ジャパネットグループのジャパネットブロードキャスティングは来年1月10日、運営するBS局「BSJapanext(ビーエスジャパネクスト)」のチャンネル名称を「BS10(ビーエステン)」へ変更し、同時にチャンネルポジションを「BS10ch」に切り替える。同日以降、視聴者はテレビリモコンの「10ボタン」を押すことで同チャンネルを視聴できるようになる。これによりザッピングで視聴者を誘導できる環境となり、これまでとは比較にならないほどの大幅な視聴者の増加が見込め、それに伴い、メディアとしての力が大幅にアップ、広告収入や放映する通販番組の売り上げなどの飛躍的な拡大につながることが期待される。新局面を迎えるジャパネットグループのBS局のこれからとは――。
事業撤退も考えていた厳しい状況
「正直、撤退することも考えていた」――。ジャパネットブロードキャスティングを率いる佐藤崇充社長は運営するBS局「BSJapanext」が開局からおかれていた厳しい環境を振り返る。
ジャパネットグループは既存放送事業者が使用する電波の圧縮でチャンネルに空きが出たことから総務省が実施したBS放送の新規参入事業者の公募に応募、2022年3月27日に新規BS放送局として「BSJapanext」を開局。同局は編成の7割をクイズ番組やスポーツ番組、旅番組などの一般番組、3割はジャパネットグループが得意とするテレビショッピングを放送している無料放送のチャンネルだ。
既存局と異なり、全体の編成の3割を占める自社通販番組での収益も見込め、CMだけに収益を依存せずともよい環境であることから「スポンサーのことを考え過ぎることなく、フラットな番組が作れることも強み」(ジャパネットホールディングスの髙田旭人社長=当時)とし「世の中に埋もれているモノ、サービス、考え方、音楽やスポーツ等のコンテンツ、地域の魅力を広めていくことで、社会に貢献していく放送局を目指す」との考えのもと、例えば月~金のゴールデン帯に全国の産品や食品などを紹介する地域創生に特化した旅番組や著名人と一緒に企画・制作を行い、出演者のリアルな姿を伝える出演者がやりたい企画を一緒に実現する番組、通販番組もこれまでの構成とは異なり、各商品の特徴などをじっくりと紹介していくなどこだわった番組を制作していくとした。
「最後発のBS局だからこそ、尖った番組や新しいことをどんどん行っていきたい」(同社)としていた。
ただ、開局後は苦しい状況が続いた。「開局当時に思い描いていたものと実際の(視聴率や売り上げなどの)数字や反響との〝ギャップ〟は正直、相当に大きかった」(佐藤社長)とする。〝ギャップ〟が生じることになった理由の一つは「視聴しにくい環境」だ。
そもそも同局は新しい衛星周波数のため、民放BS局より約1000万世帯が受信できない。さらに同局のチャンネル番号(サービスID)は「BS263ch」のため、視聴者がテレビリモコンの1~12ボタンを押せば視聴できるわけではなく、リモコンで当該3ケタのチャンネル番号を入力、またはアップ・ダウンボタンで同チャンネルまで順送りにするか、電子番組表から選択せねば視聴できなかった。視聴するチャンネルの決定はやはりザッピング(※リモコンを操作してチャンネルをしきりに切り替える行為)経由が多く、「BSJapanext」のような〝深いチャンネル〟が視聴者を獲得することは容易ではなかった。
