ヤフーの親会社のZホールディングス(ZHD)とLINEが来年10月をメドに経営統合する。両社が展開するネット検索やメッセンジャーアプリなどのサービスは日本のインターネットユーザーの大半が利用しており、国内のインターネットビジネスにおいて、圧倒的な強さを誇るジャイアントが誕生することになる。また、両社が展開中のネット広告やネット決済、そして、ネット販売についても互いのサービスとの相乗効果から市場シェアおよび事業規模の拡大が促されそう。両社の経営統合がネット販売にもたらす変化とは。(
ZHDの川邊社長㊧とLINEの出澤社長)
「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーになっていきたい」。ZHDの川邊健太郎社長は11月18日、経営統合に向けて合意したLINEの出澤剛社長とともに都内で開催した記者会見で両社が経営統合し、その上で目指す将来像を語った。
両社は同日に開催したそれぞれの取締役会で経営統合に伴う資本提携に関する基本合意書の締結を決議。今後、経営統合の実現に向け、ZHDの親会社のソフトバンクとLINEの親会社、ネイバーコーポレーションがLINEの株式の共同公開買い付けを実施し、全株式を取得し、上場廃止し非公開化。その上でソフトバンクとネイバーが折半出資する新会社を立ち上げ、同社がZHDの親会社となり、ZHDの完全子会社としてヤフーとLINEが傘下入りする。なお、新生ZHDはソフトバンクが連結化し、また、社長は川邊氏が就任予定だが、「対等の経営統合」を強調し、「この統合をきちんと果たして自走していく体制にしていく」(川邊氏)ため、川邊・出澤両氏がともに代表取締役Co―CEOとなり、共同代表制という形をとるという。今後、公正取引委員会ら関連当局からの審査などを経て、来年10月をメドに経営統合を完了させたい意向だという。
ヤフー擁するZHDはネット検索や近年注力するネット販売事業、LINEは国内において圧倒的な利用シェアを誇るメッセージアプリなどを展開し、互いに確固たるポジションを持ち、さらに両社は「PayPay」や「LINEペイ」というQRコード決済サービスにも乗り出し、競合関係にもある。そうした企業同士が経営統合に合意した理由として記者会見の席で川邊・出澤両氏は背景に強い危機感にあったと説明。具体的には世界のインターネットサービスを席巻するGAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)、BAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)ら”グローバルテックジャイアント”に飲み込まれるという懸念だ。
「インターネット産業というものは優秀な人材、あるいは金、データその全てが強いところに集約してしまう”勝者総取り”。強いところはもっと強くなり、それ以外との差がどんどん開いていく構造にある。ほかの産業よりもその流れが非常に大きく、気づいたタイミングにはもう何もできなくなっている可能性がある」(出澤氏)とした上で、「時間とともにグローバルの強いプレイヤーが出てくるし、国内でも非常に激しい競争がある。今手を打って、次のステージに進むべきだろう」(同)とし、国内での競争や米中の巨大IT企業からの攻勢に対抗し、さらに「インターネットの世界は米中がかなり強くなってしまっているが東アジアから世界をリードするもう一極を作る」(川邊氏)べく、互いに別々に事業展開していくよりも両社でともに歩む決断したという。
両社の経営統合が成った場合、時価総額は3兆円、営業利益1600億円、研究開発費200億円、従業員数1・9万人と国内IT企業としては最大規模に躍り出る。無論、時価総額98兆円、研究開発費3兆円、従業員数64万人を誇る米大手IT企業などの”グローバルジャイアント”には文字通り、けた違いに遠く及ばないものの、両社の人材・資金・サービスを投入し、「日本の課題にフォーカスしたようなサービスや機能に思い切って振ることで、海外勢では行えないようなサービスを提供できる」(川邊氏)とし、また両社のサービスから収集・蓄積する各データを駆使してよりユーザーに支持される国産プラットフォームをもう1つの選択肢として提供し、「日本からあるいはアジアから、そこを足場に全世界に飛躍して、世界規模で最高のユーザー体験を提供して、社会課題を解決していくような会社になっていきたい」(出澤氏)と方向性を語った。
経営統合後、EC市場はどうなる?
