ。具体性を欠く説明に、企業からは「撤回は『ホワイト認定』なのか、調査は継続なのか」、「表示期間の誤りなら訂正で済むのでは。撤回は無罪放免と同じ。処分対象となった広告は掲出してよかったのか」と、説明を求める声があがる。「これだけでは何のことか分からない。優良誤認表示はなかったのか」(景表法に詳しい弁護士)と、専門家をして困惑させる始末。撤回はなぜ起きたのか。
「個別のやり取りは答えられない」
消費者庁は、「表示期間が違反認定と異なることが合理的に認められた」(表示対策課)と説明するのみ。表示の是非には、「『表示の裏付けとなる合理的根拠が認められない』という7条2項の内容まで見直したとはなっていない」としつつ、「処分を撤回したため個別案件のため答えられない」とする。
通常、処分に対する企業の不服申し立ては、行政不服審査法に基づく審査請求を行うか、行政訴訟を提起するかの二択だが、「個別のやり取りは答えられない」(同)と明らかにしていない。
ユニヴァ社にもコメントを求めたが、本紙掲載までに得られなかった。
3月だけで17件「案件多く大変」
背景に指摘されるのは、ここ数年、年間50件ほどの高水準で推移する執行件数など、強気の処分が裏目にでたことだ。
景表法の執行は、年度末の駆け込みで増加する。とくに、ユニヴァ社への処分が行われた19年3月は、17件もの処分が集中。18年3月の6件、20年3月の11件と比較しても際立っている。その中で、「年度末の駆け込み案件のずさんな処理が露呈した」(景表法に詳しい弁護士)、「昨年に処分を受け、審査請求した大正製薬の例があるように、個別の事情を無視した一斉処分で起きたミスでは」(前出の弁護士)と指摘する。
かつて処分を受けた企業も調査を振り返る。「根拠要求を受けて表示期間を報告する。ただ、最近の表示期間認定は『遅くとも』という言い回しが増えた。紙媒体と異なりウェブは後追いできず、自己申告に近いのでは」とする。この企業の場合、課徴金調査の際も表示期間は、処分前の根拠をベースに再確認はなかったという。処分を受けた別の企業も「しらみつぶしに調査するというより、自己申告を優先した処分が仇になったのでは。現場の調査官も”調査案件が多くて大変”と言っていた」とする。
措置命令が出れば、課徴金調査もセットで行われる。「ずさんな処分の後、課徴金調査で物理的な証拠がでてきたが、手続き上、選択できるのが撤回しかなかった」(公取委OB)との指摘もある。
課徴金なければ見過ごされた?
「公取委であれば起きないミス」(同)と、消費者庁の命令系統を問題視する声もある。公取委は、処分を合議制の行政委員会で承認。委員は、複数の学識経験者で構成する。「執行のハードルは高く、自ずからチェック機能が働いていた」(同)。組織の独善や暴走を防ぐブレーキがついていたわけだ。
一方、消費者庁の景表法執行ラインは、長官(法務省、当時)↓次長(内閣府)↓審議官(公取委)↓表示対策課長(公取委)↓食品表示対策室長(農林水産省)という布陣。事件処理は、表示対策課長が中心だが、承認する長官は必ずしも景表法に精通していない。「創設当初は、審議官の判断が国の判断になるため慎重だったが、見ている目の数が違う」(同)。執行件数の増加とともに調査がなおざりになっていたのではないか。
不実証広告規制など取締りは容易になる一方、課徴金など企業へのダメージが大きくなっている。本来、以前にもまして緊張感を持つことが求められる。だが、怖いのは、「課徴金がなければ処分確定でそのまま終わっていた話」(同)となっていたかもしれないこと。これは「氷山の一角」である可能性もある。消費者庁は説明責任を尽くす必要がある。
「前代未聞の事態、国賠もありうる」
「批判的な受け止めというより、あってはならない」、「役所として恥ずかしい話」。撤回を受け、消費者庁に在籍経験のある公取委OBをはじめ、複数の行政関係者は驚きの声をあげる。
景表法の調査は通常、数カ月から1年かけ、企業と複数回のやり取りを経て表示の精査、表示期間の認定が綿密に行われる。「表示期間も物理的証拠がなければ、事業者の供述調書で補う。ひっくり変えることはない」(公取委OB)。
まして景表法は監視強化に加え、課徴金の導入で厳罰化が進む。処分で、企業は広告出稿が困難になり、イメージの低下も避けられない。事業活動に与える影響は大きく、処分に不満を持つ企業による行政訴訟も相次ぐ。だからこそ綿密な調査で訴訟リスクを回避する必要もある。それ(撤回)は、起きてはならない事態なのだ。実際、今もユニヴァ社の処分に触れた報道はウェブ上に散見され、影響を受け続けている。
