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楽天市場の出店者団体が誕生 友の会「楽天に店舗の要望伝える」、ユニオン「違反点数制など撤回へ」

2020年 3月23日 13:30

 楽天市場の「送料無料」問題をめぐり、2つの出店者団体が生まれた。昨年10月に立ち上がった「楽天ユニオン」は「共通の送料込みライン」に反対する立場で、ルール違反を犯した際に点数を付与して罰則を課す「違反点数制度」などの施策にも物言いをつける。一方、3月に設立が発表された「楽天市場出店者 友の会」は、同施策に賛成しているほか、三木谷浩史社長にウェブ会議で要望を伝えるなど、楽天とのパイプが太い。両者は今後、どのような活動をしていくのか。


 
「対立」に危機感

 「(反対派から)罵詈雑言を浴びせられるリスクはあるし、『わざわざ親・楽天の団体に参加するからには、楽天から何か優遇されているのでは』などと勘繰られている。そんなことはありえないのに」。「友の会」のウェブサイトで公開された「発起人リスト」に名を連ねる店舗の代表は苦笑いしながら語る。この代表によれば、中心となっていて動いているのは、現段階では友の会設立準備委員会メンバーである12名。「当社には会見の前日に打診があり、参加を了承した。他に名前が出ている店舗も同じ経緯だと思う」。

 「店舗と三木谷社長らとの意見交換会が予定されていた日(編注‥2月28日に『ウォークトゥギャザーミーティング』が開催されることになっていたが、コロナウイルス感染拡大の影響を受けて延期された)にウェブ会議をしたという話だが、出店者からすると不自然さを感じてしまう」(友の会に参加していない有力店舗)との声もあるように、楽天の”紐付き”ではないかと疑う向きもあるようだ。実際に、3月5日に開催された記者会見では「楽天に(賛成と)言わされているのではないか」との指摘があり、「DIY FACTORY ONLINE SHOP」を運営する大都の山田岳人氏(写真㊤)が「それはない。(ウェブ会議も)あくまでこちらから持ちかけた話であり、完全に独立した組織だ」と否定する一幕もあった。

 実際のところ、こうした団体を立ち上げても、発起人の店舗にとっては痛くもない腹を探られるだけであり、デメリットは少なくないといえる。それにも関わらず声を上げたのは「それだけ皆が危機感を持っているということ。公正取引委員会を挟んで、楽天と店舗が対立しているという構図ができあがってしまったが、それは誰の得にもならない」(先の友の会参加店舗代表)。さらに、「帽子屋 QUEENHEAD」を運営するイマリの久保雅也氏は「『強者である楽天が弱者の店舗から搾取している』という世論が巻き起こったことで、楽天市場から顧客が離れて全体の流通額が下がっていく恐れがある。これは規模の大小を問わず、全出店者が危惧していることではないか」と危機感を募らせる。

 3月16日現在では、友の会設立準備委員会メンバーである12名の店舗も含め、120店舗が「発起人」としてサイトに掲載されており、サイトでの入会受け付けも開始した。山田氏は「(一連の動きで)楽天市場の価値が下がることを危惧している。売り場のことは楽天と店舗で話し合うべきなのに、楽天と公取委との動きに店舗が不在となっていると感じた。ネット販売の将来をどうするのか、という点を忌憚(きたん)なく話し合うとともに、こちらの意見も聞いてもらい、消費者にとって良い売り場にしていきたい」と友の会設立の背景を説明する。

 送料無料施策には賛成する立場を明確にしている友の会。「新潟の日本酒と甘酒越後銘門酒会」を運営する原商の原和正氏は「楽天ユニオンの主張は店舗の総意ではない。楽天と店舗は上下関係ではなく対等な関係であり、共存共栄だ。取引条件の変更が一方的にされたとは思っておらず、営業方針の変更については十分な話があったし、全国各地で『タウンミーティング』が開催され、説明に納得した多くの店舗が自発的に送料設定を変更する予定だ。そのため、独占禁止法には抵触しない状況だと考えている」と断言する。

 楽天ユニオンでは、出店店舗向けのクローズドな電子掲示板「RON会議室」において、同施策に反対の意思を表明した投稿に対し「そう思う」をクリックした店舗が圧倒的に多かったことを根拠に「多数の店舗が反対している」と主張する。これに対し原氏は「RON会議室の意見が全てとは思っていない。われわれはサイレントマジョリティーとして声を上げた」と反論する。

ノウハウを共有

 そもそも、友の会はなぜ今回の施策に賛同しているのか。「森水木のラン屋さん」を運営する宮川洋蘭の宮川将人氏は「事前に送料無料施策を試験導入した結果、売り上げが増えるというデータが出ている。当店のような売り上げが大きくない店が売り上げを伸ばしていくための施策と考えている」と楽天への信頼感を口にする。