世界で戦えるITの第三極を目指す志には期待したいが、やはり気になるのはヤフー・LINE連合の誕生で国内のネットビジネス、そしてネット販売の勢力図がどう変化していくかだ。
ヤフーとLINEはそれぞれネット検索、メッセンジャーアプリなどを軸に、メディア、コンテンツ、AI、近年、注力している「PayPay」や「LINEペイ」などの決済サービス、そして「ヤフーショッピング」(仮想モール)や「LINEショッピング」(アフィリエイトメディアサイト)などのコマース分野でも幅広く事業を展開している。
両社の各種サービスとも幅広く利用されており、重複するユーザーも多いだろうが、「LINEはアプリで大成功したサービスで若いユーザーが多い。ヤフーはPC時代からのシニアなお客様がたくさん利用している。ユーザーの接点においてLINEはスマホのアプリ、ヤフーはスマホに加えPCや各種ブラウザからも利用されており、利用者基盤の補完関係が両社ではあるのでないか」とした上で「サービスのシナジーも補完的だ。ヤフーはまったくメッセンジャーのサービスを提供できていないがLINEはすでに国民的なメッセンジャーサービス。一方、LINEはEコマースはそれほど力が入っている事業ではないが、ヤフーはEコマースを近年がんばっているということで、それぞれの弱い点を補い合える」(川邊氏)とする。
また、ヤフーの仮想モール事業の急成長の1つの原動力ともなっている「『ソフトバンクのスマホユーザーならポイント10倍』などの展開が、統合を果たした暁には、『LINEのユーザーもポイント10倍』みたいなことが、もしかしたらできるかも」(同)とする。
両社間のシナジーにより、「例えば、メディアコンテンツの領域では双方のデータを適切に利用することで今まで以上にひとりひとりのユーザーに寄り添ったサービス・情報をお届けすることができるのではないか。広告の領域では検索、ディスプレイ、アカウントなど相互のソリューションを組み合わせた形で新しい価値を提供できる。ペイメント事業では、両社の強みをかけ合わせて、ユーザー、店舗の双方に利便性を飛躍的に向上させることができ、スピードアップ、スケールアップをしていく」(出澤氏)とする。
領域の重なる、または同分野の両サービスをどのように変化させたり、相乗効果を出していく試みを行っていくかなど詳細については「統合が果たせた後に話し合っていく」(同)としており、現状、不明だが、すでに多くの利用者を持つサービスに新たなユーザー接点が加わることは間違いなくプラスに働くことになるはずだ。
そういった意味ではネット販売分野についても変化が出てくる可能性もある。ヤフーが注力しつつも、なかなか万年3番手の座から脱せないネット販売関連事業がLINEの援護を受けて、「ヤフーショッピング」や「PayPayモール」「ヤフオク!」「PayPayフリマ」など関連サービスの規模拡大が進み、また、ZOZOやアスクルといったグループのEC業績の引き上げにも貢献し、状況を好転させるかも知れない。また、詳細は不明だが記者会見の席で出澤社長が「コマースにおいても、メッセンジャーとECとの連携による新しい価値観、新しいユーザー体験を生み出すことができると考えている」(同)と統合後にコマースの新たなサービスや使い方を創造、提案することを示唆しており、行方が注目されるところだ。
今回の超大型企業の統合劇は国内外のITビジネス、また、EC領域にどのような変化をもたらすことになるのか。注視する必要がありそうだ。
世界の動きに危機感、川邊社長「東アジアからもう1極」
【ZHD川邊社長とLINE出澤社長 両氏が語る統合の狙い】
ZHD川邊社長・LINE出澤社長と、報道陣との間の質疑応答は以下の通り。
◇
――川邊社長から度重なるラブコールがあったということだが、なぜこの1年で連携が必要だという思いに至ったのか。そしてその時期は。
出澤氏「毎年新年会みたいなものをしており、今年は双方忙しくて春頃にお食事をさせていただいた。そこで『2社で何かできそうだね』と。そのメンバー達で初期的な感触を確認した上で、6月くらいに両親会社にも相談した。その時は経営統合まで念頭にあったわけではないが、広い範囲で検討しようと始まったのが6月くらいのタイミングだった」
――モバイル決済で最大限のシナジーを考えると、PayPayとLINEペイが統合もしくは共通化のような方向になるべきではないかと思うが、そのあたりはどのように考えているか。
川邊氏「個別具体的なことは統合が果たされてからの検討になるが、全体感では政府がかなり後押しをしてキャッシュレスが進んでいるが、それでも我々が集めたデータによるとキャッシュ7割、レス3割。その3割の中でも圧倒的にクレジットカードが大きく、QRコード決済は3~5%というところ。この分野でもっと切磋琢磨して大きくならないと、全然ダメだという認識だ」