無論、そうした環境の中でも精いっぱい奮闘してきた。編成面では「BS各局であまり取り扱っていないコンテンツこそ私達がやる意味がありチャンスでもある」(佐藤社長)として特定分野に特化した番組を編成に大胆に組み込む取り組みを展開。例えばスポーツ番組、特にゴルフ番組は視聴率が高く、視聴者と親和性が高いことが分かったため、国内のテレビ局では唯一、無料で米国男子プロゴルフツアー「PGAツアー」の放送を始めたほか、当初は日曜日の午後9時から1時間枠のみだったゴルフ関連番組の放送を、「まずは見てもらうための強いコンテンツがないと(局の)認知が広がらない」(佐藤社長)とし、同時間帯に全曜日で編成することにし、ゴルフファンを獲得。また、グループに所属チーム「長崎ヴェルカ」を持つ兼ね合いもあり、バスケットボールのプロリーグ「Bリーグ」の試合も多く放送、バスケファンの獲得も目指した。頭脳スポーツとして〝麻雀好き〟のために、麻雀プロリーグ戦「Mリーグ」に参戦し、対局番組も放送。それぞれ特定分野の愛好者の間では同局は高い評価を受け、コアなファンも掴んできた。
また、紀行番組にも取り組んだ。例えば様々なタレントに夫妻でクルーズ船に乗船し、クルーズの旅を体験してもらい、その様子を追った番組は視聴者からの反応も高いとし、実際に当該番組の後の通販番組で紹介するクルーズ旅行の売れ行きに大きく貢献しているという。「私達の局での放送のほか、地上波や他のBS局にもご協力いただき(当該紀行番組とその後の通販番組を一緒にジャパネットが購入した放送枠で)何度か放送したところ、クルーズの売れ行きが大きく伸びるなど成果が見られ、多くの視聴者に見てさえ頂ければ、これだけの反響になるのかと番組作りの方向性は間違っていないと手ごたえを感じている」(佐藤社長)とする。
ただ、編成や番組作りの磨き込みを行っても、「視聴しにくい環境」を乗り越えることは難しく、自分たちがよいと思える番組を作っても視聴者を増やすことはできず、それゆえにスポンサーの確保も難航しCM収入も低調、ジャパネットグループが得意とする通販番組も視聴者数が伸びない中では当初、思い描いていた自局ならではの取り組みを行うための労力を割くわけにもいかず、通販売り上げも伸び悩んだ。
「開局当初は3、4年で黒字化する目標だったが、厳しいと感じた。よいと思える番組を作っても見て頂けなれば難しい。〝チャンネルが深い〟ということは大きなボトルネックだった」(同)とし、実際に直近の決算である23年12月期の当期純損益は官報によると24億4000万円の赤字で「このままでは撤退しなければいけない」(同)という状況に追い込まれていた。
起死回生のスターチャンネル買収
「視聴しにくい環境」という根本の原因を解消するための起死回生の打ち手がスター・チャンネルの買収だった。「視聴者を増やすには(テレビのリモコンの1~12ボタンを押せば視聴できる)ワンタッチボタンに入るしかない」(佐藤社長)と考え、旧NHK BSプレミアムが割り当てられていた「3ch」の獲得に乗り出す等の行動も行った。その結果、3chの割り当ての獲得はできなかったものの、そうした動きの中でBS放送の10chで有料映画専門チャンネルを展開するスターチャンネルと親会社の東北新社に接触する機会を得てスター・チャンネルの買収に合意。4月19日付でジャパネットブロードキャスティングがスター・チャンネルの全株を取得する形で株式譲渡契約を締結。8月には同社を吸収合併して一体化した。
そして来年1月10日からは「BSJapanext」のチャンネル番号を現状の「BS263ch」から現在、「スターチャンネル」に割り当てられているテレビリモコンの「10ボタン」を押すと選局されるよう標準設定されているチャンネル番号「BS200ch」に、同時にチャンネル名称も「BS10」に切り替えることになった。なお、「スターチャンネル」も名称を「BS10スターチャンネル」、チャンネル番号は「BS201ch」に変更。チャンネルを「BS10」にあわせた後にリモコンのチャンネルアップボタンを押す(※機種により操作は異なる)ことで視聴できる。
念願のチャンネルポジションの変更により、ザッピングでテレビの視聴者を誘導することが可能となり、新規視聴者が増えることが予想されジャパネットのBS局は新たな局面を迎えることになりそうだ。
