【揺れる景表法⑧ 「打消し表示」禁止令】 広告の自由奪う規制、消費者庁裁量で「無効」を判断
景品表示法違反とならないための事業者側の取り組みが「打消し表示」だ。品質やサービスを広告で強調した際、例外条件等を示すことで消費者の誤認を防ぐものだ。しかし、細かく規定し過ぎると、現実的には広告が成り立たなくなる。つまり打消し表示の禁止と同じ。検閲のように広告にあれこれと条件を付けることも、取締りと並ぶ、「表現の自由」に介入する強い規制なのだ。
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「個人の感想であり、効果を保証するものではありません」。テレビ通販などで、体験者が製品について語る映像には、必ずと言っていいほど、こうした文言が表示されている。景表法違反を防ぐ「お守り」的な文言だ。
しかし、その効力は失われつつある。消費者庁表示対策課はこの種の打消し表示を行っていた事例も、景表法違反としているからだ。
記憶に新しいのが「葛の花事件」だ。複数の企業が広告に体験談を使い、前出のような打消し表示を行っていた。
これに消費者庁は、製品の効果性能を宣伝しているにもかかわらず「効果性能を保証するものではない」と書くことは矛盾しており、「消費者の効果が得られるという認識を変えるものではない」と、打消し表示を”無効”と断定。体験談と同じ効果が得られた者や、得られなかった者の割合の表示などを求めた。
要は、事業者は都合の良いところを抜き出しており、体験談をほとんどの人が信じるということ。となれば、こうした体験談で広告する製品の売り上げは爆発的な数字となろう。だが、それはあり得ない話だ。体験談と打消し表示の矛盾も、話の内容は千差万別であり、「意味なし」との決めつけは一方的だ。
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消費者庁は、統計的な観点から打消し表示の問題点を指摘する。だが、論拠とした調査は、消費者の認識を適切に反映したものといえるか。
消費者庁は17年以降、都合3回、打消し表示の調査を行っている。17年7月(打消し表示全般)、昨年5月(スマートフォンの打消し表示)の調査は、いずれも20~69歳を対象にウェブアンケートで1000人、グループインタビューで12人にヒアリングを実施。果ては、人の眼球の動きを追尾するアイトラッキング機器を使い、「消費者の視線に関する調査」(昨年6月)を行うに至る。
驚くべきはその調査人数だ。対象は、わずか49人。これを前提に問題点を指摘しているのだ。
結果として、強調表示と打消し表示の文字の大きさの違い、バランス、配置箇所、背景色との区別から景表法違反となる可能性を指摘した。例えば、動画広告の場合、「打消し表示」「強調」「画像」「音声」など複数の情報が同一画面に混在すると情報量が多く、誤認の可能性が高いため画面設計を工夫せよと求めた。
◇
だが、微に入り広告の制作に踏み込むことは、広告の自由な設計を奪うことになる。
だいにち堂をめぐる処分取消し訴訟では、互いに行った3000人規模の消費者調査ですら、広告に対する認識は真っ二つに分かれているのだ。となれば、打消し表示の調査は、その論拠として十分とはいえまい。だが、調査を背景にした打消し表示の「無効判断」は、消費者庁の裁量に委ねられ、その明確な判断基準は示されない。
そもそも、広告に対する消費者からのクレームを最も把握しているのは事業者だ。だが、業界には一切のヒアリングを行わず、「消費者の認識」を示し、問題点を指摘している。
公正取引委員会が08年に行った「見にくい表示」の調査は、消費者の有効回答が400人に満たなかった。打消し表示の文字の大きさで配慮を求めたが、あくまで「望ましい表示」と、注意喚起するにとどめた。「表現の自由」に対する慎重な判断が働いていたためだろう。
◇
打消し表示の問題は、違反を未然に防ぐ目的で事業者に注意を促すものであったはず。だが、最近では、取締りの理由の一つにされ、違反認定のツール化している。それでは本末転倒だ。
景表法の処分を受けたある事業者は「打消し表示が離れていることを理由に処分を受けた」と言う。注意を払っていた企業に対し、その不足を理由に処分を行うのであれば、事業者は四角四面の広告しか行えない。果たしてそれは、「表現の自由」と言えるだろうか。(つづく)
