定期縛りも「公表対象」【「ケトジェンヌ」で注目の消費者安全法】 おろそかな顧客対応、公表リスクに
健康被害が疑われたサプリメントの実名公表で消費者安全法に対する関心が高まっている。因果関係の有無を問わないなど発動要件が低く使い勝手がよいためだ。e.Cycle(=イーサイクル)の「ケトジェンヌ」は、健康被害の急増が問題視されたが、同法が対象にする消費者事故は「財産被害」もカバーする。通販で相談が急増する”定期縛り”も「調査、公表の対象になりうる」(消費者庁消費者政策課財産被害対策室)と話す。
「初回実質0円」「送料のみ」などの誘い文句で複数回の定期契約を結ぶ”定期縛り”の相談が急増している。政府が17年に公表した消費者白書では、相談件数が4年で20倍の約1万3000件まで増加。以降も各自治体で注意喚起が続く。
今年8月には、埼玉県が育毛剤通販のRAVIPA(ラヴィパ)に景品表示法に基づく措置命令を下した。実際、好きな時に解約できる状態にないにもかかわらず、「いつでも解約」などと表示していた点を有利誤認と判断。同社をめぐっては「定期購入と思わなかった」「解約できない」といった相談が、国民生活センターのPIO―NETに1321件(8月時点)寄せられていた。
◇
「消費者事故」からイメージされにくいが、消費者安全法が対象にするのは、健康被害だけでなく、財産被害も含まれる。所管は、「生命・身体分野」(消費者安全課)と、「財産分野」(消費者政策課)に分かれる。
「財産分野」は、「虚偽誇大広告や消費者の利益を不当に害し、消費者の合理的な選択を阻害するおそれのある行為」が確認され、必要と認めた場合に注意喚起できる。行政に委ねられた裁量の幅も広い。
消費者政策課は、「個別事案の精査は必要だが、解約できると表示して解約できない、初回限定と表示して定期だった場合も対象になる」(財産被害対策室)とする。「打消し表示」をしても「程度の問題」(同)として、”無効”と判断すれば公表に踏み切る可能性を否定しない。
”定期縛り”は、これまで景表法で処分実績はない。国の認定を受けた適格消費者団体が個別に是正を求め、行政も抜本的な解決策を見出せていないのが実情だ。
一方の消費者安全法による「財産分野」の公表は、これまで年間10件前後。今のところ被害額の大きい情報商材が中心で、”定期縛り”の実績はない。ただ、急増する”定期縛り”の問題も認識しており、「調査、公表の対象になりうる」(同)と話す。発動要件のハードルが低い消費者安全法の適用が行われれば、「注意喚起」を前提に社名、製品名の公表が相次ぐ可能性がある。
◇
健康被害で実名公表を受けたイーサイクルは10月16日、社名を「TOLUTO」に変更。同日付で、中谷裕一社長が退任し、佐々木信一氏が代表取締役社長に就任した。「ケトジェンヌ」以外を含め、同社の健食をめぐる相談は、18年度に1588件、19年度に2758件(10月28時点、同名の事業者を含む可能性もある)に達する。
実名公表では、短期間で「下痢になった」等の被害が急増したことを問題視。公表後、イーサイクルは、成分分析の結果から、下剤に使用されるマグネシウムが検出されたものの、下剤への配合量をはるかに下回る量であるとして安全性を保持しているとする。
ただ、消費者安全法は、「被害の拡大が確認されれば、安全性が完全にホワイトなものでなければ公表できる」(消費者安全課)。特定の成分と被害の関連性などミクロの因果関係を問わず、「使用に伴い」生じた事故などマクロの因果関係が確認できれば運用可能。販売中止や回収を命じるなど法的拘束力のない「注意喚起」にとどまるため、行政に公表の可否について幅広い裁量が認められている。一方で、「ケトジェンヌ」の例が示すように、実名公表で生じる制裁効果は強力だ。
健康被害や定期縛り、解約をめぐるトラブルは、消費者安全法上、いずれも「消費者事故」として捉えられる。端緒の一つは、全国の消費生活センターから寄せられた相談件数を集約するPIO―NET。おろそかな顧客対応が、消費者安全法上のリスクを高めることになる。
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今年8月には、埼玉県が育毛剤通販のRAVIPA(ラヴィパ)に景品表示法に基づく措置命令を下した。実際、好きな時に解約できる状態にないにもかかわらず、「いつでも解約」などと表示していた点を有利誤認と判断。同社をめぐっては「定期購入と思わなかった」「解約できない」といった相談が、国民生活センターのPIO―NETに1321件(8月時点)寄せられていた。
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「消費者事故」からイメージされにくいが、消費者安全法が対象にするのは、健康被害だけでなく、財産被害も含まれる。所管は、「生命・身体分野」(消費者安全課)と、「財産分野」(消費者政策課)に分かれる。
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消費者政策課は、「個別事案の精査は必要だが、解約できると表示して解約できない、初回限定と表示して定期だった場合も対象になる」(財産被害対策室)とする。「打消し表示」をしても「程度の問題」(同)として、”無効”と判断すれば公表に踏み切る可能性を否定しない。
”定期縛り”は、これまで景表法で処分実績はない。国の認定を受けた適格消費者団体が個別に是正を求め、行政も抜本的な解決策を見出せていないのが実情だ。
一方の消費者安全法による「財産分野」の公表は、これまで年間10件前後。今のところ被害額の大きい情報商材が中心で、”定期縛り”の実績はない。ただ、急増する”定期縛り”の問題も認識しており、「調査、公表の対象になりうる」(同)と話す。発動要件のハードルが低い消費者安全法の適用が行われれば、「注意喚起」を前提に社名、製品名の公表が相次ぐ可能性がある。
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健康被害で実名公表を受けたイーサイクルは10月16日、社名を「TOLUTO」に変更。同日付で、中谷裕一社長が退任し、佐々木信一氏が代表取締役社長に就任した。「ケトジェンヌ」以外を含め、同社の健食をめぐる相談は、18年度に1588件、19年度に2758件(10月28時点、同名の事業者を含む可能性もある)に達する。
実名公表では、短期間で「下痢になった」等の被害が急増したことを問題視。公表後、イーサイクルは、成分分析の結果から、下剤に使用されるマグネシウムが検出されたものの、下剤への配合量をはるかに下回る量であるとして安全性を保持しているとする。
ただ、消費者安全法は、「被害の拡大が確認されれば、安全性が完全にホワイトなものでなければ公表できる」(消費者安全課)。特定の成分と被害の関連性などミクロの因果関係を問わず、「使用に伴い」生じた事故などマクロの因果関係が確認できれば運用可能。販売中止や回収を命じるなど法的拘束力のない「注意喚起」にとどまるため、行政に公表の可否について幅広い裁量が認められている。一方で、「ケトジェンヌ」の例が示すように、実名公表で生じる制裁効果は強力だ。
健康被害や定期縛り、解約をめぐるトラブルは、消費者安全法上、いずれも「消費者事故」として捉えられる。端緒の一つは、全国の消費生活センターから寄せられた相談件数を集約するPIO―NET。おろそかな顧客対応が、消費者安全法上のリスクを高めることになる。