前号に続き、MOAの佐伯澄代表取締役(=写真)に今後の戦略などを聞いた。
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――家電以外の商材の取り扱いも増えており、一昨年には酒類の販売も開始した。売れ行きは。
「酒類に関してはなかなか難しいという印象だ。酒専門の通販サイトは多く、対等に戦おうと思うとなかなか難しい。例えば、ワインであれば多くの種類を取り扱う通販サイトに勝つのは難しいし、対抗して揃えようと思うと利益がほとんど出なくなってしまう。どこまで商材を絞って勝負するかを模索中だ」
――食品や日用品については。
「伸びてはいるが、家電とはサイズが違うので管理が難しい。商品数を増やせば売り上げは増えるはずだが、運賃の問題もある。ある程度商品数を絞るつもりだ」
――こうした商材の取り扱いは、サイトへの来訪回数増や購入回数増という狙いがあると思うが、既存客にはどうアピールしているのか。
「ここが当社の課題となっている。これまで1カ月あたりの購買回数についてはあまり考えておらず、当社の通販サイトで家電を買ったユーザーが二度と来訪しないということの方が圧倒的に多かった。会員登録したユーザーに対し、家電以外の商材や家電に近い商材を買ってもらえるよう、プロモーションをかけようと思っている。そのためにはどんな商品を販売したらいいのか、8月に着任してから手を付けている」
「これまで、インターネットで通販をしていながら、あまりネットを活用していなかった部分がある。購入履歴などのデータを活用し、フリークエンシー(頻度)を上げて購入金額を上げていきたい」
――具体的には。
「仮想モールも含めると当社は『エープライス』と『プレモア』という2つの名前を使って通販サイトを展開しているわけだが、ブランディングできていない。現在、KDDIの仮想モール『ワウマ』に追加出店を予定しており、家電と家電以外で商材を分けて展開したいと思っている。『エープライス』では家電を販売し、『プレモア』は日用品を扱うサイトにしていきたい。携帯電話ユーザーが中心のワウマは当社の従来の顧客層とは少し違うので、実験的に日用品を集めたショップを出店し、販売する仕組みを構築していきたいと思っている」
――自社サイトは価格比較サイト経由の顧客が多いのか。
「そうだ。サイト名は気にせず、価格だけを見て購入する顧客が多いので、いかにリピーターになってもらうかが大きなポイント。そのために、ビッグデータを使いながらフリークエンシーを上げる仕組みを導入していく。スマートフォンのプッシュ通知を使った販促や、チャットボットのような人工知能を使ったレコメンドも考えている。プッシュ通知を使うのであればスマホアプリの導入が必要になる。ただ、家電だけを売るのであればアプリはユーザーにダウンロードしてもらえないと思うので、購入頻度の高い食品や雑貨の品揃えが増えた段階でリリースしたい」
――日用品についてはアマゾンやヨドバシカメラのような大手と競合する。サービス面で優れた巨大サイトにどう対抗するのか。
「彼らがあまり得意としていなかったり、KPIの観点から注力していなかったりする商材を販売していきたい。具体的には価格競争がそこまで激しくない商材として、ペット用品やDIY関連、住宅設備系を考えている。ただ、まだバイイングパワーが足りないので、規模が巨大なGMSと同じ品揃えにしても仕方がない。ロングテール型ではなく、分野を絞りたい」
――そこはどう見極めるのか。
「購買履歴やテスト販売の結果、仮想モールから得られるデータなどを通じて、家電と一緒に購入してもらえるような商材を扱っていきたい」
――運賃値上げへの対処は。
「5000円未満の購入に対する送料を700円から864円に値上げした。現在の規模では自社物流に踏み切るのは難しいので、何とか対処するしかないだろう。今期の業績に影響する部分だが、経費増を吸収するために粗利を増やし、EBITDA(営業利益+償却費)ではトントンかややプラスに持っていきたい」
――2018年6月期の業績は。
「売上高は前期比35・4%増の423億8700万円、営業利益は6億6000万円、経常利益は5億4000万円。プライベートブランド(PB)シリーズ『マクスゼン』が伸びたほか、各社仮想モール店舗の売り上げが好調だった。売り上げ比率としては自社サイトが1、仮想モール2となっており、セールを定期的に開催している楽天市場やヤフーショッピングなどが好調だ」
――今期の業績見込みは。
「売り上げについては毎月のアベレージで15%増は最低でも達成したい」
――株式上場の時期はいつになる。
「まだ決まっていないが、数年内というイメージだ」
――売上高1000億円に向けた施策は。
「現在の成長ペースなら6~7年後にはいけると思う。まずはデータ活用など、ウェブマーケティングができてないので力を入れていく。既存客にもう一度買ってもらうための仕組み作りやプロモーションを手掛けることで業績向上につなげたい。5~6年後には非家電商材が売り上げのうち約10%を占める計算だ。またPBシリーズについても15~20%にしたい」
「これまで勢いで伸びてきた会社ということもあり、『より安く売る』ことを重視しており、既存客へのフォローなど顧客視点の施策ができていなかった。今後はそこに注力することで、価格比較サイト経由ではなく、直接当社の通販サイトに来てもらえるようにしていきたい」(おわり)