――LINEペイは現在、メルペイなど複数の決済サービスと提携しているが、その扱いは今後どうなっていくのか。
出澤氏「(提携は)非常に有意義な取り組みだと考えているが、なにぶん今日決議してまず基本合意を発表した状況。これから各社に説明してからということになる。現時点でなにか決定している事実はない」
――スマートフォン決済が赤字の積み重ねで消耗戦、体力勝負の様相となる中で、今の競争状況が今回の統合の後押しになったのではないか。
出澤氏「パーツの1つとしては競争関係の激化もあるが、それがトリガーではない。もっと大きなことが起こっているので、その中での危機感とご理解いただきたい」
川邊氏「世界のインターネットは米系と中華系の巨大企業に集約されつつある。かつ日本においてもっとITで解決できる課題があるにも関わらず、なぜかIT化が進まない。我々はこれに対して非常に問題意識を感じており、個社でやっていては間に合わないだろうと。そこで両社で取り組もうと。そうしたことがこの1年の中での強い動機だった」
――ソフトバンクグループの孫正義社長から、今回の件について何か話があったのか。
川邊氏「『孫さん主導』のような報道があったが、これに関しては毎年やっている新年会から端を発しており、両当事者で話をした。その後、親会社であるソフトバンクの宮内社長、そしてネイバーの幹部の方々に話し、その4社で進めてきた。従って、これに関しては孫さんはあまり関与してこなかったのが真実。しかし、当然ソフトバンクやヤフーの取締役の立場もあり、その範囲内では情報共有をし、9月に改めて私からプレゼンテーションを行った。孫さんに『このような趣旨で統合を考えています』と話したところ、『100パーセント賛成である』と。『日本のため、アジアのインターネットのため、スピーディにやるべきである』と。そのような言葉をいただいた。全般において関わりはその1回限り」
――この1年でどういう手を打っていくのか。
川邊氏「各種の審査・手続き等を経るまではあくまで別の会社。切磋琢磨する間柄。今日も私はヤフーの社員に『思いっきりLINEと戦え。どちらがいいサービスを作れるか、この1年勝負をし続けろ』と伝えた」
出澤氏「まったく同じことを私も今日社員に言ってきた。統合まで1年程度かかる。その間はより良いサービスを作りユーザーの評価を受け、我々自身も成長する。それしかできることはない」
――川邊社長に伺いたい。今年に入ってソフトバンクの子会社になった。アスクルの経営体制も変更。ZOZOの買収もあった。そしてZホールディングスを経て、今回の発表。この一連の流れをどう理解すればいいか。
川邊氏「確かに社長に就任してから1年半、いろいろなことを急速にやってきた。常日頃から経営者は自分がやりたいことではなく、その会社にとって今なすべきことをなすべきだと考えている。今、ヤフーという会社、Zホールディングスという会社が置かれた立場においてなすべきことがこの1年にやってきたことかなと思っている。すなわちすべての株主のために株主価値を最大化するため、サービスと事業をより強くしていくということ。そして世界のインターネットは米中がかなり強くなってしまっているが、東アジアからもう一極作るということが社長として今後取り組むべき最大のものと考え、このような取り組みに至った」
――今回の統合は何年も前から話があったということだが、実際はいつ頃からか。
川邊氏「私は今までこういう公の場では言ってこなかったが、『LINE』というサービスが大好きで、ヘビーユーザーだ。こんな良いサービスと是非一緒にやりたいなと前から思っていた。随分前の副社長時代から年に一度くらいLINEの幹部の皆さんとお会いする機会があり、毎回『大きなことを一緒にやろう』というオファーを出し続けたが、ほぼ相手にされてこなかった。ただ、今年は『何か話してもいいですよね』みたいなところがあり、『お酒を入れない場できちんと話をさせてください』となった。つまり今年急にかなり大きく動いたということだ」
――澤社長は今回統合に至る際に思うところがあったということだが、どのようなことか。
出澤氏「競合も含めた危機感と、インターネットの流れの速さ、あるいはAI化していく流れの速さへの危機感というところがある。時間とともにグローバルの強いプレイヤーが出てきて、国内でも非常に激しい競争がある。そこに対して手を打ち、次のステージに進むべきだと考えた」