それだけに、今回の撤回は、「前代未聞の事態。国家賠償法に基づく賠償もありうる」(同)と指摘する。
ペーパー1枚で処分撤回
撤回は、ユニヴァ・フュージョンが販売していた酵素を含む健食をめぐるもの。昨年3月、同様の商品を扱う一斉処分の中で処分された。広告で「『燃やして』×『出して』理想のボディに」などと表示。「あたかも商品を摂取するだけで痩身効果が得られるかのように示す表示を行っていた」として、優良誤認と認定された。不当表示期間は15年10月から18年4月の約2年半だった。
それが1年後に突然の撤回となったが、理由は「認定した表示期間を改めて検討した結果」と、1枚のペーパーで説明するのみ。具体性を欠く説明に、企業からは「撤回は『ホワイト認定』なのか、調査は継続なのか」、「表示期間の誤りなら訂正で済むのでは。撤回は無罪放免と同じ。処分対象となった広告は掲出してよかったのか」と、説明を求める声があがる。「これだけでは何のことか分からない。優良誤認表示はなかったのか」(景表法に詳しい弁護士)と、専門家をして困惑させる始末。撤回はなぜ起きたのか。
「個別のやり取りは答えられない」
消費者庁は、「表示期間が違反認定と異なることが合理的に認められた」(表示対策課)と説明するのみ。表示の是非には、「『表示の裏付けとなる合理的根拠が認められない』という7条2項の内容まで見直したとはなっていない」としつつ、「処分を撤回したため個別案件のため答えられない」とする。
通常、処分に対する企業の不服申し立ては、行政不服審査法に基づく審査請求を行うか、行政訴訟を提起するかの二択だが、「個別のやり取りは答えられない」(同)と明らかにしていない。
ユニヴァ社にもコメントを求めたが、本紙掲載までに得られなかった。
3月だけで17件「案件多く大変」
背景に指摘されるのは、ここ数年、年間50件ほどの高水準で推移する執行件数など、強気の処分が裏目にでたことだ。
景表法の執行は、年度末の駆け込みで増加する。とくに、ユニヴァ社への処分が行われた19年3月は、17件もの処分が集中。18年3月の6件、20年3月の11件と比較しても際立っている。その中で、「年度末の駆け込み案件のずさんな処理が露呈した」(景表法に詳しい弁護士)、「昨年に処分を受け、審査請求した大正製薬の例があるように、個別の事情を無視した一斉処分で起きたミスでは」(前出の弁護士)と指摘する。
かつて処分を受けた企業も調査を振り返る。「根拠要求を受けて表示期間を報告する。ただ、最近の表示期間認定は『遅くとも』という言い回しが増えた。紙媒体と異なりウェブは後追いできず、自己申告に近いのでは」とする。この企業の場合、課徴金調査の際も表示期間は、処分前の根拠をベースに再確認はなかったという。処分を受けた別の企業も「しらみつぶしに調査するというより、自己申告を優先した処分が仇になったのでは。現場の調査官も”調査案件が多くて大変”と言っていた」とする。
措置命令が出れば、課徴金調査もセットで行われる。「ずさんな処分の後、課徴金調査で物理的な証拠がでてきたが、手続き上、選択できるのが撤回しかなかった」(公取委OB)との指摘もある。
課徴金なければ見過ごされた?
「公取委であれば起きないミス」(同)と、消費者庁の命令系統を問題視する声もある。公取委は、処分を合議制の行政委員会で承認。委員は、複数の学識経験者で構成する。「執行のハードルは高く、自ずからチェック機能が働いていた」(同)。組織の独善や暴走を防ぐブレーキがついていたわけだ。
一方、消費者庁の景表法執行ラインは、長官(法務省、当時)↓次長(内閣府)↓審議官(公取委)↓表示対策課長(公取委)↓食品表示対策室長(農林水産省)という布陣。事件処理は、表示対策課長が中心だが、承認する長官は必ずしも景表法に精通していない。「創設当初は、審議官の判断が国の判断になるため慎重だったが、見ている目の数が違う」(同)。執行件数の増加とともに調査がなおざりになっていたのではないか。
不実証広告規制など取締りは容易になる一方、課徴金など企業へのダメージが大きくなっている。本来、以前にもまして緊張感を持つことが求められる。だが、怖いのは、「課徴金がなければ処分確定でそのまま終わっていた話」(同)となっていたかもしれないこと。これは「氷山の一角」である可能性もある。消費者庁は説明責任を尽くす必要がある。