フェリシモでは、2021年1月に移転した新本社ビルの1階に、都市型小規模ワイナリー「f winery(エフワイナリー)」をオープンした。6月17日に神戸税務署から果実酒製造免許を取得し、6月22日よりワイン醸造を開始。さらに11月19日にはワイナリー併設のオリジナルワインと軽食を楽しめるスタンドの営業を開始した。近年、住宅地やオフィス街でワインづくりを行う小規模ワイナリーは増えているが、なぜ通販会社である同社がワイナリーの経営に乗り出したのか。
同社では近年、「ミッフィー」でおなじみの絵本作家である、ディック・ブルーナの世界観が楽しめるワインバル&カフェレストラン「ディック・ブルーナ テーブル」や、「フェリシモ猫部」のレストラン「猫部パーラー」をオープンするなど、実店舗経営に力を入れている。ただ、メーカー機能も備えた「ワイナリー」をオープンするのは、初の試みだ。
ワイナリーといえば、広いブドウ畑があり、そこで採れたブドウを併設された醸造所でワインにする、というイメージを持つ人も多いかもしれないが、都市型ワイナリーは住宅地やオフィス街にあるため、そういった施設ではない。ブドウ栽培はしていないものの、さまざまな生産地から、時期に適したブドウを仕入れることができるため、タンクごとに別のブドウを原料としたワインを醸造するなど、土地や風土、気候変動に制約されない、独自性の強いワインを作ることができるのが強みとなる。
ワイナリーはフェリシモの新社屋「StageFelissimo」建設にあわせて構想されたものだという。エフワイナリー担当の源田聡氏は「StageFelissimo」は神戸市の再開発エリアに建設されたのですが、コンペにあたり『街の盛り上がりにつながる施設を作る』というテーマにも取り組みました。『ビール醸造所』や『パン工場』などいくつかアイデアを出した中で、いろいろと検討した結果、最終的にはワイナリーを作ることを決めました。それは、ワインは伝統があるともに、これまでにないさまざまな挑戦もできるということで面白い商材ではないかと。また、フェリシモは自社でさまざまな商品を自ら企画・販売するダイレクトマーケティングの会社で、その本業とのシナジーを考えたとき、当社の強みであるクリエイティビティーも活かせるのではないかと考え、設立に至りました」といきさつを説明する。同じく担当の中村圭緒氏は「フェリシモは事業性・独創性・社会性を大事にする会社です。このワイナリーでは、独創性の部分で、ワインを通じて新しい出会いが生まれ、お客様と一緒に何か面白い企画ができればと思いました。また、当社のコアバリューは『ともにしあわせになるしあわせ』ですが、ワインは誰かと一緒に楽しむことが多く、他のお酒に比べても『みんなで楽しむ』という部分が強いのではないでしょうか。そこを大事にできればと思います」と話す。
同社の通販ではワインを長年販売してきたが、その実績もワイナリー建造を後押ししたという。「ソムリエがワインについて語る際、香りや味の説明など、詩的な表現を使うことがありますよね。ワインは機能的な部分だけではないという点が、フェリシモの独創性を活かすのにぴったりではないかと感じています」(源田氏)。
難しさを実感
醸造家が常駐する「醸造区」は約70平方メートル。スロベニア製のステンレスタンク7器と樹脂タンク2槽の計9つのタンクがあり、750ミリリットルフルボトルに換算すると、最大年間約3万本を製造可能だ。
源田氏は「フェリシモは販売活動という点ではプロですが、メーカーになるのは初めて。今までとは違う新しいチャレンジになるので、開設までは試行錯誤の連続でしたが、刺激的で勉強になる時間だったと思います」と振り返る。
専門家とコンサルタント契約を結び、ワインの仕入れ先の選定や、タンクの設置についての検討など行い、1年半かけてワイナリー開設に至った。タンクに関しては、国内で製造しているメーカーは見つけにくいという。東欧のスロベニアは製造の歴史が長く、良質なタンクが手に入ることから、同国のメーカーに発注した。
都市型ワイナリーということもあり、ブドウは自分で育てるのではなく、さまざまなところから仕入れることになる。源田氏は「ブドウ畑がないのは、決して弱みとは思っていません。むしろいろいろなブドウを試せるという点から、強みになると確信しています。『ユニークなワインを研究する都市型ワイナリー』として特色を打ち出していきたいですね」と意欲的に語る。ブドウに関しては、これまで同社が取引をしてきた農家からの仕入れも検討しているという。