――日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指すということだが、GAFAや中国大手IT企業に対して、どの部分が1番の強みになるのか。
川邊氏「広範囲なサービスのラインナップを押さえ、それをLINEが今提供しているような非常にユーザーフレンドリーなユーザー体験で、それらがつなぎあわさっていくという総合力。あるいはスーパーアプリ化していく今後のサービスの流れそのものが最大の武器になる」
――国内ではネット企業で楽天、サイバーエージェント、メルカリなどの企業があるが、一緒に何か協業を呼びかけていくのか。それともそこは競争相手ということで競争を続けていくのか。
川邊氏「まさにオールジャパンということで、さまざまな協業を呼びかけていきたいと思っている」
――日本、アジアからのテックカンパニーを目指すということだが、ヤフーの検索エンジンは今、グーグルを使っている。ここの部分をネイバーに変えるという考えはあるのか。
川邊氏「検索に関しては統合が果たせてから考えていく。ただ、現時点では検索においてグーグルとのパートナーシップは大変良好だ」
――今後のグローバル展開に関するビジョンについては。
出澤氏「まず両社で、国内でしっかりとしたユーザー価値のあるサービスを提供し、ユーザーの支持を得る。それをLINEの強い国々に展開していく。さらにそれを超え、世界の人々に提供するものを作っていくということが我々の戦略になる。それはチャットアプリでやるのかというと、そうではない可能性もある。これからできる新しいサービスかもしれないし、両社が作る新しいサービスかもしれない。そういった手順でグローバル展開をしていこうと考えている」
――今回の経営統合にはソフトバンクグループの孫正義社長の関与はあまりなかったということだが、孫社長から何かアドバイスはあったのか。
川邊氏「孫さんからいただいた言葉は『ユーザーのためになることをしない限り、誰からも支持されない」ということ。もう1つは『両社が一緒になってやるからには、今までできなかった課題解決につながるような何かをやらない限り、やっている意味はない』と言っていただいた。そういうチャレンジをしていきたいと考えている」
――これだけ巨大なプラットフォームが生まれる中で、独占の問題をどのように処理し、規制当局との対話をどのように行っていくのか。
川邊氏「我々はお互いやっていないような分野があるので、そこを補完し合うのが最大のシナジー。そのためそれぞれのカテゴリーでシェアが著しく上がる分野はあまりないと考えている。横にサービスラインナップが伸びるということだと理解している。当局に対して我々は審査される立場にあり、何か考えがあるわけではなく、審査に関しては進んで協力をしたいと考えている」
「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーになっていきたい」。ZHDの川邊健太郎社長は11月18日、経営統合に向けて合意したLINEの出澤剛社長とともに都内で開催した記者会見で両社が経営統合し、その上で目指す将来像を語った。
両社は同日に開催したそれぞれの取締役会で経営統合に伴う資本提携に関する基本合意書の締結を決議。今後、経営統合の実現に向け、ZHDの親会社のソフトバンクとLINEの親会社、ネイバーコーポレーションがLINEの株式の共同公開買い付けを実施し、全株式を取得し、上場廃止し非公開化。その上でソフトバンクとネイバーが折半出資する新会社を立ち上げ、同社がZHDの親会社となり、ZHDの完全子会社としてヤフーとLINEが傘下入りする。なお、新生ZHDはソフトバンクが連結化し、また、社長は川邊氏が就任予定だが、「対等の経営統合」を強調し、「この統合をきちんと果たして自走していく体制にしていく」(川邊氏)ため、川邊・出澤両氏がともに代表取締役Co―CEOとなり、共同代表制という形をとるという。今後、公正取引委員会ら関連当局からの審査などを経て、来年10月をメドに経営統合を完了させたい意向だという。
ヤフー擁するZHDはネット検索や近年注力するネット販売事業、LINEは国内において圧倒的な利用シェアを誇るメッセージアプリなどを展開し、互いに確固たるポジションを持ち、さらに両社は「PayPay」や「LINEペイ」というQRコード決済サービスにも乗り出し、競合関係にもある。そうした企業同士が経営統合に合意した理由として記者会見の席で川邊・出澤両氏は背景に強い危機感にあったと説明。具体的には世界のインターネットサービスを席巻するGAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)、BAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)ら”グローバルテックジャイアント”に飲み込まれるという懸念だ。
