具体性欠ける説明【機能性インシデント⑥議論呼ぶ「根拠」の妥当性】 「根拠」否定の理由いまだ不明
さくらフォレスト事件の混乱は、「根拠」に踏み込む処分が招いた。その是非をめぐり、さまざまな意見が噴出した。消費者庁はいまだその解を示していない。
届出撤回の申し出は、対象88件のうち、86件に至った(9月5日時点)。残す2件はいずれも三生医薬が製造するDHA・EPA配合の機能性表示食品。「科学的根拠がある旨を主張する届出リスト」に掲載され続けている。同社は本紙取材にすでに「撤回を予定」と回答している。多くの企業に製品を提供する受託製造の責任から、問題視された根拠における判断の詳細について確認するため、消費者庁の回答を待っている状況だ。
「根拠」自体の確定的判断を行うことの問題は、トータリティ・オブ・エビデンスの点から議論を招くからだ。一方で、消費者庁は何が問題か、具体的な説明を行っていない。医薬品も承認後に反証論文が示されることはよくあるが、それで全否定されることはない。処分対象となった3成分は少なくともルールに沿って研究レビューで評価され、全く根拠なく表示しているものとは異なる。そうして届出された表示が景品表示法の観点から「著しい優良性」といえるかの問題もある。
◇
今もリストに残るDHA・EPAは、さくらフォレストの製品と同一根拠を使う「500ミリグラム以下」の低容量の製品が問題とされた。根拠論文は37報。大半は倍近い量で検証され、少量では肯定・否定の論文が同程度。適切に評価されていないと判断された。
対象論文をみると、疾病罹患者を被験者とするものを除く論文は16報。うち10報が肯定的結果を示す。研究レビューは一般的に論文数の多寡が重視されるため肯定的な結果が優勢と捉えることができる。ただ、肯定的評価の成分量は133~1万ミリグラムとレンジが広い。このため、さまざまな容量の製品が届け出された。
「500ミリグラム以下」に絞ると5報になるが、届出ガイドラインは、特定の範囲に限定して肯定的な結果が得られるかの評価までは求めていない。また、メタアナリシス(複数の研究結果を統合して総合的に評価する統計手法)では、「5報で肯定的結果が得られる」(業界関係者)との評価もある。個々の持つエビデンスの強さ、影響度を統計処理で評価するメタアナリシスは、論文数の多寡で評価する研究レビューより客観性があるといえる。
◇
低容量のレンジに絞り評価することの是非もある。例えば製品設計が500ミリグラムである場合、「250~1000ミリグラムのレンジの論文に限定して評価する」といった基準は示されていない。設定すると、レンジの範囲を限定することや範囲の設定が適切かという別の問題も生じる。これを求めると、「本来、研究レビュー全体ではネガティブな結果でも、自らに都合のよく定めた特定の容量で肯定的な結果が得られるという逆転現象も起こり得る」(同)。根拠の妥当性は、科学的観点からさまざまな議論を呼ぶ。
DHA・EPAでは、ほかに採用論文の問題点も指摘されたという。
制度は、査読論文の採用が条件。ただ、査読は出版社によりばらつきがある。採用された論文はいずれも査読つきだが、個々の論文の中に試験デザインに問題があるものが含まれていたというものだ。仮に「500ミリグラム以下」で採用した5報の中に問題のあるものが含まれていたという指摘であれば、これを前提にしたメタアナリシスの評価も崩れる可能性があるが、「具体的に試験デザインのどの点に問題があるのか示されておらず、消費者庁の考えている基準がどこにあるか分からない」(別の関係者)。これも悪用すれば、「自らの評価に都合の悪い論文を意図的に”試験デザインに問題あり”と評価して除外してしまうこともできてしまう」(同)という指摘もある。
残すは三生医薬の届出のみ。撤回に至っていない背景には、自社製品として販売しておらず、景表法の処分リスクがないこともあるとみられる。業界関係者からは、「踏ん張って答えを引き出してほしい」との声も聞かれる。
消費者庁は、回答を待つ企業への対応について、「個別案件に応えていない」(食品表示企画課)と対応を明らかにしていない。ただ、根拠で示された内容は、他の製品の評価に影響するなど制度全体に関わるもの。今後の制度運営に向け、トータリティ・オブ・エビデンスの観点から説明し、周知するのが筋だろう。(おわり)
