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「グーン」に「ドーン」【機能性インシデント④「抽象的表現」の是非】 “言葉の定義”違法判断に影響か

2023年 9月 7日 12:00

 さくらフォレスト事件に端を発した届出根拠の確認は、「88件全品の撤回」で収束しそうだ。事件は、プロセスの課題とともに、事業者が注意すべきポイントを示唆している。一つが”抽象的表現”の是非だ。

 さくらフォレストに対する景品表示法の措置命令で指摘された表現の問題は、(1)届出表示からのいわゆる「広告表示」の逸脱、(2)「届出表示そのもの」と根拠のかい離――の二つに分かれる。根拠に踏み込む後者の違法判断は、他社を巻き込む騒動に発展した。

 前者は、機能性表示食品を対象に初めて景表法を発動した17年の「葛の花事件」と同じ問題だ。違反認定は、「血圧をグーンと下げる」という表現。ただ、”グーンと”という表現は人により受け取り方が異なる表現だ。境界はどこにあるか。

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 「脂肪にドーン」。12年、消費者庁は特定保健用食品「黒烏龍茶」を販売するサントリー食品インターナショナルにテレビCMの改善を求める書面を送った。

 問題のCMは、アニメ「笑ゥせぇるすまん」のキャラクターが「脂肪にドーン」と人差し指を突き出し、「食べながら脂肪対策」とのコピーとともに「黒烏龍茶」を紹介する。これに消費者委員会「新開発食品調査部会」の委員がクレームをつけ、消費者庁食品表示課(現・食品表示企画課)が「先生方から意見を頂いたので注意を促したい」と応じた。

 業界団体への通達は、「広告においてあたかも『当該食品を使用すれば、バランスの取れた食生活を考慮しなくてよい』旨を示唆するような表現が用いられているものがある。許可文言を逸脱するので改善が望まれる」というもの。ただ、部会で遡上にあがったサントリー食品という個別企業にも送られ、一般紙報道で明るみに出たことで対応を迫られる事態に発展した。

 部会では「ドーン」の是非も議論されている。健康増進法における誇大広告の判断基準を「消費者を著しく誤認させるもの」と説明。基準の一つに「消費者から問い合わせや指摘が多く集まっている案件」を挙げた。だが、CMには「そういった意見は入ってきていない」(部会の議論より)。「脂肪にドーン」という表現も「個人の捉え方によって、学術的に判断できない表現を行っているものは、正直なところ判断しにくい」(同)としている。だが、法的根拠なく、違反箇所を明確にすることもないまま要望は出された。委員の主観が消費者庁を動かしたわけだ。

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 以降も、抽象的表現は、度々、争点になる。訴訟に発展したのは、17年、消費者庁がだいにち堂が販売するアイケアの健食に関するものだ。「ボンヤリ・にごった感じに」という表現を対象に措置命令を下した。だいにち堂は、抽象的表現に不実証広告規制を適用するのは問題として国を提訴するが、22年、最高裁で請求は棄却されている。

 境界を見極めるポイントの一つは、言葉の定義だろう。訴訟において、消費者庁は「ボンヤリ」の意味について「ものの形や色がぼやけてはっきりしないようす」と説明。「タワーがぼんやりと見える」といった用例があるように「一般的に目の見え方が不良である状態を意味しうるもの」と指摘した。消費者認識を問うアンケート調査を用いてこれを示し、「目によい」という優良性を示す表現であり、不実証広告規制の適用要件を満たすとした。裁判所もその主張を容れた。訴訟からも「言葉の定義」は重要な判断要素になっていることが分かる。

 「グーンと(ぐんと)」は、「思い切って力を入れるさま」、「他のものや今までの状態と大きく変わるさま」「急に程度の変わるさま」などの意味合いがある。血圧の数値が「大きく変わる」のは、根拠からみて妥当かが判断されたとみられる。さくらフォレストは、「過去の広告に近しい表現があり、なんとなく使っていた」とし、今後について、「一つひとつの表現の理由も根拠をもって説明できるようにする」としている。

 ちなみに、「ドーン」は「物同士が衝突する様子、またはその音」「物事が立派で盛大な様子」。言葉の定義から、行政の対応が主観に依存していたことが推察される。

 ただ、健増法の誇大広告の判断基準の一つである消費者の指摘等の視点でみると、今回、処分対象になった2製品の相談は4年で38件。内容も取引関連が32件で、優良性につながる可能性のある効果に関する苦情はわずか4件だ。言葉の定義は、あくまで一つの判断要素。社会に許容される誇張の範囲だったか、慎重な判断が必要だろう(つづく)


 
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