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“アマゾン商法”に限界か<アマゾンの処分取消訴訟> 「表示主体」めぐる判決、事業に影響も

2019年 9月12日 14:15

 アマゾンジャパンの行政訴訟が佳境を迎えている。法廷では、文具・事務用品大手のプラスを巻き込み、処分対象となる「表示主体者」を争う論争に発展。早ければ今年11月にも判決が出る見込みだ。判決によっては、ビジネスモデルの大きな転換を余儀なくされる可能性もある。
 










 消費者庁は2017年12月、アマゾンに対し、不当な二重価格表示で景品表示法に基づく措置命令(有利誤認)を下した。プラスから仕入れ、直販していた「クリアホルダー(100枚入り)」で「参考価格9720円(90%オフ)」など、実際の販売価格と比較して安いかのように表示。だが、「参考価格」は製造業者が社内の商品管理上、便宜的に定めた価格で消費者への提示を目的としていないものだった。この処分を不服としたアマゾンは昨年1月、処分取り消しを求め東京地裁に提訴している。

「プラスこそ表示主体者」

 争点は、処分における「表示主体者」をめぐるものだ。アマゾンが運営するサイトは「ベンダーセントラル」と呼ばれる管理画面を通じて仕入先の事業者が自ら商品登録する仕組み。「メーカー希望小売価格」がある場合、仕入先が”任意”で入力する。これが比較対照となる「参考価格」となる。

 アマゾンは入力する価格について、商品パッケージやカタログで広く消費者に周知する「メーカー希望小売価格」などに限るとするルールに基づくことを求めている。登録情報が正確であることの保証も求める。

 問題は、登録したのが仕入先、販売者はアマゾンであることだ。表示された参考価格には実態がなく、「誰か」に責任はある。その所在をめぐり、法廷ではプラスの供述を背景に消費者庁がアマゾンを「表示主体者」とする一方、アマゾンは「むしろ製造者(プラス)こそ表示主体者」と、罪のなすりつけ合いに発展している。

仕入先の指図で「伝達しただけ」

 アマゾンは、「仕入れ先の指図に従い、登録情報を消費者に伝達したに過ぎない」と、表示内容の決定に関与した事業者であることを否定する。

 不当と判断された価格は、メーカーの説明を踏まえ作成したものではなく、機械的に入力情報をそのまま商品ページに反映。店舗でいうところの「メーカー、卸が作成したカタログを単に店頭に陳列したに過ぎない」とする。過去の処分例では、表示物を作成した仕入先が「表示主体者」と判断された例もある。

 管理義務も尽くしたとする。不当表示をめぐっては15年7月以降、カスタマーレビューに「参考価格が9720円となっているがそんな価格に思えない」「タイムセールで90%オフの表示が出ているが元値がおかしい。タイムセール特価950円が標準的実売価格。ちなみにアスクルで800円弱だった」などの書き込みがされていた。

 アマゾンがこれを確認したのは16年夏頃。プラスに適切性を照会したところ「間違いない。もともとの定価はこの価格であり、市場価格が下がり過ぎている」との回答を受け、修正の必要がないと判断した。メーカー希望小売価格の内容を決定・変更できる権限はメーカー・卸にあり、「自らは表示内容を決定できる立場にない」と主張する。

二重価格の仕組みを構築・運営

 消費者庁は、「アマゾンの意思と無関係に仕入先が取引条件を決定することはおよそありえない」と見解が異なる。二重価格の仕組みを構築・運営し、登録を委ねていたのはアマゾンであり、本来、自ら決定すべき参考価格の決定・登録を仕入先に委ね、表示に至らしめていたとする。アマゾンは、「自らの企画で表示したものではない」と責任の回避を狙うが、「参考価格の決定権を持っていないことは表示主体の判断に影響しない」とも指摘。プラスに照会するなど適切性担保の取り組みも「表示主体、有利誤認の判断に影響しない」と断じる。

プラスとアマゾン食い違う主張  

 表示主体者の判断は、第3の当事者ともいえるプラスの見解の信用性も影響する。

 消費者庁によれば、プラスは、消費者に公開するカタログで「オープン価格」と明記。アマゾンサイトのみ参考価格となる表示を行う「動機は見出せない」とする。それでも入力したのは、「以前はメーカー希望小売価格の入力が必須だった」ため(プラスの供述、アマゾンは必須であることを否定)。「そのたぐいにあたるものがないと認識しつつ記入したに過ぎない。まさかメーカー希望小売価格の欄に記載した参考上代(一部の小売向けに参考のため示す価格)が参考価格として表示されると思っていなかった」(同)とする。このため、「消費者に示すことを目的にせず、小売に広く知られる価格でもなかった」(同)との供述は信用に値するとする。

 一方のアマゾンは、プラスから入力の理由について、「セール実施時に入力がないと割引率が表示されず、お得感が訴求できないため」と、説明を受けたと主張。「むしろ参考価格として消費者に表示されることを理解した上で、発注増加による売り上げ拡大の意図に基づいて入力していた」とする。

 「不利な供述をする動機がない」とする消費者庁の見解にも「自身の行為が関係しており、不利益な影響避ける動機は十分ある」とする。

肥大した市場脆さ露呈

 アマゾンは、ECの特性について、物理的にメーカー・卸と販売者の作成した表示物が区別される店舗と異なり、ネットの商品ページは「1枚の画面上に取り込まれ区別されない」と主張。仕組み自体は適法で、構築しただけの販売者による表示と評価することは、「旧来の実店舗のみの規制を前提にネット事業者の表示を過度に規制し、責任を過重にする。ネットの強烈な萎縮をもたらす」と指摘する。

 ただ、その立場は苦しくもある。責任の所在をめぐり、消費者庁と真っ向から見解が対立するものの、係争が続く現在もプラスの商品を販売。「アマゾンとしてもプラスの商品がなくなると競争力が落ちる」(業界関係者)と、メーカスタンスを前になすすべはない。

 責任が認められれば、ビジネスモデルの転換も余儀なくされる。

 アマゾンは数億点もの商品を扱い、国内の年間流通総額は2兆円を超えるとみられる。だが、「実店舗より多くの商品があり、表示を逐一精査するのは不可能」と自認するように、メーカー、卸に委ねていた入力情報の厳格な管理を求められれば膨大なコストが発生するとみられる。

 加えて、景表法の措置命令は故意・過失を問わず、「コストをかけたところで、解決策にならない」(景表法に詳しい弁護士)。

 アマゾンに規約改定を含むサイト管理の厳格化、プラスに対する法的措置の検討などについて尋ねたが、「係争中のためコメントを差し控える」と回答するのみ。法廷では、「責任が認められれば指図に従った商品情報の掲載を停止することを余儀なくされ、強力な萎縮効果をもたらす。多くの商品の充実した情報を入手して購入できるネットの重要な消費者保護機能を無に帰す」と抵抗するが、”一覧性”という最大の強みを失うことにもなりかねない。自ら設計し、肥大した市場は岐路に立たされている。

 
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