「具体的に(プラスの効果が)どの程度、出てくるかはわからないが、現状、1時間あたりのテレビ視聴台数は例えば『BS11』『BS12』が私達の6倍超、BS民放局は20倍超だ。その数字にすぐに私達もいくわけではないだろうが、確実に視聴者が増えるだろう。そうなればこれまで進めてきた番組作りやアプリと連動させた仕掛けなどがより効果を上げて収益面でも成果が出てくるだろう」と佐藤社長は期待を寄せる。
番組や通販で新しい取り組み
このチャンネルポジションの変更という転機を活かすべく来年1月以降、さらにアクセルを踏み込む。まずはケーブルテレビ局最大手の「J:COM」で「BS10」の同時再送信が来年から開始する予定でこれにより、同局の視聴可能世帯数は現状よりも大幅に増える。プロモーションも強化。サンリオの人気キャラクター「ポチャッコ」を「BS10PR大使」として起用。今後、BS10のオリジナル衣装のポチャッコが番組など各所に登場し、両チャンネルの新規視聴者の獲得につなげる。
番組面では引き続き、強みである特定分野に特化した編成を推進。ゴルフ関連では今年に引き続き「PGAツアー」、また、午後9時から編成するゴルフ関連番組の放送を継続(※水曜日以外)。また、「Bリーグ」は無料放送では最大規模となる約60試合を中継、「Bリーグ」の応援番組も毎週火曜レギュラーで生放送を開始する。また、同局の目玉番組であるクイズ番組「アタック25 Next」も50年目となる来年は新セットや、新ルールを追加して引き続き放送していく。
新たな取り組みとしては「スターチャンネル」と連携する映画関連番組の編成を強化する。番組司会者にタレントの加藤浩次さんや著名な俳優を起用する3つの映画紹介番組を毎週放送。そのうち、新作・準新作、70~90年代の映画を紹介する2番組は「BS10」で、年代を問わない古今の名作を紹介する番組は両チャンネルでサイマル放送を行う。「BS10」で放送する映画紹介番組では本編終了前後で「スターチャンネル」への有料放送加入を案内する告知放送なども行う。また、無料放送の「BS10」でシリーズものの映画やドラマの初回や第1シリーズを放送し、2話目または第2シリーズ以降は「スターチャンネル」で放送するとして「スターチャンネル」への新規加入を促す取り組みも行う。
先行して10月に「BSJapanext」と「スターチャンネル」で昨年12月に劇場公開されたアニメ「宇宙戦艦ヤマト 劇場版 4Kリマスター」の放送とタレントの濱口優さんや映画監督の山崎貴氏らが出演して宇宙戦艦ヤマトの名シーンや人気キャラクターなどを語り合う生放送の特別番組を放送し、「スターチャンネル」で10月から有料放送でスタートした「『宇宙戦艦ヤマト』放送50周年記念特別編成」の視聴を誘導(有料)したところ、一定の新規契約者を獲得できたことなどから本格化させる。
ジャパネットたかたの通販番組もこれまでは視聴者数の伸び悩みなどから実施せず、地上波用などに収録した番組を再び放送するにとどまっていたが、「BS10」用の番組の制作を行うことなども検討。「例えば、残りの在庫数などをリアルタイムでお伝えして売り切れ御免のような、他局ではやっていない内容など変化するであろう自局の状況に合致する企画はどのようなものにするのがよいのかと今、まさに詰めているところ」(佐藤社長)と開局当時に想定していた自局ならではの通販番組作りを進めていく意向。放送時間についても現状は放送していない午後7時のゴールデンタイムに通販番組を編成することも計画しているという。
また、現状は当日その日に特定商品に特化してジャパネットたかたが拡販する「チャレンジデー」の際に、「BSJapanext」で通販番組の前後に放送している当該商品の誕生秘話や開発時の想いなどにフォーカスした情報番組を1月以降は「チャレンジデー」以外の日でも放送。通販番組で紹介する商品の拡販に活かしていくという。