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「個人の感想であり、効果を保証するものではありません」。テレビ通販などで、体験者が製品について語る映像には、必ずと言っていいほど、こうした文言が表示されている。景表法違反を防ぐ「お守り」的な文言だ。
しかし、その効力は失われつつある。消費者庁表示対策課はこの種の打消し表示を行っていた事例も、景表法違反としているからだ。
記憶に新しいのが「葛の花事件」だ。複数の企業が広告に体験談を使い、前出のような打消し表示を行っていた。
これに消費者庁は、製品の効果性能を宣伝しているにもかかわらず「効果性能を保証するものではない」と書くことは矛盾しており、「消費者の効果が得られるという認識を変えるものではない」と、打消し表示を”無効”と断定。体験談と同じ効果が得られた者や、得られなかった者の割合の表示などを求めた。
要は、事業者は都合の良いところを抜き出しており、体験談をほとんどの人が信じるということ。となれば、こうした体験談で広告する製品の売り上げは爆発的な数字となろう。だが、それはあり得ない話だ。体験談と打消し表示の矛盾も、話の内容は千差万別であり、「意味なし」との決めつけは一方的だ。
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消費者庁は、統計的な観点から打消し表示の問題点を指摘する。だが、論拠とした調査は、消費者の認識を適切に反映したものといえるか。
消費者庁は17年以降、都合3回、打消し表示の調査を行っている。17年7月(打消し表示全般)、昨年5月(スマートフォンの打消し表示)の調査は、いずれも20~69歳を対象にウェブアンケートで1000人、グループインタビューで12人にヒアリングを実施。果ては、人の眼球の動きを追尾するアイトラッキング機器を使い、「消費者の視線に関する調査」(昨年6月)を行うに至る。
驚くべきはその調査人数だ。対象は、わずか49人。これを前提に問題点を指摘しているのだ。
結果として、強調表示と打消し表示の文字の大きさの違い、バランス、配置箇所、背景色との区別から景表法違反となる可能性を指摘した。例えば、動画広告の場合、「打消し表示」「強調」「画像」「音声」など複数の情報が同一画面に混在すると情報量が多く、誤認の可能性が高いため画面設計を工夫せよと求めた。
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だが、微に入り広告の制作に踏み込むことは、広告の自由な設計を奪うことになる。
だいにち堂をめぐる処分取消し訴訟では、互いに行った3000人規模の消費者調査ですら、広告に対する認識は真っ二つに分かれているのだ。となれば、打消し表示の調査は、その論拠として十分とはいえまい。だが、調査を背景にした打消し表示の「無効判断」は、消費者庁の裁量に委ねられ、その明確な判断基準は示されない。
そもそも、広告に対する消費者からのクレームを最も把握しているのは事業者だ。だが、業界には一切のヒアリングを行わず、「消費者の認識」を示し、問題点を指摘している。
公正取引委員会が08年に行った「見にくい表示」の調査は、消費者の有効回答が400人に満たなかった。打消し表示の文字の大きさで配慮を求めたが、あくまで「望ましい表示」と、注意喚起するにとどめた。「表現の自由」に対する慎重な判断が働いていたためだろう。
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打消し表示の問題は、違反を未然に防ぐ目的で事業者に注意を促すものであったはず。だが、最近では、取締りの理由の一つにされ、違反認定のツール化している。それでは本末転倒だ。
景表法の処分を受けたある事業者は「打消し表示が離れていることを理由に処分を受けた」と言う。注意を払っていた企業に対し、その不足を理由に処分を行うのであれば、事業者は四角四面の広告しか行えない。果たしてそれは、「表現の自由」と言えるだろうか。(つづく)