 また、先の友の会参加店舗代表は「実際のところは手放しで賛成というわけではない。単価も利益率も店によって違うので、もう少し丁寧に進めるべきだったと思うし、『2000億円かけて物流機能を強化した』といっても、出店者の物流を請け負う『楽天スーパーロジスティクス』を使わない店舗にとっては意味がない。ただ、似たような施策を導入しなければ、アマゾンに差をつけられていく、という楽天の危機感は分かるので、そういう意味では賛成だ」と語る。

 友の会の賛同は「施策を導入することで売り上げが伸びる」のが前提となるわけだが、楽天では楽天市場単体の流通額を開示していない。山田氏は「流通額が伸びると宣言したから店舗は導入するわけで、どういう結果が出たのか、きちんと裏付けとなるデータを出すよう求めていく」と楽天に注文をつける。

 一方、友の会でも、メーカー直販や仕入れ商品を扱う企業など、商品価格を送料に上乗せしにくい店舗があり、反対に回っていることは認識している。そういった店舗にも対策や工夫を伝えていきたい考えで、「やってみないと分からない部分があるので、ノウハウを全国的に広げていきたい」(原氏)、「送料を価格に転嫁できない店舗も含めて、友の会が主催するイベントや勉強会でデータを共有し、皆で楽天市場のバリューを上げていきたい」(久保氏)。実際、友の会設立準備委員会メンバーの中には、「chuya―online」のように全品送料無料施策を実行している店舗もある。同店を運営するプラグインの高尾太郎氏は「例えば小さい商品を定形郵便で送った際の事故率など、当社が保有する配送関連の知識やデータを共有していきたい」と意欲を示す。

 友の会では2月28日の三木谷社長とのウェブ会議において、新型コロナの影響で物流センターのスタッフが出社できなくなるなどの事態が一部の店舗で起きていることから、導入の延期を提言。店舗の意向を受け入れる形で一律導入の延期が発表された。山田氏は「(店舗と楽天との間で)コミュニケーションは取れていたとしても、腹を割った話はしていたのか。われわれ側にもこれまでしようとしてこなかったという責任があるし、本来はそういうことをやっておくべきだった」と話し合いの重要性を強調する。

 また、先の友の会参加店舗の代表は「楽天と肩を組む部分はあるが、一方で対峙(たいじ)もしなければいけないと思う。楽天が施策の実行を決めて突っ走ったときに『もっとケアが必要なのではないか』『補償すべきでは』など、店舗側から意見を出せるようにしていきたい。RON会議室やツイッターで文句を言う店舗もあるが、それでは何も変えることはできないので、そういった部分で楽天にアプローチできる会でありたい」とし、「楽天のイメージアップのために利用されるつもりはない」と言い切る。

 発起人リストには、楽天市場の優秀店舗を表彰する「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」の受賞経験店舗など、有名店舗の名前が目立つ。「いわゆる『上位店』が集まっているのは事実なので、『楽天から利益を供与されて、他の店舗を楽天側に引き入れようとしているのではないか』というあらぬ疑いをかけられないためにも、細心の注意を払って運営しなければいけないと思っている」(先の友の会参加店舗代表)。

対話はしたい

 一方、楽天ユニオンでは3月10日に記者会見を開催し、楽天が打ち出した施策の一律導入延期について「事実の強制実施だ」などと批判した。席上、坂井健一副代表が「楽天ユニオンが三木谷社長に直接要望を伝えない理由」を「常にECコンサルタントやRON会議室で訴えていることであり、トップに言う話ではない。それは楽天社員や役員に失礼だ。また、RON会議室で対談を申し込んだが断られた人もいる。さらに、顧問弁護士に相談した結果、嫌がらせを受ける可能性があるので組合ができてから検討すべきとアドバイスされた」と説明した。その一方で勝又勇輝代表(写真㊦)は「楽天の広報に電話をして『三木谷氏・ユニオン・NHKで生放送で対談したいと要望した。三木谷さんは自分に都合のいいことだけ抜き出して話をする体質の人だと思っているので、後で『言った・言わない』を避けるためにも間にメディアを入れたい」とも語る。

 これに対し楽天では「3月9日に『楽天ユニオンの勝又氏』を名乗る方から面会の申し入れがあったのは事実。同氏から申し出のあった運営店舗の情報を調べたところ、すでに退店されていることから、楽天市場の運営に関わることもあり、セキュリティーの観点から要望を受けることはできないと判断した」(EC広報課)とする。