初めて醸造したワインは「fwinery101コンコード」で、長野県産のブドウ「コンコード」を使った赤ワイン。「コンコード」は北米原産の品種で、生食でも楽しめる。コンコードの特徴を活かすため「ブドウ果実を頬張ったような味わいを楽しめる」ワインに仕立てたという。常温ではもちろん、赤ワインでありながら、冷蔵庫で冷やしてもデザート感覚で楽しめるのが特徴だ。「今まで飲んだことがないような味の赤ワイン」と試飲会でも評判だという。白ワインも醸造しており、こちらはオーストラリア産のブドウを使用。「白ワインらしい白ワインに仕立てた」フレッシュな風味の白ワインだ。
「実際に作ってみて、ワインは生ものということを実感しました。今までは完成したものを売ってきましたが、ワインづくりはそれまでとは違う面白さがあります。例えば、熟成させるときの温度が香りに影響するといったことは、実際に作ってみなければ分からない。低温で熟成させた方がワインのフルーティーさが増すんです。『ワインを作ったときにこんなことがありました』というエピソードがそこかしこにあるし、そういったものもコンテンツ化していければ。商品を売る際に、最近は機能だけでなく『ストーリー性』など、情緒的な部分がマストになっていますよね。作り手側に立つと、伝えたいことってたくさんあるんだな、ということが理解できました」(源田氏)。「メーカーとなることの難しさを学ぶことができました。今までは『○月○日までに納入をお願いします』と仕入先にお願いしてきたわけですが、計画をきちんと立てていても、不測の時代などで遅れてしまうことがあるんだ、ということが実感できましたね。作り手の気持ちが分かってきましたし、学びを通じて、現在は、計画的な生産・販売活動を実施できています」(中村氏)。
神戸盛り上げる
11月に営業を開始したスタンドでは、ワインとソムリエおすすめのフードとのペアリングで楽しめる。ワインだけではなく、地元神戸で人気のおつまみやオリジナルカクテル・ソフトドリンクも揃えた。「試飲会では、普段はあまり交流のない同僚や取引先の方と会話をしました。社屋の施設内にそういう場があることで輪が広がっていけばいいと思っています」(中村氏)。同社では、1995年の阪神淡路大震災をきっかけにスタートし、「経験と言葉の贈り物」をコンセプトとした、月に一度のメッセージライブ(講演会)「神戸学校」を、ワイナリーがあるStageFelissimo内で開催しているが、その際の打ち上げ会場として使ったり、取引先との打ち合わせの場所として使ったりといったことも考えているという。
醸造したワインに関しては、今のところ一般的な形での通販はしていない。「ワイナリーそのものを商品にする」という視点から、「エフワイナリーのワインを楽しむ年間パートナー」を募集しており、年会費5万5000円を払うと、年間12本のワインが届くほか、エフワイナリーのスタンドで使える「ワインとソムリエおすすめフードセット」12回分の無料チケットが付与される(遠方の場合はチケットが無い代わりに、年間15本のワインが届くコースが選べる)。源田氏は「『パートナー』という形は通常とは違うマーケティングスタイルですが、新たな可能性を見出すために取り組んでいます」と、パートナー会員制スタイルを採用した狙いを説明する。
さらに特典として、「海底熟成ワイン」といった特別ワインの優先案内や、エフワイナリー醸造ワインの試飲体験、醸造家より醸造中のワイン情報のお知らせ、ソムリエによるオンラインワイン講座といったものがある。「現在、StageFelissimoの前の海にワインを沈めていますが、ワインの味わいが少し変わるんです。たくさんは作れないので、会員様にだけ飲んでもらいます。また、シークレットなイベントもたくさん開催する予定です。そういったイベントに参加することで、『エフワイナリーのオーナーになっている』という感覚を持ってもらえれば」(中村氏)。一般の顧客だけではなく、神戸市の企業もパートナーとなっており、ワインに合うおつまみの開発などの事業も手掛けていく予定だ。
今後の抱負について源田氏は「『ともに』がキーワード。ワイナリーが完成し、ワイン文化を皆さんと『ともに』楽しんでいきたい。輪の中に皆さんにどんどん入ってきてもらいたいですし、皆さんと一緒にワインを楽しんでいきたいですね。面白いことを皆さんとたくさんやっていきたいです」。
中村氏も「『ともに』ワイン文化を作り上げていきたいですね。ワイナリーにおいても、たくさんの人がエフワイナリーを通じて出会い、楽しみ、そして参加してくださった方たちに『ワインがあって良かったね』と言ってもらえるようなビジネスにしていきたいです。『フェリシモのワインを誰かと一緒に味わいたい』と、人が集まり会話がはずみ、そこから何かが生まれていくような、そういうワイナリー作っていきたいです。また、神戸を盛り上げることも、ワイナリーとしての大きな目標となりますし、神戸市の皆さんにも期待していただいている部分です」と意欲的に語る。
