消費者庁は11月7日、葛の花由来イソフラボンを配合する機能性表示食品(以下、葛の花)を販売する16社に、景品表示法に基づく措置命令を下した。機能性表示食品に対する処分は初めて。摂取するだけであたかも容易に痩身効果が得られるかのように表示していたとして「優良誤認」と判断した。安倍首相の「表示解禁」宣言を受け、成長戦略の一環として始まった新制度だが、一転、規制に舵を切る消費者庁に事業者側には困惑が広がりそうだ。 処分は、16社の19商品。現在、機能性表示食品で「内臓脂肪の減少」をうたうものは72件(撤回を除く)あるが、その2割超にあたる商品に表示の排除措置がとられた。食品分野では過去最多の一斉処分になる。
各社はテレビやウェブ、新聞などで表示。一例として、ドーナツを食べる写真とともに「運動×食事制限しなくても!」、女性が両手で腹部をつかむ写真とともに「お風呂上りに鏡を見ると、たるんだお腹周りが気になる」などと広告していた。
機能性表示食品は、表示にあたり、事前に根拠資料を届出する必要がある。消費者庁は、これら表示の合理的根拠の提出を求め、各社からはこれら届出資料を中心とする根拠が提出された。消費者庁も届出表示である「内臓脂肪の減少」に対する一定の根拠としては認めた。
ただ、根拠として提出された試験データは、BMI25~30の人を対象にしており、運動(1日約8~9000歩)と食事制限で摂取エネルギーを消費エネルギーが上回る状態を維持することが条件。軽度の肥満を対象に得られた試験結果であり、イラストや表示からイメージされる極度の肥満の人を対象に「外見上、身体の変化を認識できる効果」とは認めず、届出表示を超えると判断した。試験からは体重で約1キロ、ウエストが約1センチ減少することが分かったが、通常の1日の変動範囲という。
「葛の花」をめぐっては、これまで45件の届出が公表されている。今回は、16社の19商品に対する処分。中には販売を行っているものの、今回、処分を受けていない企業もあった。
消費者庁では、試験条件の前提から「試験結果をしっかり見ておけば(今回のような)表示は当然できない」(大元慎二表示対策課長)と指摘。「運動や食事制限なく痩せる」など、試験条件とかい離がある表示を行っていた点を重くみたとみられる。
会見では、「食品で痩身効果を得ることはあり得ない」(同)とも断言した。医薬品的効果である「痩身効果」と、脂肪の減少に働きかける機能性表示の区別は、消費者からも分かりにくい。脂肪に対する機能を表示する届出商品は、300件超。今後、「内臓脂肪の減少」だけでなく、これら脂肪への機能をうたう機能性表示食品の広告にも影響を及ぼすことになるかもしれない。
処分を受けた16社のうち、太田胃散、オンライフ、CDグローバル、全日本通教の4社は、消費者に対する誤認排除措置を行っていないことから、再発防止策の実施に加え、社告などの掲載を命じた。
残る12社は、ありがとう通販、ECスタジオ、協和、スギ薬局、ステップワールド、テレビショッピング研究所、Nalelu、ニッセン、日本第一製薬、ハーブ健康本舗、ピルボックスジャパン、やまちや。すでに新聞等への社告掲載で誤認排除措置を講じており、再発防止策を命じた。
【消費者庁・大元課長との一問一答】
「食品で痩せるあり得ない」
消費者庁の大元慎二表示対策課長との会見での一問一答は以下の通り。
◇
――6社への処分は過去最多か。
「食品分野に限れば最多になる」
――造元が同じ。責任をどう考えている。
「景表法上、必要な措置をとっていたため処分していない」
――横並びで同様の表示を行っている。各社連絡して作ったのか。
「横並びは通常ない。同じ商品を各社が扱う場合はあるが、今回は独自商品として展開しているので各社の判断になる」
――「内臓脂肪を減らす」という届出自体が嘘になる。根拠がないとなれば撤回を求めることもあるか。
「問題視したのは『内臓脂肪を減らす』ではなく、痩身効果をうたっていること。少なくとも内臓脂肪に関する機能を超えた資料はなかったということ」
――「葛の花」を販売する全社への処分か。
「問題のある表示を行っている会社のみ」
――処分されていない企業との差は何か。
「『内臓脂肪を減らす』と同様の表示はトクホでも許可例はある。今回はそれを超えたこと、運動や食事制限がいらないと書いていることが問題」
――機能性表示食品制度は、政府の成長戦略の一環として導入されたもの。処分の影響をどう考えている。
「影響は分からない。答える立場にない」
――制度は中小企業の活用を促すものでもある。消費者庁も中小の活用を成果の一つにあげている。活用する上で萎縮を招かないか。
「(届出の)データをしっかり見ておけば(今回違反となったような)表示は当然できない。中小といえどもデータを読み解けないということはない」
――機能性表示食品で初の処分。消費者庁として注意喚起は。
「(今年10月に出した)『健康食品Q&A』にも書いてある通り、食品で痩身効果を得るのはあり得ない。そもそも食品で痩身効果はうたってはいけない」
――今年7月に打消し表示の実態調査をまとめたが、今回の処分はこれを体現するものか。
「そうなる。消費者は体験談も効果と認識する。内容が実際と齟齬があれば問題。打消し表示はあったが、表示する効果を打ち消すものではなかった」