2019年もまた前年に引き続き、物流コストの上昇が大差で1位となった。トップ10の内、実に物流関連の話題は4つもランクイン。通販企業にとっては事業を行う上で直接利益に影響を及ぼすことから、深刻な問題として受け止められたようだ。2位となった消費増税についてもコスト増に関わるもので、この1年は業界全体で後ろ向きのニュースが続いたと言える。そのほか、今年1年間に通販業界で起きた主な出来事を読者と共に振り返ってみる。
「2019年の通販業界10大ニュース」は、今年1年間に通販業界で起きた主な出来事やニュース、トレンドなどを本紙編集部が20項目程度に絞り込み、読者アンケートを受けてランキング化したもの。アンケートは今後の市場動向にとって重要だと思う項目から順番に3つまで受け付けており、合わせてその理由も聞いた。
配送費問題は今年も深刻に
今年も圧倒的な大差で1位となったのが物流費関連の話題。「
物流関連コストの上昇続く」が108ポイントを獲得している。
宅配大手各社がここ数年で強化している適正運賃収受の取り組みに伴い、配送料金が上昇。通販企業にとって生命線でもある物流のコストが上がることで、事業運営そのものに支障をきたした事例も散見。主だったところでは、食品ネット販売中堅のドゥマンが今年5月に通販事業から撤退している。同社では冷凍スイーツを中心に通販事業を展開してきたものの、配送運賃の値上げが事業を圧迫。ここ数年間、宅配事業者の度重なる値上げ要請に応じてきたが、その後も値上げ要請が続いたため、これ以上の事業存続は困難であると判断したという。
大手信用調査機関によると、昨年度から原材料価格や物流費の上昇などが影響したとみられる通販企業の倒産件数が増加。特に中小規模の事業者にとってはそのしわ寄せが受けやすい傾向にあるようだ。
アンケート回答企業の声を見てみると、「通販企業にとっては死活問題」や「物流コストの増加分を販売価格にすぐには転嫁できず、利益に影響を与える」といった回答があり、中には「商品サービス外の付帯サービス関連費全体がコストアップしてきている」との声も聞かれた。
また、今後についても「最低賃金が毎年上がる中、配送コストも年々上がると予想」や「通販に物流コストは切り離せない。今後、ドローンの活用など無人配送の技術が急速に進展しないと物流コストは上昇を続けると思う。物流コストが見合わないと通販の利便性のメリットも主張できなくなる」など、さらなる値上げが続くとの悲観的な見方が多数あり、引き続き、深刻な問題として影響が懸念されている。
増税で消費マインド低下を懸念
2位となったのは「
10月より消費増税」で66ポイント。消費税が8%から2ポイント上昇の10%となったもの。14年4月に5%から8%に3ポイント上昇した時よりは比較的、影響が軽微になるとの見方もあったが、いずれにしても物流コストの増加と並んで、通販企業にとっては大きな痛手となっている。
通販企業や大手仮想モールなどでは、10%にちなんだポイント還元やクーポン付与などの各種大型セールイベントを企画して集客を実施。それなりに成果があったようで、日本通信販売協会の大手会員企業の月次売上高調査を見ても、9月に関しては増税前の駆け込み需要が起きたことで、ほぼすべての商品カテゴリーで前年同月を上回る結果を記録した。
しかしながら、10月については家庭用品などのカテゴリーで高額商品を中心に前年同月を大きく下回る結果となるなど、早くも買い控えが発生。駆け込み特需を打ち消す以上の落ち込みも見られており、その後の消費マインドを中長期的に低迷させたという点で、大きなマイナス材料になっていると言えるだろう。
今回のアンケートでも「消費増税による消費の落ち込みが続けば、業績への影響が大きくなってくる」、「デフレ傾向にあることを改めて認識させられた」との回答が寄せられた。
また、今回の増税において政府では、経過措置として飲食料品などを対象に「軽減税率制度」を導入。そこに関連して労力を大きく割かれたこともあり、アンケートでは「経過措置対応、カタログ有効期限対応、価格改定対応など、増税に伴う各種対応が必要だった」や、「直前まで決まらない方針に、ぎりぎりまで対応に追われる形となった」といった声が聞かれるなど、サポートであるはずの制度の設計自体にも問題があったとの指摘が見られた。
3位にも送料関連の話題が
3位にランクインしたのは「
楽天、送料無料ライン統一」。楽天が運営するモール「楽天市場」において、送料無料となる購入金額を税込3980円に統一するというもので、20年の3月中旬に導入する予定。
