「葛の花由来イソフラボン」を含む機能性表示食品(以下、葛の花)の不当表示疑惑をめぐる消費者庁による調査において、商品供給元である東洋新薬の「関与」を判断するポイントの一つが、販売側に示していた"営業資料"の存在だ。
DHCは逸脱? 「(届出で皮下脂肪への言及がないのに)皮下脂肪をつかむ画像は、皮下脂肪に効果があると誤認させるため、届出表示逸脱として消費者庁等から指摘される懸念がある」。営業資料で不当表示の可能性を名指しで指摘されたのは、通販大手、ディーエイチシーの販売する機能性表示食品「エクササイズダイエット」だ(=画像)。
指摘は、消費者庁によるものではなく、東洋新薬が独自に見解を示したものだ。東洋新薬に実名を挙げられたのはほかにカゴメ、キューサイ、健康家族、富士フイルム、八幡物産、ライオンを含む7社。機能性や作用メカニズム、権威づけや副素材を使った場合の表現について「効果逸脱」「誇大表現」など懸念される表現、問題がない表現が指摘されている。
一方、「葛の花」については「販促表現例」として作用メカニズムを分かりやすく示したイラスト、試験結果を示したグラフを提示。「他社販促表現」と並行して「葛の花」について懸念がないと考える表現例などが示されている。
資料は計21ページ。ダイエット市場の概況にはじまり、複数の調査資料の分析から「食事制限しないダイエットサプリ」のニーズが高いこと、「葛の花」の素材としての背景が詳細に渡り解説されている。具体例に踏み込む資料は、表示関連の法律や制度に疎い者でも理解しやすい。そのまま広告にも引用できそうだが、資料は「資料を元に販促物を作成する場合、再度内容を確認してほしい」と結ばれている。
分かれる評価 「よくできている。(取引先が)欲しいのは販促表現などテクニカルな部分」。あるメーカーは、営業資料の出来栄えに嘆息する。
機能性表示食品は企業の自己責任による届出制。だが実態としてはエビデンス構築に不慣れな中小の販売企業にとって原料メーカーやOEMの協力は不可欠だ。ただ、届出は支援しても広告表現の判断は渋る原料メーカーが少なくない。"この表現は可能か"というやり取りにじれったさを感じる販売企業もいる。
一方、「葛の花」は、東洋新薬が直接管理する独自原料。原料メーカーを介さないため、やり取りもスムーズだ。資料にも「攻めている、と感じるが販売企業の心理をうまく突いている。販促表現を含め、ここまでやってくれるとありがたい」といった評価がある。
ただ、多くの企業が躊躇する販促に深く踏み込んだ資料には、「販売企業の自己責任であるのに黒子であるOEMが指南するのはダメ。"販売企業自ら商品に対する認識を高めなさい"という制度の趣旨に反する」「これで(処分など)指摘を受けたらどう責任持てるのか」との声もある。
東洋新薬は知財戦略に強い企業として知られる。主力のトクホの青汁のOEMでは特許網を構築。不動の地位を築く。昨年1年間の医薬部外品の承認品目数も大手の花王を抑え、108品目でトップ。機能性表示食品もこれまで41件の届出はOEMでは突出している。
営業資料の作成も「学術・法務関連の専用部署が担当。「葛の花」においても届出から販売サポートを含め、「数百万円のパッケージで提供されていた」とされる。問題は、これを背景に東洋新薬がどの程度、広告表現に関与していたかだ。
指導を予見? "攻めすぎ"との評価も受ける資料だが、東洋新薬にもその認識があったのか、資料末尾にはこんな一文も書かれている。
「制度は、企業責任において機能性の表示を認めている届出制度であるため(略)行政などから指導等が入る可能性がございます」。「葛の花」をめぐる状況は今まさにこの状況にある。
2009年、シャンピニオンエキスを含む健食をめぐる排除命令(現在の措置命令)は、原料メーカーの説明を鵜呑みにして表示した7社が処分された。だが、原料メーカーのリコムにはお咎めなしだった。
一方で12年、健食卸を行っていたビックタウンやリアルの関係者が薬事法違反で摘発を受けた事件は、卸元であるこれらの企業が責任を問われた。販売企業がインパクトの強い広告を作れない中、卸元が広告事例を示す"指南役"とみられたためだ。
行政は処分に際し、そこにメッセージを込めることがある。「葛の花」の調査をめぐり、消費者庁はどういった狙いを持っているのか。(つづく)
DHCは逸脱?