同社では近年、「ミッフィー」でおなじみの絵本作家である、ディック・ブルーナの世界観が楽しめるワインバル&カフェレストラン「ディック・ブルーナ テーブル」や、「フェリシモ猫部」のレストラン「猫部パーラー」をオープンするなど、実店舗経営に力を入れている。ただ、メーカー機能も備えた「ワイナリー」をオープンするのは、初の試みだ。
ワイナリーといえば、広いブドウ畑があり、そこで採れたブドウを併設された醸造所でワインにする、というイメージを持つ人も多いかもしれないが、都市型ワイナリーは住宅地やオフィス街にあるため、そういった施設ではない。ブドウ栽培はしていないものの、さまざまな生産地から、時期に適したブドウを仕入れることができるため、タンクごとに別のブドウを原料としたワインを醸造するなど、土地や風土、気候変動に制約されない、独自性の強いワインを作ることができるのが強みとなる。
ワイナリーはフェリシモの新社屋「StageFelissimo」建設にあわせて構想されたものだという。エフワイナリー担当の源田聡氏は「StageFelissimo」は神戸市の再開発エリアに建設されたのですが、コンペにあたり『街の盛り上がりにつながる施設を作る』というテーマにも取り組みました。『ビール醸造所』や『パン工場』などいくつかアイデアを出した中で、いろいろと検討した結果、最終的にはワイナリーを作ることを決めました。それは、ワインは伝統があるともに、これまでにないさまざまな挑戦もできるということで面白い商材ではないかと。また、フェリシモは自社でさまざまな商品を自ら企画・販売するダイレクトマーケティングの会社で、その本業とのシナジーを考えたとき、当社の強みであるクリエイティビティーも活かせるのではないかと考え、設立に至りました」といきさつを説明する。同じく担当の中村圭緒氏は「フェリシモは事業性・独創性・社会性を大事にする会社です。このワイナリーでは、独創性の部分で、ワインを通じて新しい出会いが生まれ、お客様と一緒に何か面白い企画ができればと思いました。また、当社のコアバリューは『ともにしあわせになるしあわせ』ですが、ワインは誰かと一緒に楽しむことが多く、他のお酒に比べても『みんなで楽しむ』という部分が強いのではないでしょうか。そこを大事にできればと思います」と話す。
同社の通販ではワインを長年販売してきたが、その実績もワイナリー建造を後押ししたという。「ソムリエがワインについて語る際、香りや味の説明など、詩的な表現を使うことがありますよね。ワインは機能的な部分だけではないという点が、フェリシモの独創性を活かすのにぴったりではないかと感じています」(源田氏)。
難しさを実感
醸造家が常駐する「醸造区」は約70平方メートル。スロベニア製のステンレスタンク7器と樹脂タンク2槽の計9つのタンクがあり、750ミリリットルフルボトルに換算すると、最大年間約3万本を製造可能だ。
源田氏は「フェリシモは販売活動という点ではプロですが、メーカーになるのは初めて。今までとは違う新しいチャレンジになるので、開設までは試行錯誤の連続でしたが、刺激的で勉強になる時間だったと思います」と振り返る。
専門家とコンサルタント契約を結び、ワインの仕入れ先の選定や、タンクの設置についての検討など行い、1年半かけてワイナリー開設に至った。タンクに関しては、国内で製造しているメーカーは見つけにくいという。東欧のスロベニアは製造の歴史が長く、良質なタンクが手に入ることから、同国のメーカーに発注した。
都市型ワイナリーということもあり、ブドウは自分で育てるのではなく、さまざまなところから仕入れることになる。源田氏は「ブドウ畑がないのは、決して弱みとは思っていません。むしろいろいろなブドウを試せるという点から、強みになると確信しています。『ユニークなワインを研究する都市型ワイナリー』として特色を打ち出していきたいですね」と意欲的に語る。ブドウに関しては、これまで同社が取引をしてきた農家からの仕入れも検討しているという。
初めて醸造したワインは「fwinery101コンコード」で、長野県産のブドウ「コンコード」を使った赤ワイン。「コンコード」は北米原産の品種で、生食でも楽しめる。コンコードの特徴を活かすため「ブドウ果実を頬張ったような味わいを楽しめる」ワインに仕立てたという。常温ではもちろん、赤ワインでありながら、冷蔵庫で冷やしてもデザート感覚で楽しめるのが特徴だ。「今まで飲んだことがないような味の赤ワイン」と試飲会でも評判だという。白ワインも醸造しており、こちらはオーストラリア産のブドウを使用。「白ワインらしい白ワインに仕立てた」フレッシュな風味の白ワインだ。