「インターネット産業というものは優秀な人材、あるいは金、データその全てが強いところに集約してしまう”勝者総取り”。強いところはもっと強くなり、それ以外との差がどんどん開いていく構造にある。ほかの産業よりもその流れが非常に大きく、気づいたタイミングにはもう何もできなくなっている可能性がある」(出澤氏)とした上で、「時間とともにグローバルの強いプレイヤーが出てくるし、国内でも非常に激しい競争がある。今手を打って、次のステージに進むべきだろう」(同)とし、国内での競争や米中の巨大IT企業からの攻勢に対抗し、さらに「インターネットの世界は米中がかなり強くなってしまっているが東アジアから世界をリードするもう一極を作る」(川邊氏)べく、互いに別々に事業展開していくよりも両社でともに歩む決断したという。
両社の経営統合が成った場合、時価総額は3兆円、営業利益1600億円、研究開発費200億円、従業員数1・9万人と国内IT企業としては最大規模に躍り出る。無論、時価総額98兆円、研究開発費3兆円、従業員数64万人を誇る米大手IT企業などの”グローバルジャイアント”には文字通り、けた違いに遠く及ばないものの、両社の人材・資金・サービスを投入し、「日本の課題にフォーカスしたようなサービスや機能に思い切って振ることで、海外勢では行えないようなサービスを提供できる」(川邊氏)とし、また両社のサービスから収集・蓄積する各データを駆使してよりユーザーに支持される国産プラットフォームをもう1つの選択肢として提供し、「日本からあるいはアジアから、そこを足場に全世界に飛躍して、世界規模で最高のユーザー体験を提供して、社会課題を解決していくような会社になっていきたい」(出澤氏)と方向性を語った。
経営統合後、EC市場はどうなる?
世界で戦えるITの第三極を目指す志には期待したいが、やはり気になるのはヤフー・LINE連合の誕生で国内のネットビジネス、そしてネット販売の勢力図がどう変化していくかだ。
ヤフーとLINEはそれぞれネット検索、メッセンジャーアプリなどを軸に、メディア、コンテンツ、AI、近年、注力している「PayPay」や「LINEペイ」などの決済サービス、そして「ヤフーショッピング」(仮想モール)や「LINEショッピング」(アフィリエイトメディアサイト)などのコマース分野でも幅広く事業を展開している。
両社の各種サービスとも幅広く利用されており、重複するユーザーも多いだろうが、「LINEはアプリで大成功したサービスで若いユーザーが多い。ヤフーはPC時代からのシニアなお客様がたくさん利用している。ユーザーの接点においてLINEはスマホのアプリ、ヤフーはスマホに加えPCや各種ブラウザからも利用されており、利用者基盤の補完関係が両社ではあるのでないか」とした上で「サービスのシナジーも補完的だ。ヤフーはまったくメッセンジャーのサービスを提供できていないがLINEはすでに国民的なメッセンジャーサービス。一方、LINEはEコマースはそれほど力が入っている事業ではないが、ヤフーはEコマースを近年がんばっているということで、それぞれの弱い点を補い合える」(川邊氏)とする。
また、ヤフーの仮想モール事業の急成長の1つの原動力ともなっている「『ソフトバンクのスマホユーザーならポイント10倍』などの展開が、統合を果たした暁には、『LINEのユーザーもポイント10倍』みたいなことが、もしかしたらできるかも」(同)とする。
両社間のシナジーにより、「例えば、メディアコンテンツの領域では双方のデータを適切に利用することで今まで以上にひとりひとりのユーザーに寄り添ったサービス・情報をお届けすることができるのではないか。広告の領域では検索、ディスプレイ、アカウントなど相互のソリューションを組み合わせた形で新しい価値を提供できる。ペイメント事業では、両社の強みをかけ合わせて、ユーザー、店舗の双方に利便性を飛躍的に向上させることができ、スピードアップ、スケールアップをしていく」(出澤氏)とする。
領域の重なる、または同分野の両サービスをどのように変化させたり、相乗効果を出していく試みを行っていくかなど詳細については「統合が果たせた後に話し合っていく」(同)としており、現状、不明だが、すでに多くの利用者を持つサービスに新たなユーザー接点が加わることは間違いなくプラスに働くことになるはずだ。
