医薬品通販の行政訴訟 法制局への説明が焦点、原告側〝審査すれば違憲〟
医薬品ネット販売を省令で制限するのは職業選択の自由を奪い違憲に当たるなどとして、ケンコーコムとウェルネットが国を相手取り東京地方裁判所に提起した行政訴訟が年内中に結審する見通しとなった。これまで3回の口頭弁論が開かれ、書面を通じ双方の主張・反論が展開されたが、原告側の指摘に対する被告の主張には、合理性を欠くものも少なくない。これについて原告側は、被告側の理論破綻の表れと見ているが、違憲性の判断に当たっては、"対面の原則"を理由にしたネット販売の規制について、厚生労働省が内閣法制局に説明をしていたのかが、焦点の1つになりそうだ。
原告側の主張の柱は、省令で医薬品ネット販売を制限するのは事業者の職業選択の自由を奪い、憲法22条第1項に違反するというもの。この背景にあるのは、事業者に対して法的な規制を加える場合、その目的や必要性、制限の内容、程度を勘案し、緩やかな制限で立法目的が達成できるのであれば、それを採用すべきという判断を示した過去の「薬事法」の違憲性を巡る過去の最高裁判決だ。
今回のケースでは、改正省令が施行された6月以降、風邪薬などの第2類医薬品の取り扱いが制限されたネット販売事業者の売り上げは激減しており、ケンコーコムの場合、「毎日150―200万円の売り上げを失っている」(後藤玄利社長)状況。中小事業者の場合、経営問題に直結する強い規制で、ネット販売だけを規制する合理性もないというのが原告側のスタンスだ。
もう一つポイントとなる原告側の主張は「"対面の原則"は立法者の意志ではない」ということ。専門家が直接顧客に情報を提供して医薬品を販売する"対面の原則"がネット販売の規制論拠になっているが、「薬事法」の法文や国会の付帯決議にも一切記載されていない。仮に立法者が"対面の原則"を採用してネット販売を規制するのであれば、法文や国会の付帯決議に何らかの説明や記載があるはずで、原告側は厚労省が審議会等の発言を"立法者の意思"と決めつけているとする。
この点については裁判所も重視しているもようで、2回目の口頭弁論でネット販売の規制に関する付帯決議に触れたほか、3回目の口頭弁論でも内閣法制局の審査を受けたことを示す資料の有無について言及。後者について被告側は、資料があれば提出するとしている。
原告訴訟代理人の阿部弁護士は、厚労省が内閣法制局の審査を通すと違憲と判断されると認識し、省令で医薬品ネット販売を規制したのではないかとの見方を示していたが、"対面の原則"に基づくネット販売規制について、厚労省が内閣法制局に説明を行っていたのか、それを証明する資料があるのかが焦点になりそうだ。
一方、これまでの裁判の経緯を辿ると被告側の主張には、無理があると思われる点が少なくない。例えば、「薬事法」で第1類医薬品の店頭販売でも顧客が断れば情報提供は不要とされている一方で、ネット販売が認められないことに関する求釈明への回答。被告側は、顧客が情報提供を断っても、"漫然と情報提供を行わなかった場合"には法的に行政処分が可能としているが、何をもって"漫然"と判断するのかが明確ではない。
こうした点からも、"対面の原則"を論拠にした医薬品ネット販売規制には矛盾が多く、原告側では理論破綻していると見ている。
憲法論を持ち出し資料の提出期限を間延びさせようとする動きを見せる被告の国側に対し、原告側は規制の必要性と合理性を判断すれば済む話として裁判の迅速な進行のスタンスを崩さない原告側。6月の改正「薬事法」施行以降、売り上げの減少が続く医薬品ネット販売事業者の状況を考えれば、早期に結論を出さなければならないのは明らかだ。
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原告側の主張の柱は、省令で医薬品ネット販売を制限するのは事業者の職業選択の自由を奪い、憲法22条第1項に違反するというもの。この背景にあるのは、事業者に対して法的な規制を加える場合、その目的や必要性、制限の内容、程度を勘案し、緩やかな制限で立法目的が達成できるのであれば、それを採用すべきという判断を示した過去の「薬事法」の違憲性を巡る過去の最高裁判決だ。
今回のケースでは、改正省令が施行された6月以降、風邪薬などの第2類医薬品の取り扱いが制限されたネット販売事業者の売り上げは激減しており、ケンコーコムの場合、「毎日150―200万円の売り上げを失っている」(後藤玄利社長)状況。中小事業者の場合、経営問題に直結する強い規制で、ネット販売だけを規制する合理性もないというのが原告側のスタンスだ。
もう一つポイントとなる原告側の主張は「"対面の原則"は立法者の意志ではない」ということ。専門家が直接顧客に情報を提供して医薬品を販売する"対面の原則"がネット販売の規制論拠になっているが、「薬事法」の法文や国会の付帯決議にも一切記載されていない。仮に立法者が"対面の原則"を採用してネット販売を規制するのであれば、法文や国会の付帯決議に何らかの説明や記載があるはずで、原告側は厚労省が審議会等の発言を"立法者の意思"と決めつけているとする。
この点については裁判所も重視しているもようで、2回目の口頭弁論でネット販売の規制に関する付帯決議に触れたほか、3回目の口頭弁論でも内閣法制局の審査を受けたことを示す資料の有無について言及。後者について被告側は、資料があれば提出するとしている。
原告訴訟代理人の阿部弁護士は、厚労省が内閣法制局の審査を通すと違憲と判断されると認識し、省令で医薬品ネット販売を規制したのではないかとの見方を示していたが、"対面の原則"に基づくネット販売規制について、厚労省が内閣法制局に説明を行っていたのか、それを証明する資料があるのかが焦点になりそうだ。
一方、これまでの裁判の経緯を辿ると被告側の主張には、無理があると思われる点が少なくない。例えば、「薬事法」で第1類医薬品の店頭販売でも顧客が断れば情報提供は不要とされている一方で、ネット販売が認められないことに関する求釈明への回答。被告側は、顧客が情報提供を断っても、"漫然と情報提供を行わなかった場合"には法的に行政処分が可能としているが、何をもって"漫然"と判断するのかが明確ではない。
こうした点からも、"対面の原則"を論拠にした医薬品ネット販売規制には矛盾が多く、原告側では理論破綻していると見ている。
憲法論を持ち出し資料の提出期限を間延びさせようとする動きを見せる被告の国側に対し、原告側は規制の必要性と合理性を判断すれば済む話として裁判の迅速な進行のスタンスを崩さない原告側。6月の改正「薬事法」施行以降、売り上げの減少が続く医薬品ネット販売事業者の状況を考えれば、早期に結論を出さなければならないのは明らかだ。