さらに、これまで取り組んできた紀行番組と通販番組との連携施策、前述したクルーズツアーの紹介番組とその後のクルーズ旅行を紹介する通販番組の組み合わせを引き続き強化していくほか、温泉宿の紹介を軸とした地域創生のための紀行番組でも同様に、番組で紹介した温泉宿を同社グループで宿泊予約事業を展開するゆこゆこを介して販売する通販番組を放送するなどの横展開を進めていく。
「スターチャンネル」もコンテンツを強化。放送する洋画の日本語吹替版の比率を現状の3割から7割まで高める。他局の放送やDVDでもみられない作品についても吹替版とするほか、視聴者から吹替えで視聴したい番組や吹替えを担当してほしい声優などを募集して権利元の許可をとりながらオリジナルで吹替版を製作、放送する取り組みなどを始める考え。また、日本初公開の最新作や日本では独占放送となる海外ドラマなどの話題作を毎週放送していくことで加入者数を増やしていく考え。
事業体制も強化する。「BS10」「スターチャンネル」とチャンネル別の組織体制を改め、役割別の組織に変更。CM営業や加入促進、映画やドラマの調達、番組制作など両チャンネルで相乗効果が出て、効率化しやすくなるようにする。なお、一環として新たにアナウンス課も新設する。ほかにも、ジャパネットグループの顧客や媒体を活かしていく。通販カタログやメルマガ、DMを通じて「スターチャンネル」の視聴促進や新規加入を促す取り組みを進めるほか、新規加入申し込みの際に、現状はケーブルテレビや映像配信サービスなど顧客が加入するサービスごとに異なる窓口で受け付けをしなければならず、その分かりにくさから申し込みをせずに離脱してしまう顧客も少なくなかったようだが、今後はジャパネットグループのコールセンターで運用することも計画中という。
「早期の黒字化を目指す」
「BS10」はチャンネルポジションの変更による視聴者数の拡大でCM収入アップや通販番組経由の売上高拡大につながるほか、「スターチャンネル」でも「BS10」やジャパネットグループと連携した各種施策で新規加入者の拡大を図っていける体制が整うことから、BS民放局らがあげている年間の収益(売上高ベースで110~160億円程度、利益ベースでは15~20億円程度)のレベルまでジャパネットのBS局の収益も引き上げたい考えで「遅くとも2、3年後には黒字化させたい」(佐藤社長)と意気込む。
事業撤退も考えていた厳しい状況
「正直、撤退することも考えていた」――。ジャパネットブロードキャスティングを率いる佐藤崇充社長は運営するBS局「BSJapanext」が開局からおかれていた厳しい環境を振り返る。
ジャパネットグループは既存放送事業者が使用する電波の圧縮でチャンネルに空きが出たことから総務省が実施したBS放送の新規参入事業者の公募に応募、2022年3月27日に新規BS放送局として「BSJapanext」を開局。同局は編成の7割をクイズ番組やスポーツ番組、旅番組などの一般番組、3割はジャパネットグループが得意とするテレビショッピングを放送している無料放送のチャンネルだ。
既存局と異なり、全体の編成の3割を占める自社通販番組での収益も見込め、CMだけに収益を依存せずともよい環境であることから「スポンサーのことを考え過ぎることなく、フラットな番組が作れることも強み」(ジャパネットホールディングスの髙田旭人社長=当時)とし「世の中に埋もれているモノ、サービス、考え方、音楽やスポーツ等のコンテンツ、地域の魅力を広めていくことで、社会に貢献していく放送局を目指す」との考えのもと、例えば月~金のゴールデン帯に全国の産品や食品などを紹介する地域創生に特化した旅番組や著名人と一緒に企画・制作を行い、出演者のリアルな姿を伝える出演者がやりたい企画を一緒に実現する番組、通販番組もこれまでの構成とは異なり、各商品の特徴などをじっくりと紹介していくなどこだわった番組を制作していくとした。