そういった意味ではネット販売分野についても変化が出てくる可能性もある。ヤフーが注力しつつも、なかなか万年3番手の座から脱せないネット販売関連事業がLINEの援護を受けて、「ヤフーショッピング」や「PayPayモール」「ヤフオク!」「PayPayフリマ」など関連サービスの規模拡大が進み、また、ZOZOやアスクルといったグループのEC業績の引き上げにも貢献し、状況を好転させるかも知れない。また、詳細は不明だが記者会見の席で出澤社長が「コマースにおいても、メッセンジャーとECとの連携による新しい価値観、新しいユーザー体験を生み出すことができると考えている」(同)と統合後にコマースの新たなサービスや使い方を創造、提案することを示唆しており、行方が注目されるところだ。
今回の超大型企業の統合劇は国内外のITビジネス、また、EC領域にどのような変化をもたらすことになるのか。注視する必要がありそうだ。
世界の動きに危機感、川邊社長「東アジアからもう1極」
【ZHD川邊社長とLINE出澤社長 両氏が語る統合の狙い】
ZHD川邊社長・LINE出澤社長と、報道陣との間の質疑応答は以下の通り。
◇
――川邊社長から度重なるラブコールがあったということだが、なぜこの1年で連携が必要だという思いに至ったのか。そしてその時期は。
出澤氏「毎年新年会みたいなものをしており、今年は双方忙しくて春頃にお食事をさせていただいた。そこで『2社で何かできそうだね』と。そのメンバー達で初期的な感触を確認した上で、6月くらいに両親会社にも相談した。その時は経営統合まで念頭にあったわけではないが、広い範囲で検討しようと始まったのが6月くらいのタイミングだった」
――モバイル決済で最大限のシナジーを考えると、PayPayとLINEペイが統合もしくは共通化のような方向になるべきではないかと思うが、そのあたりはどのように考えているか。
川邊氏「個別具体的なことは統合が果たされてからの検討になるが、全体感では政府がかなり後押しをしてキャッシュレスが進んでいるが、それでも我々が集めたデータによるとキャッシュ7割、レス3割。その3割の中でも圧倒的にクレジットカードが大きく、QRコード決済は3~5%というところ。この分野でもっと切磋琢磨して大きくならないと、全然ダメだという認識だ」
――LINEペイは現在、メルペイなど複数の決済サービスと提携しているが、その扱いは今後どうなっていくのか。
出澤氏「(提携は)非常に有意義な取り組みだと考えているが、なにぶん今日決議してまず基本合意を発表した状況。これから各社に説明してからということになる。現時点でなにか決定している事実はない」
――スマートフォン決済が赤字の積み重ねで消耗戦、体力勝負の様相となる中で、今の競争状況が今回の統合の後押しになったのではないか。
出澤氏「パーツの1つとしては競争関係の激化もあるが、それがトリガーではない。もっと大きなことが起こっているので、その中での危機感とご理解いただきたい」
川邊氏「世界のインターネットは米系と中華系の巨大企業に集約されつつある。かつ日本においてもっとITで解決できる課題があるにも関わらず、なぜかIT化が進まない。我々はこれに対して非常に問題意識を感じており、個社でやっていては間に合わないだろうと。そこで両社で取り組もうと。そうしたことがこの1年の中での強い動機だった」
――ソフトバンクグループの孫正義社長から、今回の件について何か話があったのか。
川邊氏「『孫さん主導』のような報道があったが、これに関しては毎年やっている新年会から端を発しており、両当事者で話をした。その後、親会社であるソフトバンクの宮内社長、そしてネイバーの幹部の方々に話し、その4社で進めてきた。従って、これに関しては孫さんはあまり関与してこなかったのが真実。しかし、当然ソフトバンクやヤフーの取締役の立場もあり、その範囲内では情報共有をし、9月に改めて私からプレゼンテーションを行った。孫さんに『このような趣旨で統合を考えています』と話したところ、『100パーセント賛成である』と。『日本のため、アジアのインターネットのため、スピーディにやるべきである』と。そのような言葉をいただいた。全般において関わりはその1回限り」
――この1年でどういう手を打っていくのか。
川邊氏「各種の審査・手続き等を経るまではあくまで別の会社。切磋琢磨する間柄。今日も私はヤフーの社員に『思いっきりLINEと戦え。どちらがいいサービスを作れるか、この1年勝負をし続けろ』と伝えた」
出澤氏「まったく同じことを私も今日社員に言ってきた。統合まで1年程度かかる。その間はより良いサービスを作りユーザーの評価を受け、我々自身も成長する。それしかできることはない」
――川邊社長に伺いたい。今年に入ってソフトバンクの子会社になった。アスクルの経営体制も変更。ZOZOの買収もあった。そしてZホールディングスを経て、今回の発表。この一連の流れをどう理解すればいいか。
