消費者庁は、外部のリリース配信サイト掲載の「プレスリリース」を違反認定した。ただ、リリースは、「表示」と言えるだろうか。
「報道関係者向け」という観点から、企業もリリース上の表現は広告より踏み込みがちになる。景品表示法が規制対象にする「表示」はいわゆる「広告」より幅広く、レビュー等も対象になる。とはいえ、外部サイトのリリースは、前項で示したように、自社サイト掲載とは性質が異なる。山田養蜂場は、「(表示の)認識がなかった」とする。
消費者庁は、2つのリリースを認定した理由について、「不当表示に接した場合、片方を認定したからもう一方はしないということではない。『報道目的』という視点はなく、消費者が見ることができる状態にあった」(表示対策課)とする。ただ、一方で「これ以外の表示は認定していないから問題ないという趣旨ではない」(同)とする。であればより2つのリリースを認定する必要性は薄れる。
◇
リリースは「表示」か。答えは、景表法2条4項に求めることができる。ここでは同法が規制する「表示」について、「顧客を誘引するための手段として(略)行う広告その他の表示」とある。外部サイト掲載のリリースは「顧客を誘引する手段」と言えるだろうか。
消費者庁は、これに「(表示)でなければ認定しない」とする。5条1項「優良誤認」は、「著しく優良と示す表示であって↓不当に顧客を誘引し↓消費者の合理的な選択を阻害する」と規定されており、不当表示であることが「主」、顧客誘引性が「従」の関係。「誤認が生じるものであれば、不当に顧客誘引していると推認される」(表示対策課)とする。
しかし、この説明も合理的なものとはいえまい。「表示」の説明はすでに2条に明確に定義されている。公取OBも今回の認定に「ネットの表示は誰でも見ることができ対象外とまでは言えない。消費者への影響が顕著であったなら仕方がない。ただ、2つのリリースの性質は異なる。景表法は解釈の振幅が大きく判断が主観的になりがち。違反認定するならば、閲覧状況など論拠をもって判断すべき」と指摘する。
過去に消費者庁が「成分広告」を違反対象にした際も、顧客誘引性は慎重に判断された。19年、商品名と成分名を「ブロリコ」に統一することで効果訴求していたイマジン・グローバル・ケアの場合、「成分広告」を見て問合せをした顧客に商品の注文ハガキ、サンプルを提供するなど結びつきを確認していた。
課徴金導入のきっかけとなった13年のホテル・レストランのメニュー産地偽装問題でも、「メニューは店内で確認するものであり、店に入った時点で顧客はすでに誘引されている。これを『表示』と言えるか、公取内部でも議論があった」(別の公取関係者)という。リリースを対象にした処分は前例がないからこそ、なんら評価なく、主観的に顧客誘引性を評価することは運用上の危うさをはらむ。
◇
消費者庁は、閲覧数など誘引性の評価について「公表内容以外は回答していない」(表示対策課)と明らかにしていない。
ただ、関係者が明かす外部サイトの閲覧数は「十数件など極めて少なかった」という。実のところ、ほとんどみられていなかったわけだ。顧客誘引の実態はないに等しく、あえて認定する必要性は感じない。前出OBは「リリースも対象になるという事業者へのメッセージとしてあえて認定したかったのでは」との見方を示す。
本来、「コロナ対策」の表示は薬機法に抵触するもの。消費者庁の所管法令では「国民の健康に重大な影響を与える」「診療機会の逸失」という発動要件を持つ健康増進法が適当だ。「命令公表の場で外部サイトのリリースも対象になり得るので注意してください、と健増法に基づき指導するのが適当だった。景表法はなじまない」(前出OB)と評価する。
たとえリリースであれ、「コロナ対策」を大々的にうたう山田養蜂場の表現は、サプリメント部会長企業として相応しいものとは言えない。ただ、適切な評価なく、リリースを「表示」とする前例をつくった消費者庁の法運用にも大きな課題を残す。(
おわり)
「報道関係者向け」という観点から、企業もリリース上の表現は広告より踏み込みがちになる。景品表示法が規制対象にする「表示」はいわゆる「広告」より幅広く、レビュー等も対象になる。とはいえ、外部サイトのリリースは、前項で示したように、自社サイト掲載とは性質が異なる。山田養蜂場は、「(表示の)認識がなかった」とする。
消費者庁は、2つのリリースを認定した理由について、「不当表示に接した場合、片方を認定したからもう一方はしないということではない。『報道目的』という視点はなく、消費者が見ることができる状態にあった」(表示対策課)とする。ただ、一方で「これ以外の表示は認定していないから問題ないという趣旨ではない」(同)とする。であればより2つのリリースを認定する必要性は薄れる。
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リリースは「表示」か。答えは、景表法2条4項に求めることができる。ここでは同法が規制する「表示」について、「顧客を誘引するための手段として(略)行う広告その他の表示」とある。外部サイト掲載のリリースは「顧客を誘引する手段」と言えるだろうか。
消費者庁は、これに「(表示)でなければ認定しない」とする。5条1項「優良誤認」は、「著しく優良と示す表示であって↓不当に顧客を誘引し↓消費者の合理的な選択を阻害する」と規定されており、不当表示であることが「主」、顧客誘引性が「従」の関係。「誤認が生じるものであれば、不当に顧客誘引していると推認される」(表示対策課)とする。
しかし、この説明も合理的なものとはいえまい。「表示」の説明はすでに2条に明確に定義されている。公取OBも今回の認定に「ネットの表示は誰でも見ることができ対象外とまでは言えない。消費者への影響が顕著であったなら仕方がない。ただ、2つのリリースの性質は異なる。景表法は解釈の振幅が大きく判断が主観的になりがち。違反認定するならば、閲覧状況など論拠をもって判断すべき」と指摘する。
過去に消費者庁が「成分広告」を違反対象にした際も、顧客誘引性は慎重に判断された。19年、商品名と成分名を「ブロリコ」に統一することで効果訴求していたイマジン・グローバル・ケアの場合、「成分広告」を見て問合せをした顧客に商品の注文ハガキ、サンプルを提供するなど結びつきを確認していた。
課徴金導入のきっかけとなった13年のホテル・レストランのメニュー産地偽装問題でも、「メニューは店内で確認するものであり、店に入った時点で顧客はすでに誘引されている。これを『表示』と言えるか、公取内部でも議論があった」(別の公取関係者)という。リリースを対象にした処分は前例がないからこそ、なんら評価なく、主観的に顧客誘引性を評価することは運用上の危うさをはらむ。
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消費者庁は、閲覧数など誘引性の評価について「公表内容以外は回答していない」(表示対策課)と明らかにしていない。
ただ、関係者が明かす外部サイトの閲覧数は「十数件など極めて少なかった」という。実のところ、ほとんどみられていなかったわけだ。顧客誘引の実態はないに等しく、あえて認定する必要性は感じない。前出OBは「リリースも対象になるという事業者へのメッセージとしてあえて認定したかったのでは」との見方を示す。
本来、「コロナ対策」の表示は薬機法に抵触するもの。消費者庁の所管法令では「国民の健康に重大な影響を与える」「診療機会の逸失」という発動要件を持つ健康増進法が適当だ。「命令公表の場で外部サイトのリリースも対象になり得るので注意してください、と健増法に基づき指導するのが適当だった。景表法はなじまない」(前出OB)と評価する。
たとえリリースであれ、「コロナ対策」を大々的にうたう山田養蜂場の表現は、サプリメント部会長企業として相応しいものとは言えない。ただ、適切な評価なく、リリースを「表示」とする前例をつくった消費者庁の法運用にも大きな課題を残す。(おわり)