「(届出で皮下脂肪への言及がないのに)皮下脂肪をつかむ画像は、皮下脂肪に効果があると誤認させるため、届出表示逸脱として消費者庁等から指摘される懸念がある」。営業資料で不当表示の可能性を名指しで指摘されたのは、通販大手、ディーエイチシーの販売する機能性表示食品「エクササイズダイエット」だ(=画像)。
指摘は、消費者庁によるものではなく、東洋新薬が独自に見解を示したものだ。東洋新薬に実名を挙げられたのはほかにカゴメ、キューサイ、健康家族、富士フイルム、八幡物産、ライオンを含む7社。機能性や作用メカニズム、権威づけや副素材を使った場合の表現について「効果逸脱」「誇大表現」など懸念される表現、問題がない表現が指摘されている。
一方、「葛の花」については「販促表現例」として作用メカニズムを分かりやすく示したイラスト、試験結果を示したグラフを提示。「他社販促表現」と並行して「葛の花」について懸念がないと考える表現例などが示されている。
資料は計21ページ。ダイエット市場の概況にはじまり、複数の調査資料の分析から「食事制限しないダイエットサプリ」のニーズが高いこと、「葛の花」の素材としての背景が詳細に渡り解説されている。具体例に踏み込む資料は、表示関連の法律や制度に疎い者でも理解しやすい。そのまま広告にも引用できそうだが、資料は「資料を元に販促物を作成する場合、再度内容を確認してほしい」と結ばれている。
分かれる評価
「よくできている。(取引先が)欲しいのは販促表現などテクニカルな部分」。あるメーカーは、営業資料の出来栄えに嘆息する。
機能性表示食品は企業の自己責任による届出制。だが実態としてはエビデンス構築に不慣れな中小の販売企業にとって原料メーカーやOEMの協力は不可欠だ。ただ、届出は支援しても広告表現の判断は渋る原料メーカーが少なくない。"この表現は可能か"というやり取りにじれったさを感じる販売企業もいる。
一方、「葛の花」は、東洋新薬が直接管理する独自原料。原料メーカーを介さないため、やり取りもスムーズだ。資料にも「攻めている、と感じるが販売企業の心理をうまく突いている。販促表現を含め、ここまでやってくれるとありがたい」といった評価がある。
ただ、多くの企業が躊躇する販促に深く踏み込んだ資料には、「販売企業の自己責任であるのに黒子であるOEMが指南するのはダメ。"販売企業自ら商品に対する認識を高めなさい"という制度の趣旨に反する」「これで(処分など)指摘を受けたらどう責任持てるのか」との声もある。
東洋新薬は知財戦略に強い企業として知られる。主力のトクホの青汁のOEMでは特許網を構築。不動の地位を築く。昨年1年間の医薬部外品の承認品目数も大手の花王を抑え、108品目でトップ。機能性表示食品もこれまで41件の届出はOEMでは突出している。
営業資料の作成も「学術・法務関連の専用部署が担当。「葛の花」においても届出から販売サポートを含め、「数百万円のパッケージで提供されていた」とされる。問題は、これを背景に東洋新薬がどの程度、広告表現に関与していたかだ。
指導を予見?
"攻めすぎ"との評価も受ける資料だが、東洋新薬にもその認識があったのか、資料末尾にはこんな一文も書かれている。
「制度は、企業責任において機能性の表示を認めている届出制度であるため(略)行政などから指導等が入る可能性がございます」。「葛の花」をめぐる状況は今まさにこの状況にある。
2009年、シャンピニオンエキスを含む健食をめぐる排除命令(現在の措置命令)は、原料メーカーの説明を鵜呑みにして表示した7社が処分された。だが、原料メーカーのリコムにはお咎めなしだった。
一方で12年、健食卸を行っていたビックタウンやリアルの関係者が薬事法違反で摘発を受けた事件は、卸元であるこれらの企業が責任を問われた。販売企業がインパクトの強い広告を作れない中、卸元が広告事例を示す"指南役"とみられたためだ。
行政は処分に際し、そこにメッセージを込めることがある。「葛の花」の調査をめぐり、消費者庁はどういった狙いを持っているのか。(つづく)