司法戦術のワナ【暗示のレンジ 景表法の範囲を問う③】 判決を誘導する手法も
消費者庁が進めてきた不実証広告規制での景品表示法の積極運用。「ボンヤリ」「すっきり」など暗示の範囲にまで根拠を求める取締り処分に、だいにち堂は取消し請求訴訟を起こす。しかし、東京地裁はこれを退けた。一方、関係者は判決に法則を指摘する。だいにち堂は判決を不服として控訴し、係争は東京高等裁判所での第2ラウンドに持ち込まれた。
◇
「事業者には厳しい判決だ」。行政OBはこう評す。
判決では、だいにち堂が問題提起した(1)不実証広告規制を発動する相当性について、「条文上、規定が見当たらない」とこれを一蹴している。
法の趣旨としても妥当とした上で、内容に踏み込み「商品等の有する効能・効果について、数値等を用いた具体的記載までされていない場合であっても同様」とした。
数値等を明示しない暗示の範囲でも、根拠を求めることができると判断した訳だ。憲法で保障する「表現の自由」「営業の自由」の侵害にはあたらないとも指摘した。
これにより、健康食品で一般的に行われている暗示表現も根拠が必要ということになる。事業者にとって油断ならざる判断だ。では、どのような暗示の範囲であれば、問題となるのか。それも消費者庁の胸先三寸なのだ。 ◇ 続けよう。さらに判決ではだいにち堂が、「消費者の誤認が生じていない」という、当該広告の印象に関する消費者アンケート調査の中身も判断している。
地裁は、「是非購入したい」「前向きの購入を検討する」があわせて5・5%だったところ、理由が「宣伝文句が気に入った」「原材料が気に入った」「宣伝通りの効き目がありそう」があわせて、約7割であったことを捉えて、「効能効果などの過度の期待は生じていない」というだいにち堂の主張を退けている。
つまり、表示をみたおよそ「4%」が購入を検討したという結果を持って、一般消費者の表示への印象や認識を判断しているのだ。
これも司法判断としては厳しいレベルである。これまでも判例で、景表法で禁じる「著しい」誤認について、「顧客誘引性」があることとされてきた。ではどの程度の顧客誘引性があるかが問題となるが、今回ロジックを転用すれば全体の「4%」で顧客が誘引されれば、「著しい」に当たる可能性がある。法律の条文解釈が厳しくなる可能性は否めない。
◇
また表示全体への根拠として提出した成分のデータは「一般的な解説にとどまる」とし、さらにアスタキサンチンの臨床試験データについても「本件商品の含有成分の量が近似するなどの事情が認められず、本件商品の有する効能・効果について客観的に実証するものではない」とする。
◇
「消費者庁の司法戦術の罠にはまった」。厳しい判決になった理由をある行政OBはこう明かす。
行政にとって、事業者との裁判は想定内であり、その際にどういう作戦を取るかは、弁護士資格を持つ職員が綿密なシミュレーションを行っているという。
要諦は、裁判官が判決として使いやすい主張をして、資料を揃えること。さらに過去の判例を整えておくこと。 そうすれば、複数の裁判を抱えて、多忙を極める裁判官の負担を減らすことができる。これは裁判官にとって有難い話だ。行政に誘導されるままに、滑走路に着地というシナリオだ。
「地裁で事業者の主張が通ることは少ない。本当の勝負は高裁だ」。先のOBは語る。これを知ってか知らずか、だいにち堂は控訴し、決着は持ち越しとなった。 (つづく)
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「事業者には厳しい判決だ」。行政OBはこう評す。
判決では、だいにち堂が問題提起した(1)不実証広告規制を発動する相当性について、「条文上、規定が見当たらない」とこれを一蹴している。
法の趣旨としても妥当とした上で、内容に踏み込み「商品等の有する効能・効果について、数値等を用いた具体的記載までされていない場合であっても同様」とした。
数値等を明示しない暗示の範囲でも、根拠を求めることができると判断した訳だ。憲法で保障する「表現の自由」「営業の自由」の侵害にはあたらないとも指摘した。
これにより、健康食品で一般的に行われている暗示表現も根拠が必要ということになる。事業者にとって油断ならざる判断だ。では、どのような暗示の範囲であれば、問題となるのか。それも消費者庁の胸先三寸なのだ。 ◇ 続けよう。さらに判決ではだいにち堂が、「消費者の誤認が生じていない」という、当該広告の印象に関する消費者アンケート調査の中身も判断している。
地裁は、「是非購入したい」「前向きの購入を検討する」があわせて5・5%だったところ、理由が「宣伝文句が気に入った」「原材料が気に入った」「宣伝通りの効き目がありそう」があわせて、約7割であったことを捉えて、「効能効果などの過度の期待は生じていない」というだいにち堂の主張を退けている。
つまり、表示をみたおよそ「4%」が購入を検討したという結果を持って、一般消費者の表示への印象や認識を判断しているのだ。
これも司法判断としては厳しいレベルである。これまでも判例で、景表法で禁じる「著しい」誤認について、「顧客誘引性」があることとされてきた。ではどの程度の顧客誘引性があるかが問題となるが、今回ロジックを転用すれば全体の「4%」で顧客が誘引されれば、「著しい」に当たる可能性がある。法律の条文解釈が厳しくなる可能性は否めない。
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また表示全体への根拠として提出した成分のデータは「一般的な解説にとどまる」とし、さらにアスタキサンチンの臨床試験データについても「本件商品の含有成分の量が近似するなどの事情が認められず、本件商品の有する効能・効果について客観的に実証するものではない」とする。
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「消費者庁の司法戦術の罠にはまった」。厳しい判決になった理由をある行政OBはこう明かす。
行政にとって、事業者との裁判は想定内であり、その際にどういう作戦を取るかは、弁護士資格を持つ職員が綿密なシミュレーションを行っているという。
要諦は、裁判官が判決として使いやすい主張をして、資料を揃えること。さらに過去の判例を整えておくこと。 そうすれば、複数の裁判を抱えて、多忙を極める裁判官の負担を減らすことができる。これは裁判官にとって有難い話だ。行政に誘導されるままに、滑走路に着地というシナリオだ。
「地裁で事業者の主張が通ることは少ない。本当の勝負は高裁だ」。先のOBは語る。これを知ってか知らずか、だいにち堂は控訴し、決着は持ち越しとなった。 (つづく)