川邊氏「確かに社長に就任してから1年半、いろいろなことを急速にやってきた。常日頃から経営者は自分がやりたいことではなく、その会社にとって今なすべきことをなすべきだと考えている。今、ヤフーという会社、Zホールディングスという会社が置かれた立場においてなすべきことがこの1年にやってきたことかなと思っている。すなわちすべての株主のために株主価値を最大化するため、サービスと事業をより強くしていくということ。そして世界のインターネットは米中がかなり強くなってしまっているが、東アジアからもう一極作るということが社長として今後取り組むべき最大のものと考え、このような取り組みに至った」
――今回の統合は何年も前から話があったということだが、実際はいつ頃からか。
川邊氏「私は今までこういう公の場では言ってこなかったが、『LINE』というサービスが大好きで、ヘビーユーザーだ。こんな良いサービスと是非一緒にやりたいなと前から思っていた。随分前の副社長時代から年に一度くらいLINEの幹部の皆さんとお会いする機会があり、毎回『大きなことを一緒にやろう』というオファーを出し続けたが、ほぼ相手にされてこなかった。ただ、今年は『何か話してもいいですよね』みたいなところがあり、『お酒を入れない場できちんと話をさせてください』となった。つまり今年急にかなり大きく動いたということだ」
――澤社長は今回統合に至る際に思うところがあったということだが、どのようなことか。
出澤氏「競合も含めた危機感と、インターネットの流れの速さ、あるいはAI化していく流れの速さへの危機感というところがある。時間とともにグローバルの強いプレイヤーが出てきて、国内でも非常に激しい競争がある。そこに対して手を打ち、次のステージに進むべきだと考えた」
――日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指すということだが、GAFAや中国大手IT企業に対して、どの部分が1番の強みになるのか。
川邊氏「広範囲なサービスのラインナップを押さえ、それをLINEが今提供しているような非常にユーザーフレンドリーなユーザー体験で、それらがつなぎあわさっていくという総合力。あるいはスーパーアプリ化していく今後のサービスの流れそのものが最大の武器になる」
――国内ではネット企業で楽天、サイバーエージェント、メルカリなどの企業があるが、一緒に何か協業を呼びかけていくのか。それともそこは競争相手ということで競争を続けていくのか。
川邊氏「まさにオールジャパンということで、さまざまな協業を呼びかけていきたいと思っている」
――日本、アジアからのテックカンパニーを目指すということだが、ヤフーの検索エンジンは今、グーグルを使っている。ここの部分をネイバーに変えるという考えはあるのか。
川邊氏「検索に関しては統合が果たせてから考えていく。ただ、現時点では検索においてグーグルとのパートナーシップは大変良好だ」
――今後のグローバル展開に関するビジョンについては。
出澤氏「まず両社で、国内でしっかりとしたユーザー価値のあるサービスを提供し、ユーザーの支持を得る。それをLINEの強い国々に展開していく。さらにそれを超え、世界の人々に提供するものを作っていくということが我々の戦略になる。それはチャットアプリでやるのかというと、そうではない可能性もある。これからできる新しいサービスかもしれないし、両社が作る新しいサービスかもしれない。そういった手順でグローバル展開をしていこうと考えている」
――今回の経営統合にはソフトバンクグループの孫正義社長の関与はあまりなかったということだが、孫社長から何かアドバイスはあったのか。
川邊氏「孫さんからいただいた言葉は『ユーザーのためになることをしない限り、誰からも支持されない」ということ。もう1つは『両社が一緒になってやるからには、今までできなかった課題解決につながるような何かをやらない限り、やっている意味はない』と言っていただいた。そういうチャレンジをしていきたいと考えている」
――これだけ巨大なプラットフォームが生まれる中で、独占の問題をどのように処理し、規制当局との対話をどのように行っていくのか。
川邊氏「我々はお互いやっていないような分野があるので、そこを補完し合うのが最大のシナジー。そのためそれぞれのカテゴリーでシェアが著しく上がる分野はあまりないと考えている。横にサービスラインナップが伸びるということだと理解している。当局に対して我々は審査される立場にあり、何か考えがあるわけではなく、審査に関しては進んで協力をしたいと考えている」