これまでは出店店舗によってまちまちで、送料無料になる購入額はもちろん、送料無料に対応していない店舗もあった。ユーザーからの要望もあり、全店舗で統一した送料基準を設けることで分かりやすさを打ち出し、モールの流通総額拡大ペースを加速させていくことを目指している。
アンケートに寄せられた声としては「送料に関する顧客の考え方が変わる可能性がある」、「紙媒体、自社サイトとのバランスを考える必要がある」、「出店している企業にとっては自社の基準と異なる場合があり、戦略などの対応を変更する必要が出てくる」、「本店が送料有料のため、お客様の動き次第で場合によっては対応策の検討も必要」といった意見が見られた。
4位となったのは「
デジタル・プラットフォーマーの規制強化へ」。公正取引委員会が仮想モールの運営事業者などの規制強化に乗り出したもの。政府では2020年の通常国会にデジタル・プラットフォーマーの規制を巡る新法案を提出する予定。公取委では、モール内の検索アルゴリズムの要件開示など、法制化を視野に入れた提言を行っていく。アンケートでは「良い面と悪い面の双方あると思うが、モール系サイトへの出店先に対しては出店基準が厳しくなるなど少なからず影響があるのでは」や「EC販促の効果が縮小する可能性が高い」との声が聞かれた。
5位には「
『セブンペイ』で不正利用」がランクイン。セブン&アイ・ホールディングスグループのセブン・ペイが展開するスマホ決済サービスの「7pay(セブンペイ)」において、不正利用が発覚。第三者が利用者のアカウントに不正アクセスし、本人になりすましてクレジットカードやデビットカードからアカウントにチャージ、セブン―イレブン店頭で買い物をするというもので、不正アクセスが疑われる人数は約900名、被害金額は5500万円に上った。開始からわずか3カ月でサービスが終了した。安全意識の欠如から生じた問題でもあり、アンケートでは「ペイ事業者は消耗戦と聞く。連携するにはそれなりのコストがかかるが、利用者も増加しているので、いつから連携をとるのか問題。途中で撤退されては費用を捨てるようなもの」といった厳しい声が寄せられた。
6位は「
ヤフー、LINEと統合へ」となった。ヤフーの親会社のZホールディングスとLINEが来年10月をめどに経営統合する。ネット検索やメッセンジャーアプリなど国内で大規模なユーザーを抱える両社のサービスが、今後、どのような相乗効果をもたらすのか、注目の話題となっている。「IT業界をけん引する2社の統合で今後どのようなサービスがリリースされるか楽しみである。一方でユーザーの囲い込みによる悪影響がないか心配」という声が聞かれた。
7位には「
景表法への行政処分に不服相次ぐ」が選出。企業による景品表示法の行政処分の在り方に不満を訴える声が出ている。確認できている主な事案としては、6月に措置命令の取り消しを求めて消費者庁を提訴したライフサポートや、行政不服審査法に基づく審査請求をする方針を固めた大正製薬などのケースがある。処分不服を求める企業の数が今年は例年以上に多かったことから、その合理性が問われている。アンケートでは「機能性食品を扱う事業者としては見過ごせない内容。機能であったり、ヘルスクレームに指摘が入るのは想定外であったため、機能性商品の開発に対し慎重に進める形となった」との声があった。
8位となったのが「
楽天やアマゾンなど自前配送強化」。楽天は自動走行ロボットを使った商品の無人配送、アマゾンでは提携先の店舗に設けたロッカーやカウンターでの商品受取の取り組みを始めるなど”ラストワンマイル”の課題解決に受けて、大手ECが積極的な動きを見せている。
9位は「
置き配サービスに脚光」。8位の話題にも関連しているもので、近年、問題となっている宅配便の再配達状況の改善が期待できるサービスとして、徐々に認知が広がっている。代表的なところでは、物流系ITスタートアップのYperが手がける簡易宅配バック「OKIPPA(オキッパ)」の普及世帯数が順調に拡大中。10月には「グッドデザイン賞」も受賞するなど、通販業界のみならず社会全体で関心が高まっていることが伺えた。
10位は「
ヤフー、ZOZO買収」。6位でも触れたLINEとの統合だけでなく、衣料品EC大手のZOZOもグループの手中に入れたヤフー。互いに国内のネット市場を率いてきたトップ企業であるZOZOとは、双方が持つ強大な顧客基盤を活用してEC市場においてもトップを目指していくことが予想される。
