文部科学省による組織をあげた天下りあっせんの問題を受け、規制・監督官庁による「天下り」の問題が再燃している。思い起こされるのは、昨年発覚した消費者庁の天下り。執行部門の課長補佐が規制対象の企業に天下りを要求していた問題だ。だが、消費者庁はこの違反を自ら認定することすらできなかった。
ジャパンライフの顧問に
「水庫(みずくら)先生に顧問になっていただき、アドバイスをいただいていました。けれど昨年7月に契約を終えています」。こう話すのは昨年12月、消費者庁から特定商取引法と預託法で業務停止命令を受けたジャパンライフ(本社・東京都千代田区、山口ひろみ社長)の担当者だ。
"先生"というと教授や医師、議員をイメージするが、この担当者が言う「水庫先生」はそのいずれにも当たらない。かつて消費者庁取引対策課で特商法の執行を担っていた水庫孝夫氏のこと。2012年に名刺交換した行政関係筋によると当時の肩書きは同課の課長補佐(電子メール広告担当)兼消費者取引対策官となっている。09年、経済産業省から消費者庁に移り、特商法や預託法を専門としていた。
通販業界では馴染みのない会社だが、ジャパンライフは訪問販売・MLM(連鎖販売取引)では知られた会社。会長の山口隆祥氏は、マルチ商法が社会問題化した75年、APOジャパン、ホリデイマジックなどと並び"三大マルチ"と呼ばれたジェッカーチェーンの社長として国会に参考人として招致されたこともある人物だ。
軽すぎる業務停止命令
ジャパンライフは、磁気治療器を数百万円前後で販売した後いったん預かり、第三者へのレンタル料から毎月数%の利益を還元する「レンタルオーナー制度」などを訪販やMLMで展開。昨年12月、その勧誘行為の違法性が認定され、消費者庁から3カ月の一部業務停止命令(勧誘、契約締結など)を言い渡された。
消費者庁がかつての同僚が天下りした企業に厳しい態度で臨んだ、となれば"あっぱれ"ともなろう。だが、事情は少々異なる。専門紙記者が明かす。
「昨今、問題となる勧誘が多い訪販・MLMには9カ月、1年といった厳しい業務停止期間で臨むケースが増えている。ジャパンライフは消費生活センターに寄せられていた相談件数も多く、契約者も高齢者が大半を占める。契約額も数千万から億単位に上るものがあった。にもかかわらず業務停止期間はわずか3カ月だった」。
違反認定した行為も特商法や預託法の「勧誘目的の不明示」「概要書面の交付義務違反」のみ。「下から数えた方が早い軽い違反。なのに処分にかかった時間は15年9月の立入検査から約1年半。しかもジャパンライフは業務停止を受けた事業をすでに行っていない」(別の消費者庁詰め記者)というのだ。
当のジャパンライフも「停止を受けた事業は昨年9月末、すべてやめて店舗展開に切りかえている。密告じゃないけど、すでに終わった行為で処分された。だから今も全国に78ある営業所で販売は続けていますよ」(前出の担当者)というから驚きだ。痛くもかゆくもないわけだ。
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消費者庁は立入検査後の15年10月、再就職等監視委員会に元職員の国家公務員法違反の疑いがあることを報告している。だが、違反を認定できず、昨年3月、監視委が違反の事実を公表。監視委は「利害が見えやすく確信犯的。求職を伺わせる十分な証拠を入手しながら積極的に解明しなかった」とその対応を批判している。
強大な権限を持つ規制官庁でありながら、元職員がいたために3カ月の処分でお茶を濁したとすれば「身内に甘い」(前出の記者)との批判も当然だろう。(つづく)