医療用から一般用医薬品に移行して間もないスイッチ直後品目(23品目)のネット販売での取り扱いをスイッチ後3年間禁止する方向でルールの検討が進められている。政府内で調整を続けていたもので、11月6日朝、田村憲久厚生労働大臣が方針を打ち出し、あわせて劇薬指定5品目のネット販売を禁止する意向を表明。今臨時国会で薬事法改正法案を提出する考えだ。これに対し、ケンコーコムや楽天が同日に相次ぎ会見を開き、激しく反発。スイッチ直後品目のネット販売に"3年縛り"をかける内容の改正法案が通った場合には、行政訴訟に踏み切る構えを見せている。
スイッチ直後品目の取り扱いは、かねてから政府内で調整作業が行われていたが、11月5日夜、2回にわたって行われた会合で意見をとりまとめ、翌6日朝に田村厚労大臣が会見。スイッチ後3年を上限にネットでのスイッチ直後品目の販売を認めないとするとともに、劇薬の販売を禁止するという方針を表明した。この中で田村厚労大臣は、情報伝達の部分でネットと対面それぞれに特長があるとしたものの、医学・薬学の専門家の意見などをもとにスイッチ直後品目については五感を使った確認が不可欠との見方を示し、「この部分では対面が必要であるということ」と説明。今臨時国会で関連法案を出し、来春にルールとして施行したい考えを示した。
一方、医薬品ネット販売を行うケンコーコムでは、前日夜から会合の動向を注視。田村厚労大臣の発言を受け、6日午前10時からの中間決算説明会の30分前に急きょ会見を開いた。
この中でケンコーコムの後藤玄利代表(写真)は、田村厚労大臣が示したスイッチ直後品目のネット販売に3年の縛りを掛ける方針について科学的な根拠がないとし、「最高裁判決および成長戦略を捻じ曲げた(閣僚の方針に)正当な理由があるのか」と疑問を呈し、安倍晋三総理大臣のリーダーシップ、最終的な判断に期待するとともに、国会でも「正しい理由があってこのようなことがなされるのかを判断してもらいたい」と発言。安倍総理大臣の判断と国会審議を経ても「捻じ曲がった方向性が法になってしまうのであれば、訴訟になるのも止むを得ないと考えている」とした。
また、田村厚労大臣は、五感による確認について言及したが、後藤代表は「表情を見て販売するというものではないと思う」と指摘。一般用医薬品のスイッチ直後品目は、医療用医薬品のように診断をして使用を促すというものではなく、むしろ過去のアレルギー歴などの情報の十分な確認、副作用リスクが明確でないという点から副作用情報などを収集するためのトレーサビリティーの確保が重要との考えを示し、「対面とネットのどちらが本当に安全なのかを考えれば、トレーサビリティーの部分でネットの方が優れている」と語った。
また、同日夕方には楽天が会見を開き、三木谷浩史社長は、スイッチ直後品目の"3年縛り"を盛り込む改正法案が立法化された場合、司法に訴える考えを示すとともに、産業競争力会議の民間議員を辞職する方針を打ち出すなど、徹底抗戦の構えを見せた。
一方、ネット販売事業者側としては、安倍総理大臣がリーダーシップを発揮し、スイッチ直後品目の"3年縛り"の方針を撤回することにも期待していたが、11月8日の衆議院本会議の答弁で、安倍総理大臣がこの方針を支持する形の発言をしており、今臨時国会で"3年縛り"を盛り込む改正法案が提出されるのは、ほぼ確実な情勢と見られていたが、11月12日に閣議決定され、近く国会に提出される運び。
日本オンラインドラッグ協会では、田村厚労大臣および小松一郎内閣法制局長官に対し、改正法案に関する厚労省と内閣法制局のやり取りに関する情報の開示請求を行っている状況だ。
スイッチ直後品目のネット販売に3年間の縛りを掛ける法案のベースにあるのは、医学・薬学の専門家で構成された「スイッチ直後品目等の検討・検証に関する専門家会合」の検討結果。だが、公開で行われた2回の会合では、当該品目の特性を加味した販売時の留意点の取りまとめという本筋から外れ、ネット販売の可否を決めるかのような議論に終始。規制改革会議でも、今年6月に閣議決定された「日本再興戦略」の趣旨から外れた議論を是正するよう求める意見書を出している。
現状、スイッチ直後品目は、副作用等の情報を収集する3年間の市販後調査と1年間の評価期間を設ける。今回の"3年縛り"の方針は、このプロセスを1年間短くするものだが、期間を短縮した場合の情報収集および分析体制、あるいは店舗販売だけで副作用リスクの評価に必要な情報が十分に収集できるのかなど不透明な部分もある。
現在の状況を考えると、ネット販売事業者側が合成訴訟に踏み切るのは必至。法廷の場では、ネットでのスイッチ直後品目販売に3年間の縛りを掛ける科学的かつ合理的な根拠の有無、検討過程の妥当性などが問われることになりそうだ。