「実際に作ってみて、ワインは生ものということを実感しました。今までは完成したものを売ってきましたが、ワインづくりはそれまでとは違う面白さがあります。例えば、熟成させるときの温度が香りに影響するといったことは、実際に作ってみなければ分からない。低温で熟成させた方がワインのフルーティーさが増すんです。『ワインを作ったときにこんなことがありました』というエピソードがそこかしこにあるし、そういったものもコンテンツ化していければ。商品を売る際に、最近は機能だけでなく『ストーリー性』など、情緒的な部分がマストになっていますよね。作り手側に立つと、伝えたいことってたくさんあるんだな、ということが理解できました」(源田氏)。「メーカーとなることの難しさを学ぶことができました。今までは『○月○日までに納入をお願いします』と仕入先にお願いしてきたわけですが、計画をきちんと立てていても、不測の時代などで遅れてしまうことがあるんだ、ということが実感できましたね。作り手の気持ちが分かってきましたし、学びを通じて、現在は、計画的な生産・販売活動を実施できています」(中村氏)。
神戸盛り上げる
11月に営業を開始したスタンドでは、ワインとソムリエおすすめのフードとのペアリングで楽しめる。ワインだけではなく、地元神戸で人気のおつまみやオリジナルカクテル・ソフトドリンクも揃えた。「試飲会では、普段はあまり交流のない同僚や取引先の方と会話をしました。社屋の施設内にそういう場があることで輪が広がっていけばいいと思っています」(中村氏)。同社では、1995年の阪神淡路大震災をきっかけにスタートし、「経験と言葉の贈り物」をコンセプトとした、月に一度のメッセージライブ(講演会)「神戸学校」を、ワイナリーがあるStageFelissimo内で開催しているが、その際の打ち上げ会場として使ったり、取引先との打ち合わせの場所として使ったりといったことも考えているという。
醸造したワインに関しては、今のところ一般的な形での通販はしていない。「ワイナリーそのものを商品にする」という視点から、「エフワイナリーのワインを楽しむ年間パートナー」を募集しており、年会費5万5000円を払うと、年間12本のワインが届くほか、エフワイナリーのスタンドで使える「ワインとソムリエおすすめフードセット」12回分の無料チケットが付与される(遠方の場合はチケットが無い代わりに、年間15本のワインが届くコースが選べる)。源田氏は「『パートナー』という形は通常とは違うマーケティングスタイルですが、新たな可能性を見出すために取り組んでいます」と、パートナー会員制スタイルを採用した狙いを説明する。
さらに特典として、「海底熟成ワイン」といった特別ワインの優先案内や、エフワイナリー醸造ワインの試飲体験、醸造家より醸造中のワイン情報のお知らせ、ソムリエによるオンラインワイン講座といったものがある。「現在、StageFelissimoの前の海にワインを沈めていますが、ワインの味わいが少し変わるんです。たくさんは作れないので、会員様にだけ飲んでもらいます。また、シークレットなイベントもたくさん開催する予定です。そういったイベントに参加することで、『エフワイナリーのオーナーになっている』という感覚を持ってもらえれば」(中村氏)。一般の顧客だけではなく、神戸市の企業もパートナーとなっており、ワインに合うおつまみの開発などの事業も手掛けていく予定だ。
今後の抱負について源田氏は「『ともに』がキーワード。ワイナリーが完成し、ワイン文化を皆さんと『ともに』楽しんでいきたい。輪の中に皆さんにどんどん入ってきてもらいたいですし、皆さんと一緒にワインを楽しんでいきたいですね。面白いことを皆さんとたくさんやっていきたいです」。
中村氏も「『ともに』ワイン文化を作り上げていきたいですね。ワイナリーにおいても、たくさんの人がエフワイナリーを通じて出会い、楽しみ、そして参加してくださった方たちに『ワインがあって良かったね』と言ってもらえるようなビジネスにしていきたいです。『フェリシモのワインを誰かと一緒に味わいたい』と、人が集まり会話がはずみ、そこから何かが生まれていくような、そういうワイナリー作っていきたいです。また、神戸を盛り上げることも、ワイナリーとしての大きな目標となりますし、神戸市の皆さんにも期待していただいている部分です」と意欲的に語る。