 社員を飛び越えて直接三木谷氏に話をするのが失礼だというなら、施策の担当者に要望を申し入れればいいのではないか。また、RON会議室は企業同士、あるいは団体と企業が正式な形でやり取りする場とは言いにくいだろう。本紙の疑問に対し、坂井氏は「私自身は電話でマネージャークラスの社員に『担当役員に変わってほしい』と頼んだことはあるが断られている。『団体としてなぜ直接楽天と話をしないのか』という疑問は分かるし、対話は必要だと思っている。ただ、団体の主体がまだふわっとしているので、組合が正式に発足してからにしようと思っている」と答えた。

強制退店を経験

 記者会見の前日となる9日、代表である勝又氏の「過去の行状」に関する記事がネットニュースサイトに掲載され、三木谷社長がツイッターで当該記事を紹介するという一幕もあった。これは「勝又氏の店舗が、楽天市場の規約で禁じられている精力剤やアダルトグッズ、さらには未許可のブランド品を販売して2014年に強制退店となった」「退店後に名義借りで再出店し、商標権侵害などの規約違反を犯している」という内容の記事だ。記者会見でユニオンは「楽天しか知らないようなプライベートな情報が記事に掲載されるなど、自分たちの意見に少しでも反対する店舗を吊るし上げるようなやり方をしている」(坂井副代表)と、楽天や三木谷社長への怒りをあらわにした。一方で、記者からは「記事の内容が事実なら、勝又氏は代表としての資格がないのではないか」との厳しい質問も飛んだ。

 ドロップシッピング形式で運営し、問屋などから仕入れて数多くの商品を販売しているという勝又氏の店舗。同氏は「1商品ほど(規約違反商品が)紛れてしまった。指摘されたので書類を出して商品も消したが、20万点近い商品を扱っていると、規約違反の商品がどうしても入ってしまう。その後、問屋側のミスで未許可ブランド品を販売してしまった。問屋からも説明してもらったが受け入れられず退店となった」と強弁する。さらに「悪気はなかった。ECコンサルタントが店舗についているんだから、事前に指摘してくれれば良かった。また、未許可ブランド名などの禁止ワードが入っていたら商品登録できないようにするべきだし、現在でもアダルトグッズなどは野放しになっている」と主張。直近の規約違反については「楽天直営である日用品通販サイトからもらった画像を使っているのに『違反している』と言われたケースがかなりあり、それを説明したら『違反点数制度』の加点対象にならなかった。楽天は自社運営の店舗を優遇している」とまくしたてた。

 同氏の店舗は「送料が高い」とも批判されているが、本紙に対し勝又氏は「複数の業者から仕入れているため送料設定が難しいこともあり、不当な値段ではない。ただ、身内の不幸などで注文をあまり受けたくない時期に送料を上乗せしていたことはある。送料が高いと思うならユーザーが買わなければいい」と説明する。

 また、坂井氏は「一部の有力店舗は(勝又氏と)同じような違反をしているケースがあり、薬機法に違反する広告を出していたこともある。本来は一発退店となってもおかしくないのに、違反を修正するだけで店舗は存続しており、楽天から優遇されているのではないか。送料を5500円も取っている有力店舗もあるのに、何も言われていない」と不満を隠さない。

「消費者目線」は

 もちろん、勝又氏の店舗運営スタイルと、公取委が独禁法違反の疑いで楽天を調査していることは無関係だ。ただ、同氏は「年内にも中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合を立ち上げる予定。イーコマース全体をみて、事業者がより良い商売ができる環境を作りたい」などと大きな目標を掲げている。協同組合となれば、法律上は楽天との団体交渉権が得られるため、プラットフォーマー側とも折衝していくことになるわけだが、ユニオンが楽天から「行儀の良くない店舗が集まった団体」と見られていることは想像に難くなく、交渉の席につけるかは定かでない。

 また「規約違反で強制退店した過去がある」勝又氏が代表を務める団体に、どれだけの店舗がついていくのかにも疑問が残る。勝又氏は「今後は違反点数制度のほか、店舗がアフィリエイターに支払う成果報酬の料率値上げ、新決済プラットフォーム『楽天ペイ』それぞれの撤回についても運動していきたい」と気炎を上げるが、「楽天が実行した施策で消費者にどんな便益が生まれたのか」という「消費者目線」が見えてこない点も気がかりだ。

 とはいえ、先の友の会参加店舗代表が「こういう流れになったのは、ユニオンの影響が大きかったことは間違いない」と認めるように、ユニオンの一連の動きが「価格に送料を上乗せしにくい」店舗の主張が大きく取り上げられるきっかけとなり、公取委による調査と緊急停止命令申し立て、さらには一律導入の撤回にまでつながったのは事実だろう。楽天市場は5万もの店舗が出店しているだけに、さまざまな立場の店舗が問題提起をしていくことが、ひいては売り場の改善にもつながるはずだ。
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