「最後発のBS局だからこそ、尖った番組や新しいことをどんどん行っていきたい」(同社)としていた。
ただ、開局後は苦しい状況が続いた。「開局当時に思い描いていたものと実際の(視聴率や売り上げなどの)数字や反響との〝ギャップ〟は正直、相当に大きかった」(佐藤社長)とする。〝ギャップ〟が生じることになった理由の一つは「視聴しにくい環境」だ。
そもそも同局は新しい衛星周波数のため、民放BS局より約1000万世帯が受信できない。さらに同局のチャンネル番号(サービスID)は「BS263ch」のため、視聴者がテレビリモコンの1~12ボタンを押せば視聴できるわけではなく、リモコンで当該3ケタのチャンネル番号を入力、またはアップ・ダウンボタンで同チャンネルまで順送りにするか、電子番組表から選択せねば視聴できなかった。視聴するチャンネルの決定はやはりザッピング(※リモコンを操作してチャンネルをしきりに切り替える行為)経由が多く、「BSJapanext」のような〝深いチャンネル〟が視聴者を獲得することは容易ではなかった。
無論、そうした環境の中でも精いっぱい奮闘してきた。編成面では「BS各局であまり取り扱っていないコンテンツこそ私達がやる意味がありチャンスでもある」(佐藤社長)として特定分野に特化した番組を編成に大胆に組み込む取り組みを展開。例えばスポーツ番組、特にゴルフ番組は視聴率が高く、視聴者と親和性が高いことが分かったため、国内のテレビ局では唯一、無料で米国男子プロゴルフツアー「PGAツアー」の放送を始めたほか、当初は日曜日の午後9時から1時間枠のみだったゴルフ関連番組の放送を、「まずは見てもらうための強いコンテンツがないと(局の)認知が広がらない」(佐藤社長)とし、同時間帯に全曜日で編成することにし、ゴルフファンを獲得。また、グループに所属チーム「長崎ヴェルカ」を持つ兼ね合いもあり、バスケットボールのプロリーグ「Bリーグ」の試合も多く放送、バスケファンの獲得も目指した。頭脳スポーツとして〝麻雀好き〟のために、麻雀プロリーグ戦「Mリーグ」に参戦し、対局番組も放送。それぞれ特定分野の愛好者の間では同局は高い評価を受け、コアなファンも掴んできた。
また、紀行番組にも取り組んだ。例えば様々なタレントに夫妻でクルーズ船に乗船し、クルーズの旅を体験してもらい、その様子を追った番組は視聴者からの反応も高いとし、実際に当該番組の後の通販番組で紹介するクルーズ旅行の売れ行きに大きく貢献しているという。「私達の局での放送のほか、地上波や他のBS局にもご協力いただき(当該紀行番組とその後の通販番組を一緒にジャパネットが購入した放送枠で)何度か放送したところ、クルーズの売れ行きが大きく伸びるなど成果が見られ、多くの視聴者に見てさえ頂ければ、これだけの反響になるのかと番組作りの方向性は間違っていないと手ごたえを感じている」(佐藤社長)とする。
ただ、編成や番組作りの磨き込みを行っても、「視聴しにくい環境」を乗り越えることは難しく、自分たちがよいと思える番組を作っても視聴者を増やすことはできず、それゆえにスポンサーの確保も難航しCM収入も低調、ジャパネットグループが得意とする通販番組も視聴者数が伸びない中では当初、思い描いていた自局ならではの取り組みを行うための労力を割くわけにもいかず、通販売り上げも伸び悩んだ。
「開局当初は3、4年で黒字化する目標だったが、厳しいと感じた。よいと思える番組を作っても見て頂けなれば難しい。〝チャンネルが深い〟ということは大きなボトルネックだった」(同)とし、実際に直近の決算である23年12月期の当期純損益は官報によると24億4000万円の赤字で「このままでは撤退しなければいけない」(同)という状況に追い込まれていた。
起死回生のスターチャンネル買収