なお、今回、ベスト10からは圏外となってしまったが、次点には「
JADMAなど、サプリに新ルール策定へ」がランクイン。健食をテーマとした新たな業界の動きに関係各社が注目している。
「2019年の通販業界10大ニュース」は、今年1年間に通販業界で起きた主な出来事やニュース、トレンドなどを本紙編集部が20項目程度に絞り込み、読者アンケートを受けてランキング化したもの。アンケートは今後の市場動向にとって重要だと思う項目から順番に3つまで受け付けており、合わせてその理由も聞いた。
配送費問題は今年も深刻に
今年も圧倒的な大差で1位となったのが物流費関連の話題。「物流関連コストの上昇続く」が108ポイントを獲得している。
宅配大手各社がここ数年で強化している適正運賃収受の取り組みに伴い、配送料金が上昇。通販企業にとって生命線でもある物流のコストが上がることで、事業運営そのものに支障をきたした事例も散見。主だったところでは、食品ネット販売中堅のドゥマンが今年5月に通販事業から撤退している。同社では冷凍スイーツを中心に通販事業を展開してきたものの、配送運賃の値上げが事業を圧迫。ここ数年間、宅配事業者の度重なる値上げ要請に応じてきたが、その後も値上げ要請が続いたため、これ以上の事業存続は困難であると判断したという。
大手信用調査機関によると、昨年度から原材料価格や物流費の上昇などが影響したとみられる通販企業の倒産件数が増加。特に中小規模の事業者にとってはそのしわ寄せが受けやすい傾向にあるようだ。
アンケート回答企業の声を見てみると、「通販企業にとっては死活問題」や「物流コストの増加分を販売価格にすぐには転嫁できず、利益に影響を与える」といった回答があり、中には「商品サービス外の付帯サービス関連費全体がコストアップしてきている」との声も聞かれた。
また、今後についても「最低賃金が毎年上がる中、配送コストも年々上がると予想」や「通販に物流コストは切り離せない。今後、ドローンの活用など無人配送の技術が急速に進展しないと物流コストは上昇を続けると思う。物流コストが見合わないと通販の利便性のメリットも主張できなくなる」など、さらなる値上げが続くとの悲観的な見方が多数あり、引き続き、深刻な問題として影響が懸念されている。
増税で消費マインド低下を懸念
2位となったのは「10月より消費増税」で66ポイント。消費税が8%から2ポイント上昇の10%となったもの。14年4月に5%から8%に3ポイント上昇した時よりは比較的、影響が軽微になるとの見方もあったが、いずれにしても物流コストの増加と並んで、通販企業にとっては大きな痛手となっている。
通販企業や大手仮想モールなどでは、10%にちなんだポイント還元やクーポン付与などの各種大型セールイベントを企画して集客を実施。それなりに成果があったようで、日本通信販売協会の大手会員企業の月次売上高調査を見ても、9月に関しては増税前の駆け込み需要が起きたことで、ほぼすべての商品カテゴリーで前年同月を上回る結果を記録した。
しかしながら、10月については家庭用品などのカテゴリーで高額商品を中心に前年同月を大きく下回る結果となるなど、早くも買い控えが発生。駆け込み特需を打ち消す以上の落ち込みも見られており、その後の消費マインドを中長期的に低迷させたという点で、大きなマイナス材料になっていると言えるだろう。
今回のアンケートでも「消費増税による消費の落ち込みが続けば、業績への影響が大きくなってくる」、「デフレ傾向にあることを改めて認識させられた」との回答が寄せられた。
また、今回の増税において政府では、経過措置として飲食料品などを対象に「軽減税率制度」を導入。そこに関連して労力を大きく割かれたこともあり、アンケートでは「経過措置対応、カタログ有効期限対応、価格改定対応など、増税に伴う各種対応が必要だった」や、「直前まで決まらない方針に、ぎりぎりまで対応に追われる形となった」といった声が聞かれるなど、サポートであるはずの制度の設計自体にも問題があったとの指摘が見られた。
3位にも送料関連の話題が
3位にランクインしたのは「楽天、送料無料ライン統一」。楽天が運営するモール「楽天市場」において、送料無料となる購入金額を税込3980円に統一するというもので、20年の3月中旬に導入する予定。
これまでは出店店舗によってまちまちで、送料無料になる購入額はもちろん、送料無料に対応していない店舗もあった。ユーザーからの要望もあり、全店舗で統一した送料基準を設けることで分かりやすさを打ち出し、モールの流通総額拡大ペースを加速させていくことを目指している。
