楽天は3月18日に仮想モール「楽天市場」に導入を予定している、送料無料となる購入額を税込み3980円で全店舗統一する施策について、一斉導入の延期を決めた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、人員不足や商品仕入れが滞るといった影響が店舗に出ていることから、専用フォームから申し込むことで同施策の適用対象外にできるようにする。現時点では特別措置の期限を決めておらず、5月頃に改めて今後の方針を通知するとしている(
写真は石岡教授の意見書を手にする野原彰人執行役員=ライブ配信から)。
3月6日にライブ配信で開催された記者会見において、CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏が、一律導入を見送った理由について「コロナウイルスの影響が非常に大きい。配送や物流に関してはリモートワークができない。共通の送料込みラインで店舗の売り上げは増えると考えているので、今回の問題でスタッフが不足になるようなことがあれば、かえって悪影響が出てしまう」と説明。準備が整った店舗から施策を導入し、それ以外の店舗については同施策の対象外とするよう設定できる。
同施策については、店舗に不利益をもたらすとして、公正取引委員会が東京地方裁判所に緊急停止命令を申し立て(10日に取り下げ)たほか、一部店舗が結成した任意団体「楽天ユニオン」が反発している。同社では「送料込みラインは法令上の問題はないと考えているが、公取委の申し立ては厳粛かつ真摯に受け止めている」(川島氏)としたものの、方針変更については「新型コロナで『店舗が困っている』という声をしっかり受け止めて今回の判断に至った」(野原彰人執行役員)とし、公取委の動きや一部店舗の反発を受けたものではないことを強調した。
さらに野原執行役員は記者会見で、慶應義塾大学大学院法務研究科の石岡克俊教授による、同施策の独禁法上の問題や緊急停止命令に対する意見書を紹介した。石岡教授は「今回の事案は被疑行為がまだ実施されておらず、競争に対する現実の影響が生じていない段階で緊急停止命令が認められるかは慎重に検討すべき」と指摘。その上で「送料込みラインが競合との競争に重大な影響を与えるかは明らかではなく、新たなビジネスプランに対する事前の介入は起業家精神を萎縮させることにつながる。また、楽天が事業者間の競争で重要と位置づける今回の施策を阻害すれば、公正な競争秩序に重大な悪影響を与える可能性がある」と公取委を批判した。同社では、石岡教授の意見書を東京地裁に提出している。
また、不利益を受ける店舗に対する金銭的な支援「安心サポートプログラム」も始める。詳細は決まっていないが、施策導入後一定期間、送料込みライン対象となる配送方法の注文における利益額と送料差額を対象として支援額を設定する予定。川島氏は「店舗の不安を解消するようなセーフティーネットとして位置づけており、(前年同期と比較して利益額が減ったら)1円単位で補てんするという考え方ではない。ある程度大きな枠組みで、一定程度の支援金を提供する」としており、実施期間は「数カ月程度を予定している」という。
公取委による緊急停止命令申し立てがあってからも、楽天では「法令上の問題はないものと考えている」と強硬姿勢を崩していなかったが、ここにきてようやく「譲歩」とも取れる姿勢を示した。ただ、6日の会見では、記者から「申し立ての影響で延期したのでは」との問いが相次いだものの、同社の回答は「新型コロナ感染拡大によるもの」とする。さらには全店舗への導入は「中止」ではなく、「導入時期が未定になった」とした。有力店舗Aは「もう少し踏み込んで『無期延期』にすべきだった。その上で施策を練り直す方が得策と感じるが、これが最大限の譲歩なのだろう」と話す。ただ、これにより「緊急性が薄れた」(公取委)として申し立ては取り下げられた(
写真㊦、左から野原彰人執行役員、川島辰吾氏、海老名雅貴氏)。