「視聴しにくい環境」という根本の原因を解消するための起死回生の打ち手がスター・チャンネルの買収だった。「視聴者を増やすには(テレビのリモコンの1~12ボタンを押せば視聴できる)ワンタッチボタンに入るしかない」(佐藤社長)と考え、旧NHK BSプレミアムが割り当てられていた「3ch」の獲得に乗り出す等の行動も行った。その結果、3chの割り当ての獲得はできなかったものの、そうした動きの中でBS放送の10chで有料映画専門チャンネルを展開するスターチャンネルと親会社の東北新社に接触する機会を得てスター・チャンネルの買収に合意。4月19日付でジャパネットブロードキャスティングがスター・チャンネルの全株を取得する形で株式譲渡契約を締結。8月には同社を吸収合併して一体化した。
そして来年1月10日からは「BSJapanext」のチャンネル番号を現状の「BS263ch」から現在、「スターチャンネル」に割り当てられているテレビリモコンの「10ボタン」を押すと選局されるよう標準設定されているチャンネル番号「BS200ch」に、同時にチャンネル名称も「BS10」に切り替えることになった。なお、「スターチャンネル」も名称を「BS10スターチャンネル」、チャンネル番号は「BS201ch」に変更。チャンネルを「BS10」にあわせた後にリモコンのチャンネルアップボタンを押す(※機種により操作は異なる)ことで視聴できる。
念願のチャンネルポジションの変更により、ザッピングでテレビの視聴者を誘導することが可能となり、新規視聴者が増えることが予想されジャパネットのBS局は新たな局面を迎えることになりそうだ。
「具体的に(プラスの効果が)どの程度、出てくるかはわからないが、現状、1時間あたりのテレビ視聴台数は例えば『BS11』『BS12』が私達の6倍超、BS民放局は20倍超だ。その数字にすぐに私達もいくわけではないだろうが、確実に視聴者が増えるだろう。そうなればこれまで進めてきた番組作りやアプリと連動させた仕掛けなどがより効果を上げて収益面でも成果が出てくるだろう」と佐藤社長は期待を寄せる。
番組や通販で新しい取り組み
このチャンネルポジションの変更という転機を活かすべく来年1月以降、さらにアクセルを踏み込む。まずはケーブルテレビ局最大手の「J:COM」で「BS10」の同時再送信が来年から開始する予定でこれにより、同局の視聴可能世帯数は現状よりも大幅に増える。プロモーションも強化。サンリオの人気キャラクター「ポチャッコ」を「BS10PR大使」として起用。今後、BS10のオリジナル衣装のポチャッコが番組など各所に登場し、両チャンネルの新規視聴者の獲得につなげる。
番組面では引き続き、強みである特定分野に特化した編成を推進。ゴルフ関連では今年に引き続き「PGAツアー」、また、午後9時から編成するゴルフ関連番組の放送を継続(※水曜日以外)。また、「Bリーグ」は無料放送では最大規模となる約60試合を中継、「Bリーグ」の応援番組も毎週火曜レギュラーで生放送を開始する。また、同局の目玉番組であるクイズ番組「アタック25 Next」も50年目となる来年は新セットや、新ルールを追加して引き続き放送していく。
新たな取り組みとしては「スターチャンネル」と連携する映画関連番組の編成を強化する。番組司会者にタレントの加藤浩次さんや著名な俳優を起用する3つの映画紹介番組を毎週放送。そのうち、新作・準新作、70~90年代の映画を紹介する2番組は「BS10」で、年代を問わない古今の名作を紹介する番組は両チャンネルでサイマル放送を行う。「BS10」で放送する映画紹介番組では本編終了前後で「スターチャンネル」への有料放送加入を案内する告知放送なども行う。また、無料放送の「BS10」でシリーズものの映画やドラマの初回や第1シリーズを放送し、2話目または第2シリーズ以降は「スターチャンネル」で放送するとして「スターチャンネル」への新規加入を促す取り組みも行う。