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届出撤回の申し出は、対象88件のうち、86件に至った(9月5日時点)。残す2件はいずれも三生医薬が製造するDHA・EPA配合の機能性表示食品。「科学的根拠がある旨を主張する届出リスト」に掲載され続けている。同社は本紙取材にすでに「撤回を予定」と回答している。多くの企業に製品を提供する受託製造の責任から、問題視された根拠における判断の詳細について確認するため、消費者庁の回答を待っている状況だ。
「根拠」自体の確定的判断を行うことの問題は、トータリティ・オブ・エビデンスの点から議論を招くからだ。一方で、消費者庁は何が問題か、具体的な説明を行っていない。医薬品も承認後に反証論文が示されることはよくあるが、それで全否定されることはない。処分対象となった3成分は少なくともルールに沿って研究レビューで評価され、全く根拠なく表示しているものとは異なる。そうして届出された表示が景品表示法の観点から「著しい優良性」といえるかの問題もある。
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今もリストに残るDHA・EPAは、さくらフォレストの製品と同一根拠を使う「500ミリグラム以下」の低容量の製品が問題とされた。根拠論文は37報。大半は倍近い量で検証され、少量では肯定・否定の論文が同程度。適切に評価されていないと判断された。
対象論文をみると、疾病罹患者を被験者とするものを除く論文は16報。うち10報が肯定的結果を示す。研究レビューは一般的に論文数の多寡が重視されるため肯定的な結果が優勢と捉えることができる。ただ、肯定的評価の成分量は133~1万ミリグラムとレンジが広い。このため、さまざまな容量の製品が届け出された。
「500ミリグラム以下」に絞ると5報になるが、届出ガイドラインは、特定の範囲に限定して肯定的な結果が得られるかの評価までは求めていない。また、メタアナリシス(複数の研究結果を統合して総合的に評価する統計手法)では、「5報で肯定的結果が得られる」(業界関係者)との評価もある。個々の持つエビデンスの強さ、影響度を統計処理で評価するメタアナリシスは、論文数の多寡で評価する研究レビューより客観性があるといえる。
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低容量のレンジに絞り評価することの是非もある。例えば製品設計が500ミリグラムである場合、「250~1000ミリグラムのレンジの論文に限定して評価する」といった基準は示されていない。設定すると、レンジの範囲を限定することや範囲の設定が適切かという別の問題も生じる。これを求めると、「本来、研究レビュー全体ではネガティブな結果でも、自らに都合のよく定めた特定の容量で肯定的な結果が得られるという逆転現象も起こり得る」(同)。根拠の妥当性は、科学的観点からさまざまな議論を呼ぶ。
DHA・EPAでは、ほかに採用論文の問題点も指摘されたという。
制度は、査読論文の採用が条件。ただ、査読は出版社によりばらつきがある。採用された論文はいずれも査読つきだが、個々の論文の中に試験デザインに問題があるものが含まれていたというものだ。仮に「500ミリグラム以下」で採用した5報の中に問題のあるものが含まれていたという指摘であれば、これを前提にしたメタアナリシスの評価も崩れる可能性があるが、「具体的に試験デザインのどの点に問題があるのか示されておらず、消費者庁の考えている基準がどこにあるか分からない」(別の関係者)。これも悪用すれば、「自らの評価に都合の悪い論文を意図的に”試験デザインに問題あり”と評価して除外してしまうこともできてしまう」(同)という指摘もある。
残すは三生医薬の届出のみ。撤回に至っていない背景には、自社製品として販売しておらず、景表法の処分リスクがないこともあるとみられる。業界関係者からは、「踏ん張って答えを引き出してほしい」との声も聞かれる。
消費者庁は、回答を待つ企業への対応について、「個別案件に応えていない」(食品表示企画課)と対応を明らかにしていない。ただ、根拠で示された内容は、他の製品の評価に影響するなど制度全体に関わるもの。今後の制度運営に向け、トータリティ・オブ・エビデンスの観点から説明し、周知するのが筋だろう。(おわり)