同施策は、消費者からの「送料が分かりにくい」という声に応えるべく導入を決めたもの。ところが、「例外」となる地域や商品が増えていき、ついには施策を導入する店舗と導入しない店舗で分かれることになってしまった。有力店舗Aは「消費者が置き去りにされている」と話す。また、有力店舗Bは「楽天と楽天ユニオンでネガティブキャンペーンをしあっていても意味がない。トラブルが大々的に報じられる売り場で消費者が買い物をしたいと思うのか」と疑念を呈する。
また「安心サポートプログラム」についても詳細が分かっておらず、店舗の不安感を解消するに至っていない。店舗と話し合った上で、実効性のある支援策を導入する必要がある。
「方向性は変えない」<記者会見の質疑応答から>
3月6日の記者説明会では、報道陣から寄せられた質問を同社広報が読み上げる形で質疑応答が行われた。抜粋して紹介する。
――新型コロナウイルスの収束後に全店舗へ施策を導入するのか。
CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏「新型コロナの収束時期については全く予想できないと考えており、全店舗への導入時期は未定だ。今後も施策のメリットや理解促進、準備作業のサポートを続けていきたい」
――時期をずらすという理解で正しいのか。または撤回するのか。公取委による緊急停止命令申し立ての影響はあったか。
川島「新型コロナ感染拡大の影響に伴い、3月18日のタイミングでの一律開始は行わない。ただし、準備ができた店舗については導入を進める。それ以外の店舗については、店舗の選択で対象外とする設定をすることが可能だ。施策自体に法令上の問題はないと考えているが、公取委による緊急停止命令申し立てについては厳粛かつ真摯に受け止め、今後の裁判所の手続きに対応していきたい」
――1月に三木谷社長が「騒いでいるのは一部の店舗」と発言していたが、こうした結果になったのは施策に反対する店舗が多かったからでは。
川島「当社はたくさんのコミュケーションを店舗としてきた。全国47都道府県で店舗と実際に会う『タウンミーティング』のほか、営業担当であるECコンサルタントとの会話や相談、施策に対応するための価格調整・販促見直しのためのツール・データの提供を今後も引き続き進めていきたい。一方で、今回の施策に対する店舗の期待値が高い部分もある。こうした店舗の気持ちを汲み取るだけではなく、ユーザーの期待や認知度も高いことから、準備が整った店舗から進めたいと考えている」
――緊急停止命令申し立てへの受け止めは。
野原彰人執行役員「当社としては、楽天市場出店店舗の成長を支援するために施策の充実化を図っている。店舗の売り上げや利益に関する不安や懸念を解消するとともに、店舗・ユーザーの声を真摯に受け止めて改善していきたい」
――「楽天市場出店者 友の会」と楽天との関係と受け止めは。
野原「関係性は全くなく、有志による独立した任意団体だ。当社の意思を反映するような団体ではない。コロナ問題など、建設的な意見をもらっており、本当にありがたく思っている」
――18日から参加する店舗の数は。
川島「店舗に通知したばかりなので答えかねる。店舗の背中を押すような支援プログラムや販促、物流などのサポートが重要だと思っている」
――適用対象外とするには申請が必要だが、オプトアウトにした理由は。
川島「すでに準備をしている店舗の気持ちを汲み取り、スムーズに移行できる形を採用した」
――5月以降はどうするのか。
川島「未定だ。サポートニュースでは5月をめどに方針を連絡するとしているが、これは店舗の不安を解消するため、目安として何らかの情報を発信するという意味で時期を設定したものだ」
――送料込みと送料別が混在すると消費者にとって分かりにくい。
川島「楽天市場の商品数は数億点で、約5万店舗出店しているが、送料別の商品が送料込み・無料の商品より多いにもかかわらず、注文のうち送料込み・無料が8割を占めている。分かりやすさの向上を引き続き進めていきたい」
――3月18日に施策を導入した店舗への優遇措置はあるのか。
海老名雅貴ヴァイス・ジェネラル・マネージャー「始めたことが消費者に分かる形を採ろうと考えており、施策を導入した店舗限定の特設サーチを設ける」
――ここまでブレーキを踏むタイミングは複数回あった。法令違反の可能性を指摘されたら立ち止まるのが通例だが、緊急停止命令申し立てまで強硬姿勢を崩さなかったのか。