先行して10月に「BSJapanext」と「スターチャンネル」で昨年12月に劇場公開されたアニメ「宇宙戦艦ヤマト 劇場版 4Kリマスター」の放送とタレントの濱口優さんや映画監督の山崎貴氏らが出演して宇宙戦艦ヤマトの名シーンや人気キャラクターなどを語り合う生放送の特別番組を放送し、「スターチャンネル」で10月から有料放送でスタートした「『宇宙戦艦ヤマト』放送50周年記念特別編成」の視聴を誘導(有料)したところ、一定の新規契約者を獲得できたことなどから本格化させる。
ジャパネットたかたの通販番組もこれまでは視聴者数の伸び悩みなどから実施せず、地上波用などに収録した番組を再び放送するにとどまっていたが、「BS10」用の番組の制作を行うことなども検討。「例えば、残りの在庫数などをリアルタイムでお伝えして売り切れ御免のような、他局ではやっていない内容など変化するであろう自局の状況に合致する企画はどのようなものにするのがよいのかと今、まさに詰めているところ」(佐藤社長)と開局当時に想定していた自局ならではの通販番組作りを進めていく意向。放送時間についても現状は放送していない午後7時のゴールデンタイムに通販番組を編成することも計画しているという。
また、現状は当日その日に特定商品に特化してジャパネットたかたが拡販する「チャレンジデー」の際に、「BSJapanext」で通販番組の前後に放送している当該商品の誕生秘話や開発時の想いなどにフォーカスした情報番組を1月以降は「チャレンジデー」以外の日でも放送。通販番組で紹介する商品の拡販に活かしていくという。
さらに、これまで取り組んできた紀行番組と通販番組との連携施策、前述したクルーズツアーの紹介番組とその後のクルーズ旅行を紹介する通販番組の組み合わせを引き続き強化していくほか、温泉宿の紹介を軸とした地域創生のための紀行番組でも同様に、番組で紹介した温泉宿を同社グループで宿泊予約事業を展開するゆこゆこを介して販売する通販番組を放送するなどの横展開を進めていく。
「スターチャンネル」もコンテンツを強化。放送する洋画の日本語吹替版の比率を現状の3割から7割まで高める。他局の放送やDVDでもみられない作品についても吹替版とするほか、視聴者から吹替えで視聴したい番組や吹替えを担当してほしい声優などを募集して権利元の許可をとりながらオリジナルで吹替版を製作、放送する取り組みなどを始める考え。また、日本初公開の最新作や日本では独占放送となる海外ドラマなどの話題作を毎週放送していくことで加入者数を増やしていく考え。
事業体制も強化する。「BS10」「スターチャンネル」とチャンネル別の組織体制を改め、役割別の組織に変更。CM営業や加入促進、映画やドラマの調達、番組制作など両チャンネルで相乗効果が出て、効率化しやすくなるようにする。なお、一環として新たにアナウンス課も新設する。ほかにも、ジャパネットグループの顧客や媒体を活かしていく。通販カタログやメルマガ、DMを通じて「スターチャンネル」の視聴促進や新規加入を促す取り組みを進めるほか、新規加入申し込みの際に、現状はケーブルテレビや映像配信サービスなど顧客が加入するサービスごとに異なる窓口で受け付けをしなければならず、その分かりにくさから申し込みをせずに離脱してしまう顧客も少なくなかったようだが、今後はジャパネットグループのコールセンターで運用することも計画中という。
「早期の黒字化を目指す」
「BS10」はチャンネルポジションの変更による視聴者数の拡大でCM収入アップや通販番組経由の売上高拡大につながるほか、「スターチャンネル」でも「BS10」やジャパネットグループと連携した各種施策で新規加入者の拡大を図っていける体制が整うことから、BS民放局らがあげている年間の収益(売上高ベースで110~160億円程度、利益ベースでは15~20億円程度)のレベルまでジャパネットのBS局の収益も引き上げたい考えで「遅くとも2、3年後には黒字化させたい」(佐藤社長)と意気込む。