マガシークは、親会社のNTTドコモと共同運営する通販サイト「dファッション」の高成長もあり、2018年3月期の商品取扱高は250億円程度まで拡大した。今後は「dファッション」独自の品ぞろえ強化に着手するほか、物流拠点も拡張し、数年後には取扱高500億円を目指す。「脇道にそれることなく本業を伸ばすことを最優先する」と語る井上直也社長(=写真)に、前期の総括や成長戦略などについて聞いた。
――商業施設の運営会社やアパレル大手によるファッションECモールの新設が相次いだ。
「新しいECモールが立ち上ってきたということは、ファッションECの成長に対する期待の現れで、当社も今年から成長速度を大幅に加速しようとしている。マーケット全体が伸びているため、新規モールに対して数字的な脅威は感じていない。どちらかというと対ゾゾさんの観点からどれくらい当社がシェアを獲れるかが大事だ」
――運賃の上げ圧力も続いている。
「物流業界の置かれている状況を考えれば運賃値上げはやむを得ないし、値上げを前提とした経営を行っていくしかない。ただ、工夫は必要で、大手3社以外の配送方法にも知恵を絞りたい。多くの企業が同じような悩みを抱えている中、共同配送便を作ったり、アスクルさんやヨドバシカメラさんのように独自の配送網を構築する動きも出てくるのではないか。当社も親会社のドコモに物流会社を作ってとお願いしている(笑)」
――前期の業績は。
「18年3月期の売上高は計画値を達成し、前年比12・8%増の204億2500万円で着地した。取扱高ベースでは主力のECだけでなく、ブランドさんの自社EC支援や物流受託などの好調もあり、250億円程度まで拡大した。営業利益は2億9100万円、当期純利益が2億5500万円で、利益面は減益となったが、運賃など物流費の上昇が影響した」
――「dファッション」が引き続き好調だ。
「前期も『dファッション』の伸び率が高く、成長をけん引した。ドコモが原資負担するプロモーションが効果的で、お客様の数が順調に増えていることが大きい。例えば、dポイント20倍キャンペーンなどを実施すると、普段は他社サイトで購入している人も、『dファッション』で買ってドコモポイントを貯める方がお得と考える」
――ポイントを使う場としても機能している。
「『dファッション』でもかなりの方がポイントを使って買い物をしている。dカードゴールドのポイント還元率が非常に高く、貯まったポイントでビジネスシャツを買うといった男性客の購買行動も見られる。ポイントがたくさん付き、そのポイントでまた買い物をするという循環ができていて、ブランドさんからも在庫を想定以上に預けてもらえている」
――「dファッション」と「マガシーク」の売れ筋の違いなどは。
「以前は『dファッション』では安いもの、お得なものが売れていたが、百貨店ブランドのゾーンくらいまで売れる商品の価格帯が広がってきていて、顧客層の広がりを感じる。百貨店ブランドは『マガシーク』が得意な領域で、『dファッション』はは弱かったが、徐々に売れるブランドが広がってきている」
――ひとつの商品を「マガシーク」と「dファッション」の両方で販売できる強みもあるが、品ぞろえで違いを出していくのか。
「『マガシーク』は従来通り、ファッション感度が高い消費者向けのサイトとして品ぞろえを拡充するが、『dファッション』は独自の品ぞろえに踏み込んでいく。商品単価の高い百貨店ブランドだけでなく、楽天さんやヤフーさんといった総合モールに出店しているブランドも含め、かなり幅広く商品調達ルートを拡大して巨大ファッションモールにしていく。衣料品という大きなカテゴリーの中でシェア拡大を目指す」
――「dファッション」は次の成長を目指す上で、欠かせない売り場だ。
「ドコモ経済圏の中に売り場があるのは大きな強みだ。『dファッション』なしでの戦略は立てづらく、大きくは『マガシーク』との2ブランドで成長を描いていく。ドコモからは今の『dファッション』の伸びでは満足できないと言われており、この1年でこれまでの3倍くらいの成長を期待されている。ただ、この時期にこういうプロモーションを実施すると目標をクリアできるという成功体験が増えてきていて、従来比3倍の成長率もいけると思っている。ドコモも『dファッション』を拡大させようという意志が強いため、当社もしっかり商品調達面などを強化していく」
――物流拠点の拡張も必要になりそうだ。
「人員とスペース両面の確保が不可欠で、前倒しで手を打っている。神奈川県座間市内にある既存の物流センターは2万平方メートル強の面積だが、今夏までに約1万平方メートルの増床を近郊エリアで計画しており、現状の約1・5倍にする」
――想定よりもだいぶ早い増床か。
「当初計画よりかなり早い時期での増床だ。ブランドさんとの在庫連携が増えており、倉庫の増床は少し先でも大丈夫だと思っていたが、お客様をお待たせしないために在庫連携しながら在庫を一定量預かるケースも多く、秋物商品が入ってくる前の7~8月には増床が必要になる」(つづく)