野原「考え方はいろいろあると思う。公取委うんぬんではなく、当社はユーザーにとってメリットがあることをやりたいわけで、それは店舗にとってもメリットがある。その方向性が変わることはない。ただ、コロナ問題が急に出てきて『店舗が困っている』という生の声を聞いたら、それでも一律導入するというのはおかしい」
3月6日にライブ配信で開催された記者会見において、CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏が、一律導入を見送った理由について「コロナウイルスの影響が非常に大きい。配送や物流に関してはリモートワークができない。共通の送料込みラインで店舗の売り上げは増えると考えているので、今回の問題でスタッフが不足になるようなことがあれば、かえって悪影響が出てしまう」と説明。準備が整った店舗から施策を導入し、それ以外の店舗については同施策の対象外とするよう設定できる。
同施策については、店舗に不利益をもたらすとして、公正取引委員会が東京地方裁判所に緊急停止命令を申し立て(10日に取り下げ)たほか、一部店舗が結成した任意団体「楽天ユニオン」が反発している。同社では「送料込みラインは法令上の問題はないと考えているが、公取委の申し立ては厳粛かつ真摯に受け止めている」(川島氏)としたものの、方針変更については「新型コロナで『店舗が困っている』という声をしっかり受け止めて今回の判断に至った」(野原彰人執行役員)とし、公取委の動きや一部店舗の反発を受けたものではないことを強調した。
さらに野原執行役員は記者会見で、慶應義塾大学大学院法務研究科の石岡克俊教授による、同施策の独禁法上の問題や緊急停止命令に対する意見書を紹介した。石岡教授は「今回の事案は被疑行為がまだ実施されておらず、競争に対する現実の影響が生じていない段階で緊急停止命令が認められるかは慎重に検討すべき」と指摘。その上で「送料込みラインが競合との競争に重大な影響を与えるかは明らかではなく、新たなビジネスプランに対する事前の介入は起業家精神を萎縮させることにつながる。また、楽天が事業者間の競争で重要と位置づける今回の施策を阻害すれば、公正な競争秩序に重大な悪影響を与える可能性がある」と公取委を批判した。同社では、石岡教授の意見書を東京地裁に提出している。
また、不利益を受ける店舗に対する金銭的な支援「安心サポートプログラム」も始める。詳細は決まっていないが、施策導入後一定期間、送料込みライン対象となる配送方法の注文における利益額と送料差額を対象として支援額を設定する予定。川島氏は「店舗の不安を解消するようなセーフティーネットとして位置づけており、(前年同期と比較して利益額が減ったら)1円単位で補てんするという考え方ではない。ある程度大きな枠組みで、一定程度の支援金を提供する」としており、実施期間は「数カ月程度を予定している」という。
公取委による緊急停止命令申し立てがあってからも、楽天では「法令上の問題はないものと考えている」と強硬姿勢を崩していなかったが、ここにきてようやく「譲歩」とも取れる姿勢を示した。ただ、6日の会見では、記者から「申し立ての影響で延期したのでは」との問いが相次いだものの、同社の回答は「新型コロナ感染拡大によるもの」とする。さらには全店舗への導入は「中止」ではなく、「導入時期が未定になった」とした。有力店舗Aは「もう少し踏み込んで『無期延期』にすべきだった。その上で施策を練り直す方が得策と感じるが、これが最大限の譲歩なのだろう」と話す。ただ、これにより「緊急性が薄れた」(公取委)として申し立ては取り下げられた(写真㊦、左から野原彰人執行役員、川島辰吾氏、海老名雅貴氏)。
同施策は、消費者からの「送料が分かりにくい」という声に応えるべく導入を決めたもの。ところが、「例外」となる地域や商品が増えていき、ついには施策を導入する店舗と導入しない店舗で分かれることになってしまった。有力店舗Aは「消費者が置き去りにされている」と話す。また、有力店舗Bは「楽天と楽天ユニオンでネガティブキャンペーンをしあっていても意味がない。トラブルが大々的に報じられる売り場で消費者が買い物をしたいと思うのか」と疑念を呈する。