アンケートに寄せられた声としては「送料に関する顧客の考え方が変わる可能性がある」、「紙媒体、自社サイトとのバランスを考える必要がある」、「出店している企業にとっては自社の基準と異なる場合があり、戦略などの対応を変更する必要が出てくる」、「本店が送料有料のため、お客様の動き次第で場合によっては対応策の検討も必要」といった意見が見られた。
4位となったのは「デジタル・プラットフォーマーの規制強化へ」。公正取引委員会が仮想モールの運営事業者などの規制強化に乗り出したもの。政府では2020年の通常国会にデジタル・プラットフォーマーの規制を巡る新法案を提出する予定。公取委では、モール内の検索アルゴリズムの要件開示など、法制化を視野に入れた提言を行っていく。アンケートでは「良い面と悪い面の双方あると思うが、モール系サイトへの出店先に対しては出店基準が厳しくなるなど少なからず影響があるのでは」や「EC販促の効果が縮小する可能性が高い」との声が聞かれた。
5位には「『セブンペイ』で不正利用」がランクイン。セブン&アイ・ホールディングスグループのセブン・ペイが展開するスマホ決済サービスの「7pay(セブンペイ)」において、不正利用が発覚。第三者が利用者のアカウントに不正アクセスし、本人になりすましてクレジットカードやデビットカードからアカウントにチャージ、セブン―イレブン店頭で買い物をするというもので、不正アクセスが疑われる人数は約900名、被害金額は5500万円に上った。開始からわずか3カ月でサービスが終了した。安全意識の欠如から生じた問題でもあり、アンケートでは「ペイ事業者は消耗戦と聞く。連携するにはそれなりのコストがかかるが、利用者も増加しているので、いつから連携をとるのか問題。途中で撤退されては費用を捨てるようなもの」といった厳しい声が寄せられた。
6位は「ヤフー、LINEと統合へ」となった。ヤフーの親会社のZホールディングスとLINEが来年10月をめどに経営統合する。ネット検索やメッセンジャーアプリなど国内で大規模なユーザーを抱える両社のサービスが、今後、どのような相乗効果をもたらすのか、注目の話題となっている。「IT業界をけん引する2社の統合で今後どのようなサービスがリリースされるか楽しみである。一方でユーザーの囲い込みによる悪影響がないか心配」という声が聞かれた。
7位には「景表法への行政処分に不服相次ぐ」が選出。企業による景品表示法の行政処分の在り方に不満を訴える声が出ている。確認できている主な事案としては、6月に措置命令の取り消しを求めて消費者庁を提訴したライフサポートや、行政不服審査法に基づく審査請求をする方針を固めた大正製薬などのケースがある。処分不服を求める企業の数が今年は例年以上に多かったことから、その合理性が問われている。アンケートでは「機能性食品を扱う事業者としては見過ごせない内容。機能であったり、ヘルスクレームに指摘が入るのは想定外であったため、機能性商品の開発に対し慎重に進める形となった」との声があった。
8位となったのが「楽天やアマゾンなど自前配送強化」。楽天は自動走行ロボットを使った商品の無人配送、アマゾンでは提携先の店舗に設けたロッカーやカウンターでの商品受取の取り組みを始めるなど”ラストワンマイル”の課題解決に受けて、大手ECが積極的な動きを見せている。
9位は「置き配サービスに脚光」。8位の話題にも関連しているもので、近年、問題となっている宅配便の再配達状況の改善が期待できるサービスとして、徐々に認知が広がっている。代表的なところでは、物流系ITスタートアップのYperが手がける簡易宅配バック「OKIPPA(オキッパ)」の普及世帯数が順調に拡大中。10月には「グッドデザイン賞」も受賞するなど、通販業界のみならず社会全体で関心が高まっていることが伺えた。
10位は「ヤフー、ZOZO買収」。6位でも触れたLINEとの統合だけでなく、衣料品EC大手のZOZOもグループの手中に入れたヤフー。互いに国内のネット市場を率いてきたトップ企業であるZOZOとは、双方が持つ強大な顧客基盤を活用してEC市場においてもトップを目指していくことが予想される。
なお、今回、ベスト10からは圏外となってしまったが、次点には「JADMAなど、サプリに新ルール策定へ」がランクイン。健食をテーマとした新たな業界の動きに関係各社が注目している。