また「安心サポートプログラム」についても詳細が分かっておらず、店舗の不安感を解消するに至っていない。店舗と話し合った上で、実効性のある支援策を導入する必要がある。
「方向性は変えない」<記者会見の質疑応答から>
3月6日の記者説明会では、報道陣から寄せられた質問を同社広報が読み上げる形で質疑応答が行われた。抜粋して紹介する。
――新型コロナウイルスの収束後に全店舗へ施策を導入するのか。
CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏「新型コロナの収束時期については全く予想できないと考えており、全店舗への導入時期は未定だ。今後も施策のメリットや理解促進、準備作業のサポートを続けていきたい」
――時期をずらすという理解で正しいのか。または撤回するのか。公取委による緊急停止命令申し立ての影響はあったか。
川島「新型コロナ感染拡大の影響に伴い、3月18日のタイミングでの一律開始は行わない。ただし、準備ができた店舗については導入を進める。それ以外の店舗については、店舗の選択で対象外とする設定をすることが可能だ。施策自体に法令上の問題はないと考えているが、公取委による緊急停止命令申し立てについては厳粛かつ真摯に受け止め、今後の裁判所の手続きに対応していきたい」
――1月に三木谷社長が「騒いでいるのは一部の店舗」と発言していたが、こうした結果になったのは施策に反対する店舗が多かったからでは。
川島「当社はたくさんのコミュケーションを店舗としてきた。全国47都道府県で店舗と実際に会う『タウンミーティング』のほか、営業担当であるECコンサルタントとの会話や相談、施策に対応するための価格調整・販促見直しのためのツール・データの提供を今後も引き続き進めていきたい。一方で、今回の施策に対する店舗の期待値が高い部分もある。こうした店舗の気持ちを汲み取るだけではなく、ユーザーの期待や認知度も高いことから、準備が整った店舗から進めたいと考えている」
――緊急停止命令申し立てへの受け止めは。
野原彰人執行役員「当社としては、楽天市場出店店舗の成長を支援するために施策の充実化を図っている。店舗の売り上げや利益に関する不安や懸念を解消するとともに、店舗・ユーザーの声を真摯に受け止めて改善していきたい」
――「楽天市場出店者 友の会」と楽天との関係と受け止めは。
野原「関係性は全くなく、有志による独立した任意団体だ。当社の意思を反映するような団体ではない。コロナ問題など、建設的な意見をもらっており、本当にありがたく思っている」
――18日から参加する店舗の数は。
川島「店舗に通知したばかりなので答えかねる。店舗の背中を押すような支援プログラムや販促、物流などのサポートが重要だと思っている」
――適用対象外とするには申請が必要だが、オプトアウトにした理由は。
川島「すでに準備をしている店舗の気持ちを汲み取り、スムーズに移行できる形を採用した」
――5月以降はどうするのか。
川島「未定だ。サポートニュースでは5月をめどに方針を連絡するとしているが、これは店舗の不安を解消するため、目安として何らかの情報を発信するという意味で時期を設定したものだ」
――送料込みと送料別が混在すると消費者にとって分かりにくい。
川島「楽天市場の商品数は数億点で、約5万店舗出店しているが、送料別の商品が送料込み・無料の商品より多いにもかかわらず、注文のうち送料込み・無料が8割を占めている。分かりやすさの向上を引き続き進めていきたい」
――3月18日に施策を導入した店舗への優遇措置はあるのか。
海老名雅貴ヴァイス・ジェネラル・マネージャー「始めたことが消費者に分かる形を採ろうと考えており、施策を導入した店舗限定の特設サーチを設ける」
――ここまでブレーキを踏むタイミングは複数回あった。法令違反の可能性を指摘されたら立ち止まるのが通例だが、緊急停止命令申し立てまで強硬姿勢を崩さなかったのか。
野原「考え方はいろいろあると思う。公取委うんぬんではなく、当社はユーザーにとってメリットがあることをやりたいわけで、それは店舗にとってもメリットがある。その方向性が変わることはない。ただ、コロナ問題が急に出てきて『店舗が困っている』という生の声を聞いたら、それでも一律導入するというのはおかしい」